辞めたい提督と辞めさせない白露型   作:キ鈴

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時雨
なんだかんだ提督に甘い。
艦これ二期主人公説が濃厚になり少し浮かれている。

春雨ちゃん
趣味はB級サメ映画鑑賞。
鎮守府内でダブルヘッドシリーズを布教する彼女の姿がしばしば目撃されている。

夏鮫ちゃん
春雨ちゃんのペット。

マジギレ浜風さん
鎮守府ぶっちぎりのヤベー奴。最近では春雨ちゃんですら少しひいている。








提督と時雨とサブリミナル

「時雨!うしろ!」

 

 夕立の声に反射的に反応しその場にしゃがみこむ、直後コンマ5秒前まで僕の頭があった場所をビュンという音と共に不知火の長い脚が風を切り裂いた。

 

「くっ!」

 

 僕はしゃがんだ体勢のまま左手を軸に回転し背後から蹴りを放った不知火の足を払う。不知火を倒しても息をつく暇はない、今度は正面から山城が僕の鳩尾に向かって掌底を放ってきた。僕はすんでのところでそれを躱すと山城の勢いをそのまま利用し彼女を背負い投げる。

 

「時雨、大丈夫っぽい!?」

 

「うん。ありがとう夕立、助かったよ」

 

 駆け寄ってきた夕立と互いに背を預け合いながら辺りを見渡す。周囲には山城や不知火の他にも沢山の艦娘達が僕達を捕らえる為にじわりじわりと迫ってきていた。仲間である筈の僕達を見つめる彼女達の目はどことなく虚ろで理性を感じ取れない。

 

「時雨!みんなどうしちゃったの!?なんで仲間のはずの私達を襲うの!?」

 

「分からない……分からないけどここで捕まる訳にはいかない。一旦逃げよう!」

 

 僕は夕立の手を掴み時雨艤装の第三スロットから照明弾を取り出し、それを最も包囲網の薄い場所に向かって投げつけた。

 

 

□□□

 

 

「なんとか逃げ切れたっぽい……」

 

 僕と夕立は照明弾で皆の目をくらました隙をつきなんとかその場の逃走に成功した。現在はとりあえずの避難場所として夏鮫の住処である海沿いの洞窟に避難していた。

 

「時雨、なんで皆は私達を襲ってきたの?それに山風は何処に連れて行かれたぽっい?」

 

「……」

 

 僕は夕立の不安げな問いに応えることができない、あまりに突然の事態で本当に何も分からないのだ。

 

 今から30分前、遠征から帰投した僕と夕立、そして山風を待っていたのは大勢の仲間達だった。そんな長い遠征でもなかったのに出迎えなんて大袈裟だよと笑いながら僕は皆にただいまと声をかける。

 

 その直後だった、僕達を迎えたのはおかえりという言葉ではなく仲間達からの無慈悲な攻撃だった。

 

 驚きながらも僕と夕立はなんとか初撃を躱すことに成功したが山風は複数人に取り押さえられそのまま何処かへ連れて行かれてしまった。

 

 山風を救おうと試みたが多勢に無勢、僕らは撤退を余儀なくされ今に至る。

 

「夕立達、皆を怒らせちゃったっぽい?」

 

「いや、そうじゃない。そもそも皆の様子がおかしかった。夕立、皆は君にどんな攻撃を仕掛けてきた?」

 

「どんなって……鳩尾にむかっての掌底とか関節技とか……」

 

「だよね、僕に対してもそうだった。まるで僕達を倒すことが目的じゃなくてただ無力化するのが目的みたいな……、山風も連れて行かれはしたけど実際には手足を押さえられだけで怪我はしていなかった」

 

「……つまりどういうことっぽい?」

 

「多分みんなは……提督に洗脳されてる」

 

「洗脳って……提督さんはそんなことできないっぽい」

 

「どうやったかは分からない、だけどそうとしか考えられないんだ。仮に深海棲艦がこの鎮守府を乗っ取ってみんなを洗脳したのだとすればわざわざ駆逐艦の僕達を無傷で捕獲する必要がない。もう充分な戦果を上げているんだからそのまま沈めて仕舞えばいいんだからね」

 

「人間……悪い人が忍び込んだ可能性はないの?」

 

「夏鮫、僕達が遠征に行ってる間にだれかこの鎮守府にやってきたかい?」

 

 夏鮫は僕の問いに海水の中に顔を沈めたまま背鰭を左右に振り僕の言葉を否定する。夏鮫はこの鎮守府近海の主だ、もしも提督や艦娘以外の人間、もしくは深海棲艦が接近すれば直ぐにそれを察知できるはずだ。だがその夏鮫も知らないというのならば侵入者がいるという線は限りなく薄い。

 

「つまりこれは提督の脱走作戦なんだと思う。方法は分からないけど提督はみんなを洗脳、さらに洗脳した艦娘を使って僕達を捕獲して鎮守府から脱走しようとしているんだ」

 

「なら急いで提督さんを捕まえに行かないと!このままだともう二度と会えなくなっちゃう!」

 

 慌てて洞窟から抜け出し提督の元に向かおうとする夕立を止める。このまま無策で行っても洗脳された仲間たちに捕まってしまうだけだ。

 

「いいかい、夕立。鎮守府のみんながどれだけの人数洗脳されているのかは分からない。さっき僕達を襲ってきた娘だけかもしれない、だけどその逆、僕達以外全員ということだって考えられるんだ。だから白露や村雨……春雨だって敵ということも充分有り得る。山風も今頃は……」

 

「そんな……」

 

「もう提督を止められるのは僕達二人しか居ないかもしれない。ここは慎重に動こう」

 

「ぽい……」

 

「どういう手段を使ったのかは分からないけど僕達でとっ捕まえて懲らしめてやるんだ」

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

「ありがとう夏鮫、ここまでで大丈夫。あとは僕達だけで行くよ」

 

 洞窟を出た僕達は夏鮫の背に乗り鎮守府の裏手へと移動した。艤装を展開することも出来たがそうすれば大きな音が発生し、見つかる危険性が高まるのでそれは控えた。

 

「このまま提督さんを捕まえにいくのよね。何処にいるか分かるっぽい?」

 

「ああ見えて提督は用心深いからね。きっと僕達を捕まえるまでは執務室に籠城してると思うんだ」

 

「ぽい!ならとりあえずの目標は執務室ね。夕立、いい道を知ってるから付いてきて欲しいっぽい」

 

「いい道?」

 

 夕立の誘導に従って僕は食堂の裏手へと向かった。道中何人かの艦娘と遭遇したが正門付近と比べると明らかに人数が減っており、僕ら二人だけでもなんとか切り抜けることができた。

 

「ここっぽい!」

 

 案内された食堂の裏手にはやはりというべきか何もない、あるのはどこにでも常設されているような20型消火器が二本だけだった。

 

「この消火器の下に隠し通路があるっぽい!」

 

 夕立は消火器を退かすとその下にあった1m×1m程の鉄板に手をかけて持ち上げる。するとその下から洞窟状の通路が現れた。

 

「すごいねこれ、夕立が掘ったのかい?」

 

「ううん、掘ったのは提督さんぽっい。きっとこの穴を使って逃走しようとしてたんだと思う。だけどその前に夕立が見つけたからこの鉄板を載せておいたっぽい」

 

「そっか、でもだめだよ夕立、鉄板を載せるくらいじゃまた退かされて簡単に再利用されるじゃないか。ちゃんと埋め戻さないと」

 

「大丈夫っぽい!この鉄板けっこう重いから提督さんには動かせないっぽい!」

 

「ああそういうこと…」

 

 夕立の先導で洞窟内にはいる。太陽の光の届かない洞窟内は真っ暗で数歩進めばもう何も見えなくなる。僕達は夕立の探照灯の明かりだけを頼りに前へ進んでいく。

 

「時雨、もしも本当に白露や春雨まで洗脳されてたらどうするっぽい?夕立達じゃ春雨には勝てないっぽい」

 

「いや、春雨相手ならまだ勝機はあるよ。春雨の強さはあの無茶苦茶な艤装によるところが大きいからね。肉弾戦なら僕達に分がある」

 

 春雨は確かに強い。この鎮守府で最強と言えるだろう。だけどその強さの由縁はあのドラム缶爆弾によるところが大きい、深海棲艦相手ならあの圧倒的破壊力で敵を沈めることが出来るが彼女達の今回の目的は僕達の無力化だ。となればドラム缶爆弾を使うことは出来ずに素手での戦いになる。徒手空拳であるなら夕立と僕でも充分に対抗出来るはずだ。

 

「問題は浜風だ……」

 

 春雨を除く駆逐艦で最も強いと呼ばれる浜風……。その強さは演習においては女神を使用したとはいえ一度は春雨を倒した程だ。噂では艦娘の練度上限とされる練度(レベル)99の壁を突破しているとか……。とにかく浜風と遭遇すればアウトだ。彼女との戦闘は何としてもさけないと。

 

「時雨、出口っぽい」

 

 頭の中で浜風と遭遇した際の対処を思案しているといつの間にか出口に辿り着いていたらしい。夕立の手を借りて外へ出るとそこは鎮守府の中だった。

 

「ここは……。工廠の中?」

 

「ぽい、ここには明石や夕張くらいしか艦娘が来ないっぽい。だから提督さんはここを隠し通路の入口に選んだっぽい」

 

 なるほど、相変わらずそういうことに関しては頭の回る人だ。確かにここに出入りするの明石と夕張、そして提督くらいのものだ。それにここなら穴を掘るための道具はいくらでもあるだろうし常に騒音が響いているから穴を掘る音も気づかれ難いと言うわけか。いや、感心している場合じゃない、早く提督を捕まえてみんなの洗脳を解かせないと。

 

「流石先輩ですね、本当に夕立さんと時雨さんが出てきました」

 

「ぽい!?」「えっ!?」

 

 突如声のした方に慌てて視線を移す。そこには文庫本を片手に椅子に腰掛ける浜風の姿があった。まるで僕達がここから出てくるのを読書でもしながら待っていたとでもいうかのようだ。僕は動揺を悟られないよう、冷静を装いながら浜風との対話を試みる。

 

「やあ浜風、こんなところで奇遇だね。工廠に何か用事でもあったのかい?」

 

「工廠に、ではありませんね。貴方達に用があってここで待っていました」

 

「だよね……。ところで君は洗脳を受けてないみたいだけどどうして僕達を狙うのか理由を教えてもらってもいいかな?」

 

「先輩の指示です。貴方達を捕まえれば何でも一つ願いを聞いてくれるそうです。私事で貴方達には申し訳ないと思っていますが大人しく捕まってもらえると助かります」

 

「そういう訳にはいかないんだよね……」

 

「でしょうね。ではあまり気は進みませんが力づくで捕獲させてもらいます。安心してください怪我はさせませんから」

 

 

 

 

 

□□■

 

 

 

 

 サブリミナル効果と呼ばれる現象が存在する。それは『意識』と『潜在意識』の境界に刺激を与えることで人をコントロールする、いわゆる催眠術の一種だ。

 

 例えば、テレビCMの合間に一瞬、それこそ人が認識できないような時間だけ『コーラを飲め』といった文字を表示したとする。するとそれを見た人はコーラを飲めという文字を視認できていないにも関わらずコーラが飲みたくなり、結果的にコーラの売れ行きが向上する。これがサブリミナル効果と呼ばれるものだ。現在の日本ではこのサブリミナル効果を含む映像を公共の電波によって発信することは法律によって固く禁止されている。

 

 今回、俺が艦娘共の洗脳に利用したのはこの『サブリミナル効果』と『モスキート音』を掛け合わせたものだ。モスキート音と呼ばれる人の聴覚では認識できない超高周波の音を利用し鎮守府全域に『時雨と夕立を捕獲せよ』という指示を発し続けた。効果は想定外に覿面だった。

 

 サブリミナルを発し始めて僅か1時間後、鎮守府にいた艦娘全員が時雨と夕立を捕獲する為に鎮守府を徘徊し始めたのだ。2人は遠征に行っていて鎮守府内には居ないにも関わらずだ。

 

 このサブリミナルモスキート音を使えば今度こそ鎮守府を抜け出すことができる……俺はそう確信した。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

「はあ……はあ……ようやく見つけた!」

 

 執務室の扉を蹴破り、息も絶え絶え、今にも倒れてしまいそうなほど疲弊しながらも俺の元まで辿りついた時雨は、怒りを顕にしながらそう言った。

 

「……まさか浜風を突破してくるとはな」

 

 ガチャンと時雨は自身の艤装の一部、12.7cm単装砲を展開するとその砲口を俺に向ける。

 

「さあ、早く皆の洗脳を解くんだ!まったく今回は少しやりすぎだよ、その分のお説教は覚悟してもらうからね」

 

 俺を追い詰めた時雨は息を切らしてはいるが安堵の表情を浮かべながら俺に命令する。どうやら既に俺を捕まえた気でいるらしい。

 

「時雨、一つ問題だ。艦娘達を洗脳できるはずの俺は何故遠征から帰ったお前達を直接洗脳せず、わざわざ捕獲なんていう不確実な手段で無力化しようとしたと思う?」

 

「そんなことは皆の洗脳を解いた後にゆっくり聞き出すよ!さあ早く皆の洗脳を解くんだ!」

 

「それはな……」

 

 俺は時雨の怒号を無視しながらゆっくりと言葉を続ける。

 

「洗脳が完了するのに少し間がかかるからだ。個人差はあるがだいたい一時間ってところか……。ところで時雨、お前遠征から帰って時間どれくらいになる?」

 

「え……」

 

 俺の言葉に時雨の表情が固まる。いや、表情だけじゃない。艤装を展開し12.7cm単装砲を俺に向けた直後から奴の体は硬直し1mmも動いてはいない。どうやら時雨にもようやくサブリミナルの効果が表れたらしい。『時雨を捕獲しろ』というサブリミナルによる命令を受け時雨は自分自身を捕獲、自身の動きを封じてしまったのだろう。

 

「なん…で」

 

「どうやら今回は俺の勝ちのようだな……」

 

 そう言い残し、既に言葉すらまともに発せなくなった時雨の横をゆっくりと通りぬけ執務室を後にする。もうこの部屋に帰ってくることは二度とないだろう。

 

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 追っ手のいなくなった鎮守府の外を悠々と、堂々と歩く。

 こんな風に一人で外を歩くのは何時ぶりだろうか。

 鉄底海峡を突破し白露達がこの鎮守府に来てからというもの俺にプライベートと呼べるものはほとんどなかった。常にアイツらが俺を見張っていたからだ。だけどその鬱陶しい白露達ももう俺の隣にはいない。この鎮守府から出ようとする俺の手を掴む者は、もう誰もいない。

 

 そう考えるとチクリと少し寂しさを覚えたような気がした。無理矢理居座らされていたとはいえ3年もの年月をこの鎮守府で過ごしたのだ、愛着が湧いていてもおかしくはない。だけど俺はここ去る。サブリミナルが解けて正気に戻れば皆は悲しむのだろうか?いや俺がそんなことを考える必要はない。俺は首をブンブンと振り、脳裏をよぎった艦娘(あいつら)の悲しそうな顔を振り払う。

 

 空を見上げる。空には雲一つ浮かんでおらずただ青空がどこまでも続いていた。そんな空を見て俺はまるで海の様だなと一人呟いた。

 

「……急ごう」

 

モタモタしてるとサブリミナルの効果が切れるかもしれない。俺は歩を早め、迎えが来ているはずの船着場へと急いだ。

 

 

 

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船着場へと着くと既に迎えの船が到着しており、船長が俺を出迎えてくれた。

 

「司令官、お待ちしてました。はい」

 

「司令官はよしてくれ。俺はもう提督じゃなくなるんだ」

 

「いいえ、司令官はずっと私の司令官です。はい」

 

 はて、この船長と俺は面識があっただろうか、確かに見覚えのある様な気はするが思い出せない、いや思い出せないというより気づけない?今まで体感した事のない感覚を覚えた。

 

 考えても分からないのでとりあえず俺は船長との挨拶をそこそこに船へと乗り込んだ。すると船内で俺はまた不思議な感覚に襲われた。

 

なんというか、初めて乗る船だと言うのに既視感がある。今まで幾度となくこの船に乗っていたというような、まるで免許を取ったばかりの頃初めて購入した愛車にも似た感覚。

 

「どうかされましたか?」

 

「いや、なんでもない。船を出してくれ」

 

 いくら考えても違和感の正体は掴めない。俺は気の所為だと自分に言い聞かせると船長に出航するように頼んだ。

 

「わかりました」

 

 そう言って船長はゆっくりと蓋を閉じ始める(・・・・・・・)

 

「あっ、そう言えば司令官」

 

 蓋が完全に閉じられる直前、船長は思い出したかのようにある言葉を俺に投げかけた。

 

 「サブリミナル効果ってご存知ですか?」

 

 『知っている』――そう答える間もなくドラム缶(・・・・)の蓋は閉じられ、一筋の光も届かない、完全な闇が俺を包みこんだ。

 

 

 

 




秋刀魚祭り&艦これJAZZに参加してきました。
秋刀魚のお刺身は油くがよく乗って美味しく、JAZZの方は目まぐるしく変わる舞台の様子に「目がたりねぇ!」っと思わず叫んじゃまいした。何度でも参加したい、そう思える催しでした。

最新話の投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。次回はあまり間隔を開けずにお話をお届けできる様に頑張ります。
次回はお説教&合コン回の予定。

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