辞めたい提督と辞めさせない白露型   作:キ鈴

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時雨
あまりお酒に強くはない。チューハイならなんとか。

浜風
始めは周りに合わせて生、中盤以降はマッコリをちびちび飲むのが好き。

悪磨さん
特にこだわりはない。質より量でとにかくお酒をちゃんぽんするのが好き。翌日に吐くのも含めてお酒の楽しみ方だと考えている。
一番のお気に入りはムーンシャイン。

春雨ちゃん
お酒は嗜まない。







提督と合コンと玉手箱

 

 

 

 合同コンパ。世間一般では合コンと呼ばれるこの催しは通常、面識の無い男女のグループ同士が異性との出会いを求めて開催される、一種の食事会だ。

 

 曰く、戦争。曰く、蹴落とし合い。そんな欲望渦巻く食事会の席に、一介の提督である俺が何故連れてこられているのか?

 

 答えは分からない。

 

「ここ、ボクが贔屓にしてる居酒屋なんだ。貸切とはいかないけど個室を予約してる。さっ入って入って」

 

 夏が終わったばかりとはいえ既に日が落ちて数時間、少し肌寒さを感じる夜道を俺達は大将の先導で歩き続けた。案内されたのはどこにでもあるような居酒屋、暖簾をくぐると秋刀魚の香ばしい匂いが鼻腔を撫でる。

 

 大将ともなれば料亭でも用意しているのかと思ったから少し拍子抜けだ。いや、そもそも料亭だろうが居酒屋だろうが関係ない、この際何故おれが合コンなんぞに連れてこられているのかも置いておく。問題はメンバーだ。

 

「へー……、これが居酒屋さんかぁ。僕初めて入ったよ」

 

「春雨もです」

 

「私は昔、先輩と入ったことがありましたね。記憶は残ってませんが……」

 

「えっと……悪磨さん、私はどうすれば……」

 

「あー、おーちゃんはちょっと待ってろク魔。たいしょー!私らの席ってこの部屋でいいのかク魔ーー?」

 

「うん、そこそこー!先入っててーー!」

 

 合コンのメンバーは俺、大将、春雨ちゃん、時雨、浜風、悪磨、そしてあの正月、雪降るネオン街で出会ったおーちゃんの計七人。

 

「大将……あんた何考えてんすか……」

 

「んんー?なんの話?」

 

「なんの話?じゃないっすよ。何で悪磨の奴がここにいるんですか、それにおーちゃんも……俺がここに呼ばれたことも含めて意味が分からないことだらけなんですが」

 

「悪磨くんとは友達なんだよ、少し前にネットで知り合った。おーちゃんさんもまあそんな感じかな」

 

「友達って……あんた少し前にあいつに自分の鎮守府を攻め込まれたばっかでしょうが」

 

「えー?そうだっけ?覚えてないや。それより鉄底くん、僕達も部屋に入ろうよ、皆待ってるよ?」

 

 話をはぐらかされた俺は仕方なく大将に続いて部屋に入る。

 部屋には八人がけのテーブルが用意されており、既に七人分のお通しが用意されていた。それを見て俺は思考を巡らす。

 

 合コンで最も重要なのは座る席だ。最初に腰を降ろす場所でその後の運命が決まると言ってもいい。今回俺はここに出会いを求めてきたわけじゃない、大将命令で連れてこられただけだ。そもそも顔見知りしかいないメンバーでの合コンとかどういう罰ゲームだという話。しからば今回の俺のスタンスは空気となり合コン終了までやり過ごすというのが無難だ。

 

 つまり今回俺が狙うのは角席!角席で適当に食事の注文でもしながら時間を潰せばこの訳のわからん混沌(カオス)な空間をやり過ごすことができる。

 

「あっじゃあボクは此処に座るねー。角席で皆の注文とか取るのワリと好きなんだよねー」

 

「なら悪磨さんはその対面にすわるク魔。大将、この悪磨さんがお酌してやるク魔、ありがたく思えク魔」

 

 俺が狙っていた席に大将と悪磨が腰を降ろす、俺は慌てて大将をその場所からどかそうと説得を試みる。

 

「大将、そこはあんたが座る様な場所じゃない。あんたは上座で偉そうふんぞり返っててくださいよ」

 

「君はほんとにボクを敬っているのかい……?いいよ、上座だとか下座だとか今日はそういうの抜きでいこう、そういうの気にしだすとシラけるぜ?」

 

「そうだク魔!大将の相手は悪磨さんがしててやるから、お前はおーちゃんの相手してろク魔!」

 

 このクソ悪磨……。だがまあいい、角席はまだ二つあるんだ。俺はそこに座ればいい。

 

「じゃあ俺は大将とは反対側の角に座るかな……」

 

「いや、提督の席はそこじゃないよ。君の席はここ」

 

 角席へと向かう俺の腕を誰かが掴んだ。振り返ると時雨が俺の右腕を掴み、もう片方の手で真ん中の席を指差している。

 

「うるせぇ、俺は角席に座るんだ。そこにはお前が座ってろや」

 

「男性陣二人に対して女性陣は五人なんだよ?大将が角に座って君まで角に行ったらもう合コンの体裁を保てないじゃないか」

 

「元々このメンバーで合コンの体裁なんざ保てる訳ねえだろ!?」

 

「我が儘言わない、ほらここに座って。大丈夫、僕が隣に座ってあげるからさ」

 

「なにが大丈夫なのか全く分かんねえんだが……」

 

「いいじゃないですか先輩。ほらここに座ってください。私がお酌くらいしてあげますよ?」

 

 いつの間にか大将の隣に座っていた浜風は、ペシペシと大将とは反対側の座布団を叩く。俺にそこへ座れと言っているらしい。

 

「おまえお酌とかできんのかよ……」

 

「失礼な。私をなんだと思っているのですか」

 

「やべー奴」

 

 腕折られかけたしな。

 

 だがこのまま立っていても仕方がない。時雨は俺を角席に座らせるつもりは無いようだし大人しく浜風の横に座る。無理に断って怒らせてもつまらんしな。

 

 俺が浜風の横に座ると時雨が俺の隣に腰掛けた。ついでおーちゃんが俺の斜め向い、そして春雨ちゃんがその隣、俺の対面に腰を降ろす。

 

 最終的な並びとしてはこうだ。

 

 入口側から『悪磨:おーちゃん:春雨』

 机を挟んで『大将:浜風:鉄底(おれ):時雨』といった席順に落ち着いた。なんともバランスが悪い。第一に男女比がおかしいのだ、なんだよ2:5てこんなんで合コン成り立つわけねぇだろ。そもそもこんな会を開いた大将の目的が分からない、まさか本当に出会いを求めているわけでもないだろうに……。

 

「さーて、席も決まったことだし注文しようか。ボクは生中にするけど皆は?」

 

「悪磨さんはカルーアミルクにするク魔!おーちゃんはどうするク魔?」

 

「えっと……では私も生中で」

 

「僕はカシスオレンジかな。春雨は?」

 

「えっと……、私お酒はあまり詳しくなくて……はい…」

 

「なら僕と同じのにするといいよ。甘くて飲みやすいよ」

 

「ではそうします」

 

「俺も大将と一緒で生かな。浜風、お前はどうすんだ」

 

「私も初めは生ですかね」

 

「りょーかい、ご飯は一応コースになってるけど食べたいものがあったらどんどん頼んでいいからね」

 

 全員から注文を取った大将が店員にドリンクを頼む。直ぐに俺達の前に飲み物が並び、大将が挨拶を始める。

 

「えー皆さん、今日はボクの急な呼びかけにご参集いただきありがとうございます。今回は合コンという名目で皆さんに集まっていただきましたが、まぁぶっちゃけただの懇親会です。あまりそのへんは気にせず自由気ままにのんじゃってくださいな。それじゃあ乾杯!」

 

「「「「「「乾杯」」」」」」

 

 

 

 

 

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「まさか春雨ちゃんがここまでアルコールに弱いとは」

 

「僕もしらなかったよ」

 

 乾杯の音頭から約二十分、先程まで春雨ちゃんが座っていた場所に彼女の姿はなく、代わりにドラム缶が座布団の上に置かれていた。缶の中からはすーすーっという小さな寝息が聞こえてくる。カシスオレンジ一杯で酔いつぶれた春雨ちゃんが中で眠っているのだ。

 

 チラリと大将の方へ視線をやる。大将と悪磨、敵同士であるこの二人が何か問題を起こさないか気になったからだ。だがそれも杞憂だったようで、二人は意気投合し独自の世界を展開していた。

 

「大将、お前なかなかいい趣味してるク魔!PT小鬼群の可愛さに気づける奴は深海広しといえど中々いねーク魔よ!」

 

「皆見る目がないんだよね……。小鬼くん達のあの不気味でよくわからない泣き声、鬱陶しさ、何よりキモ可愛いとしか評せないあのフォルム……できれば一匹うちで飼いたいくらいだよ」

 

「仕方ねー奴だク魔!こんど悪磨さんが育ててるのを一匹分けてやるク魔!」

 

「いいのかい!?是非お願いするよ!」

 

「その代わりこの間攻め込んだことは水に流せよク魔?」

 

「もちろんさ!」

 

 いや、それは水に流しちゃだめだろ。なに仲良くなってんだよ。お前ら敵同士って分かってんのか?

 

「太郎さん……とお呼びすればいいですか?」

 

 意気投合する大将達に気を取られていると斜め向いに座るおーちゃんが自信なさげに誰かの名を呼んだ。ああ、そうか。あのネオン街ではおーちゃんにそう名乗ったんだっけか。

 

「ごめん、その太郎ってのは源氏名なんだ。本名は表島(おもてしま) 良太郎(りょうたろう)っていうんだ。でも皆は提督って呼ぶしおーちゃんも好きに呼んでよ」

 

「おもてしま……裏島ではないのですか?」

 

「裏島?いや、違うけどどうして?」

 

「いえ……違うならいいんです、私の勘違いでした。あっ、提督さんのグラス空いてますね。次は何を飲まれますか?」

 

「んじゃあコークハイで」

 

「分かりました」

 

 おーちゃんは俺から飲み物を聞くと店員に注文するため席を立った。それにしてもおーちゃんは何故俺の苗字に疑問を持ったのだろうか?裏島なんて苗字は聞いたこともないが……。

 

「いてっ」

 

 裏島という名について考えていると突如腿の辺りに痛みを感じた。発生元を見てみると隣に座る浜風が俺の足を抓っていた。

 

「……なにすんだよ」

 

「随分とあのおーちゃんという子と仲がいいんですね。どこで引っ掛けてきたのですか」

 

「めんどくさ……。引っ掛けたとかそういうんじゃねえよ。以前俺が脱走してホストクラブに匿ってもらってた時あったろ?おーちゃんはその時の客だったんだよ」

 

「ああ……お正月に私や飛龍さん達を置いていなくなったあの時ですか」

 

 おーちゃんとの馴れ初めを説明すると浜風は意外にも直ぐに抓るのを止め、代わりにグラスのマッコリを一気に飲み干した。

 

「おい浜風、お前マッコリってそんなグイグイ飲むような酒じゃねーだろ、大丈夫なのか?」

 

 マッコリは米を発酵させて作る朝鮮半島伝統の酒だ。甘く、アルコールを感じさせない優しい口当たりが特徴なのだがそれでも酒は酒。アルコールを感じさせないが故に飲みすぎて倒れる人も少なくない。斯く言う俺もなんどこの酒に煮え湯を飲まされたことか……。

 

「だいじょーぶれすよ。わたしそれなりに強いですから」

 

「いや、もう若干呂律が怪しくなってんじゃん……。ほら、お前も春雨ちゃんと一緒に少し休んでろ」

 

「……先輩の膝を貸してくれるなら言うとおりにします」

 

「膝?ああ枕にするってことか。いいぞ、その代わり吐くなよ」

 

「吐きません」

 

 そういうやいなや浜風は胡座をかく俺の足を枕にして眠ってしまった。浜風が眠ったのを確認して顔をあげると時雨のヤローがニヤニヤしながらこちらを見ていた。

 

「んだよ」

 

「いや、なんでもないよ。ただ君はなんだかんだ優しいなと思ってただけさ」

 

「そんなんじゃねえよ。それより開始30分でもう二人も潰れたぞ。どうすんだこれ」

 

「仕方ないさ。僕たちは普段お酒なんて飲まないからね。自分たちのキャパシティがよくわからないんだ」

 

「その割にはお前は平気そうだが」

 

「僕はまだ一杯目だよ。流石に僕まで潰れたら君が逃げ出すのはわかってるからね」

 

「気にせず潰れちまえばいいのに」

 

 時雨と話しているとコークハイと生ビールを持ったおーちゃんが席に戻ってきた。どうやら店員から直接酒を受け取ってきたらしい。

 

 

「おや?浜風さんまで眠ってしまったのですか?」

 

「うん。彼女、ジュースみたいにマッコリを飲むものだから……。明日は二日酔になってるかも」

 

「ふふ、それは仕方ありませんね。悪磨さんと大将さんは二人で楽しんでいるようですし、私達は三人でお話しましょう」

 

 

 

 

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「はい!みんなちゅうもく!」「ちゅうもくだク魔!」

 

 合コンが始まって一時間、この催しも中盤に差し掛かろうかというところで突如大将と悪磨が立ち上がり声を上げた。大将の右腕には何故か数本の割り箸が握られている。

 

「いまから合コンの定番、王様ゲームをしたいと思います!ルールを知らない人は挙手!」

 

「おーさまゲーム?」

 

 おーちゃんが首をかしげながら手を上げる。どうやら知らないらしい。

 

「悪磨くん説明を!」

 

「まかせろク魔!王様ゲームってのは簡単に言うとくじ引きだク魔。まずは人数分の割り箸に1~6の数字を書いたくじ+先を赤く塗りつぶした当たりくじを用意するク魔」

 

「悪磨せんせい!用意しました!」

 

「流石大将、仕事がはえーク魔。くじを用意したらあとはそれを引くだけク魔。当たりを引いた奴が王様、他の奴になんでも命令できるク魔。つっても命令は番号での指定だから命令を受ける側は基本的にはランダム、それに相手が不快になるような度の過ぎた命令は無効だク魔」

 

「なるほど……楽しそうですね。やりましょう」

 

「流石おーちゃん、ノリがいいク魔。お前らはどうする?」

 

「もちろん僕も参加するよ」

 

 おーちゃんの参加表明に続いて時雨も参加を明言する。まあ、今回は春雨ちゃんも浜風も眠ってるしめっちゃくちゃなことにはならないか。

 

「俺も参加する」

 

「OK。それじゃあ七人全員参加ク魔ね」

 

「いや、五人だろ?春雨ちゃんと浜風は潰れてるし」

 

「なに言ってんだク魔?二人ならお前の後ろで既にアップ始めてるク魔よ?」

 

 そう言って悪磨は顎で俺の後ろを指し示す。振り返るといつの間に目を覚ましたのか二人が屈伸や柔軟体操を始めていた。いや、王様ゲームのウォーミングアップてなんだよ……。

 

「王様ゲームならお任せください。はい」「駆逐艦浜風、でます!」

 

 帰れ。

 

 

 

□□□

 

 

 

「んじゃあ悪磨さんが仕切ってやるク魔。いくぞ~おーさまだーれだ!」

 

「ボクだ」

 

 名乗りをあげたのは大将。当たりを引いた大将はくじを見せびらかすとニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべている。こいつ何を命令するつもりだ……。

 

 名乗りを上げたのは大将。当たりくじを引いた彼はニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。

 

「んー、そうだね。じゃあ7番さんが8番さんの事をどう思っているのかここで発表してもらおうかな?7番と8番はだれだい?」

 

 祈りながら俺が引いた棒を確認する、だが無情にも棒には7番の文字が書かれている。

 

「……7番」

 

「8番は僕だね。やった。さぁ提督は僕の事をどう思っているんだい?教えてよ」

 

「……別に何とも。まぁ他の艦娘と比べて少しは使える奴だなとは思ってるけど」

 

「おい鉄底、そーいう事を聞いてるんじゃねーク魔。ここは合コンの席ク魔よ?異性として時雨のことをどう思ってるのか答えるク魔」

 

 くそクマがぁ……毎度毎度邪魔してきやがって。いつかぶっ飛ばしてやるからな。

 

「まあ、あれだ。容姿は整ってるんじゃねーか?けど言っとくけど一般的な感性としての話だからな!」

 

「良かったですね姉さん。可愛いって言ってますよ」

 

「うん、照れるけど嬉しいね」

 

「先輩、男性のツンデレはどうかと思いますが」

 

「うっせぇ!」

 

 

□□

 

 

 

「んじゃ第2回戦やるク魔。おーさまだーれだ!って、悪魔さんがキングだク魔。んー、ならいっちょ際どいとこいってみるかク魔!3番は王様のほっぺにちゅーしろク魔!」

 

 またいきなり飛ばしてきやがったな……幸いにも俺の棒は6番、難を逃れた。前回時雨達とやった時のようなイカサマを疑っていたが今回は大丈夫らしい。

 

「さあ、3番はだれク魔!」

 

「私ですね。はい」

 

 手を挙げたのは春雨ちゃん。彼女はゆっくりと立ち上がるとそのまま悪磨さんの方へと歩いていく。キスを敢行する気のようだ。

 

「まっ、まじかク魔……はは、なんか怖ぇク魔」

 

 いやお前が命令したんだろが、何ビビってんだ。

 

 

 

□□□

 

 

 

「おーし、飲み放題の時間も終わりが近いから次でラストク魔。いくぞーー、おーさまだーーれだ!」

 

「……私ですね」

 

最後に当たり棒を引き当て王座についたのはおーちゃん。彼女はどうしましょうか……と少し考え、思いついたように俺達に命令を告げた。

 

「皆さん、私が良いというまで目を瞑り耳も塞いでください」

 

「全員かク魔?」

 

「はい、全員です」

 

「りょーかい、おらお前ら王様の命令だ!目と耳を塞ぐク魔!」

 

「貴方もですよ悪磨さん」

 

 言われ通りに目と耳を塞ぐ。すると誰かが席から立ち上がるような気配がした。耳を塞いでいるとはいえ完全に音を遮断することはできない、微かにだが誰かが俺の方に近づく足音が聞こえ、やがて足音は俺の背後で消えた。数秒おいて生暖かい風が俺の首筋を撫でる。

 

 匂いを嗅がれている?誰が?そりゃあ目をつぶる様にという命令をしたおーちゃん以外にいない。

 

 何故匂いを嗅がれているのかについて考えていると、耳を塞ぐ俺の手を誰かが掴みその手を引きはがした。開放された俺の耳元で背後の人物が囁く。その声は周囲に聞こえないようにする為かとても細く、小さなものだった。

 

「実は今回の合コン、私が大将さんにお願いして開いてもらったんです」

 

 そのカミングアウトに俺も小さな声で応答する。

 

「でしょうね。いくら変人の大将といえど意味もなくこんな会を開いたりしない。悪磨の奴なんかがいるなら尚更です。理由は分かりませんけど」

 

「私がもう一度貴方に会いたかったからです」

 

「俺に?どうしてまた?」

 

「結果的に言えば人違いでした。あのネオン街で貴方に初めて会った時、私()がずっと探している人の匂いが貴方からしたんです。しかも貴方は太郎って名乗るものですから、すっかり勘違いしてしまいした」

 

 なるほど、だからさっき俺の匂いを嗅いでいたのか。その探し人の匂いが微かにでも残っていないか確認する為に……。

 

「勘違いってことは今はその匂いはしないわけですか」

 

「はい。元々微かに感じられる程度の匂いでしたけど今は完全に匂いません」

 

「そうですか……それはなんというか…すみませんでした」

 

「いえ、私が勝手に勘違いしただけですので」

 

 おーちゃんの声はいつの間にか初めよりさらに小さくなってしまっていた。ようやく探し人を見つけたと思い

、大将を利用してまで俺にあったのにそれが勘違いで落胆しているのかもしれない。

 

「でも─────貴方が本当にその人なら良かったのにな……私はそう思います」

 

 最後にそう言ったおーちゃんの言葉はどこか悲しげに感じられた。

 

 

 

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「今日は楽しかったです。このような会に参加したのは初めてでしたので良い経験をさせて貰いました。ありがとうございました」

 

 会計を済ませ暖房の効いた部屋から空気の冷たい外へと出た俺達は、体をさすりながら別れの言葉を交わす。

 

「悪磨さんも潰れてしまいましたし。私達はこれで失礼しますね」

 

 そう言うおーちゃんの背中には酔いつぶれ、だらしなくよだれを垂らす悪磨が背負われている。こいつは本当に何しに来たんだろうか。

 

 

「あっそうだ、提督さん最後に一つよろしいですか?」

 

「ええ、なんですか?」

 

 思い出したようにおーちゃんが鞄から四角い物体を取り出した。それはカメの姿が彫られた古びた木箱のようなものだった。

 

「このような箱をどこかで見たことはありませんか?」

 

「あっ、それ山風が持ってるのと同じ箱だね。確か提督の実家にあったのを山風が貰ったんだっけ?」

 

「……そうだな。俺の実家にあった箱と同じものだ」

 

 俺と時雨の言葉に突如おーちゃんから殺気が発せられた。驚いて箱からおーちゃん自身へと視線を戻すといつの間にか彼女は艤装を……しかも深海棲艦のそれをまとっており、さらに彼女の持つ機銃の砲口は俺へと向けられていた。

 

「なんのマネですか」

 

 俺を隠すようにして前にたった浜風がおーちゃんに尋ねる。春雨ちゃんも既に小型ドラム缶爆弾を構えている。

 

「事情が変わりました。申し訳ありませんが提督さんには私達と一緒に来てもらいます」

 

「そんな事僕達が許すと思うのかい?それに3対1、君が僕達から提督を連れ去れるとも思えないけど」

 

「そうですね、確かに悪磨さんを担いでさらに貴方達から鉄底さんを奪い、脱出するのは難しいでしょう。ですが……勝てないまでもそこらを歩く民間人に危害を加えることはできます」

 

「脅しのつもりかい?」

 

「脅しではなく交渉です。この場で提督さんを渡して貰えるのであれば民間人に危害は加えません」

 

 

 一触即発。どちらかが1mmでも動けばすぐにでも戦闘がはじまる。だが動けない、こちら側が動けば民間人がやられる。おーちゃんが動けば民間人に危害を加えることができてもその直後に自分達が捕まってしまう。

 

 だからどちらも動くことができない。

 

 そんな膠着状態を壊したのはこの状況を作り出した本人、大将だった。

 

 

「まぁまぁ両方とも落ち着きなよ。このままだと結末は見えてる。おーちゃんは鉄底君を手に入れられなくてボク達は民間人に攻撃をされる。誰も得しない最悪の結末だ。どうだろう、ここは一つ日を改めて勝負……演習をして決着をつけるっていうのは」

 

「ダメです。日を改めればその約束を反故にされる恐れがあります。私にはあなた方を信用する材料がありません」

 

「ボクが人質になるよ」

 

「大将!?」

 

「元はと言えば僕がこの合コンの席を用意したのが発端だしね。そのくらい体ははるさ」

 

 大将の提案におーちゃんの顔が強ばる。嵌められた……!そう考えているのがその表情から伺えた。

 

「大将さん……まさか、貴方初めからこれが目的で……!」

 

「何を言ってるのか分からない。ボクは君が鉄底君に会いたいというからその場を用意しただけだ。なのに裏切ったのは君達の方じゃないか。それよりどうする?このまま誰も得しない結末を迎えるか、それともボクを人質にして一度撤退、後日決着をつけるか」

 

 いつの間にか形勢が変わっている。艤装を持たない大将が艤装を展開したおーちゃんに詰め寄っている。そしておーちゃんは確かに追い詰められている。選択の余地はない。

 

「早くきめてよ」

 

 







次回
『おーちゃんと悪磨さんと追いつきたかった天津風ちゃん』

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