やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。 作:焼き鮭
――八幡は夢を見た。見慣れない景色、記憶にない街並み。にも関わらず情景が細部まではっきりとしている。まるで、実際に見たことがあるかのように。
(これは……?)
その街並みの中で、八幡はウルトラマンジード・ソリッドバーニングとなって怪獣と戦っている。ずんぐりとした体格の人型で、生体と機械が混ざり合った肉体。黒い生体の部分は、奇しくもダークオーヴァーゼットンと似ていた。
ジードはジードクローを片手に怪獣に応戦するが、怪獣は相当な強さであり、ジードを押している。その戦いの最中に、怪獣から人の声が発せられた。
『ウルトラマンジード! ベリアル様に似たその姿を私に殴らせるのは不愉快だったぞ! お前は作られた模造品だぁ!!』
それはジードをなじる言葉であった。
怪獣はおぞましいほどの執念をにじませた暴力によってジードを投げ飛ばし、どんどんと追いつめていく。そして灼熱の光線を撃ってきて、ジードはストライクブーストでそれを迎え撃った。
『ストライクブースト!』
ジードの光線と怪獣の光線が正面衝突し、弾け飛んだエネルギーが周囲に降り注いで被害を増加させる。しかしここで光線を止めたら直撃を食らってしまうので、ジードはストライクブーストを止めることが出来ない。円を描きながら間合いを取り合い、光線を拮抗させる。
その撃ち合いを続ける中でも、怪獣はジードを罵倒してきた。
『お前は自分が救世主か何かだと思っていたな。それは違うぞ! お前が存在しなければ、街も破壊されなかった!』
『怪獣が出るのは、僕のせいだっていうのか!』
『そうだ! 自分の存在と決意が、如何に大勢を不幸にしているか自覚するといい! 今から証明してやろう……! 全力で来いッ!!』
怪獣が光線の勢いを増幅させる。ジードもまた負けじと、ストライクブーストの出力を限界ぎりぎりまで上げたのだが……。
『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!』
そのせいで飽和したエネルギーが大爆発を引き起こし、街全体が爆炎に呑まれていく。
八幡の視界もまた、爆炎に呑み込まれて白く塗り潰され、何も見えなくなった……。
「ピポポポポポポ……!!」
総武高校も、八幡たちの家も、建物の何もかもが瓦礫となり果てて焦土となってしまった千葉市内で、ダークオーヴァーゼットンが空に向けて暗黒火炎弾を発射した。
暗黒火球は音速で大気圏を突き抜け衛星軌道上を走り、日本から遠く隔てたパリを狙撃。エッフェル塔に命中して爆破し、ドロドロに溶かしながらへし折った。パリ市民は、次々に飛んでくる暗黒火球からなす術なく必死に逃げ惑うばかり。
ジードを破ったレイデュエスは怪獣カプセルの冷却が完了する端からダークオーヴァーゼットンにフュージョンライズし、世界中の主要都市を狙撃する凶行を繰り返していた。既にモスクワなども被害に遭い、全世界で被害者数が急激に増加していっている。
一歩も動かずに世界中を爆撃しているオーヴァーゼットンの様子を、リポーターが瓦礫の山に隠れながら中継していた。
「怪獣は今もなお各国の主要都市への攻撃を続けています。各国は軍を派遣しましたが、戦闘機もミサイルも全て日本領域に入ることもなく撃ち落とされてしまいました……。最早人類の力ではあの怪獣を倒すことは出来ません。ですが……ウルトラマンジードは死んでしまったのでしょうか。もう私たちに、明日はないのでしょうか……」
× × ×
「……うッ……」
八幡が目覚めた時に飛び込んできた景色は、星雲荘の天井であった。
「八幡ッ!」
ペガがはらはらとした顔つきで自分の顔を覗き込んでくる。八幡は、星雲荘のベッドで寝かされていた。
「ペガ……俺は……」
「大丈夫? どこか痛いところはない?」
[無事に目を覚まして、ほっとしました]
レムも安堵の声を発する。今星雲荘にいるのは、自分も入れてこの三人だけ。
「ライハさんは? あと、雪ノ下と由比ヶ浜は……」
八幡が聞くと、途端にペガの顔が大きく曇った。彼に代わってレムが回答する。
[ユキノとユイはさらわれました。今はライハが救出に向かっています]
「えッ……!」
× × ×
壊滅し荒れ果てた町の中に、レイデュエス一味の円盤が堂々と着陸している。雪乃と結衣の二人は、その船内のバリア型の檻に閉じ込められている。
檻の中で力なく座り込んでいる雪乃たちの様子を、オガレスとルドレイがにやつきながらなめ回すようにながめていた。
『ククク……近くで見たらますます上玉だな、これは。こんなのとフュージョンライズしていたジードが羨ましい限りだ』
『これは好事家に高値で売りつけられそうですなぁ、殿下』
自分たちを売り飛ばす相談をするルドレイをきつく見上げる雪乃だが、言葉はない。この状況で反抗的な言葉を口にして自分たちを危険に晒すような真似をする彼女ではない。
パリを焼け野原にして戻ってきたレイデュエスが、雪乃たちに対する嘲笑を浮かべながらルドレイに返した。
「待て待て。こいつらはジードをおびき寄せる餌なんだぞ。そういうのは奴が来てからにしろ。もっとも、ウルトラマンジードならともかく、あの腐れ目玉にわざわざ死にに来る度胸があればの話だけどな!」
『全くですなぁウワハハハ!』
レイデュエスのひと言にオガレスとルドレイは腹を抱えて大爆笑。
「俺はカプセルの冷却完了まで休んでくる。それまでしっかりと見張ってろよ」
『お任せ下さい』
上機嫌でその場から立ち去っていくレイデュエス。その姿が見えなくなると、雪乃がうつむいて体育座りしている結衣の肩にそっと手の平を置いて慰め出した。
「由比ヶ浜さん、絶望しないで……。ライハさんやAIBがきっと助けに来てくれるわ。それに、私たちがこうして生きているのだから、ジードもきっと生きている。比企谷くんも……。きっと助かるわ……」
しかし、結衣はうつむいたまま顔を上げない。
「助かって、どうなるって言うの……?」
「え……」
「学校も、部室も、町も、みんな燃えちゃった……。文化祭、張り切って準備してたのに……まだまだ色んなこと、みんなとしたかったのに……奉仕部の場所まで……。ひどいよ、あんな……ひどすぎるよ……」
肩を震わせる結衣。彼女は自分たちの暮らす町、自分たちの居場所が壊されてしまったこと……それを止めることが出来なかったことで、完全に心が折れてしまっていた。
「……」
そのことには、流石の雪乃も何も言うことが出来ず、気まずそうに沈黙するばかりであった。
× × ×
レムから気絶後の経緯を聞いた八幡は、自責の表情を浮かべる。
「雪ノ下、由比ヶ浜……くそッ!」
いてもたってもいられず、ベッドから立ち上がろうとしたが、それをジードに止められた。
『行っちゃ駄目だ』
「ジード?」
『……僕だけならともかく、君まで道連れに死なせる訳にはいかない……』
そのジードのひと言に、星雲荘に沈黙が流れた。
しばしの静寂の中、八幡が口を開いてジードに問いかける。
「ジード……あの野郎が言ってたことって……」
『……全部本当のことだ』
ジードは力のない口調で肯定した。
『僕はヒーローに憧れてた。たとえ悪人の子供でも、頑張ればヒーローになれると思って努力してた。だけど……ヒーローになるどころか、戦いそのものが用意された芝居だった。僕はヒーローの「役」を演じさせるために作られた、ウルトラマンの偽物だった……』
ジードの言葉により、八幡は理解した。先ほどのリアルな夢は、意識が混濁していたことで垣間見たジードの記憶なのだ。
『それでも本物のヒーローになれる、本物のウルトラマンになれると信じて頑張ってきた。だけど……それがこのザマだ。結局、僕は本物には……』
「そんなことは……!」
ペガが励まそうとしたが、レムに止められる。
[ペガ。今は、ハチマンと二人で話をさせてあげましょう]
「レム……」
レムのたしなめで黙るペガ。代わりに、八幡がジードに呼び掛ける。
「ウルトラマンの偽物とか、本物のウルトラマンとか……そんなもん、俺には区別がつかねぇな」
『え……?』
「俺から見たら、ジードの力はいちいちすごすぎて、正直偽物とか本物とかどうでもよくなるレベルだ。だから気にすることなんかねぇと思うぜ。そんなことより、今やるべきは……」
今度は本当に、八幡はベッドから立ち上がった。
『で、でも……次戦えば……!』
「まぁそうだろうな……。俺だって、これが「自分だけなら」、情けなく尻尾巻いて逃げ出してたとこだ」
けどな、とつけ加える八幡。
「あの虎の威を借る狐野郎、お前のことまで散々貶しやがったんだぜ。だからあいつの面に一発はぶち込んでやらないことには、どうにも収まりがつかねぇよ」
『八幡……』
「それにお前がよく言ってるじゃねぇか。ジーッとしてても」
八幡からの呼びかけに、ジードは苦笑をこぼした。
『ドーにもならない。そうだよな……!』
「ああ。そっちの方がお前らしいや」
八幡も苦笑いし、ピシャッと己の頬を叩いて活を入れた。
「よっしゃ! レム、エレベーター出してくれ!」
[分かりました。……どうかお気をつけて]
「絶対、ここに帰ってきてね!」
心配するレムとペガに、八幡は不器用な笑顔で応じる。
そしてジードが、八幡に次のように呼び掛けた。
『ゼロ……僕の仲間が言ってたことなんだけど、あきらめない者の上にはウルトラの星が輝くんだって』
「ウルトラの星が?」
『ああ。ウルトラの星が、明日を照らしてくれる……。僕たちもそれを信じて、あの闇を吹き飛ばそう!』
「ははッ、まるでおとぎ話だな……。でも今はそれがありがたいぜ!」
ジードの言葉に破顔した八幡を乗せて、エレベーターの扉が閉じていった。
× × ×
雪乃と結衣の檻を監視するオガレスとルドレイ。しかし二人が脱走しようとする気配もないことから、すっかり楽に構えて雑談している。
『これでこの星は我々のものになったも同然だ』
『これからは世界中の人間どもの絶望を糧に、超強力な怪獣カプセルをいくらでも作れる』
『殿下のお力はますます強まり、宇宙支配も夢ではなくなる訳だ』
『フフフ……殿下の横暴に耐えた甲斐があったというもの』
野望を夢描いてほくそ笑んでいるルドレイたち。
その時に、円盤のホールの自動ドアの一つが独りでに開く。
『ん? 誰もいないのにドアが……』
『誤作動か?』
オガレスたちの目がそちらに引きつけられると――反対側のドアから、ライハが剣を振り回しながら内部に突入してきた!
「はぁぁぁぁっ!」
『何!? うぎゃああッ!』
意識をそらしていたオガレスとルドレイはまともにライハの太刀を食らった。致命傷こそ防いだが、吹っ飛ばされて転倒、そのままのびてしまった。
それから先に開いたドアから、囮役となったゼナが辺りを警戒しながら進入してくる。
『レイデュエスはいないようだな』
「二人とも、大丈夫だった? 手荒な真似はされてない?」
「ライハさん……!」
ライハは真っ先に雪乃と結衣の身を案じた。ゼナは円盤のコンソールを操作して、檻のバリアを解除する。
「さぁ、ここから脱出よ。……落ち込むのも分かるけれど、まずは自分たちの安全を確保して」
「はい……!」
ライハは励ましの言葉を掛けながら、二人に手を差し出して立たせる。そしてライハとゼナは、雪乃たちを連れて円盤から外へと脱出していく。
『どうやら追っては来ないようだ』
「レムにエレベーターを出してもらうわ。星雲荘まで行けばもう安心……」
レムと連絡を取ろうとしたライハだったが……その瞬間に彼女たちの足元に光弾が着弾し、炸裂を起こす。
「きゃあっ!?」
『ぐッ!』
光弾は円盤外から飛んできた。予想外の攻撃にライハたちは倒れ込む。
「全くあいつら、見張りもろくに出来ないとは……。あの無能どもでも使い続けなきゃならん現状が恨めしいな」
光弾を撃ったのは、ブラッドスタッフで肩をトントンと叩くレイデュエス。異変に気づいて、脱出直後の油断する一瞬を狙うためにあえて外で待ち構えていたのだ。
「ひっ……!」
レイデュエスの顔に怯える結衣と雪乃に、レイデュエスは冷酷な目を向ける。
「お前らはジードの餌のつもりだったが……この俺の手を煩わせるのは勘弁ならんな。勝手なことをする目障りな奴は、俺は消すことにしているのさ……!」
二人を撃ち殺そうと、スタッフを向けて光弾を作り出す。倒れ込んでいる雪乃たちは逃げられず、ライハとゼナも間に合いそうにない。
「雪乃っ! 結衣っ!」
「……!」
「た、助けて……ヒッキー……!」
雪乃は声も出すことが出来ず、結衣は祈ることしか出来ない。そしてレイデュエスの光弾が発射される――。
その寸前に、別の方向から飛んできた光線獣の弾丸が光弾に命中し、暴発を引き起こした。
「ぐおッ!?」
「えっ!?」
突然助かったことに、むしろ驚く雪乃たち。今の弾丸は誰がやったのだ? 八幡ではないはずだ。
呆気にとられる雪乃の前に、ザッと飛び込んで盾となるスーツ姿の女性。それは、
「雪乃ちゃんを傷つけようとするのは……許さない」
「ね、姉さん……!?」
冷え切った声を発してレイデュエスに銃を突きつける陽乃の後ろ姿に、ゼナ以外が仰天した。
「ど、どういうこと……!?」
「……この姿は、ほんとは雪乃ちゃんには見せたくなかったんだけどな」
『すまんな……』
若干落胆する陽乃の隣に起き上がったゼナが並び、二人でレイデュエスに発砲する。
「ちッ……! 次から次へと邪魔ばかりが入る……せっかくいい気分だったというのにな……!」
レイデュエスは暴発で負傷を受けた腕を再生させながら、弾丸を闇のバリアでさえぎる。そしてスタッフを怪獣カプセルとブラッドライザーに持ち替えた。
「そんなに纏めて仲良く死にたいのなら、望み通りにさせてやろうじゃないか……宇宙指令U39!」
EXゼットンカプセルとハイパーゼットンカプセルをナックルに装填して、フュージョンライズする。
[レイデュエス! ダークオーヴァーゼットン!!]
ダークオーヴァーゼットンの姿に変身、巨大化して陽乃たちの前にそびえ立った。こうなっては、手持ちの銃の銃撃など全く効かない。
「ゼットォーン……! ピポポポポポポ……!!」
「ああっ……!」
流石の陽乃とゼナも立ち尽くした。ライハはせめてと雪乃と結衣を背にかばうものの、ダークオーヴァーゼットン相手に何の意味があろうか。
『「安心しろ、痛みもない。一瞬で蒸発するぞッ!」』
レイデュエスが一片の慈悲もなく、雪乃たちに暗黒火球を落とそうとする――!
[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]
まさにその刹那、ジードが横から飛び込んできてオーヴァーゼットンにタックル。暗黒火球はそれて空に打ち上がっていった。
「ジード!!」
叫ぶ雪乃たち。ウルトラマンジードが助けに駆けつけたということは――。
『「あっぶなかったなぁ、おい……!」』
ジードの超空間で、八幡がどっと息を吐いた。地上に上がった彼だが、その時にダークオーヴァーゼットンが雪乃たちを殺害しようとしていたので咄嗟にフュージョンライズしたのである。
不意のタックルで横転したオーヴァーゼットンだが、起き上がるとジードに向き直って侮辱の言葉を投げかけた。
『「本当に死にに来るとはな! 逃げ出さなかったことだけは褒めてやる!」』
『「ありきたりな台詞だが、テメェに褒められたって何一つ嬉しくねぇよ! それにな……!」』
八幡は虚勢であっても、レイデュエスに負けないように声を張り上げた。
『「死にに来たんじゃねぇ! テメェをぶっ倒しに来たんだよ!!」』
『「ハハハッ! もっと現実的なことを口にするんだな!!」』
大きく腕を振って野獣のようなあファイトスタイルを取ったジードが、余裕に構えるダークオーヴァーゼットンへと全力で飛びかかっていった。