やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。   作:焼き鮭

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真夜中に消えた女を捜索せよ。(B)

 

 沙希がリトルスターを発症していると知って、八幡たち三人は一気に緊迫した顔つきとなった。事情が分からない沙希は、彼らの様子の変化に戸惑いを覚える。

 

「ど、どうしたの、みんな急に怖い顔になって……。あたしの手が熱いと何かあんの?」

「いや、何て言うか……」

 

 八幡が言葉を濁していると、雪乃がライハに目配せとジェスチャーで沙希のリトルスター発症を伝えた。それを読み取ったライハが、すぐに沙希の元へと寄ってくる。

 

「川崎さん、具合が悪いの? ちょっと診せてみて」

「と、鳥羽さん?」

 

 沙希の手を触れて確認したライハが、若干眉間を寄せた。

 

「よくないみたいね……。無理しては駄目よ。今日は早引けしなさい。店長には私から言っておくから」

「そ、そんな、別に気分が悪いとかじゃないですから。そんな大袈裟な……」

「いいえ。風邪はひき始めが肝心よ。特に今は試験前でしょ? そんな大事な時期に倒れるなんてことがあってはいけないから」

 

 とにかく理由をつけて沙希を帰らそうとするライハ。手の発熱の真の意味を知っている彼女は必死だ。

 ひとまずは、逃げ場のないこの高層ビルの最上階から離れさせる。そのために説得していたライハだったが……八幡に、レムからの無情な報告が伝えられた。

 

[そちらに融合獣が出現しました]

 

 八幡は弾かれたように窓から眼下の光景を覗き込む。その目に飛び込んできたのは、こちらにまっすぐに向かってくる一体の怪獣の姿。

 

「もう遅かったか……!」

 

 八幡に続いて外を見た雪乃と結衣が息を呑み、八幡は忌々しげに舌打ちした。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 ずんぐりとした大柄な黒と赤の斑模様の体躯に、頭頂部には二本角。背面や肘からは鋭い刃のような角が生えており、剣呑な輝きを発していた。

 ブラックギラスとレッドギラス、双子怪獣の力を一つに凝縮したレイデュエス融合獣ツインデスギラスがホテルを――リトルスターを保有する沙希を狙って進撃してきていた!

 

「きゃあああああああああああ!?」

 

 ホテルの警報が鳴らされ、ツインデスギラスの接近に気がついた客たちから次々と悲鳴が巻き起こり、皆我先にとエレベーターや非常階段に殺到していった。沙希も近づいてくるツインデスギラスを見やって仰天する。

 

「怪獣!? こんな近い場所に……!」

「川崎さん、私たちも避難しましょう!」

 

 ライハが沙希を逃がそうと手を引くが、一方でペガが八幡へと呼びかける。

 

『今から避難してたんじゃ間に合わないよ!』

「言われなくたってそんくらい分かるぜ……!」

「時間稼ぎが必要……いえ、そんな消極的なことを言わずにここで倒しましょう」

 

 雪乃のひと言にうなずき、八幡は結衣に振り返った。

 

「由比ヶ浜はライハさんと一緒に川崎の奴を頼む。あいつが一番危険な立場だからな!」

「融合獣は私と比企谷くんで対処するわ」

「う、うん!」

 

 結衣が了解すると、八幡と雪乃は避難していく人の波に逆らって誰の目にもつかないところへと移動していった。結衣はライハとともに沙希の誘導を行う。

 

「川崎さん、こっち!」

「雪ノ下……あんたのツレたちは!?」

「ゆきのんとヒッキーは先に逃げたよ! あたしたちも早く!」

 

 嘘を吐いて、とにかく川崎を急かす結衣。狙われているのは彼女なのだ。

 そして八幡と雪乃は、沙希を助けるためにウルトラカプセル二本とジードライザーでフュージョンライズを行う。

 

『ユーゴー!』『ダーッ!』

『アイゴー!』『イヤァッ!』

『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 セブンとレオのビジョンが八幡たちと合わさり、ウルトラマンジードに変身!

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 ホテルに迫っていたツインデスギラスの面前に、空から炎に包まれたウルトラマンジード・ソリッドバーニングが着地。熱気を飛ばしてデスギラスを牽制して進行を止めた。

 

『二人とも、行くよッ!』

『「よぉし……やってやるぜッ!」』

 

 呼びかけに八幡が応じ、ジードがツインデスギラスに真正面からぶつかっていった。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

「ダァッ!」

 

 ホテルを背にしてデスギラスと押し合いになるジード。デスギラスは体格に見合ったかなりのパワーであるが、ソリッドバーニングも力ならば負けない。背面のスラスターからジェット噴射を発して押し返していき、ホテルから遠ざける。

 

「ドォッ!」

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 ホテルから距離を開けたところで連続パンチを浴びせてひるませた。隙を作ったところでジードはスラッガーを肘にジョイントする。

 

『ブーストスラッガーパンチ!』

 

 加速した斬撃を叩き込む! まともに食らったデスギラスの動きが更に鈍った。

 

『「相手はあまり素早くないみたい。このまま押し込めば勝てるはずよ」』

『「わざわざ反撃を待つ義理もねぇ。一気にやっちまおう!」』

 

 こちらの優勢に八幡たちは勢いづく。

 そしてジードが戦っている間に、結衣とライハは沙希を連れてホテルから脱出した。

 

「ウルトラマンジードだ……!」

「まだここは危険よ。さぁ、こっちに!」

 

 ジードが融合獣を抑え込んでいてもライハは油断せずに、沙希をもっとデスギラスから遠ざけていく。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 戦闘はジードが圧倒しているように見えたが、しかしツインデスギラスの本領はここからであった!

 

(♪迫りくる危機(『ウルトラマンレオ』より))

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 うずくまるように背を丸めると、その姿勢のまま高速回転を開始。ギュンギュンとうなりを上げてジードに迫ってくる。

 

『「な、何だあの不自然な動き!? どうやって回ってんだ!?」』

「ダァッ!」

 

 動揺する八幡だが、ジードは回転するデスギラスにパンチを突き出す。

 が、

 

「ドゥアッ!?」

『「わぁッ!?」』

『「きゃっ!」』

 

 拳は回転の勢いに弾かれ、ジード自身も突っ込んできたデスギラスによって吹っ飛ばされてしまった!

 

『ぐッ……ソリッドバーニングの防御を物ともしないなんて……!』

『「今、あの角に弾かれたわ……!」』

 

 分析する雪乃。ツインデスギラスの身体に生える角はただの飾りではない。身体を回転させることで殺人スクリューの刃となる、紛れもない武器なのだ。

 デスギラスの必殺技、ツインデススピンがジードに襲い来る!

 

『素手で駄目なら……!』

 

 それに対してジードも必殺技で迎え撃つ。

 

「ダァッ!」

 

 スラッガーを念力で自在にコントロールするサイキックスラッガーを繰り出す。だがこれも弾き返された。

 

『エメリウムブーストビーム!』

 

 ならば光線技、と額のランプから緑色のレーザーを照射。

 しかし光線もツインデススピンにかき消されてしまった!

 

『「何やっても効かねぇぞ!? どうすりゃいいんだ……!」』

 

 焦る八幡は、レムに助言を乞う。レムからの回答はこうだ。

 

[回転には回転。頭上から逆回転をぶつければ、相手の攻撃を止められるはずです]

『回転か! だったら……ジードクロー!』

 

 ジードの行動は早く、ジードクローを召喚。八幡がトリガーを二回握り込み、中央のスイッチを指で押した。

 

『コークスクリュージャミング!』

 

 ジードがクローを前に突き出しながらきりもみ回転して飛び上がる。炎に覆われながらの突撃が、弧を描いてデスギラスに直撃する!

 ジードの回転とツインデススピンがしばらく拮抗する。が、しかし……。

 

「ドゥアァッ!!」

『「わぁぁぁぁッ!!」』

 

 弾かれたのはジードの方であった。

 

『うぅ……! 競り負けた……!?』

 

 地面に強かに打ちつけられたジード。流石にダメージが大きく、すぐには起き上がれそうにない。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 スピンを止めたツインデスギラスは、倒れているジードを放置して沙希の方を追い始めた。

 

「な、何でこっちに来るの!?」

「走って! もっと速く!」

 

 本当のことを言う訳にはいかず、ライハと結衣はただひたすらに沙希を連れて逃げ回る。しかし人間と怪獣の歩幅は絶望的なまでに違う。全速力でも逃げ切れるかどうか。

 そんな時に、沙希が前方からこちらに向かって走ってくる人影に気づいて驚愕に染まった。

 

「あれは……大志!?」

「姉ちゃーん!?」

 

 弟の大志であった。ライハと結衣も驚き、沙希はスピードを上げて大志の元へ駆け寄る。

 

「あんた! どうしてこんなところに……!」

「さっき姉ちゃんがホテルのバーにいるって連絡があって、それで様子見に近くに来たら怪獣が出てくるから……! 姉ちゃん大丈夫なの!?」

「馬鹿っ! それはこっちの台詞だよ! こんな危ないとこに来て……!」

 

 大志を一喝する沙希。しかし姉弟で話していられるのはそこまでであった。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 デスギラスの二本角が光り、先端から沙希に向けて破壊光線が発射されたのだ!

 

「! 川崎さんっ!」

 

 すぐにライハが駆け出すが、とても間に合いそうにない。光線に驚愕した沙希は咄嗟に大志を抱き寄せる……!

 ドォォォンッ!!

 

「か、川崎さぁ―――んっ!!」

 

 光線が沙希たちの姿を隠して道路をえぐり、結衣はたまらずに絶叫した。

 もうもうと立ち込める硝煙。ライハと結衣は愕然と立ち尽くすが……。

 

「……あれ?」

 

 気がつけば、沙希は大志を抱き締めたまま、別の位置に立っていた。傷一つない。

 

「い、今何が……?」

 

 沙希と大志は理解が及ばずにキョロキョロとしているが、ライハたちは沙希に何があったのかを瞬間的に理解した。

 

「リトルスターの超能力……!」

「瞬間移動だ……!」

 

 リトルスターによって九死に一生を得た沙希であったが、ツインデスギラスがいる以上は助かったとはいえない。まだまだ狙ってくる。

 だがここでジードの気力が戻り、立ち上がった。カラータイマーが鳴る中、どうにか身体を支える。

 

『「何とか立て直したが……どうやって奴の技を破ればいいんだ……?」』

[先ほどより速く、かつ重量のある回転があれば可能です]

 

 とレムは回答するが、

 

『けどさっきのが最大威力だった……! あれ以上なんて……』

 

 戸惑いジードに、レムが告げる。

 

[そのために必要なカプセルは、既にこの星で入手しています]

『「この星で……? そうかッ!」』

 

 レムの言わんとするところを理解した八幡が、装填ナックルからカプセルを抜いて手早く交換を行う。

 

『ユーゴー!』

『イヤァッ!』

 

 雪乃がレオカプセルを改めて起動し、レオのビジョンがカプセルから現れる。

 

『アイゴー!』

『タァーッ!』

 

 続いて八幡がアストラカプセルのスイッチを入れると、レオに似た戦士、アストラのビジョンが腕を振り上げた。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 交換したカプセルをジードライザーでスキャンし、トリガーを握り込む。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 レオとアストラのビジョンが八幡たちと合わさった!

 

[ウルトラマンレオ! アストラ!]

[ウルトラマンジード! リーオーバーフィスト!!]

 

 上から降ってきた赤い球が弾けて青い炎が燃え盛り、灼熱の赤い炎の螺旋から新たな姿のジードが飛び出していく!

 

「ダァッ!」

 

 真っ赤な炎を弾き飛ばして、仁王立ちしたジード。その容姿は赤と黒の筋骨隆々としたボディに髪が逆立ったような荒々しいトサカを持った、見るからに力強さに溢れたものである。

 獅子座L77星の戦士兄弟の力をその身に宿した、肉弾戦最強の形態、リーオーバーフィストだ!

 

『「この姿……何だかこっちにも力が溢れてくるぜ……!」』

 

 八幡が己の体温と鼓動が高まるのを感じ、その熱のままに言い放った。

 

『「滾るぜ……闘魂!」』

 

(♪猛る若き獅子)

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 変身したジードに向き直ったツインデスギラスは、再びツインデススピンを繰り出し、高速回転しながらジードに突撃していく。

 

「トォッ!」

 

 しかしジードは微塵もひるまず、天高く跳躍してデスギラスの頭上を取った。そのまま猛然ときりもみ回転し、真下に急降下していく。

 

『バーニングスピンキック!』

 

 回転する足が炎に包まれ、ツインデススピンと衝突! そして、

 足の先端が、デスギラスの二本角を連続でへし折った!

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 角を折られて禿頭になったデスギラスがストップ。刃を失っては、回転はもう無意味だ。

 

「ダァーッ!」

 

 着地したジードの方は止まらず、デスギラスの肉体のあらゆる箇所に流れるようにキックを叩き込んでいく。デスギラスは一芸に特化した融合獣。角を砕かれた以上は、最早ジードに対抗する手段は残されていなかった。

 

「イヤァーッ!」

 

 デスギラスが散々蹴られてフラフラになったところで、ジードは再び跳躍。空中から斜めに急降下していき、必殺の飛び蹴りをお見舞いする。

 

「『バーニングオーバーキック!!」』

 

 灼熱の飛び蹴りがデスギラスをかすめ切り、ツインデスギラスは一瞬の内に爆発四散した!

 

「やったぁーっ!」

 

 ジードの大逆転勝利に結衣がピョンピョン飛び跳ねて喜んだ。沙希の方はジードを見上げ、ふっと口元を綻ばせた。

 

「ウルトラマンジード……ありがとう」

 

 そうつぶやくと、彼女の胸元からリトルスターが離れ、ジードに向かって飛んでいく。

 

「あ……?」

 

 リトルスターはカラータイマーから八幡の元に届き、一本のカプセルと同化して表面にウルトラ戦士の姿を描いた。

 

『デヤッ!』

[ダイナカプセル、起動しました]

 

 また新しいウルトラカプセルを手に入れたジードは、空に飛び上がって帰還していく。

 

「タァッ!」

 

 その道中で、雪乃がふと八幡に呼びかけた。

 

『「比企谷くん、あなたジードに変身していると時々柄にもなく暑苦しくなるわね。いわゆる、ハンドルを握ると豹変するタイプなのかしら?」』

『「い、言うなよ! 何かこう……ついテンションが上がっちまうんだ」』

[肉体が精神の影響を受けるように、精神も肉体の影響を受けます]

 

 テンションが上がることに対して、八幡は若干恥ずかしく感じていた。

 

 

 × × ×

 

 

 途中融合獣に襲われるという災難はあったものの、沙希の問題は解決がされた。大志が姉のために危険な場所へ飛び込み、沙希が弟を助けたことで、冷えていた姉弟関係は回復した。これが吊り橋効果か、いや意味がちょっと違うな、と八幡は思った。

 また金銭に関しては、八幡が沙希に塾のスカラシップ制度を教えてあげた。いわゆる奨学金だ。後は沙希の努力次第だろう。

 以上の経緯を八幡が小町に伝えると、彼女は大きく安堵の息を吐いた。

 

「よかったー。大志君のお姉さんのとこに怪獣が出たなんていうからハラハラしたんだけど、丸く収まったんだね。小町もひと安心だよー」

 

 どっとソファに座り込んだ小町は、ふと八幡に呼びかけた。

 

「ところで、よかったねお兄ちゃん。ちゃんと会えて」

「あ? 何のことだ?」

 

 小町の言っている意味がよく分からず、聞き返す八幡。すると小町は、何でもないことのように告げた。

 

「ほら、前言ったお菓子の人。お兄ちゃんが助けたわんちゃんの飼い主さんだよ。会ったなら会ったって言ってくれればいいのに。いやー、よかったねお兄ちゃん。骨折ったお陰で結衣さんみたいな可愛い人と知り合えて」

「ああ、あの犬の飼い主あいつ……」

 

 とつぶやきかけた八幡が、途端に硬直した。

 

「? どしたのお兄ちゃん?」

 

 八幡の不審な様子に気づいた小町が顔を覗き込んできたが、それで我に返った八幡は曖昧な笑顔を返した。

 

「何でもねぇよ。気にすんな」

 

 その八幡の影の中から、ペガが彼を訝しげに見上げていた。

 

『八幡……?』

 

 

 × × ×

 

 

 中間試験が終了し、休みが明けての月曜日。その日が先日問題になっていたチェーンメールの発端である職場見学の日である。

 八幡は戸塚と葉山とグループを組んでいたのだが、ペガが言った通り、五つほどの班が同じ職場を希望したため、葉山や戸塚には別の班の人間がつき纏っている。八幡は集団の最後尾で、必然的に単独行動のありさまとなった。

 見学場所の電子機器メーカーのミュージアムの出口を抜けた時には、他の者たちは既にどこかへ行っていなくなっていた。……否、一人だけ八幡を待っている者がいた。

 

「あ、ヒッキー、遅い! もうみんな行っちゃったよ?」

 

 結衣であった。八幡を認めると腰掛けていた縁石から立ち上がり、八幡の元へ近寄っていく。

 

「あ、ああ、悪い。で、そのみんなはどこ行った訳」

「サイゼ」

「……お前は行かねぇの?」

「え!? ……あ、やー、何というかヒッキーを待っていた、というか。その……置いてけぼりは可哀想かなーとかなんとか」

「……由比ヶ浜は、優しいよな」

「へ!? あ、え!? そ、そんなことないよっ!!」

 

 八幡の言葉に何を思ったのか赤面する結衣だったが……そんな彼女に、八幡は告げた。

 

「あのさ、別に俺のことなら気にする必要ないぞ。お前んちの犬、助けたのは偶然だし、それにあの事故がなくても俺、多分高校でぼっちだったし。お前が気に病む必要全くなし」

 

 今の言葉に、結衣は目を大きく見開いて八幡を見つめ返した。

 

「ヒ、ヒッキー、覚えて、たの?」

「いや、覚えてないけど。一度、うちにお礼に来てくれたんだってな。小町に聞いた」

「そか……小町ちゃんか……」

 

 愛想笑いを浮かべて顔を伏せた結衣に、被せるように八幡が言う。

 

「悪いな、逆に変な気遣わせたみたいで。まぁ、でもこれからはもう気にしなくていい。俺がぼっちなのはそもそも俺自身が理由だし事故は関係ない。負い目に感じる必要も同情する必要もない。……気にして優しくしてんなら、そんなのはやめろ」

 

 この八幡の言葉に、結衣は呆然としたかのように顔を上げると、その表情が笑ったような泣いたような曖昧なものとなり、目線があちこちに泳いだ。

 

「や、やー、何だろうね。別にそういうんじゃないんだけどなー。なんてーの? ……や、ほんとそんなんじゃなくて……」

 

 しばらく愛想笑いを浮かべていた結衣だったが、おもむろに顔を伏せて、声を震わせた。

 

「そんなんじゃ、ないよ……そんなんじゃ、ないのに……」

 

 結衣の様子に、八幡は気まずそうに口を開く。

 

「あー、まぁなんだ、ほら」

 

 しかし何かを言う前に結衣が顔を上げ、目に涙を溜めながらキッと八幡をにらみつけた。八幡は思わず目をそらしてしまう。

 

「……バカ」

 

 ひと言言い残して、結衣は背を向けて走り出していった。

 一人取り残された八幡の影の中から、ペガが顔を出す。

 

「八幡……今のはちょっとないよ。結衣にあんな言い方して」

「何だよペガ、こんなとこで顔出すな。誰か見てるかもしんないだろ」

「それどころじゃないよ……。あれじゃ結衣が可哀想だよ」

『そうだよ……結衣、泣いてたよ。謝った方がいいんじゃ……』

 

 ジードもそう呼びかけるが、八幡は二人の言葉を振り払うように、結衣が走り去った方向に背を向けた。

 

「何を謝んだよ。俺はあいつの負い目を解消しただけだ。それが悪いことなのかよ。謝らなきゃいけないことなんて一つもないだろ」

「負い目だなんて、そんな……!」

「他に理由あるのかよ。学年カーストトップのあいつが、底辺の俺の世話を焼くような面倒なことすることに。本来ありえない状況を正しただけだよ」

 

 と八幡が唱えると、ペガは怒ったように目を吊り上げた。

 

「……もういいッ!」

 

 ひと言吐き捨ててダークゾーンの中に引っ込むペガ。ジードも、呆れたように無言となった。

 八幡は結衣とは逆の方向に歩いていきながら、心の中でつぶやいた。

 

(しょうがねぇだろ……俺は優しい女の子が嫌いなんだよ。俺ってば距離感が掴めないですぐ勘違いするから、俺に優しい人間が他の人間にも優しいってことをすぐ忘れるんだよ。それで今まで何度も期待して、玉砕してきた。だから俺はもう同じことはしない。由比ヶ浜に対しても勘違いしないよう、線引きする必要があるんだ)

 

(俺はもう、希望は持たない)

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンレオ』第十六話「真夜中に消えた女」よ」

雪乃「ビニールハウスに幽霊が出るという噂が流れ、実際に女の幽霊に襲われて人が蝋人形のようになって変死するという事件が起こった。その幽霊の正体は、ダンをして恐ろしい奴と言わしめるアトラー星人だったの。アトラー星人は残虐な上に強く、次々と犠牲者を出しながらレオも返り討ちにしてしまったわ。圧倒的な実力のアトラー星人にゲンは心が折れそうになるけれど、ダンは地球を救うために彼を叱咤して、ともにアトラー星人を倒すために命懸けで挑んでいく……という内容よ」

雪乃「これは長いウルトラシリーズでも屈指のホラー回よ。不気味な呼吸音とともに近づき、人間を蝋人形のように固めて殺してしまうアトラー星人……。マンションの人間を皆殺しにして、姿を見せずに百子に迫るアトラー星人の描写は相当な恐怖を煽るわ」

雪乃「そして『レオ』の重要回でもあるわ。何故なら、この話を機にダンとゲン以外のほとんどのMAC隊員が入れ替わるから。アトラー星人に殺害された隊員のシーンもあるし、皆ここで殉職してしまったのでしょうね……」

ジード『MACはシリーズでも群を抜いて殉職者の人数が多い防衛チームだ。第四クールに入ると名実ともに全滅してしまうし、不遇度では他の追随を許さないね……』

雪乃「それでは、また次回でお会いしましょう」

 




「結衣がもう一週間も顔を見せなくなったのは、八幡が原因だって」
「やはり由比ヶ浜さんがここに戻ってくるのが一番理想的な形よ」
「いえいえ。小町も結衣さんの誕生日プレゼント買いたいですし」
「いやぁ実はね、お姉ちゃんちょっとしたお仕事始めたんだ」
「いいや、ちゃんと見てたよ――融合獣の中からしっかりとな」
『言われた通りに来たんだ! 結衣を返せッ!』
『「希望なんか、全てブチ壊してくれる!!」』
『「テメェが希望を壊すって言うのなら……」』
『「守るぜ……希望!」』



次回、『その男を呼び表すならば、怪獣殿下だろうか。』

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