辞めたい提督と辞めさせない白露型   作:キ鈴

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マジギレ浜風さん
鉄底提督の中学時代の後輩。
まともな駆逐艦としての練度は歴代最高。

春雨ちゃん
鮫が好き。

深海妖精さん
提督の相棒。現状、提督以外には視認できないらしい。






提督と浜風と甲羅棲姫

 殺し合わせる必要があった。

 

 それも永遠に。ずっとずっと終わらない戦争が必要だった。

 

 嘘だ。

 

 本当はオレが大切な物を二つ(・・)、たったそれだけを諦めれば戦争なんて始める必要はなかった。だけど……どうしてもオレはそれを諦めることが出来なかった。

 

 だからオレは『艦娘』と『深海棲艦』という輪廻を作り出した。『人間』と『竜宮』に終わらない戦争を強いた。

 

 玉手箱を使い、大切な二人から逃げ、作り出した戦争だ。

 

 この戦争を終わらせる訳には絶対にいかない。終わればまた全てが振り出しに戻ってしまう。それだけは……それだけはゼッタイに許さない、認めない、終わらせない。

 

 さあ、今日も殺し合おう。

 

 人間よ、深海は敵だ。殺せ。

 

 竜宮よ、人間は敵だ。殺せ。

 

 殺して仲間を得て、殺されて仲間を失え。

 

 存在しない暁の水平線を求めて永遠に殺しあえ。

 

 □□□□の輪廻は終わらない。

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「また何か知りたいことがあれば此処に来てください。私はいつだって待っていますから……はい」

 

 そう言って巫女は浦島太郎伝説についての話を締めくくった。お礼を言い資料館を後にし外へ出ると真っ赤な夕日が目に飛び込んできた。おかしいな……そんなに長居したつもりはなかったのだが……。

 

「結局なにも重要な手がかりはなかったな……」

 

『人間と深海棲艦、この戦争の真実が知りたければ浦島神社へ向かってください。そこにヒントを用意していますので』

 

 三年前、日本海に面したこの京の町でカメ型の深海棲艦は俺にそう言って姿を消した。

 奴の言う戦争の真実とやらが何なのか……それを知るために俺はこの浦島神社に足を運ぶ必要があった。だが、記録にない型とはいえ奴も深海棲艦であることに変わりはない、もしも春雨ちゃんや他の連中に見つかれば問答無用で処分される恐れがある。俺は単独でこの場所に来る必要があった。

 

 だから俺は鎮守府を脱走しこの神社までやって来たというのに得られた情報は『浦島太郎の本名』と『玉手箱の正体はタイムマシン』等という巫女の考察とも呼べないような戯言だけだった。

 

 春雨ちゃんに嘘のプロポーズまでしてここまで来たというのにこれではまるでリスクに見合わない。いや、ほんとマジでどうすんだよこれ……春雨ちゃん絶対ブチ切れてるよ……誰か助けてくれぇ…。

 

「じゃから言ったじゃろう。深海棲艦のいう事なんざ当てにするからじゃ。今からでも遅くは……いや遅いじゃろうけど鎮守府に戻ろう」

 

 頭を抱えていると肩に乗る相棒が俺を諭した。相棒は三年前からこうだ。俺のやることなすこと全てを肯定し手助けするが鎮守府からの脱走にだけは非協力的だった。いや……違うのか、正しくはカメが言うところの『戦争の真実』とやらを俺が探るのを極端に嫌がっているのか。

 

「巫女が言っていた玉手箱がタイムマシンだとかいう説について相棒はどう思う?」

 

「どうもこうもねぇ。あんな世迷いごと一考の価値すらねえ。なんじゃ?まさかお前、真に受けてんのか?」

 

「いや、そういうわけじゃないが……」

 

 俺だってタイムマシン等というSFの存在を信じている訳ではない。だが、カメ型の深海棲艦はここに戦争の真実があると言っていた。なのに今日得られた情報で唯一それらしいものと言えば玉手箱=タイムマシン説のみ。戯言と切って捨てるにはここまでに費やした労力がデカすぎる。

 

『乙姫が怒っているのは玉手箱を開けたからではありません』というオーちゃんの言葉からも玉手箱が何らかの形で関わっていることが予測できるしな。

 

「そういえば……俺と相棒が初めて会った十五年前、相棒は木箱の中から現れたよな?確かあの箱のことを爺さんは玉手箱って呼んでたような」

 

 今あの箱は山風が所持している。数ヶ月前に時雨、春雨ちゃん、山風、浜風と共に実家へ帰省した際に奴にくれてやったのだ。※(18話「提督と帰省と白露型」を参照)

 

「それっぽい見た目してたからそう呼んでただけじゃろ。よしんば本物の玉手箱が存在してたとしてあのごく普通の爺さんが持ってるわけがねえ」

 

「そりゃそうだけど……そもそも相棒はどうしてあの箱の中で眠ってたんだ?」

 

「言ったじゃろ。オレにはお前と出会う以前の記憶がない。じゃけんあの箱の中にいた理由もオレには分からん」

 

 そう言って相棒はぶっきらぼうに話を打ち切った。

 だがおかしいのだ。記憶がないのなら何故自身を『深海妖精さん』等と呼称したのか、なぜ鉄底海峡のギミックを知っていたのか……明らかに相棒は何かを隠している。

 

 相棒が何を隠しているのか、それはまだ分からない。けどそれは何か彼なりの考えがあるからなのだろうと俺はそれ以上追求はしなかった。

 

 

「仕方ない、とりあえず新幹線にでも乗って出来るだけ遠くに逃げるか」

 

「いや、じゃから大人しく鎮守府に戻れと。どうせその腕に巻かれてる発信機を外さんことには捕まるのも時間の問題じゃろうが」

 

「かもな。でも逃げるだけ逃げてみるさ。今春雨ちゃんに会うのすっげえ怖いし……ほんと俺どうなるんだ……」

 

「情けない話じゃな……」

 

 ため息を吐く相棒の声を聞きながら俺は神社の出口へと向かった。急がねば、こうしている間にも白露達はここへ向かって来ているはず、もしかしたらもう俺のすぐ背後に迫ってきているかも……そう意識すると奴らの足音まで聞こえてくるような気がして背筋に寒気が走った。

 

「やっと……やっと見つけた」

 

「!?」

 

 突如誰もいないはずの背後から声が聞こえ、背筋だけでなく全身が凍った。まさか本当に白露達が!?だが今の声……聞き覚えのないものだ。俺は恐る恐る首をひねり声の主の方へと視線を向けた。

 

 そこにいたのは若い女だった。身長は150cm前半と低く、服装はショートパンツに『I LOVE 深海魚』とプリントされたTシャツと少し子供っぽい。しかし険しく、どこか憂いを滲ませたその表情からは人生の過酷さを経験してきたのだろうという往年の雰囲気を漂わせている。

 

 チグハグな女だ。それが女の第一印象だった。

 

「ようやくだ。ようやく見つけた。たまにはあのクソ亀も役に立つ」

 

 ボソボソと俺に聞こえないような声で女が独り言を発する。もしかしたらヤバイ奴なのかもしれない。こういうのには関わらず無視を決め込むに限る。中学時代、俺は浜風の一件で学んだのだ。くそっ……もしもあの時アイツに深入りしなければ……。

 

 思い出すと後悔の念に押しつぶされそうになる。だが大切なのは後悔ではなく今に繋げ同じ過ちを繰り返さないこと。俺は過去の教訓を活かし目の前のチグハグ女に背を向け神社を立ち去ることにした。

 

「良太郎!!しゃがめ!!」

 

「!?」

 

 慌てた様子で肩に乗る相棒がそう叫んだ。俺が反射的にその場にかがみこんだ直後、ビュンという風切り音が頭上を通過する。

 

 チグハグ女が蹴りを放ったのだ。俺は直ぐに女から距離をとり敵意の視線を向ける。

 

「よく避けたわね」

 

「てめぇ……初対面の俺に向かって随分な挨拶かましてくれるじゃねえか」

 

「初対面……ね。ご挨拶なのはどっちよ。少なくとも妹に言うセリフじゃないわね」

 

「あん?何言ってんだ?俺の妹はラブリーマイシスターのかすみちゃんだけだ。お前みたいにやたら乳のでかい妹は俺にはいねぇよ」

 

「チッ……!妹にセクハラとか!まあ良いわ。アンタがどんな男になっていようと関係ない、とにかくワタシと一緒に来てもらうわ」

 

「ざけんな、俺は忙しいんだ。お前の訳のわからん話に付き合ってる暇はないんだよ」

 

「そっ。だったらアンタのその四肢を全部へし折って無理矢理連れてくだけだけど……ねッ!!」

 

 そう言い終わるやいなや女は一呼吸の間に俺との間合いを詰めた。

 -----速すぎる。

女の身体能力は明らかに人間のそれを超えていた。

 

 女は勢いそのままに俺の頭部へと蹴りを放った。俺はなんとか反応し右腕でそれを防ぐ。だが蹴りはその細く枝の様な脚から放たれたとは思えない程に重く、衝撃を受けきることができず俺は吹っ飛ばされた。

 

 

 ろくに受身も取れず境内を転がった。右腕から伝わる激しい痛みに視界が滲む。ダメだ動かせない、確実に折れている。

 

良太郎逃げろ、ありゃ深海棲艦だ。人間じゃ勝てん

 

 肩にしがみつく相棒がそう耳打ちした。深海棲艦……?何故深海棲艦がこんな場所にいるんだ。ここは最凶と名高い舞鶴のお膝元じゃないのか。それに深海棲艦だったとしてもここは海から離れすぎている。奴らも艤装の恩恵はほとんど受けられないはずだ。なのに今のスピードと蹴りの威力はどういう訳だ。

 

「ぶっっっ殺す」

 

 歯を食いしばり虚勢を吐いて痛みを耐えた。フラフラと立ち上がる俺にはお構いなしに女はゆっくりと近づいてくる。

 

「ぶっ殺す、ね。ワタシも昔は自分の兄がどんな人なのかと期待に胸をふくらませたものだけどまさか妹にそんなことを言うクズだったなんてね。ガッカリだわ」

 

 まだダメージが抜けきらず足が覚束無い。このままでは逃げることもままならない。少しでも時間を稼ぐ必要があった。

 

「てめぇ本当に何者だ?何故海から離れたこの陸上でそこまでの力が使える」

 

「答える義理も筋もない。だけど教えてあげる。ワタシの名は甲羅棲姫(こうらせいき)、かつて兄と父に捨てられた深海棲艦よ!」

 

 そう言い終わると今度は俺の左腕へ蹴りを放ってきた。どうやら宣言通り本当に俺の四肢全てをへし折るつもりらしい。

 

 躱そうにも未だ痺れから回復しない。覚悟を決め左腕に力を入れ衝撃に備え目を瞑った。

 

 だが一秒たっても二秒経っても衝撃はやってこない。恐る恐る目を開くとそこにいるはずの女の姿は消え去り、代わりに現れたのは銀髪で無駄に乳のでかい後輩の姿だった。

 

「先輩、大丈夫ですか?」

 

「浜風、なんでお前が……」

 

「舞鶴からずっと跡を付けてました。ストーキングは久しぶりだったのでバレるかもと思いましたが相変わらず先輩が鈍くて助かりました。まぁ、あの巫女は気づいていたようですが……」

 

「跡をつけてた!?舞鶴から!?だとしたら助けに入るのが遅すぎるだろ!右腕一本持ってかれたぞ!」

 

「すみません……。先輩のことなのでまた女性関係のいざこざかと思い傍観していました。先輩は一度その辺反省して私一筋に考えを改めてもらおうと思ったのですが……どうやらそんな状況ではないようですね」

 

 そう言って浜風は視線を北の方角へと向け臨戦態勢を取った。つられて俺もそちらへ目をやると甲羅棲姫と名乗った女が服についた砂を叩きながら立ち上がっていた。

 

「不意打ちで蹴飛ばすとか……兄さん、ちゃんと狗の躾はしときなさいよ」

 

「黙ってください。よくも人の先輩に手を上げてくれましたね。これ以上好き勝手はさせません」

 

「家族の問題に他人が口を挟むものじゃないわよ」

 

「先輩の家族はお義父様とお義母様、義妹(ラブリーシスター)のかすみさん、それに妻の私だけです。貴方のような妹はいません。中学時代、寝る間を惜しんで先輩をストーキングしていた私を欺けると思わないことですね」

 

「……兄さん、もう少し伴侶は選んだ方がいいと思うわよ?」

 

「そいつが勝手に言ってるだけだ。後、俺を兄と呼ぶな」

 

「……まっ良いわ。イカれた彼女をシバキ倒して私が助けてあげるわよ!!」

 

「誰がイカレ彼女ですか」

 

 浜風VSチグハグ女、イカれた女同士の殴り合いが幕を開けた。

 

 今のうちに逃げよ。

 

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