やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。   作:焼き鮭

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融合獣総武高校に迫る!(A)

 

 二学期が始まってから数日が経過した。放課後は、一学期の時と同様に八幡、雪乃、結衣の三人が奉仕部の部室に集まっている。八幡と雪乃は長机の両端で文庫本のページをめくり、結衣はケータイをいじって、来るかどうか分からない依頼者を待っている。ジードがこの世界に来てからは、ペガも内職の造花をしながらこの中に混じっている。一見すると、夏休み前と何も変わらない光景。

 残暑が続くので開け放たれていた窓だが、強い秋風が吹き込んでカーテンが大きくなびいたので、結衣が席を立って窓を閉めた。

 

「風、強くなってきたねー」

 

 そのことをきっかけに会話の糸口を切り出す結衣。しかし八幡と雪乃は無言であり、代わりにペガが結衣に応じた。

 

「天気予報だと、台風が近づいてるんだって。知ってる?」

「うん。しばらくは折り畳み傘必要かなー。ねぇ?」

 

 八幡たちの方を見やって同意を求める結衣。それで二人が顔を上げたので、結衣とペガは少しほっと息を吐いた。

 

「そうね。休みの間はいい天気続いてたのに」

「そうだったか? 結構薄暗い日ばっかだった気がするけど」

『それは八幡が家から出ないからだよ。出ても夕暮れになってからの場合が大半だったし』

 

 ジードが呆れながら突っ込んだ。

 

「いいだろ別に。暑いからだ」

 

 八幡がぶっきらぼうに言い放って、会話がしばし途切れた。結衣は深めの呼吸をしてから続きとなる言葉を口にする。

 

「ヒッキーはさ、もっと外出した方がいいよ絶対。何かビタミンC? 作るらしいよ」

「それは多分ビタミンDだけどな。人は体内でビタミンC生成しねぇんだよ」

「そーなの?」

「ああ。ちなみにビタミンDは週二回三十分くらい日光に当たるだけで十分作れるらしい。よってわざわざ家から出る必要性はねぇんだ」

「詳しいね、八幡。何でそんなこと知ってるの?」

 

 ペガは普通に問い返すが、結衣は八幡に対して若干引く。

 

「ヒッキー、健康マニアなの? キモい……」

「……昔、親に同じようなことを言われたから調べたんだよ」

「そこまでして家から出たくないんだ……」

「引きこもりくんらしいわね」

「ほっとけ……」

 

 雪乃の発言に対して八幡が言い返したところで、再び会話は途切れてしまった。沈黙が部室を支配する中で、ペガと結衣は身を寄せ合ってひそひそ囁き合う。

 

「……二学期に入ってから、ずっとこんな感じだね……」

「うん……。前ならもっと、自然な感じで会話も続いてたのに……」

 

 二人は内緒話をしているつもりだろうが、静寂な空間では声が響くので、八幡の耳に入っていた。雪乃にも聞こえているだろうが、彼女もあえて聞こえないふりをしている。

 奉仕部は二学期になってから、誰かが話をしようとして、しかし長続きせずに途切れ途切れになってしまう、というちぐはぐな状況が続いていた。特に八幡と雪乃の間が、表面には出ていないがぎくしゃくしている。――こんな状況は、花火大会から端を発していた。

 ペガははぁと息を吐いてから、窓ガラスの向こう側に見える、どんよりとした雲が立ちこむ空模様を見やった。

 

「雲行き、本当に怪しくなってきたな……」

 

 

 

『融合獣総武高校に迫る!』

 

 

 

 総武高校の二学期最初の学校行事は文化祭だ。各クラスのホームルームでは既に出し物の話し合いが進められており、文化祭実行委員会が立ち上げられて、各クラスから男女二名ずつ選ばれた実行委員が今年の文化祭を成功させるべく業務に当たる。

 そして二年F組の男子の実行委員となったのが、

 

「はぁ……何でこんなことに……」

 

 誰であろう、比企谷八幡であった。

 実行委員の仕事の終わりに、人気のない廊下でMAXコーヒーをすすりながらため息を吐いていると、ペガが影の中から顔を出して苦言を呈した。

 

「それは八幡が役割分担のホームルームサボるからだよ。ちゃんと出てれば、お断りしますって言えただろうに」

 

 八幡は文化祭の役割を決める話し合いの時に、仮病を使って保健室で居眠りをしていた。すると一番やりたくなかった実行委員任命されていたのだ。やる気のない自分なら推薦されることはないだろうという考えは甘かったらしい。

 

「前々から思ってたけど、八幡は何事にも積極性に欠けるのがいけないところだよ。それで損してること多いでしょ」

「いや、あれ決めたの平塚先生らしいし、いたところで同じだったと思うんだが……」

「もう、言い訳しないの。そういうところも欠点だと思うよ」

 

 ペガに説教されて、顔をしかめてコーヒーをすする八幡。呼吸を整えてから話題をすり替える。

 

「実行委員にされたのはまぁいいさ。それよか問題なのは、仕事量だよ。日に日に増えてって、全く嫌になってくる。休む奴も徐々に増えてってるしよ」

 

 八幡の実行委員会での役職は記録雑務なのだが、文化祭が近づくにつれて他の委員の仕事も肩代わりすることが多くなっていた。他の委員の欠席が目立ち、出席している者たちでカバーしないと委員会が回らなくなってきているからだ。

 それというのも、今年の実行委員長となった相模南の出した方針が原因だった。紆余曲折あって彼女は「実行委員もクラスの出し物を優先する」という提案を出し、その影響で実行委員を欠席する者が続出するようになったのだ。その皺寄せは、八幡のようにクラスでの仕事が少ない者や生徒会役員に来ている。今だって下校時間ギリギリだ。

 八幡がそのように唱えると、ジードが悩ましい声を発した。

 

『こんな調子でここの文化祭、大丈夫なのかな……。特に雪乃のことが心配だよ。雪乃、ちょっと働きすぎじゃないかな?』

「だよね……。何か最近疲れてるように見えるし、大丈夫かなぁ……」

 

 ジードの言葉にペガも同意する。

 雪乃は副委員長となったのであるが、同時に彼女は奉仕部に来た相模の「実行委員としての仕事をサポートしてほしい」という依頼も受けていた。それで誰よりも実行委員の仕事をこなし、遅れがちになってきている委員会の進行を相模に代わって挽回している状態が続いているのである。

 これをジードたちは苦々しく思っていた。

 

『やっぱり最近の雪乃、ちょっと様子がおかしいよね。いつもなら相模さんのあんな頼みは引き受けないはずだよ』

「うん。雪乃自身が口にした、奉仕部の精神から丸っきり外れてるよ。今は、雪乃が何もかもやっちゃってる。それじゃ相模さんの成長はないはずだ」

 

 ジードとペガの相談を、八幡はただ黙って聞いていた。

 

『やっぱりさ、今の状況をどうにか変えないといけないと思うんだ。少なくとも、今実行委員から離れてる人たちを呼び戻さないと』

「だね! 八幡、生徒会長の城廻さんに相談してみてよ。彼女を通して相模さんを説得して、みんなに働きかけてもらえば……」

 

 というペガの提案に、八幡は即行で返した。

 

「そりゃ無理だろ」

「な、何でさ」

「そりゃ俺だって、俺に仕事押しつけて楽してる奴がいるってのは許せねぇ。けど、あの相模が、言って聞くように見えるか?」

「そ、それは……」

 

 口ごもるペガ。八幡は、相模が実行委員長になったのは己の虚栄心を満たすためだけで、本気で文化祭を主導する気はないと見ており、その見解はペガたちも同じであった。

 

「第一、やる気のない奴を働かせたところで逆にロスが増えて逆効果になるかもしれねぇし、それだったら最初から一人でやる方が効率いいだろ」

「そんなの分からないでしょ。みんなでやればはかどることの方が断然……」

 

 ペガの言葉を、八幡はやや感情的にさえぎる。

 

「みんなでやることはいいことで、一人でやることは悪いことなのか?」

「え?」

「どうして、一人でも頑張ってきた奴が否定されなきゃならないんだ。そいつの頑張りは、何もかも間違いなのかよ」

 

 八幡の妙な迫力に、ペガは思わず押し黙ってしまった。

 だが代わりに、ジードが言った。

 

『……別に、一人で頑張ることが悪いとか間違いとか、そんなことを言うつもりじゃない。だけど……』

「ん……?」

『僕の場合は……一人だったら、確実に今ここにはいなかった』

 

 突然のジードの言葉に、八幡は虚を突かれてしばし呆然とした。

 

「……ジード……?」

『……ああいや、今は関係ないことだったね。ごめん、今のなしで』

 

 ハッと我に返ったジードが撤回し、とりなすように八幡に呼びかける。

 

『ともかく、今実行委員が苦しいということは確かなんだから、城廻さんにだけでも明日に相談して、ちょっとでも改善してもらうようにはするべきだよ。八幡だって、負担が軽くなるに越したことはないだろ? ジーッとしてても、ドーにもならない』

「まぁ、それはそうだな……」

 

 ジードの提案に八幡は呆気にとられながらもうなずき、時間も差し迫ってきたので今日のところはこのまま下校していった。

 

 

 × × ×

 

 

 翌日以降、ジードの言う通りにしてみた八幡であったが、やはりと言うべきか効果は上がらず、むしろ欠席者は増え続けた。既に欠席してもいいという空気が出来てしまったことが大きく響いているようである。それに比例して八幡たちの、特に雪乃の負担が増大していった。

 そしてとうとう、限界が来てしまったようだ。平塚から八幡へ連絡があった。

 

「比企谷。雪ノ下なんだが、今日は体調を崩して休みだ。一応学校には連絡があったんだが、文実の方に連絡は来てないんじゃないかと思ってな……」

 

 

 そして八幡は雪乃の住所を知っている結衣、そして雪乃を心配して合流してきたライはとともに、雪乃の暮らすマンションへと来ていた。見舞いと、彼女に言うべきことがあるために。

 高級なタワーマンションのエントランスのベルを鳴らし、自動ドアを開けてもらって十五階に向かう。そこの一室が雪乃の部屋であった。

 

「どうぞ、あがって」

 

 雪乃当人に迎えられて、三人はリビングに通された。そこで八幡の影からペガも出てきて、彼らをソファに掛けさせたところで雪乃が切り出した。

 

「それで、話って何かしら」

 

 一番に声を発したのは結衣だった。

 

「あ、えっと……今日、ゆきのん休んだって言うから、大丈夫かなって」

「ええ。一日休んだくらいで大袈裟よ。連絡もしていたのだし」

 

 安心させるように返した雪乃だが、結衣はいつもの覇気がまるでない彼女の様子にそわそわとしていた。

 

「一人暮らしだからな。そら心配くらいされる」

「それにすごい疲れてるんじゃないの? まだ顔色悪いし」

「多少の疲れはあったけれど、それくらい。問題ないわ」

「多少じゃないから、今日は休んだんでしょ?」

 

 雪乃のひと言をライハが聞き咎めた。痛いところを突かれて、雪乃は口をつぐんでうつむく。

 

「大まかな事情は聞いてる。雪乃、やっぱり無理しすぎよ。抜本的に委員会の状態を改善するべきね」

「分かっています。だからちゃんと仕事量は割り振ったし、負担は軽減するように」

「それじゃ足りてないから、そんなに疲弊してるんでしょ」

 

 ライハのもっともな指摘に、雪乃は再び口ごもった。

 

「業務に支障が出てるのなら、休んでる人たちを戻して委員会に集中させるべき。それが分からないあなたじゃないでしょう」

「ライハさんの言う通りだよ」

 

 結衣の語気には珍しく、トゲがあった。

 

「あたし、ちょっと怒ってるからね。だからみんなでやった方がいいって言ったのに……」

 

 結衣にそう言われて、流石の雪乃も申し訳なさそうである。

 また結衣の視線は八幡にも向けられた。

 

「ヒッキーにも、怒ってるから。困ってたら助けるって言ったのに……」

 

 八幡の代わりにペガが謝る。

 

「ごめんね、結衣。ペガもいずれこうなるだろうとは思ってたのに……もっと強く八幡に働きかけるべきだったよ」

「……記録雑務にその役職以上のことを望んでいた訳じゃないわ」

 

 かばうように雪乃がそう言ったが、ペガは首を振る。

 

「そういうことじゃないよ。役割とかそんなのなしに、友達として雪乃の間違いを正すべきだったんだ」

「私の、過ち……?」

 

 ペガの言葉に引き続いて、八幡が雪乃へと告げた。

 

「みんなで助け合うなんてのは理想論だ。それで世界は回ってない。だから俺は、一概に人に頼れとか協力しろなんて言わない。――それでも、お前のやり方は間違ってる」

「……じゃあ……正しいやり方を知っているの?」

「知らねぇよ。だけど、お前の今までのやり方と違ってるだろうが」

 

 八幡に続いて、ジードも雪乃に呼び掛ける。

 

『雪乃、君の掲げる奉仕部の理念は、飢えている人に魚の釣り方を教えるだったね。今の君のやってることは、魚を取って与えることだ。……どんな時でも、初心を忘れちゃ駄目だよ』

 

 ジードたちの説得を受けても、雪乃の顔には迷いが大きく残っていた。結衣はそれを払拭しようと、懸命に言葉を紡ぐ。

 

「ゆきのん、あたしとヒッキーを頼ってよ。誰かとかみんなとかじゃなくて……。あたしたちを頼って? あたしは、その……何が出来るって訳でもないんだけど。でも、ヒッキーは」

「……お茶も出さずにごめんなさい。紅茶でいいかしら」

 

 しかし雪乃は最後まで言わせずに、背を向けてキッチンに向かう。

 

「手伝うわ。一日休んだからと言って、身体は大事にしないと」

 

 ライハが雪乃の後を追いかけて、結衣は意気消沈した様子でソファに座り直した。

 ライハが紅茶のセットを運んできて、誰もが無言のまま飲み干すと、八幡がカップをテーブルに置いて立ち上がった。

 

「じゃあ、俺は帰るから」

「え、あ、あたしも……」

「私はもう少し残るわ。雪乃の容態、ちゃんと確認しないとね」

 

 ペガを影に入れた八幡と結衣が玄関に向かい、雪乃は二人を見送りに立つ。だが結衣が靴を履いているところに、そっと首筋に触れて呼び掛けた。

 

「由比ヶ浜さん……その、今すぐは、難しいけれど。きっといつか、あなたを頼るわ。だから、ありがとう……」

「ゆきのん……」

「でも、もう少し考えたいから……」

「うん……」

 

 雪乃の手に自分の手を重ねる結衣。二人が互いの温度を確かめ合っていると、八幡が立ち上がってドアノブに手を掛けた。

 

「由比ヶ浜、あとよろしく」

「え、ちょ」

 

 有無を言わせずに結衣を残して、ドアを閉める八幡。それからペガが八幡に尋ねかけた。

 

『八幡……どうするの?』

 

 八幡はマンションのエレベーターへと向かいながら、それに答えた。

 

「『いつか』なんて待ってたら、文化祭終わっちまうだろ。やるなら、『今』しかない」

『じゃあ!』

 

 ペガが弾んだ声を出した。八幡はおもむろにうなずきながら、もう姿の見えない雪乃に向けながら独白した。

 

「お生憎だったな、雪ノ下。お前の事情なんか知ったことか。俺は俺がしたいと思ったことをする。したいと思ったことだけをやる。後はお前が勝手に助かれ。それが俺のやり方だ」

 

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