提督の学生時代の後輩。昔は純粋ないい娘だったが今はわりとヤベー奴。
悪磨さん
出番が少ないのを気にしている。
夏鮫ちゃん
お留守番;;
村雨ちゃん
お留守番;;
「司令官、お蜜柑食べますか?」
「ああ、じゃあもらおうかな」
「はい♪」
ガタンゴトン ガタンゴトンと走る電車に揺られながら俺達一行はとある場所へ向かう。パーティメンバーは俺、時雨、春雨ちゃん、山風、浜風の5人だ。
「春雨姉、あたしもみかん食べる」
「ん山風、ちょっとまっててね」
4人掛け席に座る俺の正面にいる春雨ちゃんが蜜柑の皮を剥いた瞬間電車内に甘酸っぱい香りが広がる。その匂いに俺の隣に座る山風も釣られてしまったようだ。
「はいどうぞ」
「ありがと」
春雨ちゃんから蜜柑を受け取りもきゅもきゅと咀嚼する山風。小動物みたいでとってもラブリー。
もう一つ蜜柑の皮を剥き始める春雨ちゃん、恐らく俺の分だろう。ゆっくりと丁寧に筋まで取って行く様は現在の春雨ちゃんの服装のせいもあってメイドさんにしか見えない。……いやメイド服着てるのおかしいだろ。
「ねぇ春雨ちゃん、ずっと気になってたんだけど……その格好どうしたの?」
そう尋ねると変えたばかりの髪型を彼氏に気づいてもらえた女の子の様に嬉しそうな表情を浮かべ春雨ちゃんはこう応えた。
「はるさメイドです!はい!可愛いですか?」
「……ん、可愛い可愛い」
「えへへ、褒められちゃいました」
春雨ちゃんの笑顔を見てると何故、どうしてなんて質問がとても無粋な物の様に思えてどうでも良くなった。車内に他のお客さんもいないし気にするのはやめよう。
「ねえ、僕もメイド服着てあげようか?」
後ろの座席から時雨がひょっこりと顔をだして尋ねてくる。
「あ?お前は喪服でも着てろや」
「はい?折角人が君の為に着飾ってあげようってのにその言い草はあんまりじゃないかな?」
両手で拳を作り万力の様にグリグリと俺の頭を締め付ける時雨。痛ぇ!野原み○え流の怒り方やめろ!
「いたいいたい!時雨には黒っぽい服が似合うかなって意味だから!悪意はないから!」
「ならばよし」
くそお……この歳になってしん○すけの気持ちを理解させられるなんて……時雨許さねぇ……。
「先輩、私にはどんな服を着て欲しいですか?」
今度は俺の斜め向かいに座った浜風が尋ねてくる。
「浜風ぇ……てめぇ何勝手に付いてきてんだ」
今日の日付は12月31日、条件付きで実家への帰省が認められた俺は白露型を連れて爺さんの屋敷に向かっているところだ。浜風は浜風で自分の実家に帰っているはずなのだが気づいたらくっ付いてきていた。
本来なら白露型メンツの同行もないはずだったのに……時雨の野郎!※『提督とお仕置き回と帰ってきたアイツ』参照
「元々一緒に帰るつもりでしたから。先輩と私の実家は同じ地域ですし」
「いや、今向かってるのは俺の爺さんの家だから」
俺と浜風の実家は大都会岡山NO.2の街である倉敷市にある。だが今回向かっている俺の爺さんの家は矢掛町……岡山県南西部の片田舎にある。
舎。
「どちらにせよ付いていきますよ」
「親に顔見せに行ってやれよ……」
倉敷と矢掛町は距離的にはさほど離れていない。時間を見て実家に帰るつもりはあるのだろうが・・・嫌だなぁ、こいつ連れて行きたくねぇよ……。特にこいつと俺の両親を会わせたくない。
「それにしても僕達の実家と提督のお爺さんの家が同じ町にあったなんて驚いたよ」
「俺と海風は結構前から知っていたんだけどな。そういやお前らには言ってなかったな」
懐かしいな、海風とテニスやらアメフトやらして遊んだっけか。
「え?海風は知っていたんですか?春雨達には教えてくれなかったのに海風にだけ……どういうことでしょう?」
春雨ちゃんから黒々しいオーラが立ち上る。元々黒を基色としていたメイド服がそのオーラでさらにドス黒く塗りつぶされている様な錯覚を覚える程だ。
「いやいやいや、海風が艦娘になる前に偶然会っただけだから!!その頃は春雨ちゃんともまだ出会ってなかったし!」
そう説明すると黒いオーラは春雨ちゃんの中へと戻っていく。戻ったということはまだ春雨ちゃんの中にあるということだから恐ろしい事に変わりはない。
「そういうことでしたか。では私達にこんな重要な事を隠していた海風が悪いです。帰ったらお話ですね……」
悪いな海風、俺の口が滑ったせいで姉ちゃんに怒られる事になるかもしれないけど許してくれ。何で隠していたかは知らんが話してなかったお前が悪いんだからな。
「司令官、お蜜柑剥けましたよ。あーんしてください」
俺の口に向って蜜柑を差し出してくる春雨ちゃん。綺麗に筋まで取ってくれている。
「むっ、そういうのいいですね。先輩、私の蜜柑もどうぞ」
春雨ちゃんに負けじと浜風も蜜柑を突き出してくる。浜風、お前直ぐに春雨ちゃんと喧嘩になるんだから無駄に張り合うのやめろ。
「浜風さん、今は私が司令官に蜜柑を食べさせているんです。邪魔をしないでください」
「どちらの蜜柑を食べるのかを決めるのは先輩です。貴方ではありません」
ギャーギャーギャー
ほら言わんこっちゃない、喧嘩が始まってしまった。やはりこいつらを一緒に居させるべきじゃないな。
「提督、提督」
俺が頭を抱えていると横にいる山風にクイっと引っ張られた。
何かと思い山風の方を向くと口に何かを押し込まれる。もぐもぐと咀嚼すると口の中に甘酸っぱさが広がった。これ蜜柑だ。
「おいしい?」
こてんと首をかしげる山風。ほんとお前だけが癒しだよ……。
◇ ◆ ◇
「うわーーー!懐かしい!僕ここに帰ってきたの久しぶりだよ!」
「そうだね」「ですね」
数時間、新幹線や鈍行を乗り継いでようやく到着した矢掛町。もう日も落ちかけ夕方になっている。時雨たち3人の白露は久しぶりの帰省ということもあり感傷に浸っているようだ。
「聞いていた程田舎ではありませんね」
この町に初めて来た浜風は拍子抜けしたように言う。
「駅の周りだけはしっかり整備されてんだよ。爺さんの家は山の中にあるからな、本当に何もないぞ」
「ですか。それでここからどう移動するんですか?タクシーも見当たりませんが」
「ああ、迎えが来ているはずなんだが……」
プップッーーー!
辺りを見渡していると1台の軽トラックがクラクションを鳴らしている。
「ジジイ……何で軽トラなんだよ。連れがいるって連絡したろうが」
「うるせぇ!お前の金で買ってもらった車は儂には合わん!やっぱ軽トラが一番よ!」
相変わらず減らず口のなくならない爺さんだ。だがまあ、健在そうでなによりだ。
「提督、このお爺さんはもしかして……」
時雨が俺の隣に付き小声で尋ねてくる。こいつもしかして人見知りするタイプか?
「ああ、俺の爺さんだ」
「かなりお若いね」
「そうか?」
今まで意識した事はなかったが確かに若々しいのかもしれない。60代後半とは思えないキビキビとした動きに軽トラをブンブンと乗り回すアクティブさ。成人した孫を持つ男には見えない。
「おい!行くぞ馬鹿孫!嬢ちゃん達は荷台に乗ってくれ。荷物も載ってて狭いかもしれんが堪忍な」
ガッタンゴットンと揺れる爺さんの運転で整備の行き届いていない山道を走っていく。木々の枝が道にはみ出てきており度々軽トラのフロントガラスにぶつかっている。
「ジジイ、後ろに人乗っけてんだからもう少し気を使って走れねぇのか」
この程度であいつ等がどうこうなるとは思えないが一応客人だしな。
「ああ?嬢ちゃん達なら手刀で木の枝を切り落としてんぞ」
バックミラーで荷台を覗くと確かに時雨と浜風が自分たちに迫る枝を切り落としているのが見えた。やっぱあいつ等やべぇな。
「んで、あの嬢ちゃん達はなんだよ」
ニヤニヤとしながら俺に尋ねてくるジジイ、いい歳してまだ下世話な話が好物のようだ。
「ただの部下だよ」
「部下が上司の帰省に付き添ってくるのか?しかも4人も」
「うっせえな。護衛だよ護衛。俺は軍に取って重要人物だからな」
「ケッケッケッ、そういう事にしといてやるよ。まぁ飛龍がその説明で納得するかは知らんがの」
「ゲッ、飛龍も来てんのかよ」
飛龍……俺の従姉妹にあたり艦娘でもある。俺よりも1つ歳が上で何かとちょっかいを出してきた鬱陶しいやつだ。現在は俺のいる鎮守府とは別の場所で空母として活躍している。
「おお、来とるぞ来とるぞ。今は祭りの準備に行っとるがの」
「あの祭りまだ続いてるのか。危ないから止めた方がいいぞ」
「馬鹿言え、何年も前から続いてる伝統行事だ。おいそれと無くせるものか」
俺とジジイが久しぶりの会話をしている間に車はようやく整備が整った道へ出た。夕暮れの太陽が照らす昔と何一つ変わらない風景を眺めていると段々と懐かしさを感じ、俺もセンチメンタルな気分になってしまう。
「なあ」
風景を眺めていると爺さんが口を開いた。先ほどの俺を揶揄うような巫山戯たものではなく、らしくもない真面目な声音だ。
「浦島さんは元気か?」
爺さんの言う浦島さんとは俺の相棒である深海妖精さんの事だ。相棒とガキの頃に出会った俺は両親と爺さんに彼の事を話した。両親は目に見えない相棒の事を俺のイマジナリーフレンドと勘違いし信じてくれなかったが爺さんだけは信じてくれた。それどころか興味深そうに話を聞いてくれた。何故相棒の事を浦島さんと呼ぶのかは俺も知らない。
「元気だよ、今日は付いて来てないけど」
「そうか、元気ならいいんだ」
俺の方をちらりと見ることもなくまっすぐ前を向いて運転する爺さん。俺も爺さんに釣られ前を向く。夕焼けでとても眩しかった。
何故爺さんは相棒の事を信じてくれたのか。ガキの頃は何も感じなかったが大人になった今、爺さんはもしかしたら何かを隠しているのではないか、そんな事を考えた。
◇ ◆ ◇
「ここが提督のお爺さんの家……」
「とても大きいですね」
「くつろげそう」
爺さんの家を前にして驚いた様子の白露型3人組。確かに敷地は広いが1階建ての古びた屋敷だ。築何年になるのかも定かではない。
「先輩の家ってもしかしてお金持ちですか?結婚すれば玉の輿ですね」
浜風……昔は本当に可愛らしく純粋な後輩だったのにどうして……いや俺が原因だったわ。
「ちげぇよ。昔はどうだったか知らんが今はごく普通の一般家庭だ。爺さんの家はちょっと広いかもしれんが」
「おい馬鹿孫、さっさと客を中に通せ。客室は空いてるとこ好きに使っていい」
「わーってるよ」
「それと荷物を置いたら挨拶にこい。皆居間にいる」
◇ ◆ ◇
爺さんに指示された通り時雨たちを客間に案内した後4人を連れて居間に来た。正直こいつらと親戚……特に両親を引き合わせれば面倒な事になるのは容易に想像できるが隠しておける問題でもない。厄介事は早々に片付けてしまうに限る。俺は覚悟を決めて居間の襖を開けた。
「うーす……」
俺が入るとギャーギャーとやかましかった部屋が一瞬静かになり直ぐにまた騒がしくなる。
「おーーーー!提督様がやってきたぞ!」
「あらあら大きくなったわね~おばちゃんの事覚えてる?」
「おいおいおい、後ろに女の子連れてるぞ!しかも4人も!」
うるせぇ……見覚えのある様な無い様な親戚の爺さん婆さんたちが2つの長机を囲んで既に宴会を始めていた。いい歳なんだから酒はほどほどにして欲しい。
俺は部屋をぐるりと見渡し2人の人物を探す……いた。
「久しぶり。親父、お袋」
「ああ」
寡黙な親父だ。基本的に必要な事以外は喋らない無愛想な男。だが必要な事は言葉ではなく行動で示す良い親父だと少なくとも息子の俺は思っている。
「ほんと久しぶりね~。全然連絡してくれないんですもの。ねっねっ!ところで一緒にいる娘さん達はどなた?もしかして彼女さん?」
お袋は親父とは逆でお喋りの過ぎる母だ。親父がどんなに適当な相槌をうっていても永遠と一人で喋り続ける。今こうして2人を見てみると案外バランスのとれた良い夫婦だなと思う。
「ちげーよ。こいつらはただの部下だ。痛っ」
急に左右の腹の辺りを痛みが走った。振り返ってみると浜風と時雨に抓られていた。
「僕は艦娘の時雨です。後ろにいるのは妹の春雨、山風です。提督にはいつもお世話になっています」
「あらあら、彼女さんではないのね。お母さんがっかり」
「そうですね……今はまだ」
「あら?あらあらあら?」
時雨ぇ……勘違いさせる様な事を言うんじゃねえ。(仮)の件は一般人には認知されてないんだ。そもそもあの件は白紙になったろうが。
「お義母さん、お久しぶりです」
「あら、浜風ちゃん。お久しぶり。社会人になってまで息子が面倒かけてるみたいで申し訳ないわ~」
「いえ、先輩は私がいないと何もできませんから。当然のことです」
学生時代ちょくちょく俺の実家に遊びに来ていた浜風はお袋と仲がいい。別にそれ自体は構わないのだがお義母のイントネーションがおかしい気がするので直ちに直して欲しい。
そういえば残りの二人、春雨ちゃんと山風がやけに静かだ。部屋を見渡してみる。
「山風ちゃん!これも美味しいよ!」
「これもこれも!この黒豆おばちゃんが煮たのよ。とっても甘いから食べてみて!」
「ありがと」
山風は爺さん婆さん達に捕まりあれもこれもと食べ物を与えられ可愛がられていた。確かに山風は孫的可愛さが抜きんでてるからな、年寄りには堪らないだろう。
春雨ちゃんは……
「お義父さん、息子さんを私にください」
「……好きにしろ」
「春雨ちゃん!?」
◇ ◆ ◇
夜21時。親戚達への挨拶も一通り終わり年越しそばをズルズルと食べていると叔母さんに話しかけられた。
「ねっ、飛龍ちゃんにはもう会った?」
「……まだですけど」
「なら会いに行ってあげて。あの子貴方に凄く会いたがってたのよ」
「正直気が進まないんですけど」
「そう言わずに。会いに行かないとあの子きっと拗ねちゃうから」
「仕方ないですね…。確か祭りの準備してるんですよね」
「うん、お願いね」
気が進まないのは確かだが拗ねられると余計面倒くさい。特に今回は部下とはいえ4人も艦娘を連れて来てるからなご機嫌を取っておくに越したことはない。
「お?何やってんだ?」
コートを取りに客室に戻ると山風が物珍しそうにある物を手に取り眺めていた。
「あっ提督、この綺麗な箱なに?」
山風は手に持っていた箱を俺に手渡す。懐かしい……その箱は何年もたった今も昔と変わらず訳の分からないものだった。見た目は木箱のようだが手触りはガラス、そして恐らく強度は鋼鉄以上。
「さあな、ただ爺さんはこれを玉手箱って呼んでた」
「玉手箱?てことは竜宮城から持ってきた?」
「まさか、そう呼んでるだけだ。第一竜宮城なんて御伽話だろ」
「つまんない。中身は?」
「空っぽだよ」
今はな。
「ふーん」
俺の話にがっかりした様子の山風だが相変わらず箱への興味は尽きないようだ。ずっと箱を凝視している。
「気に入ったならやろうか?」
「いいの?」
「どうせずっと客間に放置してたもんだ。構わんだろ」
そう言って山風に箱を手渡す。
「……ありがと」
嬉しそうに箱を胸に抱える山風を見てこいつにやって正解だったなと思った。
「ところで山風、今からデートにいかないか?」
「デート?」
「ああ、近くの神社で祭りをやってるんだ」
「……屋台ある?」
「数は多くないけどな」
「なら行く」
ヨシっ!と俺は心の中でガッツポーズをした。今回の帰省期間、基本的に俺の単独行動は禁止されている。外出するときは必ず白露型を同行させなければいけない、しかし時雨や春雨ちゃんが一緒にいたのでは脱走が成功する可能性は極端に低くなる……だが山風なら勝機は十分にある!
俺は笑みが溢れるのを我慢しながら山風を連れ玄関の扉を開け外にでた。
『これぞ大軍師の究極陣地……石兵八陣です!はい!』
外では春雨ちゃんが謎の呪文を唱えていた。春雨ちゃんの呪文に呼応して空から幾つものドラム缶が落ちてきて屋敷を囲う様に6本の塔を創りだす。
「春雨ちゃん……?何してるの?」
「あっ司令官!ちょっと結界を張ってました!はい!」
「結界」
「ですです」
俺にはもう春雨ちゃんが分からない……。
「ところで司令官と山風は2人でどこに行くんですか?外はもう暗いですよ?」
「デート」
間髪いれず山風が応える。バカっさっきのは冗談だろが!
「へーこんな夜中に二人でデートですか……」
「いやっ違うから!ちょっと叔母さんに祭りに行くよう頼まれてさ!ほら俺は単独行動禁止されてから山風に付き添いを頼んだんだよ!」
「……ですか。では私や時雨姉さんが付いて行っても問題ありませんよね?」
「もちろん」
そう応えるとゲシゲシと山風に踵を蹴られた。仕方ないだろ。
◇ ◆ ◇
爺さんから借りた軽トラに乗り祭りの会場である神社を目指す。助手席には浜風、荷台には白露型達が乗っている。
「星……綺麗ですね」
「田舎でさらにここは山だ。倉敷で見るよりは綺麗だろうな」
「先輩とこんな時間が過ごせる何て……ここに来て良かったです」
何ともらしくもない殊勝なことを言う浜風。
「……無理にロマンチックな雰囲気作ろうとするの止めてくんない?気味が悪い」
「失礼な先輩ですね。そこは合わせてくださいよ」
「俺に何を期待してんだよ・・・ほら神社が見えてきたぞ」
「……燃えてますね」
「そういう祭りなんだよ」
この矢掛の神社にある浦島神社では毎年12月31日に盛大な焚き上げを行う。何でも今年の厄を全て焼き切るとか何とか、詳しい事は覚えていない。ただ高さ7~8m位まで昇る火柱を神社のど真ん中で上げるのだ。
「こんな山中であんな火柱上げて大丈夫なんですか?山火事にありますよ」
「俺もどうかと思うけどな。昔からやってる伝統行事で今まで一度も火事にはなってないから大丈夫なんだとよ」
「ええ……」
「おら着いたぞ降りろ」
神社の駐車場とも呼べない様なただの空き地に車を止め5人で火柱の元へ向かう。
「相変わらず凄い火だね」
「ですね」「うん」
「ん?お前ら来たことあんの?」
「うん。昔両親に連れて来てもらった事があるんだ。初めてこの火を見たときは僕も驚いたよ」
なるほど流石は田舎町だ、世間の狭さを感じる。
「浜風、こうやってそこに置かれている木を火に投げ入れるんだ」
俺は手本をみせる為に用意されていた木を掴み火柱に投げ入れる。
「こうすることで自身の厄を来年に持ち越さずに済むんだとよ。やってみ」
「はい」
浜風は積まれていた木の中でも一番大きな物を掴み投げ入れる。投げ込まれた木は一瞬にて燃え上がり火柱をさらに高くしたような気がした。
「綺麗です」
「確かにな。真っ暗闇のなか星空に向って燃え上がる星空……お前の好きなロマンチックってやつか?」
「からかわないでください」
「私たちも投げましょう」
浜風に釣られて木々を投げ入れる春雨ちゃん達。何とも微笑ましい光景だ。
今日は冷える。もう少しこの光景を見ながら火柱で暖をとろう……。
「み~つ~け~た~」
「うっ、飛龍……」
俺が火で温々と暖を取ろうとしていたところで従姉妹のそいつは現れた。
「母さんからあんたがこっちに向かったって連絡があったからずっと待ってたのよ!どんだけ待たせるのよ!」
「悪い、軽トラの荷台にそいつら乗せてたからゆっくり走ってたんだよ」
俺は時雨達の方を指指す。
「……誰、この子達」
「艦娘だよ。俺の部下」
「何が部下よ。偉そうに」
「事実なんだからしょうがないだろ」
何で不満そうなのか訳が分からん。
「まあいいわ。ちょっとあんたに頼みがあるのよ」
「ええ……」
出たよ。この従姉妹はいつも俺に面倒ごとをふっかけてくるのだ。おかげでガキの頃は何度もひどい目にあったものだ。
「なによ、大した要件じゃないわ。ただちょっと鬼が足りないのよ」
「鬼?あの菓子や餅をばら撒くやつ?」
この祭りでは炊き上げ以外にもう一つ行事がある。それが菓子投げだ。ただ鬼の面を付けた大人が舞台に上がり菓子を撒く、それだけ。昔はそれが凄い楽しみだったのを覚えている。
「そっ、だからあんた鬼になって」
「俺はいいけど……」
俺は春雨ちゃんに視線を合わせてお伺いを立てる。
「私が舞台の裏まで同行できるなら構いませんよ」
「なら決まりね」
◇ ◆ ◇
鬼の面を付けて舞台に立つ。子供も大人もこぞって手を上げお菓子が投げ込まれるのを待っている。本当に懐かしい、俺もガキの頃あんな風に目を輝かせてお菓子を待っていたな。
音楽が流れ出すのと同時に飛龍や他の鬼たちが菓子を投げ始める。俺もそれに続く。
時雨、山風、浜風の姿を見かけたのでそこに向ってサッポ○ポテトを投げる。時雨と浜風にはサラダ味、山風にはバーベキュー味だ。時雨には日頃の恨みを込めて野球投法で投げつけたがあっさりキャッチされた。おのれ。
鬼役になって気づいたが餅を投げるのはなかなかに気を使う。硬い餅が子供の頭にあたったら一大事だ。気を遣いながらまた時雨、浜風にサッ○ロポテト(サラダ)を投げつけた。
これ意外と体力使うな・・・遠くに菓子を投げるだけでなく鬼っぽい動きも意識しなければならない。日頃鍛えていなければダウンしていたかもしれない。そんな事を考えながらまた時雨、浜風にサッポロポ○ト(サラダ)を投げつけた。
『ちょっと!何で僕達の所にサッポロ○テトしか投げないのさ!しかもサラダ味!』
『バーベキュー味を所望します』
なるほど、鬼には野次に負けない強い精神力も要求されるのか。歴代の鬼役達には頭が下がる思いだ。過去の英雄達に敬意を払いながら俺はもう一度サッ○ロポテトを振りかぶった。
◇ ◆ ◇
「ありがと、助かったよ」
「いや、案外楽しかった」
菓子撒きが終わり飛龍から礼を言われる。今回の頼みは飛龍からの物にしては珍しく本当に楽しむ事ができた。こんなのばかりなら悪くない。
「司令官お疲れ様です。カッコよかったですよ?」
「ありがと」
春雨ちゃんから渡されたスポーツドリンクで喉を潤す。すると飛龍が何やらもじもじしているのが目に入った。
「なんだよ」
「いや、その……ちょっと話があるというか……」
飛龍からの話。思い当たる節がないわけではない、恐らく江風の件だろう。
「春雨ちゃん、少しだけ飛龍と二人にしてもらえないかな」
「?」
俺と飛龍を交互に見つめる春雨ちゃん。少し間をおいて
「大事な話のようですね。分かりました、でも逃げちゃだめですよ?」
「ああ」
◇ ◆ ◇
神社から少し離れた空き地に移動し小さな焚き火を起し飛龍と共に地面に腰掛ける。
「ほら、やるよ」
屋台で買ってきたチューハイを飛龍に手渡す。
「私がアルコール弱いの知ってるでしょ」
「素面じゃ話しづらいだろ。だったら酒の力を借りたほうがいい、特に飛龍は意地っ張りだからな」
「……そうね」
プルタブを開けちびちびとチューハイを呑む飛龍。ちなみに俺は運転があるので瓶ラムネだ。
「江風は……元気?」
チューハイを半分程飲んだであろう頃にようやく飛龍は重い口を開いた。
「元気だよ」
「そう」
また沈黙が訪れる。
「私の事何か言ってた?」
「いんや、特になにも」
「そう」
「後悔してんのか?」
「別に。私は間違った事をしたとは思ってない」
「なら何でそんな事を聞くんだよ」
「間違ってなかったと思ってる。けど最善だったかと言われると分からないから……」
コテンと俺の肩に頭を乗せる飛龍。その目は小さく燃える火をじっと見つめていた。
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・
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眠ってしまった飛龍を横にして俺の着ていたコートを上から掛けてやる。ついでに使い捨てカイロもおまけだ。
飛龍がまさかここまで江風の事を気に病んでいたとは、いつもガサツな彼女の意外な一面をみた。
江風と飛龍の件を思い返す。俺の目から見ても飛龍の行動は間違っていなかった。それでも江風の事を気にかけてくれていたのか……。
すうすうと寝息を立てる従姉妹の優しさに触れ少し温かな気分になった俺は飛龍の頭を一撫でした。こんな事を起きている時にやればどやされてしまう。
「さてと」
俺は立ち上がりジーンズについた砂を払う。
「逃ーげよっと♪」