やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。   作:焼き鮭

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陽炎の中、彼らはボランティア活動をやらされる。(A)

 

 八月某日の比企谷家。八幡がソファに寝そべりながら携帯ゲームで遊んでいると、影の中からペガが顔を出した。

 

「八幡、たまには誰か誘って遊びにでも出かけたら? 夏休みが始まってから君、そんな風にぐうたらしてばっかりじゃない。不健全だよ」

『そうだよ。せっかくの夏休みなんだから、思い出作りしないと損だよ』

 

 ペガの忠告にジードも乗っかる。しかし八幡は煩わしそうに眉間をしかめるだけだった。

 

「うるへー。別に夏休みに遊びに出かけなきゃならん決まりなんてないだろうが。そもそも夏に長期休暇がある理由が何だか分かるか? 暑いからだ。すなわち夏休みとは暑さから身を守るためのもので、それに則ればわざわざ暑いとこに出てく方がギルティなんだよ」

「また出たよ、八幡の屁理屈……」

 

 八幡の物言いにペガは呆れてため息を吐いた。

 その時、八幡のケータイがメールの着信を知らせた。八幡がケータイに手を伸ばして、差出人を確かめる。「平塚先生」とある。

 八幡はメール画面を閉じた。

 

『ちょっと!? メール見なくていいの?』

 

 ジードが思わず突っ込むと、八幡は平然と答える。

 

「いいのいいの。深夜くらいに「ごっめーん、電池切れてたー」とか「ちょっと圏外だったみたいでー」とか返しておけば大丈夫だから。ソースは俺。中学時代に女子にメールしたら四割の確率でそう返されたから。ちなみにあと三割は返信なし、残りの三割はメーラー・ダエモンさんとかいう外国人からのメールだ」

「……恵まれない中学時代を送ってたんだね」

 

 流石に同情するペガだった。

 八幡が平塚からのメールを無視する理由は、奉仕部の活動に引っ張り出されるのを避けるためだった。そもそも八幡を奉仕部に入れたのは平塚であり、彼女は八幡を更生させようと日頃からあれこれ指図してくる。今のメールだって、十中八九奉仕部関連。夏休みにまで奉仕部に追われるのはごめんだ、というのが八幡の考えであった。

 が、そうやってメールを見なかったふりをしていると、ケータイが短時間で何度も着信音をかき鳴らす。

 

「……ホントに見なくていいの?」

 

 ペガが問いかけると、流石に怖くなってきた八幡が最新のメールを開いた。その内容は、

 

『差出人:平塚静

 題名「平塚静です。メール確認したられ んらくをください」

 本文「比企谷くん、夏休み中の奉仕部の活動について至急連絡をとりたいです。折り返し連絡をくださ い。もしかしてまだ寝ていますか(笑) 先ほどから何度かメールや電話をしています。本当は見ているんじゃないですか。

 ねぇ、見てるんでしょ?

でんわ でろ」

 

 八幡とジード、画面を覗き込んだペガは何とも言えない空気になった。

 

「……怖ぇよ。ちょくちょく変換ミスってるし……」

 

 八幡がどんよりしていると、ペガが平塚からのメールの中身を確かめて言う。

 

「へぇ~、ボランティア活動かぁ。それに参加してってことみたいだね」

 

 それを聞いて八幡は顔を背け、ぼふっとクッションで耳をふさいだ。

 

「冗談じゃねぇ。そんな如何にもめんどそうなこと、絶対やらんからな。俺は何も見なかった」

『でも、ボイコットしたら後が怖いんじゃない?』

 

 忠告するジードだが、八幡の心は変わらなかった。

 

「そん時はそん時だ。とにかく、俺はどこにも行かねぇからな。今日まで色々あったんだ。せめて夏休みは安穏に過ごすんだ」

 

 確固たる意志の下に、八幡はそう宣言した。

 のだが……。

 

 

 

『陽炎の中、彼らはボランティア活動をやらされる。』

 

 

 

「……結局こうなんのか……」

 

 数時間後、八幡は照りつける真夏の日差しによってじんわりと汗ばみながら、緑豊かな山の裾野の駐車場でぼやいた。ここは千葉村。群馬県にある千葉市の保養施設である。

 あの後、八幡は小町にせがまれて一緒に外出した。しかしそれは小町に手を回した平塚の仕掛けた罠であり、八幡はバッチリと捕まってしまった。そこに雪乃、結衣たちもやってきて、晴れて奉仕部のボランティア活動に参加させられることになったのであった。

 

「はぁ……俺の安穏とした夏休みが……」

「大袈裟な……たかだか四十日もある夏休みの、三日間だけじゃない」

 

 大きく肩を落とした八幡に雪乃が突っ込むと、八幡はこう言い返した。

 

「俺はな、一日たりとも一年に一度、貴重な夏休みを無駄にしたくないんだよ」

「無駄にって、お兄ちゃん毎日家でゴロゴロしてるだけですけどねー」

 

 小町に夏休みの過ごし方をバラされると、雪乃から実に冷めた視線を向けられた。

 

「そんなところだろうと思ったわ。比企谷くんは無駄の意味を調べ直すべきね」

「そんな嫌がってないで、せっかくなんだし楽しんでいこうよヒッキー! みんなでキャンプ場なんて楽しそうじゃん!」

 

 と結衣が呼び掛けても八幡はしかめ面。

 

「遊びに来たんじゃねぇんだろ? 奉仕部の活動だって。んな気楽に構えられる訳……」

「そう言わないで、前向きに行こうよ八幡。こういうのって多分楽しんだもの勝ちだよ」

「そうだな! 何が待ち受けてたってドンと来いだ!」

 

 戸塚彩加が言った途端に八幡の態度が一変した。奉仕部ではない彼だが、人手が足りないということで平塚に誘われて来たのであった。

 

『相変わらず、戸塚君には甘いなぁ……』

 

 ダークゾーンの中で呆れ返るペガ。戸塚は男ながらその辺の女子顔負けに愛らしく、八幡はそんな彼のことを異様に気に入っているのであった。

 そんなことをしていたら、彼らの近くに別のワンボックスカーがやってきて、四人組の若い男女を下ろして去っていった。その四人というのが、

 

「や、ヒキタニくん」

「葉山……どうしてここに」

 

 葉山、三浦、戸部、海老名の葉山グループ中核メンバーであった。葉山の顔を見た途端に雪乃がいささか顔をしかめたのだが、それには誰も気づかなかった。

 

「学校の掲示板で応募してたんだ。奉仕活動で内申点加点してもらえるってね」

「え、何かただでキャンプできるっつーから来たんですけど?」

「だべ? いーやーただとかやばいっしょー」

「わたしは葉山君と戸部君がキャンプすると聞いてhshs」

 

 葉山はボランティアのつもりのようだが、他三人は完全に遊ぶつもりであった。一人だけ言動がおかしいが。

 

「ふむ。全員揃ったようだな」

 

 葉山たちが来たところで、平塚静がこれから行うボランティアの詳細を説明し出す。

 曰く、八幡たちにはこれから小学生の林間学校サポートスタッフになってもらうということ。平塚は校長から地域の奉仕活動の監督を申しつけられていて、この役目に奉仕部の面々に白羽の矢を立てたということであった。

 

「では、早速行こうか。本館に荷物を置き次第仕事だ」

 

 そして平塚の先導の下に、八幡たちは面倒を見る小学生たちの待つ場所へと移動していった。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちが相手をする小学生は六年生、小学校の中では最も性差や成長の個人差が表れている子供たちであった。それが百人近くいるのだから、八幡たちは纏まりのない彼らの騒々しさに若干気圧されていた。ただ葉山だけは、自然な調子で小学生の相手をしていた。彼のコミュニケーション力は人を選ばないようだ。

 最初の行事はオリエンテーリングであり、小学生たちは五、六人のグループに分かれて順々に出発していく。八幡たちはゴール地点での昼食の準備を頼まれ、小学生たちを追いかける形でゴールの場所へと向かい出した。子供たちよりも先に着かないといけない訳だが、当然ながら高校生と小学生では歩くスピードが違うし、このオリエンテーリングもあくまでレクリエーション。スイスイと追い抜いていく。

 進んでいく中でいくつかの班と出くわすのだが、その内の女子五人のグループが葉山たちに興味を持って積極的に話しかけてきた。小学生の目線からすれば、高校生は大人に見えるようである。特に葉山や三浦辺りは魅力的に映るようだ。

 

「しっかし、葉山の奴はすげぇよな。初対面の小学生相手に堂々としてて、あっという間に打ち解けてさ。コミュ力のバケモンだよ。とても真似できねぇ」

 

 葉山たちが女子小学生たちの相手をしている間、誰も寄りつかず手持無沙汰になっている八幡が、同じ状況の雪乃に話しかけた。この二人は見た目と雰囲気で子供は怖気づいてしまうようであった。

 

「あなたの場合は、そもそも子供に近寄ろうとしたら警察を呼ばれてしまうでしょうね。だから真似なんてしないことをお勧めするわ」

「うるせ。不審者ルックスで悪かったな……」

 

 雪乃の毒舌を慣れた調子で受け流す八幡は、ふと今行動を共にしている女子グループの中に歪を見つけて口を閉ざした。

 一人だけ、他の四人から二歩ほど遅れてついていっている。物理的な距離だけでなく、精神的な部分でもその子は他の子たちと断絶があるのが見て取れた。話の輪の中に入らず、時折首から提げたデジカメを撮影もしないのにいじっているのだ。

 明らかに、行動をともにしていて、一人だけ同じ時間を共有していない。

 

「……」

 

 雪乃もその少女のことに気がついたようで、小さくため息を吐いた。葉山も同じで、彼女の側に行って目線を合わせる。

 

「チェックポイント、見つかった?」

「……いいえ」

「そっか、じゃあみんなで探そう。名前は?」

「鶴見、留美」

「俺は葉山隼人、よろしくね。あっちの方とか隠れてそうじゃない?」

 

 少女と話しながら、背中を押して誘導していく。その様子の一部始終を目の当たりにして、八幡は半ば戦慄した。

 

「見た今の? あいつ超ナチュラルに誘ったぞ。さりげなく名前聞き出してるし」

「見てたわよ。あなたには一生かかっても出来ない芸当ね」

 

 八幡をこき下ろしてから、雪乃は顔をしかめた。

 

「けれど、あまりいいやり方とは言えないわね」

 

 少女、留美は葉山に連れられてグループの中央に入るのだが、彼女の視線は泳いで同級生たちに向かわない。他の女子たちも、露骨な態度こそ見せないものの、まるで留美を腫れ物のように扱っていて会話を取ろうとしない。話す時には、必ず葉山たちを間に置く。

 

「やっぱりね……」

「小学生でもああいうの、あるんだな」

 

 八幡が言うと、雪乃は言い切った。

 

「小学生も高校生も変わらないわよ。等しく同じ人間なのだから」

 

 留美は結局、八幡たちが彼女たちと別れる段になっても、グループの輪の中に入れずにいた。あの調子では、オリエンテーリング中はずっとそうであろう。

 留美たちとの別れ際、ペガがダークゾーンの中でそっとつぶやいた。

 

『あの子、ちょっとかわいそうだな……。レクリエーションなのに、ちっとも楽しそうじゃないや……』

 

 

 × × ×

 

 

 オリエンテーリングが終わり、昼食を済ませると、小学生たちはその次のイベントをつつがなく受けていった。八幡たちもそのサポートを行っていき、昼過ぎになると子供たちとともに夕食のカレー作りを開始した。

 大勢の子供たちが賑やかにカレー作りを進める中、八幡は一人の少女に目を留めた。

 

『……さっきの子だ』

 

 ペガが言った。八幡の視線の先にいるのは、先ほどのオリエンテーリングで一番八幡の目についた少女、留美。他の子たちは友達同士で作業しているのに、彼女だけは一人だけで黙々とジャガイモを洗っていた。しかも他の子は、それが当然のように振る舞っていて誰もかえりみない。

 そこに、再び葉山が近づいていく。

 

「カレー、好き?」

 

 何気なく話しかけた葉山だが、その様子を目にした雪乃は呆れたようにため息を吐いた。八幡も同じ気持ちであった。

 葉山は既に小学生たちの心を掴んだ、「憧れの大人」的な存在となっている。そんな彼が目を掛けたら留美は悪目立ちして、ますます他の子たちから距離を取られることだろう。これを機に他の子が留美に仲良くしてくれるようなら、そもそもこんな状況にはなっていないのだから。

 葉山は人が好い分、その辺りの後ろ暗い心理の機微が分からないようである。

 

「……別に。カレーに興味ないし」

 

 留美の取った行動は、そっけなく返答してすぐに葉山から離れることであった。人の目を避け、注目を集めない場所に移動してくる。

 そこには八幡と雪乃がいる。留美は人の輪から外れている八幡たちには興味を抱いたようで、結衣も交えて何回か言葉を交わした後、八幡と雪乃に目を向けながら言った。

 

「何か、そっちの二人は違う感じがする。あの辺の人たちと」

 

 留美は八幡と雪乃が、葉山たちとは異なる種類の人間だと見て取っていた。

 

「私も違うの。あの辺と」

「違うって、何が?」

「周りはみんなガキなんだもん」

 

 結衣が聞き返すと、留美はそう答えた。彼女はどうやら、他の子たちよりも大人びている、あるいは冷めた性格をしていて、そのために馴染めないでいるようだ。

 

「まぁ、私、その中で結構うまく立ち回ってたと思うんだけど。何かそういうの下らないからやめた。一人でも別にいっかなって」

「で、でも。小学校の時の友達とか思い出って結構大事だと思うなぁ」

 

 結衣が取り繕うように説いたが、留美はばっさりと切り捨てる。

 

「別に思い出とかいらない……。中学入れば、よそから来た人と友達になればいいし」

「残念だけど、そうはならないわ」

 

 留美の言葉を、雪乃がきっぱりと否定した。

 

「あなたの通っている小学校の生徒も、同じ中学へ進学するのでしょう? なら、同じことが起きるだけよ。今度はその『よそから来た人』とやらも一緒になって」

 

 雪乃の冷然とした、しかし動かしようのない事実の言葉に、留美は反論することが出来なかった。

 

「やっぱり、そうなんだ……」

 

 反論の代わりに留美の口から出たのは、あきらめたようなため息だった。

 

「中学校でも……こういう風になっちゃうのかなぁ」

 

 嗚咽の入り混じったような震える声音を、留美は吐く。たとえ大人びていようとも、やはり彼女も未成熟の子供。今の状態を、何とも思っていない訳ではなかった訳である。

 八幡たちは彼女のひと言を、黙って耳にしていた。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちがいるところから少し離れたキャンプ場から、バーベキューを焼いていた二人の男が手を止めて、忌々しげに小学生たちのキャンプの方向を見やった。

 

「先ほどから騒がしいと思ったら……地球人のガキどもが集団で来てるみたいだ」

「あんな馬鹿みたいに大騒ぎして……これだからガキは嫌いなんだ。この前が散々だったからと、せっかく気晴らしにキャンプに来たというのに、何たる不運……」

 

 そうぼやく男たちは、人間に化けているものの、その正体は地球人ではない……オガレスとルドレイの変身であった。

 オガレスは双眼鏡で隣のキャンプの様子をながめ回す。

 

「おーおー、いるわいるわ、まるで猿山だな。あっちに行って文句をつけてやろうか……」

 

 不満をこぼしながら双眼鏡を動かす手が、不意に止まった。

 

「ぬッ!?」

「おいどうした?」

 

 怪訝に思ったルドレイが聞くと、オガレスは若干焦った様子で告げた。

 

「ウルトラマンジードたちまでいるぞ!」

「――何だと!?」

 

 それに反応したのは、カレーを焼け食いしていたレイデュエスであった。背を向けていた彼であったが即座に立ち上がり、オガレスから双眼鏡をひったくる。

 

「ぬぅッ! 確かに奴らがいやがる……! まさかこんな場所にいようとは……!」

 

 一気に機嫌を害していくのが声色に表れるレイデュエスに、オガレスたちは途端に怖気づく。

 

「くそッ! あいつら、俺をあれだけの目に遭わせておきながら、のんきに遊びに来たというのか……? ただじゃおかんッ!」

 

 急激に頭が沸騰していくレイデュエスを、オガレスはおろおろしながらなだめようとする。

 

「で、殿下、落ち着きを……。あんな奴らどうでもよいではありませんか。それよりほら、新しく肉が焼けましたよ……」

「お前が食ってろッ!」

 

 だが焼いたばかりの串を自分の口の中に勢いよく突っ込まれた。

 

「あふッあふッ! あふぃッ!」

「ジードめ……貴様らのお楽しみなぞ全部俺が食らって消化してやる! 宇宙指令O11!」

 

 のたうち回るオガレスを放置して、レイデュエスが怪獣カプセルを起動していく。

 

「イッツ!」『ギュルウウ! ギュルウウ!』

「マイ!」『ギアァッ! ギギギィッ!』

「ショウタイム!!」

 

 装填ナックルに収めたカプセルをブラッドライザーでスキャン……しようとしたものの、握ったのはカレースプーンであった。

 

「!」

 

 間違いに気づくとスプーンを投げ捨て、今度こそライザーを出す。

 

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ!

 

 変身したレイデュエス魔人態が怪獣のビジョン――バゾブとベムスターを呑み込んでいく。

 

バゾブ! ベムスター!

レイデュエス! ベムスパーク!!

 

 フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、レイデュエス融合獣がキャンプ場のある山の中に現れていった!

 

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