辞めたい提督と辞めさせない白露型   作:キ鈴

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浜風乙改実装記念の番外編です。



浜風(12)
まだマジでキレていない頃の浜風。だが片鱗はあった。

深海妖精さん
この頃は浦島さんと呼ばれていた。


【番外編】提督とまだマジでキレていない浜風さん

 

 

 

 暖かな春の日差しが心地良い執務室。開け放たれた窓の外からは駆逐艦達の無邪気な笑い声が聞こえてくる。そんなのどかで何だか時間の流れすらもゆったりに感じる昼下がりに俺は

 

「くたばれや浜風ぇぇぇぇぇ!」

 

 浜風と戦っていた。

 

「くたばりません」

 

 浜風は俺の放った3cm連装砲拳銃のBB弾を全て手刀で切り伏せそのまま右ストレートをぶっぱなしてきた。

 

「んな大振りが当たるか!」

 

 俺は浜風の拳をバックステップで躱し背後にあった執務机を浜風に投げつけた。

 

「危ないですね」

 

「てめぇ……机を拳で粉砕してんじゃねえぞ。後で俺が時雨に怒られるんだぞ」

 

「こんなもの投げつける先輩が悪いです」

 

 俺は3cm連装砲拳銃を、浜風は手刀を再度構える。

 

「浜風、少し大人しくしてろ。今日こそはテメエを厳重に梱包して大将の元へ送り返してやるからよ」

 

「先輩こそ大人しくしていてください。そうお時間は取らせません、天井のシミでも数えていてもらえれば直ぐ終わりますので」

 

「「……」」

 

「相容れねえな」

 

「そのようですね」

 

「なら……」「では……」

 

「「くたばれ!!」」

 

俺と浜風は再び接近し攻撃を繰り出す。互いに譲れないものがある以上拳で語るしかないのだ。

 

「司令官、浜風さん……これは一体どういうことですか?」

 

「げっ春雨ちゃん」

 

「まずいですね」

 

 いつの間にか扉を開けこちらを見ているのはピンクの魔王こと春雨ちゃん。いつもよりその髪の毛は若干白みがかっており肩をぷるぷると震わせていた。

 

「司令官、浜風さんそこに正座してください」

 

「はい」「はい」

 

 俺達を座らせた後春雨ちゃんは部屋をぐるりを見渡し、ため息をついた。部屋には粉々となった机が木屑となり書類が散乱、壁には銃弾の跡が残っている。

 

「それで?どちらが悪いんですか?」

 

「こいつです」「先輩です」

 

「……一人ずつお話を聞きます。まず司令官からどうぞ」

 

「俺が椅子に座って本を読んでいたら浜風が急に襲いかかってきたんだ」

 

 

「なるほど。では浜風さんは何故司令官を襲ったんですか?」

 

「別に襲ったわけではありません。少し指のサイズを測らせてもらおうと思っただけです」

 

「?何故指のサイズを?」

 

「……約束を守ってもらうためです」

 

「約束ですか……。そういえば司令官と浜風さんは旧知の仲のでしたね。浜風さんは司令官のご両親と親しいようでしたし・・・何があったか気になりますね」

 

「「……」」

 

「司令官?教えてくれますよね?」

 

「いや、昔のことはちょっと……」

 

「春雨がいつも司令官の為を思って掃除しているこの部屋……それを一瞬でこんな惨状にされて春雨は悲しいです。どんどん髪が白くなってしまいます」

 

「あれは俺がまだ中学生だった頃の話です」

 

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 

 中学2年の5月。新学期が始まり毎日が憂鬱な土曜日の午後。外には出たくないが何となく身体を動かしたい、そんな俺の贅沢な悩みを解決してくれる神のゲームWi○スポーツリゾートで汗を流していると突然ラブリーマイシスターかすみちゃんに尻を蹴られた。スパーンという音がリビングに木霊する。

 

「クズ兄貴、図書館行きたいから自転車だして」

 

 何だか最近傍若無人に育ってきている妹にたまにはガツンと言ってやろうかと思ったが結局妹に甘い俺は今こうしてかすみちゃんを自転車の荷台に乗せえっさほいさをペダルを漕いでいるのだった。

 

「かすみちゃん、お前もそろそろ自転車くらい乗れるようになれよ」

 

「嫌よ。そしたら兄貴が荷台に乗せてくれなくなるじゃない」

 

 そう言ってかすみちゃんは自転車特訓を拒否した。捻ているのか素直なのかよく分からない。

 

 

 

 駅前にある中央図書館は相変わらず大勢の人が集まっていた。勉強している学生、暇な時間をつぶしに来た主婦、ドラ○もんを読みに来た小学生など様々だ。

 

 そんな多種多様な人たちがいる中で一人の人物に目が止まった。銀髪でどことなく無愛想な印象をもつ女の子。綺麗な顔立ちをしておりそれだけでも目立つがその豊満な胸がさらに彼女を目立たせていた。

 

 そいつは本棚の陰から顔だけ覗かせじっとこちらを見ていたが俺が気づくとサッと顔も隠してしまった。

 

(あれ、あいつは……)

 

「知らない女の人をじろじろ見んな!」

 

 またかすみちゃんに尻を蹴られた。今回は図書館なのでスパーンと軽快な音はならないよう配慮したらしくその分鈍い痛みが俺の臀部に突き刺さった。

 

「痛ってえ……。違うんだよかすみちゃん。アレを見てくれ」

 

「アレ?」

 

 俺が指指す方向を見るかすみちゃん。先ほど銀髪の少女が顔を覗かせていた本棚の陰に顔はなく代わり胸が飛び出していた。頭隠して胸隠さず。

 

「……おっぱいね」

 

「……おっぱいだな」

 

「やっぱりいやらしい目で他人を見てたんじゃない。最低ね」

 

「いやそうじゃなくて、ほら銀髪の」

 

「銀髪?……ああ、あの人。てゆうか又なの?」

 

「ああ、又だな」

 

 実は彼女を見かけたのは今日が初めてではない。新学期になってからというものいたるところで目撃している。

 

 例えばかすみちゃんと二人ででかけた三○デパートで。例えばかすみちゃんと二人で行ったスイーツバイキングで。例えばかすみちゃんと二人で行った動物園でといった具合にどこに行っても彼女は出没するのだ。つーか俺、妹と二人で出かけすぎだな。

 

「もしかしてストーキングされてるんじゃないの?気を付けた方がいいわよ」

 

「いや、それは考え難いと思うんだけど……流石にこうも偶然が重なるとな」

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 かすみちゃんに言われたように何だが不気味な物を感じた俺は少し周囲を警戒することにした。

 

 彼女と俺は同じ中学に通っているらしく校内でも頻繁に目撃した。上履きの色から今年入学したばかりのピカピカの1年生であることが分かった。

 

 同じ学校なのだから見かけるのは当然と思っていたがよく考えると不審な点がある。

 

 俺が便所に行こうと教室から出て廊下にでると彼女はいつも廊下にいた。これがおかしい。2年である俺の教室は2階にあるのだが1年である彼女の教室は1階なのだ。毎回この廊下にいるのはおかしい。

 

 次に図書室。図書委員である俺は毎週火・金曜日の放課後は図書室に残り本の貸出の受付をしている。俺が当番の日は必ず彼女は図書室に来ていた。きっと毎日来ているのだろうと思っていたが他の委員に聞いたところ他の曜日には現れていないらしい。

 

 次に登校時。必ずと言っていいほど俺と彼女の登校時間が被っていた。いつもより早い時間に家を出ても、遅い時間に家を出ても絶対に彼女と同じタイミングで門をくぐっていた。明らかに不自然。

 

 

 今まではやけに見かけるなー、可愛い子だから俺が意識しすぎてるだけなのかなー、と思っていたがやはりおかしい。だが実害もあるわけでもないので取り敢えず放っておくことにした。というか何もできることがなかった。

 

 

 

 ある日の金曜。いつもの様に委員の仕事で最終下校時刻まで学校に残っていた俺はそろそろ戸締りして帰るかー、いやその前に便所行ってくっかなと用を足して図書室に向かっていた。

 

 図書室の扉を開けると誰かがいたようでビクっ!と体を震わせていた。驚かせてしまったらしい。

 

 

「あー悪い、もう戸締りするから出ていってもら……」

 

 俺は最後までその言葉を続けることができなかった。

 

 部屋にいたのはあの銀髪少女。足元には何故か俺のカバンが置かれておりその手には体操服が握られていた。

 

「えっとあーと、……それ返してもらえる?」

 

「!~~~~~!」

 

 俺がそう言って近づくと銀髪少女は顔を真っ赤にして全開にしてある窓に向かって走り、そのまま飛び出してしまった。

 

「まじかよ!ここ2階だぞ!」

 

 慌てて俺も窓から身を乗り出し下を見てみる。が、銀髪少女は2階から飛び降りたことなどなんでもないとでも言うように見事な着地を決めそのまま校門に向かって走り去ってしまった。

 

「わけわかんねえ……」

 

 

 

 

 

 

 次の週の火曜日、俺は銀髪少女と話をする事にした。別に放っておいてもよかったのだが流石にこのままエスカレートされると困るからだ。だが先週の奴の様子から察するに恐らく俺が近づくだけで逃げられてしまう。というわけで浦島さん(相棒)に協力してもらいとあるアイテムを作った。

 

 その名も銀髪捕獲ネット。

 

 名前とかつけて見たが別に大した物ではなく単純にネットを俺のカバンの中にセットしスイッチを入れる。スイッチが入ったままカバンのチャックを開けるとネットが飛び出し対象を捕獲するというものだ。

 

 本日火曜日の図書委員はまた俺の当番。先週と同じ様に最終下校時刻を過ぎた図書室には誰もいない……はずだ。だが奴が再び現れ俺のカバン開けていたとしたら……。

 

 捕まっていて欲しいと思う反面、捕まっていて欲しくないという思いもあった。奴がしかけにかかっていたとして正直対処に困る。ストーキングを止めろと本人に直接言うとなるとそれはそれでなかなか辛い。先週のあれは思春期特有のリビドーがたまたま限界に達していたが故の過ちで普段の銀髪は常識ある少女だと信じたかった。

 

 「……」

 

 誰もいないはずの図書室の扉の前に立ち深呼吸をする。ふー、よーし、いくぞ。いっせーの!!

 

 ガラガラ 勢いよく扉を開け部屋にはいる。

 

「……誰もいないか」

 

 あるのは部屋から出る前と何ら変わりなく置かれている俺のカバンだけ。何だか肩透かしをくらった様な気になったがこれでいいのだ。

 

 俺はテーブルに置かれているカバンを右肩に掛けそのまま帰宅した。なんだかカバンが少し軽くなった様な気がしたがきっと少し安心して肩の荷が降りたからなのだろう。

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 その日の夜、何故か急に料理に目覚めたかすみちゃんの作った夕食を食べた俺は自室でぶっ倒れていた。別に不味かったわけではない、普通に美味しかった。が量がおかしかった明らかに家族4人で食べられる量ではなかった。だけど

 

「兄貴……残しちゃうの?」

 

 ラブリーマイシスターかすみちゃんにそう言われてしまえば残す等という選択肢が俺にあるはずもなく兄のプライドをかけ完食した。おかげで現在ベッドから動けずにいる。

 

Prrrr

 

 うーんうーんをうなされていると俺の携帯に着信があった。画面を見ると知らない番号、だが最初の3つの数字から相手も携帯からかけてきていることが分かった。

 

(誰かが番号変えたのか?)

 

 そう思い俺は電話に応答した。

 

「もしもし?誰だ?」

 

『……』

 

 返事はない。だが息遣いは微かに聞こえる。

 

「イタ電なら切るからな」

 

『私です先輩』

 

「いや、誰だよ」

 

 俺の事を先輩と呼ぶ人間は委員会の下級生くらいだが生憎と連絡を取り合う様な仲のやつはいない。

 

『浜風です……』

 

「いや、知らねえよ」

 

『先週の金曜日に図書室で先輩のカバンを漁りました』

 

「……銀髪か」

 

『多分それです』

 

 驚いた。まさか向こうから直接電話してくるとは、何だか声も暗いしあれから気にしていたのかもしれない。

 

「なんだ、先週の謝罪か?別にもういいぞ、反省してるみたいだし」

 

 何で俺の携帯の番号知ってんだとか気になる点はあるがまあいいそれも目を瞑ろう。

 

『いえ、謝罪ではなくお願いが……』

 

「色々言いたい事はあるけど先に聞くだけ聞いてやる」

 

『ありがとうございます。えっと、その・・・先ほど先輩のカバンを開けたら中からネットが飛び出してきまして・・・解けないんです』

 

「はあ?カバンなら今俺の目の前にあるぞ?」

 

『それ本当は先輩のじゃありません。私がすり替えました』

 

「うっそだろお前……」

 

 俺は慌ててカバンを開け中身を確認する。中身はいつもと変わらず俺の筆箱とお菓子が入っているだけだ。教科書の類は全て学校においてきている。一見、俺のカバンの様に見えるが言われてみれば確かに細かな点が違うように見える。なんというか汚れ方が不自然というか新品のカバンを故意に汚したような違和感、何より俺が仕掛けたはずのネットが入っていない。

 

『すみません……ネットが解けないんです。助けてください』

 

「……今から向かうから住所教えろ」

 

 

 




お久しぶりです。
なんだか続きがありそうな終わりになりましたが続きません。浜風編は番外編という形でたまに話の合間に差し込めたらなと考えています。
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