やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。 作:焼き鮭
千葉市内で奇怪な建物の倒壊事件が発生した、その翌日。
この日は昨日の混乱の収拾が完了していないので、市内の学校は全て休校となった。そのため八幡と小町は、自宅に留まって大人しくしている。
そんな中、小町が妙にニヤニヤしながら八幡に話しかけた。
「聞いたよーお兄ちゃん。昨日、学校の女の子を命懸けでかばったんだって? かっこい~! あんなこと二度としないとか言っておいて、お兄ちゃんもスミに置けないな~このこの~」
うりうりと肘で小突いてくる小町に、八幡はげんなりとした顔になった。
「それで? その人の連絡先はもらった? 命を助けて始まるラブストーリーって鉄板だよね! ってことで今まで腐りに腐ってたお兄ちゃんも遂に甘酸っぱい青春の第一歩を踏み出すんだねー!」
「……リアルってのはドラマとは違げぇんだよ。んな上手い話がある訳ねーっての。そもそも相手は知り合いだから」
一人で勝手に盛り上がる小町を静かにするために八幡はそう返したのだが、小町はむしろ更にテンションをアップした。
「お知り合い! ますますドラマチックじゃーんっ! これはもう恋の始まり待ったなしだよぉ!」
八幡は疲れたように頭を振って、小町を放っておくことに決めた。
(相手二人だったんだから、その筋書きだと二股になっちまうだろ……)
なんて思いながら、食器棚の上に置かれているカップを取ろうとする。
しかし微妙に身長が足らず、背伸びして手を伸ばしても指は触れるが、縁を掴むことが出来ない。
「んッ……後、もちっと……」
八幡は無意識に、軽くジャンプした。
ゴンッ!!
「な、何!? 今の音!」
背を向けていた小町は、突然の物音にギョッとして振り返った。すると目に飛び込んできたのは、八幡が頭のてっぺんを抑えて床の上に転がっている姿。
「どうしたのお兄ちゃん!?」
慌てて駆け寄った小町に、八幡は痛がったまま答えた。
「……ジャンプしたら、天井に頭ぶつけた……」
「え? 天井に……?」
天井を見上げる小町。ジャンプして、とても頭をぶつけそうな高さには見えない。
「……いや何言ってんのさお兄ちゃん。どう考えたって届かないでしょ。目だけじゃなくて、脳みそまで腐っちゃった?」
「お前……散々言ってくれるなオイ……」
目を細めながら起き上がった八幡だが、小町は遠慮のない口振りとは裏腹に、割と本気で心配しているようであった。
「何だか変だよお兄ちゃん……昨日は大怪我したんでしょ? 嘘みたいに回復したってお医者さん言ってたそうだけど、やっぱりどっか悪いんじゃない? もう一度、病院で診たもらった方がいいよ」
「いや、別にいいだろ。そんな大袈裟な……」
「大袈裟なんかじゃないよー! お兄ちゃんにもしものことがあったら、小町が悲しいんだからね。あ、今の小町的にポイント高い」
「……最後のひと言がなけりゃあな」
呆れる八幡であったが、小町の忠告には従い、昨日に引き続いてもう一度病院の世話に掛かることにしたのであった。
× × ×
「そんじゃあ行ってくる。遅くなりそうだったら連絡するからな」
「いってらー」
留守を小町に任せ、八幡は一人で玄関から外へ出た。
しかし家から離れようとしたところで、彼の前に立ちはだかるように、肩に竹刀袋を担いだ見慣れない少女が現れた。
「……?」
じっとこちらの顔を見つめてくる少女に、八幡は一瞬目が覚めるような思いになった。雪乃や結衣並みの美貌であることもそうだが、彼女の顔つきには凛とした力強さがあり、それが美しさをより一段と際立たせているからだ。このような女性には、八幡はこれまで一度としてお目に掛かったことはない。
「あ、あの……? 何か……?」
しかし会ったこともない少女が、どうしてこんなにも自分を凝視しているのか。呆気にとられた八幡の手を、少女が不意に取った。
「えッ……!?」
「一緒に来て」
少女はそれだけ言って、八幡の手を引っ張ってどこかへ誘導し出した。
見知らぬ美女からいきなり誘われる。男なら夢のようなシチュエーションだが、ひねくれ者の八幡はむしろビクビクしていた。
「あ、あの……!? 俺、お金なんて全然持ってないですよ! 出せるものなんか全然ないです! 親だって、俺のために出してくれるなんて思ってたら大間違いですから!」
「……どんな勘違いしてるの? 私を美人局か何かだと思ってるつもり?」
少女は呆れ返った目で八幡に聞き返した。
「じ、じゃあ俺に何の用なんですか……?」
「……詳しいことは、ここでは話せないわ。ひとまずは、一緒に来てちょうだい」
少女は有無を言わせずに八幡を引っ張っていった。何が何やら分からない八幡だが、少女の意外なほどの腕力に、抵抗することは出来なかった。
「ここよ」
そうして誘導されていった先は、町外れの天文台であった。
「天文台……? ここに何が……」
少女は八幡の質問に答えず、代わりにあらぬ方向へ呼びかけた。
「レム、お願い」
すると近くの草むらから、小さなオレンジ色の金属の球体が飛び出してきて八幡の目の前でフヨフヨ漂い出した。糸で吊っている訳でもないのに。
「な、何すかこれ? 新手の手品?」
目をパチクリさせた八幡に、球体は閃光を発して、八幡の全身に光を浴びせた。
「うわッ!? まぶし……!」
一瞬顔を背ける八幡。すると光を放った球体から、今度は声が発せられた。
[対象よりリクの反応を確認。間違いありません]
「ありがとう。それじゃあ、彼を星雲荘へ」
[分かりました]
少女が言うと、八幡たちの目の前の、何もない地面から、いきなり鈍色のエレベーターが下から生えてきた。
「えッ!? 何これ!? あなた手品師か何か!?」
「違うけど、とにかくこれに乗って。私「たち」の拠点に案内するわ」
「えッ、あの……」
先ほどから理解が及ばない展開の連続に足踏みした八幡だったが、女性に引っ張られる形でエレベーターの中に入らされた。エレベーターは二人を収めると、扉を閉じて地中へと引っ込んでいく。
八幡は身体の感覚から、エレベーターが下――地下へと向かっているのだと判断した。
[到着まで、残り三十秒]
宙を浮く球体が言葉を発するのを見て、少女に質問する。
「あの……これ、何でしゃべってるんですか?」
「このユートムがしゃべってるんじゃないの。本体は、これから向かう先にいるわ」
球体は「ユートム」と言うらしい。が、肝心なのはそこではない。
疑問符が頭に浮かびっぱなしの八幡を連れて、エレベーターは停止。扉が開かれると、そこは八幡が見たことのない光景が広がっていた。
「うわ……何だここ……」
銀色の壁が円形に周囲を囲っている、SF映画にでも出てきそうな近未来的な室内。しかし置かれているものは、その非現実的な光景とは裏腹に、ベッドやテーブルやタコのぬいぐるみ、白い変てこなヒーローのDVDケースやポスターなど、誰かの生活臭を感じさせるものばかりであった。
そしてこの空間の片隅に、こんな看板が立てかけられてあった。「星雲荘」。
「星雲荘……?」
『そうだよ。ここは僕たちの秘密基地なんだ』
不意に、少女のものでも、球体のものでもない、少年っぽい声が聞こえた。
「ん?」
振り返ると、床に何やら黒い染み――いや、影がある。光をさえぎるものなど何もないというのに。
『よいしょ……っと」
しかもその影からいきなり、カタツムリのように飛び出た目玉を持った異形の怪人が這い出てきた!
「うわぁぁッ!?」
白黒のジャケットを羽織った怪人の姿に仰天する八幡。一方で少女は、さも当たり前かのように怪人に話しかけた。
「こらペガ、いきなり姿を見せちゃ駄目って言ったでしょ? 彼、驚いてるじゃない。宇宙人を知らないのよ」
「ごめんなさい。でも、ペガも早くリクの無事を確認したかったんだ」
八幡は腰が抜けそうになりながらも、先ほどから謎ばかりの少女たちに問いを投げかけた。
「あ、あなたたち何なんですか……!? それに、さっきから出てくる「リク」って何のこと……」
その点に触れると、オレンジの球体が部屋の一番奥にある台の上に停まり、代わるように天井から垂れ下がっている球体に黄色い明かりが灯った。
[それは消えかかっていたあなたの命を、あなたの身体と一体となることで助けた人物の名前です]
「へ……?」
今日一番の意味が分からない説明にきょとんとする八幡。すると少女は、八幡に呼びかけた。
「リク、聞こえてる? あなたから説明するのが一番早いわ」
そうするとどこかから――いや、八幡の「中」から、知らない人物の声が発せられる。
『ごめんごめん。でもしばらく意識が朦朧としてたし、現状を彼に上手く説明できる気がしなかったんだ』
「うわぁぁぁッ!?」
八幡は今日一番仰天し、目が頻りに泳ぎながら自分の頭を抑える。
「い、今の俺から聞こえたのか? いやそんな馬鹿な……。と、とうとう頭がイカレちまったのか? 俺……」
『落ち着いて。君はおかしくなったんじゃないよ。ひとまず、自己紹介から始めよう』
八幡の中から聞こえる声がそう言うと、まずは少女から名乗りを上げた。
「私は鳥羽ライハ。ここは宇宙船『星雲荘』の中よ」
次に、白黒の怪人が名乗る。
「ペガッサ星人のペガです」
「ぺがっさ星人……?」
「この地球とは違う、別の星の出身なんです」
八幡の疑問はそのまま置いて、今度は天井から垂れ下がる球体が名乗った。
[私はレム。星雲荘の管理システムです]
最後に、八幡の中からする別の者の声が自己紹介した。
『僕は朝倉リク。……いや、今の状態なら、ウルトラマンジードと名乗った方がいいかな?』
「うるとらまん、じーど……?」
さっぱり理解が出来ずに立ち尽くす八幡に、リク、いやジードと名乗った声が尋ねる。
『君の名前は? いや知ってるけど、君自身の口から聞かせてほしい』
それで我に返った八幡が、自分の名前を口にした。
「比企谷八幡……です。よろしく……って言えばいいですか?」
『よろしく!』
たどたどしい口調だったが、ジードたちは快活に返事をした。それからライハが言う。
「私たちが何者か、あなたに何が起こったのかを教えるわ。ちょっと長い話になるから、どこか連絡するところがあるなら先にしてちょうだい」
× × ×
千葉市の中央部の一画。日が落ちていき、薄闇に覆われていく高いビルが立ち並ぶ市街の、街灯の光も届かないような暗闇の中で、蠢いている三つの影があった。
「少々遅くなったが、今日もやるぞ」
三つの内、中央に立つ影が言うと、両脇を固める二つが返答するように声を出した。
『殿下、またこの街を襲撃するのですか?』
『今日は移動なされませんでしたね』
それに中央の影が、ニヤリと口の端を吊り上げながら答えた。
「昨日は、この街で「奴」が現れたからな。大分具合が悪そうだったが……今日は出てくるかどうか確かめてやるのさ」
『何もわざわざ、「奴」を挑発するようなことをせずとも……』
「なぁに、このまま抵抗する者が一人もいないってのも退屈だ。ちょっとは刺激があった方が……物事は面白い」
中央の影は語りながら――その手に、怪物のイラストが描かれたカプセルを二つと、紫色の握力計のような装置を握りながら叫んだ。
「宇宙指令S01!」
[フュージョンライズ! エレキング! ネロンガ!]
[レイデュエス! サンダーキング!!]
× × ×
小町に帰りが遅くなるとの電話を入れてから、八幡はジードたちに、自分が置かれている状況についての説明を受けた。
「えーっと……纏めると……あなたたちは別の宇宙、いわゆるパラレルワールドからやってきた人たちで……俺は一度死んで、その一人と融合することで助かった……っていうことになるんですか?」
「概ねはそんなところね」
八幡の問い返しに、ライハがうなずいた。
レムは今日までの、自分たちの経緯を説明し出す。
[私たちの宇宙では、この世界には存在しない超常的巨大生物、通称怪獣や地球以外の惑星の知的生命体、いわゆる宇宙人が存在し、リクことウルトラマンジードは人間に害を成そうとするそれらと戦っていました。ですがある時、この世界に侵入していく不審な宇宙船をキャッチしたのです。ジードは別の宇宙の平和も守ることを希望し、私たちは宇宙船を追ってこの宇宙の地球へと移動してきました]
レムの説明にジードが混じる。
『でも僕は、宇宙船の地球侵入を阻止できなかった……。宇宙船から出てきた敵と相討ちになったんだ』
[地表へと落下し消息を絶ったジードを捜している内に、ジードと融合しているあなたを発見したということです、ハチマン]
ここまでの説明を受けて、八幡は――。
「……あー、いやいや……ありえないでしょそんな話。SFかアニメじゃないんだから。俺を引っ掛けようったってそうはいきませんからね?」
信じていなかった。
「私たちがドッキリを仕掛けてるとでも言うつもり? これまで見た全部が作り物だとでも? その方がありえないでしょ」
と諭すライハだが、八幡は翻意しなかった。
「いや分かんないですよ。その手の番組の手の凝りようはすごいですからね」
「じゃあこのペガはどう説明するの? この生々しい質感は着ぐるみなんかじゃ出せないわよ」
「いーや、ハリウッドばりのメイク技術があればどうにか」
「それじゃあレムは?」
「どっかに声優さんがいるんじゃないですか?」
「あなたの内側からする、リクの声は」
「それは……催眠術とか何かで」
かなり無理矢理な論法を唱えてでも信じようとしない八幡の様子に、ライハたちはすっかり呆れ返っていた。
「……ここまで意固地だと逆に清々しいわね」
「ペガも、こんなに頑固な人は初めて見たかも」
[どうやら理解力が一般より乏しいように思われます]
「人より乏しい理解力で悪かったですね! ともかく、俺はそんな突拍子もない話、信じたりなんかは……」
と言いかけた八幡だが、その時にいきなり、何もない虚空にモニターが出現した。虚を突かれて思わず身をすくめる八幡。
「うわッ!? こ、今度は何?」
[千葉市内の建築物が、昨日に引き続き破壊され始めました]
「えッ!?」
モニターを見やると、確かに見慣れた千葉市の街並みが、昨日と同じように崩れ去っていっている。……しかしモニターにはもう一つ、家よりも大きい怪物の輪郭が赤い影となって街を練り歩いている様子が映されていた。
「こ、この赤い影は?」
[赤外線カメラによる映像です。この怪獣には透明化能力があり、肉眼では確認できません]
『街の破壊も、君が一度死んだのも、全てあの怪獣の仕業なんだ!』
と言い切ったジードは、八幡に頼みごとを投げかけてきた。
『八幡君、君に頼みがある!』
「な、何ですかいきなり……」
『僕に力を貸してほしい! 君がウルトラマンジードになって、怪獣と戦うんだ!』
その発言に、八幡は目玉が飛び出そうになった。
「はぁ!? な、何で俺が!?」
ジードに代わって、レムがその必要性を話す。
[ジードはあなたを蘇生させるために融合しました。言い換えれば、あなたの肉体から離れれば、ハチマン、あなたは今度こそ死亡します。次は助かりません]
「なッ……」
一瞬言葉を失った八幡は、戸惑いを覚えたまま立ち尽くす。
「い、いや……命を助けてくれたのはありがたいですけど……いきなりそんなこと言われても……」
尻込みする八幡だったが、その時にペガが叫んだ。
「あッ! 見てあれ!」
ペガが指差したのはモニターの一角。透明怪獣の進行先に、大勢の人が不安げに寄り集まっている避難所がある。
「姿が見えないんじゃ正確な距離が分からない。このままじゃ、あそこが危ないわね……」
つぶやくライハ。そして八幡は、拡大された避難所の様子を見やって、その中に見知った顔があるのに気がついた。
「雪ノ下! 由比ヶ浜!」
悩み続けていた八幡だったが、やがてその眼差しが一変した。
× × ×
既に日が落ちた中、透明怪獣の手前の、無人の地域にエレベーターがせり上がり、その中から八幡が飛び出した。
『ありがとう、八幡君。変身はさっき教えた通りにやれば出来る』
「分かりました」
『時間がない。急ごう!』
ジードの指示で、八幡は右側の腰に取りつけてあるケースから、カプセルを一本取り出す。
『融合……いや、ユーゴー!』
合図とともにカプセルのスイッチを上にスライドして起動。するとカプセルから、銀と赤の超人のビジョンが現れて右腕を振り上げた。
『シェアッ!』
起動したカプセルを、左の腰のホルダー、装填ナックルに差し込む。次に取り出したのは、黒と赤の悪魔の如き超人のカプセル。
『アイゴー!』
そちらも起動すると、同じように絵の超人のビジョンが現れて腕を振り上げた。
『フエアッ!』
二つ目のカプセルも装填すると、八幡は握力計型の装置――ジードライザーのトリガーを握り込んだ。
『ヒアウィーゴー!!』
ジードライザーで、装填ナックルに収めた二本のカプセルをスキャンする。ライザーの液晶画面に、青と紫の螺旋が灯った。
[フュージョンライズ!]
八幡の同級生の材木座の声質に酷似した音声が鳴り、八幡はライザーを己の胸の前に持っていって、再びトリガーを握り込んだ!
『ジィィィ―――――――ドッ!』
二人の超人のビジョンが、八幡の身体と合わさる!
[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]
[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]
一瞬禍々しく吊り上がった双眸が現れ、光と闇の螺旋の中より八幡から姿を変えた超人が飛び出していく!
「シュアッ!」
一気に五十メートル級もの巨人となった八幡が、盛大に土埃を巻き起こしながら夜の街の中心に着地した。
星雲荘で八幡の様子をモニターしているレムが言う。
[フュージョンライズ、成功しました]
「やった!」
ペガがぐっと手を握って喜んだ。ライハもゆっくりとうなずく。
八幡はジードライザーを使ってフュージョンライズという現象を起こし、超人ウルトラマンジードへと変身を遂げたのである!
地上の人々は皆、突然現れた巨人に驚愕していた。そんな中、当事者である八幡は細胞片に取り囲まれたような超空間の中、己の手と身体を恐る恐る見下ろす。
『「俺、今どんな姿なんだ……?」』
ふと横に建つガラス張りの高層ビルに目をやると、それが鏡の役割を果たして今の八幡の姿――ウルトラマンジードの姿を映し出していた。
赤と黒の体色の、人型ではあるが人間とはあまりにかけ離れた容姿。胸の中央で光る、丸みを帯びた長方形の発光体。そして一番目立つのは、青く吊り上がった双眸。それを確かめた八幡がひと言、
『「うわッ!? 目つき悪ッ!」』
『人のこと言えないだろ!? それより来るよ!』
突っ込んだジードが警告。八幡が顔を上げると連動してジードの肉体も顔を上げ、双眸をビカビカと光らせて透視能力を発動した。
それにより、肉眼では映らない怪獣の輪郭が白い影として捕捉できた。
『あそこだ!』
怪獣を確認したジードは高々と跳躍して一気に距離を詰め、腕を広げて掴みかかった。しかし透明の怪獣も抵抗しているようで、八幡に殴られる衝撃が伝わる。
『「うぐッ……!」』
『こらえて! こいつを投げ飛ばすんだ!』
ジードの指示通りに意識を集中する八幡。するとジードの腕に力が宿り、透明怪獣を頭の上に抱え上げた。
「ショアァッ!」
そのまま投げ飛ばすジード! 怪獣は既に破壊されている地帯へと叩きつけられた。
そこにへし折られた信号機から漏電が走り、その電気に触れたことで、ジードに向かって進んでくる怪獣の姿が、遂に衆人環視の下に晒された。
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
並んだ二つの山脈のように隆起した背面と、白黒の斑模様の胴体を持った、鋭い牙の獰猛な怪物。目のある場所には代わりに回転するアンテナ状の角が生えていて、尾は長くムチのようにしなっている。そして胸部には、紫に怪しく光る七つの発光体が緩いV字に並んでいた。この異形の生物に、市民たちは再び驚愕を覚えた。
これが街を次々と破壊していた透明の怪物の正体だ!
レムは姿を晒した怪獣のデータを分析する。
[あの怪獣は、エレキング、ネロンガ、二種類の怪獣の特徴を併せ持っています]
その報告にペガとライハは思わず息を呑んだ。
「それってまさか……!?」
「融合獣……!」
エレキングとネロンガの生体情報を掛け合わせた融合獣、サンダーキングがジードに牙を剥く!
怪獣の姿を目の当たりにした八幡は、皮肉げな笑みを口の端に張りつけていた。
『「はッ……この期になっても怪獣だとか宇宙人だとかは半信半疑だったけど、こうして目の前に出てこられちゃ信じない訳にはいかねぇな……」』
『八幡君……』
『「分かりましたよジードさん。こうなったからには、とことんやってやります……!」』
腹をくくった八幡が、決意を口にする。
『「決めるぜ……覚悟!」』
ドン! と地面を手で叩いて勢いをつけて、ジードがサンダーキングへと立ち向かっていった!
(♪ウルトラマンジードプリミティブ)
「ゼアッ!」
ジードは腕を大きく広げてサンダーキングに飛び掛かり、取っ組み合って相手の首筋を強く打ち据える。こちらが野獣のようなラフなファイトスタイルだ。
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
だがサンダーキングの筋力も強靭で、振り払われて脇腹にヘッドバットをもらった。
「グッ……!」
一瞬悶絶したジードだが踏みとどまり、サンダーキングの腹部にドロップキックを決める!
「ダァァッ!」
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
後ずさったサンダーキングは口から刃状の電撃を繰り出すが、ジードは側転して回避。再びサンダーキングに飛び掛かって肉弾戦を挑む。
この巨人と怪獣の決闘を、市民たちは唖然となりながら見上げていた。
「信じられません! 全く、信じられません! しかも、この信じられない事件が今、我々の眼前において展開されています!」
テレビのリポーターたちは巨躯の大決闘を、動揺と興奮の口振りで全国に報じていた。
「我々の世界は一瞬の内に、空想の世界に取り込まれてしまったのでしょうか!?」
避難所の雪乃と結衣もまた、他の避難者と同じように唖然としたままジードと怪獣の戦いを見つめている。
「ゆ、ゆきのん……すごいよあれ……。夢でも見てるみたい……」
「……」
流石の雪乃も、今回ばかりはあんぐりと口が開きっぱなしであった。
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
一時はジード優勢であったが、不意に戦局が傾く。サンダーキングの長い尾がうなり、ジードの首に巻きついたのだ。
「ウッ!?」
もがくジードをサンダーキングはそのまま引きずり、側の貯水湖に踏み込んだ。そして水に浸かってずぶ濡れとなったジードに、尻尾から高圧電流を食らわせる!
「ウワアアアァァァァァァッ!」
強烈な攻撃に苦しんだジードが投げ飛ばされる。地面に叩きつけられたジードの胸の発光体、カラータイマーが赤く点滅し始めた。
『「こ、この音何ですか!?」』
『まずい……フュージョンライズのタイムリミットが近いんだ!』
ジードが焦りながら教える。
『フュージョンライズしていられる時間は約三分間……次に変身できるのはおよそ二十時間後なんだ!』
『「二十……!? じゃあここでどうにかしないと……!」
『そうしたいのは山々なんだけど……今の電撃で、身体が……!』
ジードの肉体は麻痺してしまい、すぐには動けそうにない。
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
サンダーキングは動けなくなったジードを放置し、またも避難所の方へ向かい出した。
「っ!?」
雪乃と結衣が、声にならない悲鳴を発した。――その鼓動は、超感覚によって八幡に伝わる。
『「!! あいつら……!」』
すると――麻痺しているはずのジードの肉体が、急に軽くなったのだ。
『この湧き上がる力は……!?』
(♪GEEDの証)
「ハァッ!」
ジードが天高く跳躍し、サンダーキングの頭上を越えてその前方に回り込んだ。
雪乃たちは、その雄大な背中を驚いて見上げる。
「あの巨人……」
「あたしたちを、守ってくれるの……?」
ジードは八幡に告げる。
『次の一撃で決めよう! 必殺光線だ!』
『「光線!? どうやれば……!」』
『大丈夫だ! 言わなくても、君にも分かる!』
サンダーキングは立ちはだかったジードに向けて、全身に電撃を纏いながら突進してくる。
「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」
それを前にしてもひるまず、ジードは腰の前で交差した両腕から赤黒いスパークを生じさせる。
「アアアアアアアア……!」
腕を頭上に持ち上げて開くとともに、スパークが全身に広がっていく。ジードの両目から光がほとばしり、エネルギーが最大に高まる。
そして両腕を回しながら十字を作り、ジードと八幡が声をそろえて叫ぶ。
「『レッキングバースト!!」』
ジードの右手から光と闇の織り交ざった光線が照射され、サンダーキングに命中した! ジードの必殺の光線、レッキングバーストが決まったのだ!
「キイイイイイイイイ!! ゲエエゴオオオオオオウ!!」
全身に纏われた電撃も突き破り、レッキングバーストは一撃でサンダーキングを木端微塵に吹き飛ばした!
「やった……!」
「わーいっ! あたしたち助かったんだぁ!」
他の人々がまだ現実を受け止められていない中、結衣は無邪気にジードの勝利を喜んでいた。
「シュアッ!」
サンダーキングを見事撃場したジードは、残った力で空へと飛び上がり、はるか遠くへと瞬く間に飛び去っていったのだった。
――サンダーキングが粉砕された地点で、ローブを目深に被った男が、シュウウと煙を噴いているエレキングカプセルとネロンガカプセルの二つを拾い上げた。
ネロンガカプセルの方は、レッキングバーストの衝撃によってバキバキにひび割れていた。
「……こっちはもう使い物にならんな」
二人の怪人を引き連れている男はポイと、その場にネロンガカプセルを投げ捨てた。それからニヤァ……と不気味な微笑を浮かべる。
「ウルトラマンジード……これから面白くなりそうだ」
× × ×
星雲荘に帰還して変身を解いて元に戻った八幡は、そこで力尽きてどっかと腰を落とした。
「はぁ~……疲れたぁ……」
「お疲れさま、八幡君」
疲労困憊の八幡をペガがねぎらう。
「無事に怪獣をやっつけられてよかったよ。ちょっと危ない場面もあったからハラハラしたけど……安心した」
「はは……確かにもう安心ですね。これで、怪獣とかいう訳の分からんもんと戦うなんて危ないことは……」
しないで済む、という言葉を、ライハは言わせなかった。
「何言ってるの。怪獣はきっと、これからも出続けるわよ」
「へッ!?」
唖然と目を丸くする八幡。それに構わず畳みかけるライハ。
「私たちの世界でも、怪獣は立て続けに現れてた。こっちでもきっとそうなるわ。今回は、その前触れに過ぎないわよ」
『それに立ち向かうことが出来るのは、僕たちだけだ!』
とのたまうジードに、八幡はブンブンと首を振った。
「いやいやいやいや! 冗談じゃないですよ! あんな危険なことをこれから何度もだなんて……それに俺は高校生です! 学校どうしろってんですか!」
「その辺りはこれから対策を考えましょう。きっといい方法があるわ」
「色々環境が変わったから、決めなきゃいけないことはいっぱいあるね」
ペガたちは八幡を置いて話し合いを始める。一方ですっかり魂が抜けたようになっている八幡に、ジードが呼びかけた。
『大変な役割を背負わせちゃってごめん。だけど君ならやれるよ! 今回のことで、僕はそう確信した。一緒に頑張ろう!』
「そ、そんな気楽に言ってくれちゃって……」
すっかり途方に暮れている八幡は、心の中でつぶやいた。
こんなの嘘だ。何でただの高校生、いやそれどころかクラスでも家でもカースト最底辺の俺なんかが、そんな重大な役目を担わなくちゃいけないんだ。どうしてこんな運命になってしまったんだ? もし神さまがいるんだとしたら、こんな風に言ってやる。
――やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。
『ウルトラストーリーナビ!』
八幡「今回は『ウルトラセブン』第一話「姿なき挑戦者」だ」
八幡「ある日から、人間が次々と消失していくという怪事件が起こる。その謎を追うウルトラ警備隊と地球防衛軍に、犯人のクール星人が挑戦状を叩きつける。見えない円盤で攻撃してくるクール星人に苦しむウルトラ警備隊を、風来坊モロボシ・ダンが助け、ダンはクール星人を倒すためにウルトラセブンに変身する……という内容だ」
八幡「番組の始まりだけあって、『セブン』がどんな話なのかが凝縮されてるな。最初の敵が宇宙人だったように、セブンは宇宙人を中心とした作劇が成されてたんだぜ」
八幡「そして最初の敵のクール星人は、セブンに瞬殺される。セブンの序盤は、こんな感じに敵との戦いが申し訳程度なのが多かったな」
リク『2017年は『セブン』放送の五十周年だから、『ジード』でもセブンの怪獣が多めに出てきたんだよ!』
八幡「じゃあまぁ、また次回で」
「彼の名はウルトラマンジード。地球の皆さんの敵ではありません」
『多分、これからこの地球に来訪する宇宙人はどんどん出てくると思うよ』
「ここは俺のテリトリーだ。勝手な真似はやめてもらおうか」
『「あれ!? 何も起こらないんだけど!?」』
「どうしてセブンカプセルが反応しなかったの?」
「勇気が足りないからウルトラ戦士の力が応えてくれないってところね」
『こういう時こそ、ジードの精神だ!』
『「こうなったからにはやってやるぜ……!」』
『「燃やすぜ……勇気!」』