辞めたい提督と辞めさせない白露型   作:キ鈴

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白露
きの○の山が好き。

時雨
アルフォー○が好き。

夕立
神羅○象チョコが好き。

山風
スー○ーBIGチョコが好き。

春雨ちゃん
司令官が好き。

マジギレ浜風さん
先輩が好き。







涼風と拗ね拗ねバレンタイン

 今日は2月14日バレンタインデー。恋に恋する乙女である艦娘達もソワソワと浮き足立つ日だ。

 

 もちろんそれはあたい達白露型も例外じゃない。

 

「おいしくな~れ♪おいしくな~れ♪」

 

 部屋の中では春雨の姉貴が弾丸・ボーキサイト・深海棲艦の腕・液体Xをドラム缶に入れお玉でぐるぐるとかき混ぜている。

 

「おいしくなーれ!おいしくなーれ!」

 

 今度はドラム缶を両手で掴み縦横にシェイクしだした。姉貴の身長より大きなドラム缶を振り回す様はまるでゴリラだ。・・・言わないけど。

 

「できました!はい!」

 

 どうやら完成したらしい。ドラム缶の中から出てきたのは手のひらサイズのハート型チョコ。

 

 ・・・最近の春雨姉貴の奇行には慣れてるので今更あたいは驚いたりしない。うん。むしろ期日ギリギリまでチョコ作りの試行錯誤をくり返す姉貴可愛い。うん、そう思うことにしよう。

 

 部屋をぐるりと見渡す。時雨姉貴は腕を組んであーでもないこーでもないと独り言を呟いている。どうやらチョコを渡すシチュエーションを考えているらしい。時雨姉貴は提督との距離が近すぎるから逆に渡すの照れくさそうだもんな。海風姉貴はおっにーさーん♪おっにーさーん♪と上機嫌、幸せそうで何より。夕立姉貴は・・・多分何も考えてない。

 

 他の姉貴達も大体そんな感じでソワソワとしていて落ち着きがない。ふー、やれやれ、末妹のあたいを見習って欲しいってもんよ。・・・はい嘘です、緊張してらぁ。だけどあたいには他の艦娘達にはないアドバンテージがある。それは

 

『提督、バレンタインのチョコはあたいのとこに一番に貰いにきてよね!』

 

『おお?ああ、うん分かった』

 

 という約束を既に交わしているのだ。だから今日、提督は真っ先にあたいの所にきて一番にあたいのチョコを受け取ってくれる。一番教の白露姉貴には悪いけど戦いは既に始まっているんだ。

 

 さてこの部屋で待機していては提督が来たときに大変な事になってしまう。少し寒いけど廊下に出て待つ事にしよう。

 

 ガチャリ。うーやっぱり二月の朝風は冷てえなあ。

 

「    」

「      」

 

 お?提督の声だ。なんでぇ待ちきれなくてもう取りにきたのか。仕方ないなあ。

 

 提督の声がする方に振り向いた。きっとこの時のあたいはニコニコニヤニヤしていたのだと思う。だけど振り向いた先の光景を見て世界が凍りついた様なそんな感覚がした。

 

 確かにそこに提督はいた・・・吹雪と一緒に。

 

 過去の、訓練校時代の記憶が蘇る。あたいを初期艦にしてくれると約束したのに吹雪を連れて行った提督、それを知ってずっと膝を抱えて泣いたあたい。

 

 嫌だよ、嫌だよ、また吹雪を選ぶのかい?また約束を破るのかい?

 

 呆然と二人を見ているうちに段々とあたいの意識が暗い闇に沈んでいくのを感じた。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

「・・・重い」

 

 俺が歩く度にズルズル ズルズルと何かを引きずる音が廊下に鈍く響く。音の発生原因を確認する為に首を回し後ろを見る、そこには俺の腰辺りにしがみつきダラリと足を放り出し引きずられる涼風がいた。

 

「おい涼風、重い、離せ」

 

「・・・・」

 

 返事はない。屍か。

 

 仕方がないので俺は涼風を引きずったまま執務室に向かう。人間を一人引きずるのがここまで重労働だとは・・・でも勇者は死んだ仲間を棺桶に入れて教会まで何人も運ぶんだよな、そういう仲間思いな所が勇者たる所以か。俺は今すぐにでもこいつを捨てて行きたい。

 

「あっ提督!ハッピーバレンタイン・・・てっ何引きずってるの?」

 

「てめぇの妹だよ、何とかしてくれ」

 

 ズルズルと涼風を引きずっていると廊下の角から白露が現れた。曲りなりにも長女のこいつなら涼風がどうしてこうなったのか分かるかもしれん。

 

 白露はん~どれどれと俺の後ろに周り込み涼風の姿を確認する。

 

「ありゃりゃ、拗ね風さんになっちゃってる」

 

「なんだよ拗ね風さんって・・・」

 

「この子昔からたま~にもの凄く拗ねる事があるんだよね。その間はもう何言ってもダメ、全く口も聞いてくれなくてずっと顔を何かに埋めてるの。いつもは枕とかに埋めてるんだけど・・・今回は提督のお尻みたいだね。何かあったの?」

 

「知らん、吹雪と話をしてたら急に飛びついてきたんだ。どうすれば元に戻る?」

 

「それは私にも分からないかな。その時々だし」

 

 肝心なところでこの長女は。俺は後ろに手を回し涼風の頭をぽんぽんと叩き話しかける。

 

「おい涼風、何か気にいらないことでもあったのか?」

 

「・・・」

 

 やはり返答は無い。どうすりゃ良いんだ。

 

「あっそんな事より提督!はい、ハッピーバレンタイン!」

 

 こいつそんな事って言いやがったぞ、仮にも長女だろうが。

 

「ちゃんと食えるのか?」

 

 今日は2月14日バレンタインデーだ。朝から何となく鎮守府全体にふわふわと落ち着きの無い雰囲気が漂っていて大変居心地が悪い。

 

「失礼な!ちゃんとネットを見ながら作ったポッキー型チョコだよ。ソシャゲのお供に食べてね」

 

 なるほどゲームをしながら食べても手が汚れない様にポッキー型にしたのか。実に白露らしい配慮だ。

 

「ほーん、まっありがとさん」

 

「ちなみに本命だよ?」

 

「はいはい、嬉しい嬉しいって痛い痛い痛い!」

 

 白露の冗談を適当にあしらっていると急に腰にしがみついていた涼風の腕が万力の様に締め付けてくる。何!?俺何かした!?

 

「涼風!ギブ!ギブ!」

 

 涼風の頭を叩き降参を宣言、15回目のタップでようやく力が緩み痛みから開放された。

 

「何なんだよ・・・訳が分からん」

 

「あー、私だいたい分かったかも」

 

 苦笑いを浮かべながらそういう白露。流石長女、今のでわかったのか。

 

「何なんだ、教えてくれ」

 

 白露に教えを請うが白露はベーと舌を出してゆっくりと後ろに下がっていく。

 

「私の告白を適当に受け流す様な人には教えてあげませんよーだ」

 

 そう言うと白露はくるりとターンをし走り去ってしまった。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

「あ、見つけた」

 

 またズルズルと涼風をひきずりながら執務室に向っていると今度は後ろから時雨が現れた。

 

「何それ、新しい遊び?」

 

 時雨は俺の腰にしがみつき尻尾の様な状態になっている涼風を指差して首をひねった。

 

「拗ね風さんモードだと」

 

「あー懐かしいね。最近はなかったけど昔はよくこの状態になってたっけ。何か悪いことしたの?」

 

「どうして白露といいお前といい俺を悪者にしたがるんだ・・・」

 

「だって涼風が拗ね風さんになるにはそれなりの理由があるからね。意味なくってことはないよ」

 

 そうなのか。単に虫の居所が悪いだけかと思っていたがそういう訳ではないと。うーんでも今日はこいつと一言も口を聞いてないしな、わからん。

 

「そうだ、はいこれチョコレート。もちろん手作りだよ」

 

「毒見したか?」

 

「僕が料理得意だってこと知ってるでしょ?」

 

 俺の知り合いに料理がめっちゃくちゃ上手いけどスウイーツ作りだけは有り得ないレベルで下手くそな奴がいてな。浜風って言うんですけど。ま、こいつのなら大丈夫か。俺は礼を言ってチョコを受け取った。

 

「そういえば他の艦娘達も提督にチョコ用意してるみたいだから食堂に顔だしてあげて。執務室まで押しかけると迷惑になるって遠慮してる娘も多いみたいだからさ」

 

  ◇ ◆ ◇

 

 時雨に言われるままに食堂に赴くと沢山の艦娘達に囲まれもみくちゃにされた。

 

「しれえ!雪風の双眼鏡ちょこです!」

「さんきゅな雪かz・・・いたいいたい!涼風!尻に噛み付くな!」

 

「う~ちゃんのは~うさぴょんチョコ~!しれいかんに~突撃!」

 

 あ~うーちゃん可愛いさが限界突破していく~!もううーちゃんが可愛いのか、可愛いがうーちゃんのなのか分からなくなる~~~。このうさぴょんチョコ何とか加工して永久保存できないだろうか。

 

「その・・・私からも提督さんに・・・。翔鶴姉に手伝ってもらったから変な味はしない・・・と思う」

 

「柄ではないのは分かっているがこのビッグ7からもチョコだ。何、口に合わなければ捨ててもらって構わん・・・だから受け取ってもらえると嬉しい」

 

 こんな感じで大量のチョコをもらった。だがチョコを受け取る度に腰にしがみつく涼風が尻に噛み付いてきたり締め付けてきたりと多大なダメージを受けてしまった。ほんとこいつ何が気に入らないんだ。

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◇

 

 

 

 

 提督は女心が本当に分かっていない。それかあたいの事を女として扱っていない。だってそうじゃないとあたいが後ろにしがみついてる状態で他の艦娘達にデレデレなんてできないってもんだ。

 

 ほら今だって

 

『提督、はいこれバレンタインのチョコっぽい』

『夕立ぃテメェこれビック○マンチョコのウエハースをタッパーに詰め込んでるだけじゃねえか』

『違うっぽい!神羅○象チョコだし!失礼しちゃうわ!』

『知らねえよ!!』

 

『お兄さん!お兄さん!海風は色んな味のチョコボールを作ってきました!どうぞ!あっ今食べて感想聞かせてください!』

『えっ今じゃないとダメ?』

『お願いします!』

『わかった。・・・うん美味しい美味しい』

『こっちも食べてください!全部味が違うんですよ!』

『えっいや、今全部食べるのは・・・』

 

 

 ほんとは分かってんだ。何時までも拗ねてないで姉貴達みたいに素直になれば良いなんてことは。だけどどうしてもそれが出来なくて、でも一人で蹲っていてもきっと忙しい提督はあたいなんて相手にしてくれないから・・・だからこうやってしがみついてる。自分でももう何が気に入らないのか分からなくなってきた。

 

『先輩、私もチョコレートを作ってきました』

 

 今度は浜風か。ほんとどれだけこの提督は部下に慕われてんだ。

 

『浜風・・・貴様にはスウイーツの類を作ることは禁止したはずだが』

『先輩の私的な命令は聞かないと以前にも言ったはずですが』

『以前俺が泡吹いて倒れたの忘れたのか!?』

『煩い先輩ですね。そこを耐えて食べるのが男の甲斐性ってモノでしょう』

 

 いいな浜風は。あたいもこんな風に素直になれたらどんなにいいか。

 

『・・・てめえのスウイーツ(破)なんぞ食ったら胃がいくつあっても足りねぇ』

『あっそれいいですね。胃袋を掴めないなら破壊してしまう、うんありですね』

『・・・やっぱお前のチョコだけは食う訳にはいかねぇ・・・あばよ!!』

 

バリーン

 

 突然ガラスの割る音と共に襲い来る浮遊感。あっこれ窓から飛び降りてんな。全くいつものことながら無茶するなぁ、今回はあたいもくっ付いてるってのに。

 

        ・

        ・

        ・

 

「はあ、はあ、はあ、ようやく撒いたか」

 

 執務室の窓から飛び降りた提督は浜風から逃げる為に全速力で鎮守府を逃げ回った。ひきずられるあたいはいい迷惑だ。艤装で強化されてるから痛くはないけど乙女的にはダメージはでかい。

 

 ちらりと視線を横にずらしてみると今居る場所が波止場ということがわかった。沈み行く夕焼けを海が反射していて綺麗だ。

 

 ・・・もう夕方なんだ。まだチョコ、渡せてないってのに。

 

 どうしようかと悩んでいるとぽんぽんと提督が頭を叩いてきた。

 

「なあ涼風、お前はチョコ、くれないのか?」

 

 どうやらこの提督はこの期に及んで何故あたいが拗ねているかを理解できていないらしい。はぁ・・・仕方ないこの唐変木にヒントをあげるか。

 

「・・・約束破ったからあげない」

 

「約束?破ってないだろ」

 

「一番最初にあたいの所にチョコ貰いに来てくれるって言った」

 

 どうだこれで言い逃れできないってもんだ。ふん、でも拗ねてるもの疲れたしちゃんとごめんなさいしたら許す。

 

「だから破ってねえって」

 

 まだ白を切るってのかい、だんだん怒りが再燃してきた。

 

「嘘。吹雪と一緒に居るの見た」

 

「今朝の話か?あんときは演習の打ち合わせの話をしていただけだぞ?チョコはもらってない」

 

「え」

 

 今朝の事を思い出す。言われて見ればあたいが見たのは会話をしているとこだけだ。

 

「わざわざ朝からお前に会いに行ったのに拗ねてるんだもんな。訳分かんねぇよ」

 

 言われて見ればそうだ。今朝提督が吹雪と話していた場所は艦娘達の部屋があるだけで他に何もない。そしてあたいがしがみ付いてから提督はそのまま執務室にとんぼ返りしている。つまり初めからあたいにだけ用があったということ。

 

 なんだ・・・そっかぁ・・・。あたいが勝手に拗ねてただけかぁ。

 

 心の中のモヤモヤがスーッと抜けて行くのが分かる。そして抜けたモヤモヤの代わりに満足感というか安心感というか上手く言えないけど幸せなモノが流れ込んでくる。

 

「提督、あたい勘違いして勝手に拗ねてたみたい。ごめん」

 

「そうか、まっ勘違いなら仕方ない。それで?チョコくれないのか?」

 

「・・・ん」

 

 あたいはしがみついたまま提督にチョコを渡す。提督はありがとなと言ってあたいの頭を撫でてくれた。嬉しい。

 

 あれ?そういえば今日は提督が沢山あたいの頭を撫でてくれたような気がする。

 

「それで涼風、誤解も解けたところでそろそろ離してくれない?」

 

 そういえば今日は提督が沢山話掛けてくれたような気がする。

 

「あの涼風さん?聞いてる?」

 

 何よりずっと提督と一緒にいられた。

 

「涼風さん?あのね、提督もうずっとトイレを我慢してて限界間近なんですよ、ね?聞いてる?」

 

 案外拗ねるっていうのも悪いことばかりじゃないのかもしれない。あたいは提督にしがみ付く力をより一層強くしながらそう思った。

 

 

 

 

 

 




拗ねデレとかいう謎電波の受信により誕生してしまった拗ね風さん。これはこれで可愛いかも。かもかも。

次回は春雨過去編です。
評価で点数付けてもらえると嬉しいです。はい。

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