やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。 作:焼き鮭
平塚から言いつけられた林間学校のサポート兼奉仕部合宿の二日目。八幡たち奉仕部は作業の合間の自由時間に、昨日の融合獣出現によって駆けつけたゼナと対面していた。
『……そういう訳で、レイデュエス一味がまだこの周辺に潜伏している恐れがあるから、我々AIBがしばらく監視をする。しかし君たちの妨害をするようなことはしないから、気兼ねなく合宿を続けてもらいたい』
「お気遣い、ありがとうございます……」
礼を述べた雪乃だが、その口調はどこか上の空。三人とも、あることが気になってしょうがないのだ。
我慢できず、結衣がゼナに問いかけた。
「あの……その格好、暑くないんですか……?」
ゼナは真夏の日差しが降り注ぐ炎天下、しかも野山の真ん中にも関わらず、一分の乱れもないスーツ姿なのだ。正直、見ているこっちが暑くなってくるくらいだ。
『シャドー星人は地球人よりも適応力が高い。故に問題ない』
「いや……それ抜きにしても、TPOってもんが……」
尻込みがちに突っ込む八幡。こんな山の中でスーツなど、目立って仕方ない。……もっとも、口が全く開かない時点で目につくのだが。
「と、ともかく、お世話になります」
何はともあれ、レイデュエス一味のことをゼナたちに任せた雪乃たちはペコリと頭を下げて頼み込んだ。
――そして八幡たち三人の元から離れたゼナは、ケータイである人物と通話する。
『先輩、どうでした? 雪乃ちゃんの様子は』
雪ノ下陽乃である。
『特に問題はなさそうだった。平常通りのようだ』
『そうですか! よかったぁ、友達とのキャンプ楽しんでるんだ。――あ、すいません先輩、無理言って任務から外してもらって』
『別に構わん。それより、そっちの方がよかったのか? 妹の安全を、お前自身で確保しなくて』
ゼナが聞き返すと、陽乃は電話の向こうで苦笑したようであった。
『わたしの顔を見たら、雪乃ちゃんくつろげなくなっちゃいますから。それに母をなだめてないといけませんし。あの人、わたしがついてなかったら今すぐにでも雪乃ちゃんを呼び出そうとするんですよぉ? せめてキャンプが終わるまでは止めとかないと』
『……大分込み入った家庭の事情があるようだな』
『あ、すいません。何だか愚痴っちゃって』
『構わんさ。そちらも上手くやるように』
陽乃との通話を終えてから、ゼナは天に燦々と輝く真夏の太陽を見上げて目を細めた。
『……地球人も地球人で、色々と大変なようだ』
太陽は各個人の抱える事情など関係なく、等しく照りつける日差しを降り注がせていた。
ゼナと別れた後、八幡は山中で見つけた河原の端にどっかと腰を下ろしていた。
「はぁ~、水が気持ちいいな~!」
彼の見ている先で、ペガが穏やかな清流の真ん中で水浴びを楽しんでいる。
現在地の下流では先ほど女性陣が水遊びをしていたのだが、それを目にしたペガが羨ましがり、自分も水浴びがしたいと八幡に訴えたのであった。それで人目につかないであろう上流にまで移動してきたのだった。
昨晩、人工都市で育ったと語ったように、ペガにとってはこのような自然環境に触れることは新鮮なようで、ただの水浴びでもとても楽しそうである。
「八幡も一緒にどう? 暑いのが吹っ飛ぶよ!」
「いや、俺はさっき顔洗ったしいい」
ペガの誘いを断った八幡だが、川で戯れる彼をながめてふと考える。
(前も由比ヶ浜が言ってたが、ペガって戸塚に似てるな。雰囲気が。もしここにいるのが戸塚だったなら……)
そう思いながら、脳内でペガの姿を戸塚に置き換える。
『はちまーん! 八幡も一緒にどう? 暑いのが吹っ飛ぶよ!』
妄想している八幡にペガが呼び掛けた。
「……八幡、鼻血出てるよ。どうしたの?」
「うおッ!? い、いや、何でもない。気にしないでおいてくれ」
「はぁ……」
我に返って鼻血をぬぐった八幡は、ごまかすようにペガに言う。
「それよか、気分が済んだんならそろそろ戻れ。昨日みたいに、また誰かと鉢合わせするかもしれねぇだろ」
八幡に忠告をペガは笑い飛ばす。
「心配性だなぁ。大丈夫だって。あんなことがそうそう何度もある訳……」
「へぇ……あんた、変わった友達いるんだね」
台詞の途中で、木陰から件の少女、鶴見留美がひょっこり現れたのでペガは飛び上がった。
「はわわ!? み、見られちゃったッ!」
「だから言ったのに……」
はぁぁ、と顔を覆ってため息を吐き出す八幡。ペガは何度も頭を下げながら留美に懇願し出す。
「お、お願い! ペガのこと、誰にも言わないで! 何でもするから!」
必死なペガと対照的に、留美の反応は淡泊だった。
「言わないよ。どうせ、私の話なんか聞く人いないし」
「ほ、ほんと? と言うか留美ちゃん、ペガを見ても驚いたり怖がったりしないんだね」
「いや、これでも驚いてるけど、どこから観ても悪い奴のようには思えないし、八幡とも普通に話してるしね」
「名前呼び捨てかよ……」
留美に言いふらす気がないようなので、八幡たちはひとまず安堵した。そしてペガが川から上がり、留美を交えて会話を始める。
「ところで、お前何でこんなとこにいるんだ? 林間学校どうした?」
「こっちは今日自由行動なんだって。朝ごはん終わって部屋戻ったら誰もいなかったから、その辺ブラブラしてたの」
「……ひどいね。何も言わないでどっか行っちゃうなんて」
眉をひそめて留美に同情するペガ。
「いいよ、気になんかしないでくれて。それよりあんた、ペガって言うの? ペガは何なの? 宇宙人って奴?」
「うん、正解。色々あって、八幡の元に厄介になってるんだ」
肯定したペガに留美は軽く感心する。
「宇宙人ってほんとにいるんだね。まぁ怪獣がいるくらいだし、いてもおかしくないか。かく言う私だって、普通の人間じゃないみたいだし」
「え?」
唐突なひと言に、八幡とペガは思わず振り返った。
「おいおい、中二病にはあと二年早いぜ。まぁお前くらいの歳だったら、妄想と現実の区別がつかなくなりがちかもしんねぇけど。俺もそういうの経験あるわ」
「妄想なんかじゃないよ。証拠、見せてあげる」
と言って留美が立ち上がると、その胸元からほのかな輝きが生じた。
「……!」
八幡たちはその光り方から、すぐに正体を察した。――リトルスターだ。
留美の胸元の輝きが急に強まり、閃光となると彼女の正面にある河原の岩が音を立てて砕けた。
「どう? 今朝から、気がついたらこんなことが出来るようになったの。普通の人間じゃないって分かってもらえたでしょ。……みんなからハブられるのも当然だよね」
自嘲めかしてつぶやいた留美の顔を見つめた八幡は、大仰に肩をすくめた。
「そりゃ自分が選ばれし人間だとでも言いたいのか? お生憎だったな。全くそんなことはない、お前は普通のガキんちょさ。うぬぼれんなって」
「え? でも……今の見たでしょ?」
「はッ。たかが胸から光が出るのが何だってんだ。それでお前、何か特別なことがやれるのか? 全然勉強しなくてもテストで百点取れるか?」
「いや、それは無理でしょ。関係ないし……」
「だろ? 特別な人間かどうかってのはな、何をやったかで決まるんだ。人と違う能力があったって、使う時と場合がなけりゃ、そんなの存在しないのと同じなんだからな」
そう語った八幡の顔を、今度は留美とペガが見つめた。
「……八幡、思ったよりいいこと言うじゃん」
「うん。今のすっごくいい台詞だったよ、八幡!」
「お、おいよせよ。そう言われると、恥ずかしくなるから」
軽く頬を赤らめて顔を背けた八幡に、留美はクスッと微笑む。
「もしかして、私を慰めてくれたんだ。……ありがと」
「……だから、うぬぼれんなっての」
と言いながらも頬をかく八幡は、思考を切り替えて留美の身を案ずる。
(しかし、よりによってこんなタイミングでリトルスターか……。留美の身が危なくねぇか? まぁ、ゼナさんたちがいるにはいるが……)
八幡の懸念は当たり、未だ千葉村のキャンプ地に潜伏中のレイデュエス一味が、木々の間からこちらを監視していたのだ。
「リトルスター発症者が現れたか……。リトルスターはジードのカプセルとなる。奴ばかりにカプセルを増やさせてなるものか!」
『ですが殿下、今無暗に動かれては近くをうろついているAIBに見つかってしまいかねません』
いらつきながら吐き捨てるレイデュエスだが、ルドレイの諫言には腕を組んでうなずく。
「その通りだ。軽はずみな行動はまずいな。もうしばらくは奴らの様子を窺って、機を待つとしようか……」
× × ×
それから八幡たちの元に雪乃と結衣もやってきて、彼らは改めて留美の抱える事情について話を伺った。そこから見出されたのは、やはり留美自身、己の現状に辛い気持ちを感じていること、しかし既に留美の周囲で彼女を疎外する状況が出来上がってしまっていて、部外者がそれを改善することは事実上不可能だということであった。
『留美ちゃん……どうにかして助けてあげられないかな……。でも、どうすればいいのか考えが出てこないよ……』
留美と別れた後、八幡の影の中からペガがそうぼやいた。雪乃も思案しているが、妙案は出てこないようだ。
「あたしたちが関われるのはあと一日だけ……。そんな短い時間で、何が出来るんだろ……」
結衣は悲しげに目を伏している。だが、八幡は何やら含みのある様子で黙っていた。
実は彼は、留美の話から問題を解決する方法を一つ思いついていた。しかしあまり褒められた手段ではない、もっと言えば更なる問題を引き起こす恐れのある危険な手段であるため、今はまだ口にはしないつもりである。
八幡が沈黙していると、結衣が続けて言う。
「それに留美ちゃんへのシカトだけじゃなくて、リトルスターもどうにかしないといけないよね。レイデュエスたちがまだ近くにいるかもしれないんだし、放っといたらやっぱり危ないよ……」
案ずる結衣だが、ゼナたちに知らせるというのには雪乃が反論した。
「けれど、AIBに通報したら間違いなく彼女は林間学校から離れなくてはならないわ。そうしたら私たちはもう彼女に関われず、依頼の達成も完全に不可能となってしまう。きっと、みじめな思いをしたまま小学校を卒業して、それどころか中学、高校もずっとあんな調子で過ごすことになるでしょう」
「だよね……。留美ちゃんの将来のためを思えば、林間学校の間だけでも今のままにするしかないか……」
『うん……。ペガたちで、留美ちゃんのことを守らないと!』
ペガのひと言が結論となって、彼らはAIBへの連絡を保留とすることにした。とそこに、平塚が大きく手を振りながら近づいてくる。
「おーい、お前たち。奉仕部の活動は順調かー?」
「あっ、先生」
「それが……」
雪乃が口ごもると、平塚はそれだけで察した。
「てこずってるみたいだな。まぁそれも無理のないことだろう、今までとは勝手が違うだろうからな。しかし、君たちならば最後には見事な解決を見せてくれる。私はそう信じてるぞ! 何かあっても責任は私が取る。君たちは心配などせず、思いのままにやってくれ!」
やたらと心強いことを述べる平塚に、八幡が問いかける。
「先生、何かやたらと上機嫌ですね。何かいいことあったんですか?」
すると平塚は、よく聞いてくれたとばかりに鼻息を荒くした。
「ふっふっふっ、実はそうなのだよ、今しがたね。さて何だと思う?」
「えっ、そう言われましても……」
回答に窮する雪乃たち。八幡が一つだけ思いついて聞き返す。
「もしかして、小学校の教師たちの中にいい人を見つけたとかですか?」
「いや、そういうことではないのだが、まぁ近い将来私の元にも伴侶となる男性がやってくることは確定したのだ!」
やけに自信に満ち溢れた発言に、八幡たちは思わず顔を見合わせた。
「先生……暑さでやられたのならゆっくり休んでて下さい。林間学校のサポートは俺たちだけでやりますから」
「むっ、馬鹿にしてるな……。だが本当のことだぞ! これがその証拠だ!」
と言って平塚が見せてきたのは、ケータイの画面。その画面の中に、ネット上の記事が表示されている。それを覗き込む八幡たち三人。
「何なに……必ず運命の人と巡り合わせてくれる、想い石?」
記事の内容を読み上げる結衣。
「想い石とは、元は身分違いの恋によって引き裂かれた侍とお姫様の怨霊を祀った石碑。今ではこの想い石に自分の靴を供えると、霊が運命の相手を探して合わせてくれる。その相手と結婚する確率……100%! しかもこれ、千葉村にあるって!」
「そう! そのためここの山は、伝説になぞらえて別名を二人山と言うのだ!」
「つまり、その想い石とやらに靴を供えてきたんですね、先生は」
雪乃の聞き返しに、平塚は満足げにうなずいた。
「うわぁ~、ロマンチックなお話しですね~! あたしも運命の人と合わせてほしいかも! あっ……でも、その人とはもう会ってるのならどうなるんだろ……」
結衣は目をキラキラさせながらも一瞬八幡を見やったが、八幡と雪乃は記事の内容にすっかり呆れ返っていた。
「いや、これのどこが証拠なんすか……。こんなの与太話に決まってるでしょ」
「確率100%って、どこの調べですか。先生、悪いことは言いませんから、こんなものはアテにしないでまずは人事を尽くすことを優先すべきでは……」
苦言を呈する雪乃たちに平塚は憤慨。
「信じてないな! まぁそう言っていられるのも今の内だ。私に春が来た時は、今の発言全部撤回してもらうからな! ふふふふ! もう友達の結婚報告に危機感を抱く日々はおしまいになるんだ! いやぁ楽しみだなぁ!」
すっかりその気になって高笑いする平塚の姿に、八幡と雪乃はほとほと呆れ果てた。
「……まぁ、好きにして下さい」
――平塚が大声で話した内容は、隠れて聞き耳を立てているレイデュエスたちも聞き留めていた。
『怨霊を祀った想い石、とは……。地球人はよくそんな迷信を信じ込めるものだな』
『全く。呆れたものですなぁ殿下』
オガレスがせせら笑いながらレイデュエスに同意を求めたが、レイデュエスは何やら含み笑いを浮かべている。
「いや……俺も興味があるな、想い石。是非ともこの俺も拝ませてもらおうじゃないか。クッククク……」
『お? もしや殿下……彼女募集中だったのですか! 水臭いですなぁ、言って下さればいくらでも協力をぼべッ!』
笑いながら申し出たオガレスの顔面が裏拳で叩き潰された。
「アホ言ってねぇでさっさと山の中探してこいッ! 見つけるまで戻ってくるなよ!」
『は、はい……!』
レイデュエスの命令により、オガレスとルドレイは件の想い石を探しに向かっていった。
× × ×
夜になり、八幡たちは林間学校二日目の最終イベント、肝試しの用意を整えた。またそれと同時に敢行する、留美の問題解決のための仕掛けの準備も全てセッティングした。後は上手く事が運ぶことを祈るのみだ。
「葉山たちが上手いことやってくれるといいんだがな……」
肝試しが始まるまでの間、今回の仕掛けに協力する葉山たちの成功を祈る八幡に、ジードが呼び掛けた。
『たとえ何が起ころうとも、留美ちゃんのことは必ず助けてあげよう。彼女のためにも……留美ちゃんのお母さんのためにも』
「ん?」
今のジードの発言を気に掛ける八幡。
留美の母親は、娘のことをとても心配しているようだ。留美が首から提げているカメラも、林間学校の思い出の写真をいっぱい撮るように母から預かったものだという。しかしジードは、何故わざわざ留美の母親のことも案ずるのだろうか。
『子供が不幸な目に遭ってたら、母親は悲しむに決まってる。そんなのは僕も悲しいよ……。だから、留美ちゃんを助けてお母さんを安心させてあげなきゃ……』
八幡が聞き返す隙間もなく、ジードはつぶやき続けた。それは自分に言い聞かせているかのような口ぶりであった。
「……」
八幡はそれから、質問してはいけない空気を感じ取って、口を閉ざした。
そういえば、ジードの母親は誰なのだろう。父親のことは聞いているが……同じウルトラ族なのか? 地球人なのか? その辺りのことが、ジードがいやに「母親」を気にする理由につながっているのだろうか。
答えは分からぬまま、運命の肝試しがスタートされた。