やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。   作:焼き鮭

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彼らの明日に待ち受けているのは、絶望の暗雲なのか。(A)

 

 とある日のテレビのワイドショーで、ジードの特集が組まれていた。

 

『どこからともなく現れて、怪獣の脅威から私たちを救う謎の超人ウルトラマンジード! 姿を変え、武器を変え、目覚ましい活躍を見せるジードを支持し、応援する声は日に日に増えていってます』

 

 ナレーターの女性はジードを好意的に解説したが、その隣のコメンテーターの中年男性の学者は次のように言った。

 

『ですが、彼は危険な存在でもあります!』

『それは何故です?』

 

 聞き返したナレーターに、学者は語る。

 

『仮にあの力が私たちに向けられた場合、対抗する手段がありません。そもそも、ウルトラマンジードが本当に地球人のために戦っているかは不明瞭です。巷では、怪獣の出現はジードによる自作自演ではないかと疑う声もあります。何にせよ、怪獣撃退をジードに頼る現状は極めて危険であると言わざるを得ませんな……』

 

 ワイドショーの録画が、途中で結衣の手により止められて画面が消された。

 ここは星雲荘。八幡たちは今しがた、結衣が持ってきた録画を見せられていたのだ。

 

「これ! ママがこんなのあったって教えてくれたんだけど……ひどいと思わない!? あたしたち一生懸命やってるのに、自作自演だとか勝手なこと言ってくれちゃって! ほんと頭に来ちゃうよ!!」

 

 結衣は番組で語られたことにぷりぷりと怒る結衣とは対照的に、雪乃や八幡は意外なほど冷めた反応を見せていた。

 

「確かに不快であることには違いないけれど、だからと言って声高に批判を口にしたところで、こういうのはどうしようもないわ。所詮人は、自分が聞きたいと思うものしか聞き入れない都合のいい耳をしているのだもの」

「言いたい奴には言わせとけばいいんだよ。いくら言い訳したって、色眼鏡で見る奴は偏見でしか受け取らねぇからな」

「う~、それはそうかもしれないけど……」

 

 うなる結衣。二人の言い分は理解できても、感情では納得がつかないようだ。

 

「ジードんたちはどう思う?」

 

 ジードらに意見を求めると、彼らはこう答えた。

 

『まぁ、いい気分じゃないのは確かだけど……こんなこと言われるのも初めてじゃないんだ。僕たちの世界でも、同じことを言われたことがあるよ』

「結局、どこの世界でも人間は未知の存在を受け入れがたいものなのね」

「ペガは、結衣の気持ち分かるけどね……。リクたちが頑張ってるのに、心ないこと言われるのはやっぱり納得いかないよ……」

 

 ある種達観しているジードやライハとは異なり、ペガは複雑な様子で目を伏していた。

 レムが結衣に対して呼びかける。

 

[憤りを感じるのも当然です、ユイ]

「れむれむ……」

[ですが、言葉で取り繕うよりも行動で物語る方が人の心には響きます。リクも、初めは拒絶されていたのが地道な活躍を重ねることで支持されるようになりました。同じように、焦らずに辛抱強く過ごしましょう]

 

 レムの説得で、結衣もようやくうなずいた。

 

「……分かったよ。ジードんが認められるように、ジード部も頑張っていこうね!」

 

 結衣の呼びかけにうなずいた雪乃が口を開く。

 

「まずは、文化祭を無事に終わらせることを目指しましょう。私たちの敵は、今までの行動からして、きっと必ずまたちょっかいを掛けてくるでしょうから」

「文化祭か……」

 

 八幡が若干遠い目で虚空を見上げた。

 文化祭は、本番の日までいよいよ残り日数がわずかになってきていた。

 

 

 

『彼らの明日に待ち受けているのは、絶望の暗雲なのか。』

 

 

 

 ――文化祭本番まであと四日となった。生徒たちの準備もいよいよラストスパートが掛かり、高校全体が熱を帯びている。

 二年F組も、出し物である『星の王子さま』のアレンジの演劇の舞台作りと練習が並行して行われている。

 

「今晩……君は、来ちゃいけない」

「ぼくたちはずっと一緒だ」

 

 舞台上で台詞合わせをしている葉山ら男子生徒たちとはよそに、実行委員のため舞台には出演しない八幡が、委員会の前にクラスの様子を観察していた。

 

『色々ドタバタしてたみたいだけど、なかなか形になってきてるね』

「まぁな」

 

 話しかけてきたジードに小声で返す八幡。二Fの舞台準備は指揮を執る海老名の強いこだわりによって連日大忙しだったようだが、その甲斐はあってかなり凝った出来に仕上がっているのが準備段階から窺える。この調子ならば、本番は盛況することであろう。

 

『文実の方は色々と問題があったけれど……それでも本気で文化祭を盛り上げたい、成功させたいって人は少なからずいるんだ。その思い、守らなくちゃいけないよ、八幡』

「……まぁ、どんな時だろうとやることは一緒だろ」

 

 ジードの呼びかけに、あえてそっけない感じで返答した。これまでのレイデュエスの行動パターンからして、文化祭本番を狙って攻撃してくる恐れが濃厚。当日は、いつでも迎撃できるように心の用意をしておかなくては。

 そのことを確認しながら、八幡は準備に熱心なクラスからそっと離れて委員会へ向かう。その道中は、どの教室も熱気で溢れていた。

 

 

 熱気に包まれているのはクラスだけではなく、実行委員会も同じであった。八幡の行動以来、委員会は人が戻ってそれまでの遅れをすっかりと取り戻し、今は本番に向けた最終調整の段階に入っている。

 八幡は記録雑務の仕事を進めながら、そんな委員会全体の様子をざっと見回した。一番働いているのは依然として雪乃。その横では相模が人形のようにちょこんと座っている。生徒会長のめぐりは他の委員たちと打ち合わせをしている。

 それを見やりながら、八幡はふとつぶやいた。

 

「そういや、最近陽乃さん来ねぇな」

『言われてみればそうだね』

 

 相槌を打つジード。陽乃は文化祭準備の初期から、外部の有志団体として文実に顔を出す日々が続いていた。頼まれもしないのにこちらの仕事を手伝ってもいた。しかし数日前より、ぱったりと顔を見せなくなった。

 あくまで有志なのだから別に頻繁に出席する必要はない、むしろ今まで当然のようにいたのがおかしいくらいなのだが……あの陽乃が急に現れなくなった、ということが八幡の中では少し引っ掛かっていた。雪乃も、表向きはせいせいしたような顔をしているが内心では気にしているのが見て取れる。一体陽乃はどうしたのであろうか。

 

「……まぁ、あの人にだって都合ってもんがあるだろうしな」

 

 八幡はそうつぶやいて、無理矢理己を納得させた。

 

 

 × × ×

 

 

 その頃、当の陽乃は、ゼナとAIBエージェントのペダン星人とともに、総武高校周辺地域の警戒を行っていた。レイデュエス一味がこの付近に出没する可能性が高いとして、捜索をしているのだ。

 

『……陽乃、少し悪いことをしているだろうか。人手不足とはいえ、連日我々の任務に駆り出して。今は妹の活動を手伝っていたのだろう』

 

 その中でゼナがふと思い出したように陽乃に問いかけると、陽乃はひらひら手を振りながら断った。

 

「いえいえ、いいんですよ~。雪乃ちゃんの方はもう大丈夫みたいですし。比企谷くんのお陰でね。だからわたしは、雪乃ちゃんの文化祭を邪魔するような悪い奴にはとっととお帰りいただくことの方に専念しますっ!」

『大分力が入っているみたいだな』

「そりゃあもう! ……雪乃ちゃんの頑張りや楽しみを踏みにじるような真似は、絶対許さないんだから」

 

 陽乃が一瞬だけ小声で、暗い瞳でつぶやいたのを、ゼナは見逃さなかった。

 鼻歌交じりに先を行く陽乃の背中を見やりながら、ペダン星人がゼナに質問をする。

 

「ゼナさん、前々から気になっていたのですが、臨時とはいえ彼女を積極的に任務に登用しないのはどうしてなんですか?」

『何故か、だと?』

「はい。だって雪ノ下さん、AIB始まって以来の好成績で入局したんでしょう? まぁ、その入局するまでの経緯が経緯ですが……。けど優秀ならもっと多くの場面で活用するべきだと私は思いますが」

 

 と意見するペダン星人に、ゼナは次のように回答した。

 

『私が彼女の登用に消極的な理由。それは端的に言えば……』

「端的に言えば?」

『――彼女が、銃を持たせてはいけない類の人間だからだ』

 

 そのひと言に、ペダン星人は一瞬固まった。

 

「……は?」

『もっとも、そのことは陽乃自身が一番分かっていることだろうがな』

「え、えぇ……?」

 

 ゼナが何を言っているのか、ペダン星人には理解が及ばなかった。

 それをよそに、ゼナは通信機を取り出して別動隊と連絡を取り始める。

 

『定時連絡。B班、そちらは異常ないか? うむ。C班、報告せよ。……よし』

 

 他の班からの報告を受けていくゼナだったが、その流れが途中で止まる。

 

『D班、どうした。何故定時連絡をしない。応答せよ』

 

 ゼナの不審な様子に、陽乃の足がピタリと止まった。

 

『応答せよ、D班! ……まずいッ!』

 

 ゼナもD班の異常に声を荒げ、陽乃と動揺しているペダン星人に振り返った。

 

『総武高校に急ぐぞ!』

「は、はいッ!」

「……了解」

 

 踵を返したゼナを先頭に、三人は総武高校に向けて急行し始めた。

 

 

 ――ゼナが通信を掛けたD班のエージェントたちは、路地裏のゴミ捨て場の陰に押し込まれて人の目から隠されていた。

 彼らの身体の下に、赤い水たまりが広がっていた。

 

 

 × × ×

 

 

『……ッ!』

 

 八幡はひたすら議事録を打っていると、ジードの意識が不意にざわついたのを感じ取った。

 

「おい、どうしたんだ?」

『八幡……!』

 

 何事かと尋ねかけると、ジードが焦った口調で告げる。

 

『レイデュエスが近づいてる! しかも得体の知れない気配を伴って……!』

「何だって……?」

『ペガも感じたよ!』

 

 ダークゾーンの中からペガも言った。

 

『ここからでも分かる、明らかにやばい感じ……! 多分、ペガたちに分かるようにわざとそうしてる……!』

「それどういうことだよ……?」

『とにかく、今までとは様子が全然違うってことだ! きっとこれまでになくやばい……すぐに向かって!』

「ち、ちょっと待ってくれって……」

『急いでッ!』

 

 戸惑う八幡だったがジードに急かされて、仕方なく雪乃に視線で合図を送りながら席を立った。

 

「ごめんなさい、少し席を外すわ」

 

 合図を受けた雪乃もひと言断りを入れてから、速足で会議室から離れていった。突然、雪乃と八幡が示し合わせたように同時に会議室から出ていったことに周りはぽかんとしていたが、八幡たちにはそれに構っている暇もなかった。

 

 

 × × ×

 

 

 途中、レムから連絡を受けた結衣も加わり、八幡たちは人目のない校舎裏に駆けつけた。

 そこでは、レイデュエスがオガレスとルドレイを側に控えさせながらニヤニヤと八幡たちを待ち構えていた。

 

「ふふふ……そろってるようだな」

 

 八幡たち三人が面前に現れると、レイデュエスはもったいぶった態度で口を開いた。八幡たちは彼を激しくにらみつける。近くにはライハも待機しており、レイデュエスたちが怪しい動きを見せたらすぐに飛び出せるようにしている。

 

「まさかここに乗り込んでくるなんてね……」

「何しに来たの! ここのみんなに手を出すつもりなら、許さないんだからねっ!」

「こちとら今忙しいんだよ。それに学校は部外者立ち入り禁止なんだ。とっとと失せやがれ不審者」

 

 八幡たちは敵意を剥き出しにしてレイデュエスに言い放ったが、レイデュエスは完全に無視して告げた。

 

「突然だが、今日はお前たちにお別れを言いに来た」

「はぁ……?」

 

 いきなりの発言に呆気にとられる八幡たち。それにレイデュエスは大仰に肩をすくめる。

 

「言ってる意味が分からなかったか? つまり――お前たち全員、今日で命が終わりになるということだよ。この俺の手によってな」

「……よくある台詞だが、寝言は寝てから言えよ」

 

 呆れる八幡のひと言に結衣は大きくうなずく。

 

「その冗談ちっとも面白くないよ! あんたなんか、いっつもあたしたちにやられてるじゃん!」

 

 と突きつけると――レイデュエスはあからさまに冷笑した。

 

「ハッ! これだからおつむの足りない奴は困る」

「な、何だってー!?」

「今までは、俺が遊んでやってただけのことだよ。出来損ないの集まりのお前ら相手にな。そんなことも分からなかったのか?」

「こ、こいつぅ……!」

 

 発憤する結衣だったが、それを雪乃が押しとどめる。

 

「待って、由比ヶ浜さん。様子がおかしいわ……いきなりあんなことを言い出したからには、何かしらの理由があるはず。気をつけるべきよ」

「そっちはそれなりに察しがいいみたいだな」

 

 レイデュエスは高圧的な態度で雪乃を評しながら、八幡たちに向かって語る。

 

「そもそも俺が最初から『あのカプセル』を使っていたら、お前らなんぞにつき合ってやる必要すらなかった。だがウルトラマンジード、お前のせいでカプセルが動作不良を起こしてしまってなぁ。再起動するのにマイナスエネルギーを集めなくてはならなくなった。そう、最初の戦いの時のことだ」

「最初の戦い……?」

 

 八幡たち三人はピンと来ていなかったが、ペガが顔を出して言う。

 

「この地球に着陸する前! 宇宙空間でのことだ! 地球に迫るあいつらの円盤を、リクが止めようとした……!」

『……まさかッ!』

 

 ジードの声音に緊張が走る。対するレイデュエスはそれを確認して愉悦を見せた。

 

「そうとも! あの時に使用してた怪獣カプセルが、やっと再起動を完了したのさ! 最終調整も済ませて、満を持して終わりにしに来たという訳だ。……この遊びの日々を、お前らの命をッ!」

「はぁぁぁっ!」

 

 ライハが飛び出してレイデュエスに猛然と斬りかかったが、レイデュエスたちの周囲に張られた力場によって弾き返されてしまう。

 

「くっ……!」

「ライハさん!」

「そう焦るな。今見せてやるさ! このレイデュエス様の、最強の力をッ!」

 

 レイデュエスがバッとジャケットを翻し、腰の装填ナックルを露わにした。

 

「宇宙指令M49!」

 

 叫びながら一つ目の怪獣カプセル――EXゼットンカプセルのスイッチをスライドする。

 

「イッツ!」

『ピポポポポポ……!』

 

 EXゼットンカプセルをナックルに装填し、二つ目のカプセル――ハイパーゼットンカプセルを起動。

 

「マイ!」

『ピポポポポポ……』

 

 ハイパーゼットンカプセルも押し込むと、ブラッドライザーを取り出して掲げる。

 

「ショウタイム!!」

 

 ライザーで二つのカプセルをスキャン。ライザーの液晶に紫色の二重螺旋が光った。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハッ!」

 

 レイデュエスが哄笑を発しながら、暗黒の異空間の中で魔人態に変わりながらEXゼットンとハイパーゼットンのビジョンを口の中に吸い込んでいく。

 

EXゼットン! ハイパーゼットン!

レイデュエス! ダークオーヴァーゼットン!!

 

 レイデュエスが姿を変えた融合獣が、フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、八幡たちの目の前にそびえ立つ。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 漆黒の装甲で覆われた人型の肉体に、太く鋭い爪を持った四肢を生やし、胸部には複数の黄色い発光体と、レイデュエス魔人態の七つの紫の光体を持つ。悪魔の角のような触覚を伸ばした頭部には、普通の顔のパーツの代わりに死を暗示する十字架型の黄色い発光体を張りつけた、禍々しいオーラが全身から立ち昇る巨大怪獣に、レイデュエスは変身した。

 最強の怪獣と最強の怪獣を掛け合わせた、最強のレイデュエス融合獣ダークオーヴァーゼットンが、復活を遂げてしまったのだ!

 

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