夏鮫ちゃんを己に封印すれば人柱力になれるのではと考えている。
浜風
提督絶対ぶっ殺すガール。
夏鮫ちゃん
かつて一尾の尾獣と呼ばれていた。
一三○○、快晴。今日も今日とて執務仕事を身を粉にしてこなしていた。ちなみに今日の秘書艦は時雨だ。
「はい、今月の着任希望リスト」
時雨から艦娘の性能の書かれた紙を渡される。
「もう艦娘いらねえよ」
いい加減名前も覚えられん。覚えてない奴らから慕われるというのも気まずいものがあるしな。
それにあまり人数が多くなると脱走難易度あがるし。
「うちは最前戦で戦ってるからねそう言うわけにもいかないよ。ほら早く目を通して、今日の演習相手の大将さんを出迎えに行かないとなんだから」
「へいへい」
ぺらぺらと艦娘の名前と性能が記載されたリストをめくる。まあ今回も適当に駆逐艦でも迎えとけばいいだろ……てあれ?
「おい時雨、何年も前からここに着任希望出していた浜風いたろ?あいつの名前がないが何かあったのか?」
「ああ、あの浜風なら大将さんの所に着任したみたいだよ」
ほーん大将の所にねえ。ようやく諦めやがったか、たくっしつこいんだよ……ん?大将?
「おい、今日の演習相手どこつった?」
『私達、大将の艦隊ですよ先輩』
どこからか声が聞こえた次の瞬間に扉は吹き飛んだ。
「くそっ、俺とした事が!油断したっ!」
「えっなんなの、こわっ」
時雨てめー吞気か。扉吹っ飛んでんだからもっと驚けや。
吹き飛んだ扉の向こうにいたのは件の浜風。
「お久しぶりです、先輩……死ねえええええええ!」
「ちったあ会話しろや!」
浜風は挨拶と同時に殺気を放ちながら俺に殴りかかってくる。俺はピーカブースタイルのガードでその拳を防いだ……はずだった。
「ガハっ」
俺の両腕のガードを浜風の拳は回転でこじ開け、そのまま俺の腹部へと突き刺さった。これは……コークスクリューブロー……。
どさっ。俺は耐えられず前のめりに倒れる。その俺の背中に浜風は馬乗りになり関節をキメる。
「時雨ぇ!助けろ!」
「えっ?その浜風は提督の知り合いでしょ?どうせ君がまた変な事したんだよ、早く謝りなよ」
「ばかっろくに状況判断もできねえのか!こいつの殺気を感じろ!」
「えー、確かに怒ってはいるけど殺気は出してないよ」
助けようとしない時雨に抗議していると浜風は俺の右腕に力を加え……
「ようやく捕まえました……どうしてくれようか。取り敢えず腕、もらいますね」
「えっちょっま」
「ストーーーップ!。浜風ストップだ」
腕を持っていかれようかというところで救いの手・・・浜風の提督である大将が浜風にストップをかけてくれた。うう大将・・・しっかり手綱にぎってくれよ……。
「あっ大将。久しぶり」
「おう、久しぶり」
時雨てめえ……何普通に挨拶交わしてやがる。いい加減俺を助けろ。
「……何ですか」
止められたのが気に食わないのか浜風は大将相手にも怒りを隠そうとしない。
「悪い様にはしないから俺に任せろって。おーい大丈夫?」
「大丈夫にみえますか」
「見えないかな……。助けようか?」
「お願いします」
明らかに何か企んでいる風だが頼れる相手が他にいない。時雨許さんからな。
「なら1つ条件。今日の演習で負けた方が勝った方のいう事を聞く。なんでもだ」
「それは……っ痛い痛い浜風!今話してるから!」
「大将さんは変な命令しないから大丈夫だと思うよ?」
そういや時雨は元々大将の鎮守府にいたんだっけか。
「呑まないんですか?」
浜風の力が強まる。右腕がポッキリいく寸前だ。
「分かりましたその条件呑みます。だから助けてください」
「おっけー。浜風」
「はい」
ようやく開放された……右腕めっさ痛てぇ……
「んじゃっ!約束わすれないでね」
「忘れたらぶっ殺します」
……最後に毒を吐いて部屋から去っていく浜風。
「嵐みたいだったね」
「……時雨、演習メンバー総入れ替えだ」
「了解、メンバーは?」
うちの最高戦力でぶっ飛ばしてやる。
「金剛、榛名、加賀、瑞鶴、卯月そして……春雨ちゃんを呼べ」
◇ ◆ ◇
艦娘になれば先輩は私を見てくれるって言いました。
だから私は浜風となって軍学校で強くなった。人の何倍も訓練して実力が認められ先輩の鎮守府への推薦がもらえた時は飛び上がるほど嬉しかった。・・・だけど先輩は私を迎えてはくれませんでした。
練度が足りないんですね!分かりました!もっともっと強くなります!
□■□
鍛錬に鍛錬を重ねました。ですがいつの日からか私の練度は上がらなくなっていました。ここが【駆逐艦浜風】の限界のようです。
限界に達しても先輩は迎えにきてくれません。
□■□
先輩がアイアンボトムサウンドを攻略しました。英雄になりました。流石は私の先輩です。でも、私は間に合わなかった・・・私は英雄の浜風になれませんでした。先輩の鎮守府に思い出がどんどんできていく。ですがそこに私はいません。
私、できる事は全部やりましたよ?何が足りないんですか?どうして迎えにきてくれないんですか?
□■□
もう何度目になるかも分からない位私の着任希望が却下された時気づきました。
……先輩、私との約束を破るつもりですね。それだけは絶対に許しません。そんな事をするならこちらにも考えがあります。
□■□
「浜風頑張ってね」
「はい」
「向こうは強いよ」
「はい」
「いってらっしゃい。お別れだね」
「……お世話になりました」
「浜風、抜錨します」
□■□
「あの浜風の強さ異常だね。加賀と瑞鶴を瞬殺って」
観覧席で時雨と共に演習を見守る。演習場はドーム状の野球スタジアムの様にしてある。
「でもうちには春雨ちゃんがいるし大丈夫だろ」
「で?どうしてあの浜風はあんなに怒っていたんだい?」
「さっき俺を助けず傍観してたやつには答えたくねぇ…」
「ごめんって。ただ大将さんのとこの艦娘だから悲惨な事にはならないだろうと思ったんだよ」
「……次は助けろよ?」
「もちろん。だから教えて?」
「あいつは俺が提督になる前……学生時代の後輩なんだよ」
「ああ、だから『先輩』なんだ」
「んでだ、学生の時にあいつに告白されてな。『好きです』って」
「は?」
なんだよこいつ急に怖ぇな。
「断ったんだよ。『俺は軍に入る事が決まってる。一緒にいられる時間はほとんどない。だからごめん』ってな」
「そうしたらあいつよ『なら私が艦娘になれば何も問題ありませんね!』ていうんだよ。でもまあ、艦娘の艤装の適性がでるなんて滅多にないからな。適当にそうだなって返事した」
「そしたら見事に浜風の適性をだして艦娘になったと」
「そうなんだよな~~~。まさかこんな事になるとは」
「浜風はずっと、僕がここに来る前から君のところへの着任希望出してたんでしょ?そんな約束しといて無視すればそりゃ怒るよ……」
「だよな」
「僕ならどうするかわかんないや」
「!?」
「あっ金剛もやられたよ。残ってるのは……浜風と春雨だけだね」
◇ ◆ ◇
身体が重い、もう大破状態だ。12.7cm連装砲も砲口が潰されて使い物にならない。だけど目の前の春雨は無傷で、途方もなく強い。きっと万全の状態でも勝てない。
「もう降参してください。それ以上やると沈みますよ。はい」
そうはいかない。今日という日を、この鎮守府に来る時をどれだけ待ち望んだか。いつも先輩の横にいる貴方にはこの想いは分からないでしょうね。
「あああああああ」
「向かってくるなら慈悲はありません」
拳を握り締め春雨に殴りかかる。だけど簡単に躱されて
「貴方にはうちに来てもらいたかったです。はい」
春雨のドラム缶型爆弾が私の胸の前で爆発した。
私だって行きたかった。私だって貴方みたいに先輩と居たかった。そのためにずっと努力してきました。ずっとずっと諦められなかったんです。
「強い人でした」
「貴方もね」
「!?」
春雨の背後をとり、首筋に修復した砲口を押し付ける。
「確実に沈めたはずですが」
「沈みましたよ。でもこれです」
私に敬礼をし消えていく応急修理女神を見せる。
「演習でこんな貴重なものを……」
卑怯だろうがなんだろうが構いません。私の目的は先輩と共に生きること。勝利の栄光なんかではありませんから。
「それでどうしますか?降参してもらえますか?」
「……仕方ありませんね」
春雨が両手を上げる。
─────ああ。ようやくなんですね
─────ようやく英雄の浜風になれるんですね
◇ ◆ ◇
執務室で時雨・大将・浜風を前に処刑の時を待つ。まさか春雨ちゃんが負けるなんて……いやあれは女神なんて非常識なものを持ち込んだ大将が悪い。なにされるんだろ……痛いのはもう嫌だな……。
「じゃあ、賞品のお願いなんだけどさ」
大将に何命令されるのか……クビとかがいいな……
「この浜風、君のところに迎えてよ」
えっ、それだけ?てか浜風まだこの鎮守府に来たがってたの?まあでもその程度なら・・・もちろん迎えたくはないが背に腹はってやつだ
「わかり……ました」
そう答えた瞬間浜風が俺に抱きついて来る。あ?なんだ?こいつ泣いてるのか?
「もう……逃しませんからね」
今回の話の『沈む』とは艦娘としての艤装を失うことを指します。
また、『女神』は『妖精』とは別種で提督適正がなくても視認できまふ。