辞めたい提督と辞めさせない白露型   作:キ鈴

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時雨と春雨と提督の行方

「しっれいかーん♪しっれいかーん♪」

 

 提督が海風と天津風を利用し鎮守府を脱走して丸一日。提督のお目付け役である所の白露型は僕、時雨を先頭に、村雨、山風、江風、最後尾に春雨という単縦陣で日本海を航行していた。

 

「ねぇ時雨ちゃん……後ろの春雨ずっとあの調子だけど、どうしてあんなにご機嫌なの?何時もなら提督が脱走した直後はリコリス棲姫並に不気味な雰囲気になるのに……」

 

 後の村雨が不安そうに僕に尋ねてきた。確かに、今の春雨は少し変だ。村雨の言う通り、提督の脱走直後の春雨は髪を真っ白に変色させ口数も少なく深海棲艦のような状態になってしまう。

 

「なあ時雨姉貴、隊列の順番変わってくれよ!今の春雨姉貴の前を走るの不気味でしょうがないよ!」

 

「えぇ……もう仕方ないなぁ……」

 

 泣き出しそうな江風の声に僕は不満気にそれを了承した。「恩に着る!」と大袈裟に手を合わせる江風と隊列を変わって春雨の前方へと僕は入った。

 

「しっれいかーん♪しっれいかーん♪ふふっ、ふふふふふふふふふふふ」

 

 なるほど、先頭からでも充分に不気味だったが春雨の前に立つと先程の比ではない。不気味、と云うよりはもはや『怖い』と言った方が正しいかもしれない。

 

「は、春雨……?どうしてそんなにご機嫌なんだい?」

 

「決まってます!司令官にプロポーズされたからです!はい!」

 

「えっ?でもそれって脱走する為の嘘だったんじゃ……」

 

「はい、春雨も最初はそう思いました。でも少し違和感があったんです。時雨姉さん、どうして司令官は逃亡先にわざわざ舞鶴を選んだのだと思いますか?」

 

「言われてみれば……舞鶴といえば三大鎮守府に数えられるほど規模の大きな鎮守府だよね。当然軍の人間も多い。逃亡先としてそんな場所を選ぶのは不自然だね……。春雨は理由が分かったのかい?」

 

「はい!司令官が舞鶴に向かった理由……それは─────私の親に挨拶する為です!!」

 

「……なんて?」

 

「ですから!私の親に挨拶する為です!」

 

「いや、僕達の両親は舞鶴にはいないよ……」

 

 春雨は一体何を言っているのだろうか?僕達姉妹の両親は現在は岡山の田舎でのんびりとした生活を送っているはずだ。提督が向かった京都になんているわけがない。

 

「分かっています。ですから司令官が挨拶に向かったのは人間としての私、『臼井(うすい)くしげ』ではなく、艦娘としての私、『春雨』の親に挨拶へ行ったんです!時雨姉さんなら知っていますよね?軍艦としての私が一体どこで建造されたのか─────」

 

「あっ、そうか」

 

「はい、舞鶴海軍工廠です。つまり!今回司令官が姿を消したのは脱走したのではなく、『春雨』の親、つまり舞鶴提督さんへ私とのケッコンの挨拶をする為だったんです!はい!」

 

 春雨の超理論に僕は頭を抱えた。どういう思考回路をしていればそんな結論に達するのだろう……けど、春雨の向日葵が咲いたかのような満面の笑みを見せられ、姉として僕はそれを否定できなかった。

 

「舞鶴で生まれたのは海風姉ぇも一緒……」

 

 僕の前を航行する山風がボソッと呟いた。

 

「山風、今はそっとしておいてあげよう……」

 

 今余計な事を言って春雨を白髪modeにするのは得策じゃない。ご機嫌なままの方が彼女は遥かに扱い易い。提督と再会した後のことは……うん、それは僕が気にすることじゃない。全部提督の自業自得だしね。

 

 けど、提督は本当にどうして舞鶴に向かったのだろう?普通なら近くに鎮守府のない場所へ行くと思うんだけど───そもそも付けられた発信機も外さずに出ていったというのが引っかかる、何時もの提督らしくない。今、どうしてもこのタイミングで舞鶴に行かなければならない理由があったというのだろうか?そんな理由は見当もつかない。

 

「時雨ちゃん!提督の反応でたわよ!」

 

 突然村雨がそう叫んだ。、その言葉に僕達全員は急いで端末を取り出し提督に付けられた発信機の情報をみる。彼女の言う通り先程まで表示されていなかった提督の位置情報がそこにはしっかりと記されていた。

 

「やっぱ提督、舞鶴で降りたみたいだな。けど時雨姉貴、これ舞鶴鎮守府からどんどん離れて行ってないか?」

 

「うん。何故だか分からないけど東に向かってるみたいだね。この速度からして車かな?どうやって調達したんだろう」

 

 江風の言う通り提督の反応はどんどん鎮守府から遠ざかっている。本当にあの人は何がしたいのか、幾ら車を調達しようと僕達から逃げられるわけが無いのに。

 

「しれいかん……?しれい……かん?何処へ向かっているのですか?そっちに舞鶴鎮守府はありませんよ?」

 

 背後の春雨の雰囲気が変わった。振り返らずとも分かる、今春雨は白髪modeへと移行した。ああ、本当に僕はどうなってもしらないからね……。全部提督が悪いんだから……。

 

「江風、急ぎましょう」

 

「うっ、うん」

 

 春雨の言葉に先頭を航行する江風が速力を上げる。余り速力を上げすぎると高圧缶とタービンが痛むのだが舞鶴までの距離もあと少し、これなら充分耐えられるだろうと僕も速力を合わせた。

 

「!?江風!十一時の方角!!」

 

 ぐんぐんと速力を上げ最大戦速に達しようかというタイミングで村雨が叫んだ。彼女が示した方角を見ると艦載機─────それも真っ白なたこ焼きの形状のような物が接近していた。あれは艦娘のではない、深海棲艦の艦載機だ。

 

「時雨姉貴、アレ墜としていいよな?」

 

 江風が高角砲を構え旗艦の僕に尋ねた。いいよと言おうとしたがどうにも違和感を覚えて僕は江風にストップをかける。

 

「待ってあの艦載機何か変だ」

 

 通常、あの手の艦載機は口から出した砲口を艦娘に向けてくる。けどアレは砲口を向ける所か装備すらしていないように見える。最初から攻撃する気がないかのようだ。

 

「時雨姉ぇ……多分アイツの艦載機……だ」

 

 山風が指差す方を見ると水平線の向こう、目視で視認できるギリギリの距離に艦影があった。影は真っ直ぐに此方へ進んできて、やがてそれが先日戦ったアイツだと確認できた。

 

「時雨さん、春雨さん、数日ぶりですね。その後いかがでしたか?」

 

「オーちゃん……奇遇、なのかな」

 

「必然ですね。先日の戦闘の際、時雨さんの艤装に私の艦載機(はっしんき)を忍ばせてもらいました」

 

「気づかなった……」

 

「気付かれないようにしましたので。今回は貴女方にお願いありここまでやって─────」

 

ドカン

 

 僕とオーちゃんが話していると背後で突然爆発音がした。驚いて振り返るとそこにいるはずの春雨の姿がない。

 

「はるさめ!?」

 

「こちらですよ……全く、妹の躾はしっかりお願いしますよ」

 

 再びオーちゃんの方へ視線を戻すと背中を焦がした春雨がオーちゃんに踏みつけられていた。背が焼けているということは自分の背でドラム缶を爆発させその爆風で加速したということか、、、相変わらず無茶苦茶だ。

 

「春雨さん、貴方は根本的に艦隊での戦闘に向いていませんね。今だってそう、貴方一人だったならわざわざ私相手に接近戦に持ち込む必要はなく、中距離でドラム缶爆弾を放つだけで良かった。そうしなかったのはお仲間を巻き込んでしまうから……ですよね?」

 

「違います。ただ急いでいて貴方の相手をしている暇がなかっただけです、はい」

 

「まぁそういうことにしておきますか」

 

 春雨の返答に気を悪くしたのかオーちゃんはそのヒールを春雨の背にグリグリと押し付け、春雨の口から小さな呻き声が漏れた。

 

「貴方、その脚を退けなさいよ」

 

「待って村雨。どうやら向こうは僕達と戦う気は無さそうだ」

 

「でも春雨が!」

 

「春雨なら大丈夫、それに先に仕掛けたのは春雨だよ」

 

 今にもオーちゃんに飛びかかりそうな村雨、江風を制した。ただ、何故だか分からないけど山風だけは妙に落ち着いているのが気になった。まるでオーちゃんを敵として認識していないかのようだ。

 

「時雨さん、貴方は話の出来る方のようですね。悪磨さん、天津風さんに春雨さんといいそちらは会話の出来ない方が多いので助かります」

 

「言っておくけど少しでも変な動きを見せればまたアイアンボトムレインを浴びてもらうからね」

 

「今日は傘を持ってきているので問題ないのですが……まあ争う気はないので素直に頷いておきましょう」

 

「それで用件は」

 

「私を貴女方の提督の元へ連れて行ってください」

 

「ふざけないでください!」

 

「春雨さん、今貴方とは話していません」

 

 オーちゃんは叫ぶ春雨の背中へ軽く力を加えて押さえつけ「時雨さん、どうしますか?」と再度尋ねてきた。

 

「……詳しく、聞かせてよ」

 

「もちろんです。では……今回、貴女方を尋ねて来た理由ですが私の直属の上司、『丙棲姫(ひのえせいき)』から貴女方の提督を守るよう命じられまして、その為に鉄底さんとお会いする必要があるのです」

 

「僕達の提督を守る?意味が分からない。むしろ提督を狙っているのは君達じゃないか」

 

「私達も一枚岩ではないということです。私達が鉄底さんを攫えればそれが一番だったのですが、丙棲姫(ひのえせいき)と仲の悪い甲羅棲姫(こうらせいき)が動きだしたようで……其方(そちら)に鉄底さんを奪われることだけは避けなくてはなりません」

 

「それなら勝手に足を引っ張り合えばいいじゃないか。僕達に接触する必要はないよね」

 

「甲羅棲姫の方は鉄底さんの居場所を掴んでいるようですが私達は知りません。このままでは出し抜かれるのは目に見えています」

 

「なるほど、それで僕達に提督の場所を教えて欲しいと。理由は分かった。けどそれだと僕達にリスクがあるばかりでメリットがまるでない。悪いけど深海棲艦である君と提督を会わせる訳にはいかない。さっ、話は終わり、早く春雨の背中から足を退けてもらえるかな?」

 

「……」

 

 僕の言葉にオーちゃんは素直に足を退けた。解放された春雨はオーちゃんには目もくれず直ぐ様全速力で舞鶴に向かっていく。一刻も早く提督に会いたいのだろう。

 

「僕達も行こう」

 

 僕の言葉に村雨、江風が春雨を追っていった。山風は何故か控えめにオーちゃんに向かって手を振ってそれに続く。

 

「貴女方では絶対に甲羅棲姫には勝てませんよ」

 

 僕も春雨を追おうとするとオーちゃんが捨て台詞のようにそう言った。

 

「……どういう意味?」

 

「そのままの意味です。彼女は本当の意味での『姫』ですから」

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