辞めたい提督と辞めさせない白露型   作:キ鈴

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不知火
近接格闘の方が得意。拳で語りたい。

村雨
私の改二実装されましたよ!そろそろ出番もらえませんか!?




提督と依存体質な涼風さん②

訓練3日目

 

 昨日、俺の素晴らしいアドバイスと涼風のまあまあなお手本で海上を走ることができる様になった吹雪と不知火。今日の特訓メニューは昨日に引き続き海上走行訓練だ、成長スピードを見るに放っておいてもあと2,3日も練習すれば『海上走行試験』はパスできる様になるだろう。

 

「んじゃ涼風、撃ってみろ」

 

 問題はこいつ。鹿島の話では涼風は砲撃・・・戦闘面のセンスがまるでなく既に2度留年をかましているらしい。

取り敢えず涼風の腕がどんな物なのか見るために俺は小舟に乗って涼風と共に演習地点に来ていた。

 

「……いいけど絶対当たんないよ?」

 

「だから練習してんだろが。いいから撃て」

 

「ガッテン……」

 

ドン ドン ドン

 

 涼風の打った3発の砲弾はそれぞれ的の上、右、左を通過していった。

 

「別にそこまで下手くそって訳じゃないんだな。わりと惜しいじゃねぇか」

 

「でも絶対に当たらないんだよね……。才能ないからさ」

 

 『才能がない』この言葉だけで自信の無さが伺える。自信ってのはマジで大事だ。自信が無ければ本来なら出来ることも出来なくなる、逆に有れば自分の持つ能力以上の力を発揮する事ができる。

 

 実際こいつの運動神経は悪くないと思う。あのイカれた身体能力(力)を持つ海風とサッカーとかやってたしな。

 

「別に才能が無いとは思えないけどな。何でそう思う」

 

「姉妹で私だけ留年したし……」

 

 そういや海風が姉妹全員艦娘になったって言ってたな。こいつだけ訓練校にいるって事は他の姉妹が順調に卒業していく中こいつだけ取り残されたんだろうな。んでさらに自信をなくしたってとこか。

 

「涼風、砲撃はもういい。不知火と吹雪を連れて資材を集めに行ってくれ」

 

 このまま涼風に練習をさせても泥沼に嵌るだけだ。それに鹿島からもらった初期資材の量も多くない、ここらで遠征させとかないとな。

 

「あいよー……、あんま期待しないでね」

 

 そう言って涼風は吹雪達の方へ向かって行った。

 

 さて涼風をどうするか。俺の見るかぎり涼風に足りないものは自信だけだ。先程の砲撃時の構えもまあ様になっていたと思う。ではどうやって涼風に自信を持たせるか……。

 

 人間は誰かに劣っていても何か一つ勝るところが有れば自尊心を保つ事ができる。だが涼風の場合身近にいたのがあの10姉妹だ、自分には取り柄が無いと思い込んでしまったのかもしれない。

 

 だから何か一つ涼風に誰にも負けない取り柄を自覚させてやればいい。それだけで今の泥沼から抜け出せると思う。問題はその取り柄をどうやって見つけるかなんだが……。

 

  ◇ ◆ ◇

 

「なんだこの量……」

 

 問題即効で解決したわ。

 

 目の前にあるのは200本のドラム缶。中を覗くと燃料、鋼材、ボーキサイトがこれでもかと詰め込まれている。

 

「この量をお前たちが集めたのか?」

 

 これを持ってきた本人達に尋ねる。

 

「違いますよ!」

 

 吹雪は首と手を横にブンブンと振って否定する。そりゃそうだ、こいつらが遠征に行っていたのはわずか2時間。今目の前にある10分の1も集められないだろう。

 

「ほとんど涼風さん一人で集めてしまいました!」

 

「は?」

 

 これを一人で?

 

「マジ?」

 

 念のため不知火にも聞いてみる。

 

「マジです。涼風さんが海底にドラム缶を沈めるだけで大量の資材を引き上げる事ができました。百発百中です」

 

 んだよそれ……運が良いとかいうレベルじゃねぇぞ。しかし、昔見た探偵ナイト○クープって番組で四葉のクローバーを見つけるのが上手すぎる幼女ってのがいたな。なんでもクローバーの声が聞こえるとか、その類か?いや資材の声ってなんだよ。

 

「涼風ぇ・・・」

 

「えっと、これって多いのかい?」

 

 頬をポリポリと掻きながら困惑している涼風。お前そういうとこだぞ。これは運が良かっただけとか判断してるんだろ。自分のマイナス要素とだけ向き合ってプラス要素をないがしろにしてるんだろ。

 

「涼風、お前凄いよ」

 

「やっ、そんな事ないって。あたいは二人より先輩だからちょっと多く集められただけで……だから『次も』なんて期待しないで」

 

「いーや凄いね。次も期待する」

 

「うう……期待しないでって言ってんだろ。今回のはマグレなんだってば」

 

「そう思うなら納得するまで遠征行って来いよ。結果は同じだと思うけどな」

 

「そうするよ。勘違いで期待なんてされたくないし」

 

 

 

 

 それから涼風は3度遠征に行ったがその全てで大成功を収めた。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 涼風が遠征を繰り返したその夜、俺達は4人で夕食のカレーを食べていた。

 

「まさか4回の遠征全て大成功するなんて……」

 

「な?お前は遠征の天才なんだって」

 

 俺は目配せして吹雪と不知火にも涼風をヨイショするよう指示を出す。

 

「本当に凄いですよ涼風さん!私達の何倍も資源を集めて!」

 

「不知火も凄いと思います。というかちょっと怖いくらいですね」

 

 こんな感じで遠征を繰り返し涼風を3人で褒めちぎるという毎日を7日繰り返した。

 

 涼風は毎日毎日大量の資材を持って帰ってくるがそれで得意げになるような事はなく。『マグレだから。期待しないで』と繰り返し応えた。

 

 涼風に自信をつけさせる作戦は失敗に終わった。何故涼風は頑なに自分を認めようとしないのか、それが分からない事にはお手上げだった。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 あたいは中学進学と同時にバレーボール部に入部した。優秀な姉貴達に勝る何かが欲しかったんだと思う。

 

 だけどバレー部は小学生の頃からの経験者ばかりで初心者のあたいは肩身が狭かった。他の部員の足を引っ張りたくなくていつも一人で壁打ちをした。練習時間が終り、皆が帰った後はまた一人でネットを貼り直してサーブの練習をずっとしていた。

 

 サーブは良い。練習は一人でできるから他の部員の脚を引っ張る事がない。バレーボールという団体競技の中で唯一、サーブには個人技のみが求められた。だからあたいは誰もいなくなった体育館で毎夜サーブを打ち続けた。

 

 そんな日々を続けていると、他の部員からあたいのサーブが褒められた。速くて重い、威力のある球だと。そしてあたいはピンチサーバーというサーブを打つだけのポジションに顧問から指名された。

 

 嬉しかった。認めて貰えたのはサーブだけだけどそれでも嬉しくて舞い上がった。ようやく部の一員に慣れた様な気がしたから。

 

 それから1ヶ月、自分で言うのもなんだけど大活躍だった。他校との練習試合ではバンバン点数を稼ぎチームメイトにはレシーブの練習になるからサーブを打ってくれと頼まれた。特に練習試合での皆からの期待は本当に心地よかった。

 

 ある日公式戦で出番が回ってきた。24-25あと1点相手に取られると負けてしまう場面。皆はあたいを信頼していた。あたいも自分を信じていた。だけどあたいの打ったボールは相手コートを大きく、大きく越えてアウトになりチームは負けてしまった。

 

 仲間はドンマイドンマイ!と声をかけてくれた。けどあたいのボールがアウトになった瞬間の皆のガッカリした顔が脳裏に焼きついて離れない。

 

 いやだ……いやだ……。もう皆をガッカリさせたく無い。期待を裏切りたくない!あたいにはサーブしかないんだ!

 

 そう考えれば考えるほどプレッシャーは重くのしかかりサーブの成功率はどんどん下がった。それでもあたいが復活すると皆は信じてくれたけどその信頼すら重荷にしか感じなくなりあたいは部を辞めた。

 

 それからしばらくして艦娘になったけどやっぱりダメだ。『神童』江風の妹ということで周囲から期待を受けたあたいはこの時のことを思いだし直ぐに潰れてしまった。

 

 

 

 もうあたいに期待するのは止めてほしい。きっとまた応えられないから。

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「涼風、これを使え」

 

 沖にある演習場に小舟を停泊させ涼風にあるものを渡す。

 

「スコープ?あたい達は艤装で視力が上がってるからこんなの必要ないよ?」

 

「普通のスコープじゃない、魔改造スコープだ。砲撃の命中精度が格段に上がる」

 

「本当かい!?良い!そういうの欲しかったんだ!」

 

 もちろんそんな都合のいい物はない、真っ赤な嘘だ。

 

「さっそく使ってみろ。絶対に的に当たるぞ」

 

 俺は涼風が繰り返し言う『期待しないで』という言葉が気になっていた。この方法なら期待するのは涼風自身ではなくスコープの性能という事になるから問題ないだろう。

 

「ガッテン!」

 

 早速スコープを付けて砲撃の構えをとる涼風。いつもよりリラックスしている様に見える。

 

ドン 

 

 放たれた一発の砲弾は見事的のど真ん中に命中した。やっぱお前やれば出来る子じゃねぇか。

 

「当たった……」

 

「な?そのスコープすげぇだろ」

 

「凄い凄い!」

 

ドン ドン ドン

 

 はしゃぎながら何度も砲撃する涼風。その全てが的に命中している。いやそれ普通のスコープだぞ、どんだけ精度上がってんだ。

 

「これが有れば試験に合格できる!」

 

 おーおー、簡単に自信取り戻してくれちゃってまあ。自信の源が道具への信頼ってのはどうかと思うけど実際は自分の力だし良しとしよう。

 

 

 それから不知火、吹雪、涼風の3人は海上走行試験をクリアした。砲撃試験の方も不知火、吹雪は危なげなく突破し、スコープを信じきっている涼風も合格することが出来た。いよいよ明日は最終試験。試験内容は『VS鹿島』。3人がかりで鹿島と演習を行い各員一撃ずつペイント弾を当てることができれば合格となる。

 

「まぁVS鹿島とは言ってもお前らの練度が充分だと判断したら適当に負けてくれるらしいぞ」

 

「今のあたい達なら問題ないよ!」

 

「はい!」「不知火もそう判断します」

 

涼風も自信満々か。吹雪と不知火の練度も充分だ。鹿島も合格にしてくれるだろう。

 

「涼風」

 

「なんだい?」

 

「期待してるぞ」

 

「大丈夫大丈夫!提督から貰ったこのスコープがあるからね!合格間違いなし!」

 

 そのスコープは普通のものなんだよ。だから俺が期待しているのは涼風自身だ。今種明かしをして調子を狂わされても困るから言わないが。

 

「では健闘を祈る」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 晴れ晴れとした空。あたい達を温めてくれる春の日差しが気持ちいい。だけどその気持ち良さをかき消す様な敵意をぶつけてくる敵が目の前にいる。

 

 練習巡洋艦 鹿島。この人を倒せばあたいは艦娘になれる。

 

 ようやくここまで来た。艦娘になるのは無理だと諦めていた。もう自分に期待することも止めていたから。だけど提督からもらったこのスコープは凄い、これが有ればきっと鹿島さんに認めてもらう事もできる。

 

 自分には期待できないけど、このスコープの事は信用できる。だってもし失敗したとしてもそれはあたいの責任ではなく道具が悪かったということだから。あたいは誰の期待も背負わなくて済む。

 

「どうぞ遠慮なく来てください」

 

「いきます」「はい」

 

 鹿島さんが余裕の表情で開始の合図を出す。直ぐに不知火と吹雪が動いた。真っ直ぐ事前に決めておいた配置に向かっていく。

 

ドン ドン ドン

 

 鹿島さんがあたい達に向かって一発ずつ砲を放つがどれも海面に水飛沫を立てるだけだ。

 

「へぇ。想像よりずっと速く動ける様になっているんですね。素晴らしいです」

 

 余裕たっぷりと言った風に鹿島さんは呟いている。

 

「不知火さん!涼風さん!行きますよ!」

 

「問題ありません」

 

 当初の予定通りの配置に辿りついた吹雪が合図をだし、不知火が返答する。

 

 ここまで完璧だった。2時,6時,10時の位置にそれぞれが配置、鹿島さんをトライアングルの形で取り囲み3人同時に砲撃する。これできっと鹿島さんはあたい達を合格にしてくれる。

 

「ガッテンだ!!いくよ!!」

 

 赤、緑、青の三色のペイント弾が一斉に放たれる。あたしの青の弾もこちらに背を向けている鹿島さんの背中にまっすぐに飛んでいった。よし!提督にもらったスコープの調子は今日もバッチリだ!当たる!

 

 そう思った時くるりと鹿島さんがこちらに振り返った。

 

ドン! べちゃ! べちゃ!

 

「流れる様な綺麗な連携でした、砲撃の精度も申し分ありません。吹雪さん、不知火さん合格です。ですが……」

 

 放たれたペイント弾は鹿島さんにしっかりと命中しその体を赤と緑に染めていた。だけどあたいの青の色だけは着いていない。鹿島さんの放った砲弾に撃ち落とされてしまった。

 

「涼風さんの付けているそのスコープはなんですか?規定外の物ではなさそうですが少し気になりますね」

 

 ポケットから弾薬を取り出しこちらを見る鹿島さん。すると急に野球の投球の様な構えをとった。

 

「ちょっとそれなしで再受験しましょうか・・・ねっ!!」

 

 バキっ!

 

「あっ!!」

 

 鹿島さんの投げた弾薬でスコープが破壊されてしまった。

 

どうしよう!これが無いと……これがないと!!

 

「本来艦娘にはスコープなんて必要ないんです。さあ、もう一度私に撃ってみてください。先程の動きは素晴らしかったので命中すれば涼風さんも合格ですよ」

 

 無理だ・・・提督のくれたスコープがないとあたいの弾は絶対に当たらない。

 

「涼風さん撃ってください!」「涼風さんならできます!」

 

 やめて……やめてよ……!あたいに期待なんてしないでよ!

 

『涼風!撃て!お前なら当てられる!』

 

 嫌だ!あの時の様な皆の表情何て見たくない!もう期待を裏切りたくない!

 

「やはり、あのスコープに何か細工していましたか。残念ですが終わりにしましょう」

 

 鹿島さんがあたいに砲口を向ける。うん……もう終わりにしよう。もう艦娘になるのは諦めよう。どこかで一人、誰にも期待されることの無い仕事を探して、細々と暮らそう……嫌だな、嫌だな。本当はあたいだって誰かの期待に応えてあたいも誰かに期待しながら生きていきたかったな。

 

ドン ドン

 

「っ!、不知火さん吹雪さん貴女方は合格だと言ったはずですが」

 

「仲間を助けるのは禁止だなんて聞いていませんから」

 

「そうですね。今涼風さんは調子が悪いみたいです。良くなるまで私達に追加講習をお願いします」

 

「仕方ありませんね。1分で大破を経験させてあげましょう」

 

 どうして。もうそんな事しなくていいよ。あたいはもう無理なんだよ。ほらあっという間に中破にされた。

 

「吹雪!不知火!もうそんな事やらなくていいから!」

 

「どうします?涼風さんはああ言ってますが」

 

「もちろん続けます」「当然です」

 

「……良い関係ですね。」

 

 いいって言ってるのに。どうしてそんなに期待を押し付けるの。重い。重い。背負いきれない。潰れてしまうよ。

 

「2人の期待に応えなくていいんですか?」

 

 あっという間に2人を戦闘不能にした鹿島さんがこちらに向かってくる。できれば応えたい。だけど無理だから、仕方がない。

 

『涼風えええええ!』

 

 提督の声が聞こえる。ごめん、色々世話焼いてもらったけど無理だった。

 

『お前に渡してたスコープ、本当は細工なんて何もしてないぞ!!』

 

え?

 

『今まで当たってたのは全部お前の実力だ!だから大丈夫だ!撃て!』

 

 なんだよそれ。嘘吐いてたのか。でも……そっかあたいもやればできるんじゃん。今は期待に押しつぶされて立っているのがやっとだけど。

 

『いいから撃て!』

 

 ごめん無理。腕が重くて上がらない。

 

『ここで留年しても俺はお前が艦娘になれるって信じ続けるからな!ずっとだ!』

 

 それは困るな。一生期待に縛られたまま何て辛すぎる。

 

『だから今だけ頑張れ!ここだけ頑張れ!やるだけやってみろ!』

 

 仕方ないな。

 

「本当にやるだけだからね……!」

 

 腕を無理矢理あげて砲口を鹿島さんに向ける。プレッシャーで腕がまた下に垂れ下がりそうだ。砲口はブレブレ、だけどとにかく1発は撃ってみせる。

 

「期待しないでよね!!」

 

ドン!

 

「いーや、俺はお前に期待してるよ」

 

 撃った後にそういう事言うのずるいよ。でも、もう撃ったし関係ないか。

 

 当たれ。当たれ。当たれ!

 

 

べちゃ

 

 

「涼風さん合格です」

 

 

 誰かの期待に応えたのは何年ぶりだろう。

 

 思い出した。期待に応えるというのはこんなにも気持ちよくて嬉しいものだったんだ。

 

「提督!」

 

 振り返り提督の顔を見る。提督もまた嬉しそうだ。

 

 そういえばスコープは改造されていなかったというのに何故提督はあたいが合格できると信じて疑わなかったのだろう……いや、分からない振りは止めよう。そんな事は分かりきっている。

 

 提督は最初から最後まであたいを信じていた。あたい自身が信じていない自分を提督はずっと信じていてくれた。

 

「合格おめでとう」

 

 きっと、期待に応えられたのはマグレなのだと思う。だけど

 

 この人の期待にならあたいは応え続ける事ができるかもしれない。何度裏切る事になっても応えられるまでチャレンジしたい、そう思えるから。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 吹雪、不知火、涼風の3人の合格が決まった夕方、俺は鹿島のいる教官室に呼ばれていた。恐らく研修に同行させる初期艦を誰にするかを尋ねられるのだろう。

 

「提督」

 

 教官室に入る直前、一人の艦娘に声をかけられる。

 

「涼風、何か用か」

 

「今から初期艦を決めに行くの?」

 

「そうだ」

 

「ふーん、そっかそっか」

 

 涼風は俺の周りをぐるぐると周りながらそっかそっかとくり返す。何か言いたい事があるのだろう。それから+10周ほどしたところで漸く決心したのか俺の顔を凝視しながらこう言った。

 

「提督!あたいを初期艦にしてよ!」

 

 不安そうに目をうるうるとさせながら訴えてくる。

 

「あたいもう大丈夫だからさ!提督の期待になら応えられるから!」

 

「……だからお願い」

 

 最後は力なく俺の軍服を掴み俯きながらそう言った。

 

「涼風」

 

 俺は涼風の名を呼び優しく頭をなでてやる。

 

「?」

 

 不安そうな表情のまま俺の顔を見た涼風を安心させるために笑顔をつくる。

 

「部屋で待っててくれ」

 

「!!うん!」

 

 俺の言葉を聞き笑顔になった涼風は自分の部屋の方に走っていった。かと思えば途中で振り返りもう一度

 

「待ってるから!!」

 

 そう言い残していった。

 

……さて鹿島が待ってる。

 

コンコン 

 

「どうぞ、開いてますよ」

 

「失礼します」

 

「待っていました」

 

 教官室には長机を挟む様、両サイドに2つソファーが置かれていた。なんか生徒指導室みたいで嫌な部屋だ。

 

「座ってください」

 

「では失礼して」

 

 鹿島の対面にあるソファーに座る。無駄に柔らかい。

 

「まずは訓練校卒業おめでとうございます、それに3人、特に涼風さんも合格に導いていただき感謝しています」

 

「正直なにもしてないんですけどね」

 

 したことといえば嘘を吐いた事くらいのものだ。

 

「で?なんで呼んだんですか?祝辞を言う為だけです?」

 

「いえ、違います。以前お伝えした様に訓練校を卒業した貴方は次に3つの鎮守府に行き研修を受けてもらう事になります。それに同行させる初期艦を決めておくようお願いしましたが……ふふっ、聞くまでもありませんね。」

 

「さっきの涼風との会話聞いてたんすか・・・趣味悪いですよ」

 

「聞こえてきたんですから仕方ありません。ですが一応言葉にして宣言してください」

 

「吹雪、不知火、涼風。この3人の内、貴方は初期艦を誰にしますか?」

 

 考える間でもない。もう、この部屋に入る前には決めていたのだから。

 

 

「あっ、吹雪でお願いします」

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 ぶおぉぉぉぉぉ~~~と船の汽笛が鳴る。船はゆっくりゆっくり俺と吹雪を研修現場である鎮守府へ運んでいく。

 

「提督、本当に私で良かったんですか?」

 

「いいんだよ。お前がベストだ」

 

「でも涼風さんきっと悲しみますよ?」

 

 吹雪を初期艦に指名した俺は直後に吹雪を連れて訓練校をあとにし、軍の用意したこの船に乗った。もちろん涼風には黙ってだ。別れの挨拶なんてしていない。

 

「涼風は俺に依存しかけてたからな。あのまま一緒にいても良いことにはならない」

 

「そうですか……」

 

 どこか納得いかない様子の吹雪。涼風に後ろめたさがあるのだろう。

 

「おら、もう休んどけ。研修で何をやらされるか知らんがきっと馬鹿みたいにこき使われるぞ」

 

「はい……」

 

Prrrrrrrr

 

「あっ涼風さんから電話だ」

 

 はっ?お前らもう海軍Phone支給されてんの?俺まだもらってないんだど?

 

「もしもし?うん、うん、今一緒にいるよ。分かった代わるね」

 

 俺に海軍Phoneを差し出す吹雪。

 

「涼風さんがお話したいそうです」

 

 ……嫌だなぁ……でたくないなぁ……でもでないとだよなぁ。

 

「もしもし」

 

『逃がさないから』

 

 ぴっ。

 

「提督!電話切っちゃダメですよ!ちゃんとお話してください!」

 

「いやこれほんとに涼風?なんかめっちゃ低くてドスの利いた声になってるんだが」

 

「怒ってるだけですよ」

 

Prrrrrr

 

「今度はちゃんとお話してくださいね」

 

「分かってるよ……」

 

意を決して通話ボタンを押す。

 

『切るな』

 

「はい」

 

 涼風さん激おこですわー。

 

『何で置いてったのさ……』

 

「そうするのがお前の為だと思ったからだ」

 

『約束したじゃん』

 

「待っていろと言っただけだ」

 

『……』

 

 返答がない。何か考えているのか。

 

『うっうっううううう』

 

電話の向こうから嗚咽の様なものが聞こえる。

 

「は?えっお前泣いてるの?」

 

『嫌だよおおおお!置いて行かないでよぉぉぉ!あたいを連れてってよぉぉぉぉ』

 

「ちょっ、泣くな!泣くなって!」

 

 まさかこんな大声で泣き出すとは。俺が思っていた以上に依存されていたのかもしれない。置いてきて正解だった。

 

『戻ってきでよぉぉぉ!』

 

 ぴっ。俺は黙って電話の通話を切り涼風の番号を着信拒否に設定した。

 

「な?置いてきて正解だったろ?」

 

 吹雪は苦笑いしながら頷いた。

 

「さあ、研修場所の鎮守府はもうすぐそこだ、気合い入れてくぞ!」

 

 

 

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

 

 

 

「てな過去があったわけだよ」

 

 時雨に俺と涼風の過去を教えてやった。未だ涼風は眠ったまま俺の軍服を掴んでいる。

 

「うわぁ……最低だね君」

 

「しゃーないだろ。あのまま連れて行ったら涼風は俺が居ないと何も出来ないダメな奴になりそうだったんだよ」

 

「でも結局君に依存しちゃってるじゃん」

 

「最後の着信拒否が良くなかったんだろうな……アフターケアくらいするべきだったわ」

 

 涼風と再会した時を思い出す。初めはもの凄く喜んでいたが暫くするとまた俺に置いていかれるのでは無いかと不安になったようだ。また捨てられないようずっと俺の為に尽くす様になった。

 

 正直心が痛むから止めて欲しい。

 

「うう……」

 

 涼風が何か寝言を言っている。

 

「提督、あたい頑張るから、期待しててね」

 

 

 

 

 




今回の涼風編のテーマは『期待』でした。ちなみに時雨編は『無念』、海風は『長女』、浜風は『執着』、悪磨さんは『遺言』です。皆さんに気に入ってもらえた話はありますか?

さて過去編は暫くお休みして次回からは日常脱走回です。
次話のタイトルは『提督と帰省と白露型』です。久しぶりにマジギレなあの人も登場します。


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