深海棲艦の本当の意味での姫。人類側からは『始まりの深海棲艦』、『母なる深海棲艦』と呼ばれる存在。言うなればラスボス。
彼女が何故人類と敵対するのか……それを知るのは浦島太郎ただ一人である。
鉄底提督
本作の主人公。本名は表島良太郎。長年攻略不可とされていたアイアンボトムサウンドを開放し鉄底提督の異名を得た。
天井の抜けた竜宮城の中から空を見上げた。
空、とは言っても私達のそれには真っ白な雲は浮かんでいない。遠くに浮いているのであろう太陽の光もここまでは届かない。私達の空には雨も雪も降らなければ星も月も浮かばず、朝も昼も夜も存在しない。無愛想で感情の無いその空にはどこまでも濃すぎる青が続くばかりだ。
『オレはこの空もわりかし好きだけどな』
けれど、貴方は私達の空を見てそう言ってくれた。この空の下で私と暮らすと言ってくれた。私に浦島の名をくれ、子まで授けてくれた。
貴方と息子と娘の4人で暮らした日々はとても幸せだった。慣れない子育てに四苦八苦したり貴方と喧嘩をしたこともあったけれど、それでも毎日が幸せで輝いていた。あの生活はもう何百年も前のことだというのにその記憶は未だに錆びつかず私の宝物として保管されている。
もう一度あの日々を取り戻したい。
貴方がどうして私を裏切ったのか。どうして私と娘を置いて、玉手箱と共に息子だけを連れてここを出て行ってしまったのか……それは今になっても分からない。けれど私はあの日々を、貴方達を忘れることができない。
あの輝かしい日々をもう一度。それだけを夢見て私はここで貴方達を待ち続けた。本当は直ぐにでも迎えに行きたかったけれど、貴方が玉手箱を持ち出してしまったのでそれは出来なかった。けれど幸いにも貴方達が向かった『時間』は分かっていた。
だから気が遠くなるような時間を貴方達との思い出が詰まったこの竜宮城で待って待って待ち続けた。
待って待って待って待ち続けて────そしてついに私は貴方達の『時間』に追いついた。
もう────待つのは終わりです。迎えに行きます。
今度は貴方達が待っていてください。太郎さん、そして私の可愛い良太郎────もう少し時間がかかるかもしれませんけど貴方の妻が、貴方の母が必ず迎えに行きますから。
角が生え、真っ赤に染まった私を見て最初は驚くかもしれません。けど大丈夫、姿は変わっても私は私のまま何も変わっていません。貴方の妻で、貴方の母の『乙姫』のままです。
そういえば良太郎は今
ああ、はやく、早く、速く。成長した貴方に会いたいわ。
また家族四人、この竜宮城で仲良く暮らしましょうね。
拒否なんてさせませんから。ゼッタイ二。