やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。 作:焼き鮭
ジードがダークオーヴァーゼットンと戦う間に、雪乃たちは安全確保と彼の邪魔にならないようにと、エレベーターによって星雲荘に退避してきた。
「みんな! ……えッ!? 何で雪乃のお姉さんまで一緒に?」
出迎えたペガは、陽乃の顔を目にした途端に仰天した。陽乃はペガに対して軽く手を挙げる。
「こうして面と向かうのは初めてだねペガくん。だけど今は事情を説明してる場合じゃないよね」
雪乃も説明してほしそうにしていたが、モニターに映し出されるジードとオーヴァーゼットンの戦闘の様子に注意を向けた。
「ここでジード……比企谷くんがやられたら、私たちみんな彼の後を追うしかないかもね」
冗談めかした陽乃の発言であったが、その顔は極めて真剣であった。
「ヒッキー……!」
結衣を始めとして、皆がジードに対して祈っていたが、一方で不安もぬぐい切れずにいた。
何せ、考えられ得るベストの状態でもまるで歯が立たなかったのに……今の八幡には、雪乃の補助も結衣の力添えもないのだ。
× × ×
「シュアッ!」
「ピポポポポポポ……!! ゼットォーン……!」
ジードは地を蹴ってオーヴァーゼットンに飛び膝蹴りを仕掛ける。しかしオーヴァーゼットンは超スピードの瞬間移動により、あっけなくジードの先制攻撃をかわして背後に回り込んだ。
「ハァッ!」
ジードが振り向きざまに平手打ちを繰り出しても、オーヴァーゼットンは絶え間ない超高速移動によって逃れてしまう。アクロスマッシャーでも全く追いつけなかった速度なのだ。プリミティブでは、指先をかすらせることさえ出来ない。
『「またオーバーヒートになったら興ざめなんでな。今度は手早く、しっかりと息の根を止めてやろう!」』
レイデュエスは確実にジードを葬るつもりのようで、瞬間移動を駆使した四方八方からの鉤爪攻撃の連続でジードを一方的になぶり出す。
「ウワァッ!」
少しも反撃できず、瞬く間に追いつめられるジード。しかしこちらとて、今度は負けられない。八幡はダメージをこらえながら、プリミティブの他になれるフュージョンライズ形態に移行した。
[トライスラッガー!!]
「ショアッ!」
起き上がりながらトライスラッガーに変身すると、三本のスラッガーを頭部から飛ばしながらジードクローを握り締めた。
「ハァァッ!」
気合いとともに、スラッガーを伴いながらオーヴァーゼットンに突進していく。三振りのスラッガーで相手の逃げ道をふさぎ、ジードクローを叩き込む作戦である。
「ピポポポポポポ……!!」
だがオーヴァーゼットンはスラッガーが到達するより早くテレポートで逃れ、ジードの斬撃はどれも空を切った。
更に超高速で飛び回るオーヴァーゼットンが爪でスラッガーを蹴散らし、至近距離まで急接近してジードに暗黒火炎弾を撃ち込んだ。
「ウワァァァッ!」
吹っ飛ばされたジードは、地面に叩きつけられると同時に、トライスラッガーの形態が解除されてプリミティブに戻ってしまった。ダメージが激しく、早くもカラータイマーが鳴り出す。
やはり、力の差は歴然。気力や根性でどうにかなるレベルではない。
『「ハハハッ! 女どもがいても敵いやしなかったのに、お前のようなクズ一人で勝てると思っていたのか? 本気だったら度し難い大馬鹿だなぁ!!」』
立ち上がろうとしても腕が震えているジードを傲然と見下し、八幡をあざ笑うレイデュエス。
八幡は、ジードと同じ姿勢で這い上がろうとしながら歯を食いしばっている。
『「う、うるせぇ……! まだ……勝負は捨てねぇ……!」』
『「捨てないのなら、俺が焼き尽くしてやろうッ!」』
オーヴァーゼットンは発光器官の前に、ジードを押し潰せるほどの大きさの暗黒火球を作り出す。
そのエネルギー量は、ジードといえども耐えられない。対するジードはろくに身動きできない絶望的状況。
それでも、八幡は決してあきらめようとしていない。
『「これだけは……あきらめねぇ……途中で投げ出したりしねぇッ……! やるんだ……立ち上がるんだッ……!」』
この勝負の負けには、後がない。自分どころか、ジード、そして皆の明日がなくなるのだ。だから、立ち上がらないと。
「ピポポポポポポ……!!」
しかしジードが起き上がるのも待たず、ダークオーヴァーゼットンは無情に暗黒火球を放ってきた。
絶対的な死の影が、ジードと八幡に覆い被さる。
『「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッ!!」』
暗黒火球が落下し、爆ぜた。
星雲荘で戦いを見守っていた面々が、凍りつく。
「リク!!」
「ヒッキー!!」
「比企谷くん……!」
皆が、信じたくなかったが、思うしかなかった。もう、終わりだ――。
[――いえ]
『「ハ――――ハハハハハハァッ! さらば、ウルトラマンジード!!」』
勝ちを確信して、哄笑とともに宣言するレイデュエス――。
『「――あ?」』
だが哄笑は、途中で途切れた。
暗黒火球の着弾点――そのすぐ横で、ジードはよろめきながらも立ち上がっていたからだ。
『「……目測を誤ったか? ならもう一発ッ!」』
レイデュエスは訝しみつつも、改めて暗黒火球を放つ。先ほどと同じ大きさの火球がジードに迫る!
――が、火球が着弾し炸裂しても、ジードは健在であった。先ほどと同じように、着弾点とは違う場所に立っている。
『「な、何!? そんな馬鹿な!!」』
はっきりと異常を察してうろたえるレイデュエス。攻撃はちゃんと狙った場所に当たっているのに、ジードには当たらない。――いや、ジードがいつのまにか『別の場所に立っている』。
『「だったらこの手で直接カラータイマーを砕いてやるッ!」』
オーヴァーゼットンが猛然とジードに肉薄し、胸のカラータイマーを狙って鉤爪を突き出す――。
だがたった一瞬の内にジードが目の前からかき消え、爪は空振りした。事ここに至って、レイデュエスは息を呑む。
『「まさかッ! いやもう間違いない!!」』
何の予兆もなく逃れたジードに振り向きつつ、レイデュエスは確信した。
『「あいつ……時間を止めてやがるッ!!」』
八幡は――自分が体験している『現象』に理解が追いつかずに半ば呆然としていた。
『「時間が、止まってる……いや、止めてるのか……?」』
異変を感じたのは、最初の暗黒火球が目前まで迫ってきた時。その火球が――突然、ピタリと止まったのだ。そのお陰で回避することが出来たのだが……その時は、何が起こったのか全く分からなかった。
しかし二発目の火球も、ダークオーヴァーゼットン本体もいきなりビデオを一時停止したかのように停止したことで、短い間だが『時間が停止している』ということに気がついた。――だが、どうしてそんなことが起きているのか――。
そう思った瞬間、八幡は己の手の平が激しく発熱しているのを感じた。
『「俺の、手の平が……!」』
そして――胸に光が芽生える。八幡とジードは、強い衝撃を受けた。
『八幡……それは……!!』
レムがはっきりと告げる。
[ハチマン。あなたは、たった今、リトルスターを発症しています]
八幡のまぶたが、大きく開かれた。
『「俺に……リトルスターが……!」』
八幡のリトルスターは胸元から離れ、腰のカプセルホルダーに移った。八幡はすぐに、自分のリトルスターが宿ったカプセルを引き抜く。
『セェアッ!』
浮かび上がった絵柄は、銀と金のウルトラマンゼロ。しかもカプセル本体も、他のものとは違い金色をしている。
[シャイニングウルトラマンゼロカプセル、起動しました]
そう告げるレム。八幡がジードに向かってうなずくと、ジードも力を込めてうなずき返した。
明日を照らすのは、星ではなく――。
レイデュエスは狼狽しながらもジードに襲い掛かる。
『「どぉいうことだぁぁッ! 貴様にそんな能力はないはずだぞぉぉぉッ!」』
嫌な予感を覚えたレイデュエスは、確実にジードの息の根を止めようと飛びかかっていく。
『「時間を止めるより速く殺してやるッ!」』
――だが、ジードから不意にまばゆい閃光が発せられて、それを一身に浴びたことで思わず動きが止まった。
『「ぐわぁッ!? ま、まぶしいッ!」』
それは、明日を照らす輝きであった。
八幡はホルダーから、一本目のカプセルを引き抜き起動する。
「『ユーゴー!」』
『シェアッ!』
ジードと――八幡が声をそろえて叫び、カプセルからウルトラマンのビジョンが現れる。
ウルトラマンカプセルを装填ナックルに収め、たった今起動したカプセルを続けて使用。
「『アイゴー!」』
『セェアッ!』
シャイニングウルトラマンゼロのビジョンが腕を振り上げ、カプセルをナックルへ。
「『ヒアウィーゴー!!」』
そして二つのカプセルをジードライザーでスキャン。
[フュージョンライズ!]
『「おおおおお……!」』
カプセルの情報をスキャンしたライザーを、八幡は雄たけびとともに胸の前に持っていく。
『「はぁッ!」』
そしてトリガーを握り締め、フュージョンライズ!
「『ジィィィ―――――――ドッ!」』
八幡とジードの叫びとともに、二つのビジョンが彼らと重なり合った!
[ウルトラマン! シャイニングウルトラマンゼロ!]
[ウルトラマンジード! シャイニングミスティック!!]
二つの逆巻く渦巻きを突き破り、黄金色の粒子を身に纏いながら、銀と金の螺旋の中をジードが飛び出していく!
――強烈な閃光で立ちすくんでいるダークオーヴァーゼットンの正面に、新たな姿となったウルトラマンジードが仁王立ちする。
『「な、何だと……!?」』
星雲荘でも、雪乃たちが驚愕で目を見張っていた。
「あれは……!?」
「すごい……キラキラ……!」
結衣はジードの姿を目にして、演劇でやるはずだった『星の王子さま』という言葉が脳裏に浮かんだ。
今のジードは全身黄金色であり、両腕にスラッガーを備えている。それ以外の目立つ装飾などは特にない、至ってシンプルな体躯であるが、その立ち姿は非常に神々しいオーラで包まれていた。
地球と光の国の始まりを告げた神秘の戦士ウルトラマンと、光を極めた超戦士シャイニングウルトラマンゼロの力を継いだ煌めく希望の形態、シャイニングミスティックである!
『「目指すぜ! 天辺!!」』
八幡はジードの中でそう叫んでいた。ジードは右足に力を込め、一歩前に踏み出す。
「ゼットォーン……!」
ジードの動作を警戒して身構えるオーヴァーゼットン。
『「ちッ……貴様がどんな姿になろうとも、このダークオーヴァーゼットンには……!」』
――だが、次の瞬間に顎に突き刺さったジードのアッパーに反応することは出来なかった。
『「がふッ!?」』
強烈な衝撃が伝わってきて首が上を向くレイデュエス。ジードはまさに光速のスピードで懐に踏み込んできて、一撃を食らわせたのだ。
(♪フュージョンライズ!)
「シュアッ!」
ジードはアッパーで浮き上がったオーヴァーゼットンの後方に一瞬で回り込み、かかと落としで地表に叩き落とした。
『「ぐはぁッ! くそぉッ!!」』
二発連続でもらったオーヴァーゼットンだが、瞬時に体勢を立て直してジードの追撃をガードする。そしてテレポートでかく乱を図るも、ジードは同等の速度で追いかけてくる。
「ヘアッ!」
「ピポポポポポポ……!!」
オーヴァーゼットンがどれだけ逃げようとも今のジードは逃さない。振るわれる鉤爪も腕のスラッガーで受け止め、互角の勝負を行ってみせる。
『「おのれッ! これでどうだッ!」』
オーヴァーゼットンが停止してバリアを展開。これでジードを近寄せない構えだ。
「セェアァッ!」
するとジードは両腕を頭の先に伸ばしてスラッガーを突き出し、きりもみ回転してドリルのようにバリアに突撃。猛烈な回転がバリアを削っていき、
『「ぐあぁぁッ!?」』
遂には破砕してオーヴァーゼットンをはね飛ばした!
『「ちくしょうがぁッ!」』
先ほどと一転して自分に追いついてきたジードにいら立ったレイデュエスは、オーヴァーゼットンに羽を生やして本気を出し始めた。ジェット噴射で一気に飛び上がりながら暗黒火炎弾を連射する。
「ショアッ!」
だがジードは火炎弾と同数の光輪を飛ばして全て相殺。そして光速の突進で、全身を使ってオーヴァーゼットンに激突。
「ピポポポポポポ……!!」
「ハァァァァッ!!」
ジードとオーヴァーゼットンは空を縦横無尽に駆け巡りながら何度も衝突し合う。その戦いの様は、最早人間の目では全く捉えられない次元。星雲荘の者たちは残像しか映らないモニターに唖然とするばかり。
やがてジードとダークオーヴァーゼットンは地上で真正面からの衝突と同時に四つを組み停止。その内部では、超空間同士がつながって八幡とレイデュエスも取っ組み合ってにらみ合った。
『「このガキがぁ……! 貴様のようなゴミ溜めの片隅に打ち捨てられてるようなクズが、本気でこの俺に勝てると思ってるのかぁッ!」』
『「テメェが誰かなんか関係ねぇ! 俺はテメェをぶっ倒す! ただそれだけだッ!」』
『「ハァッ! 何の理想も目的もなく、ただ目の前のことに流されるだけ! 薄っぺらさがにじみ出てるぞ!! それでヒーローのつもりかぁ!? 所詮貴様は他人がいなければ何一つ出来ることがない、エセヒーローなんだよッ!!」』
真っ向から罵倒してくるレイデュエスに、八幡は吼える。
『「俺がエセヒーローなら、お前は王様ごっこだろうがッ!」』
『「何だと!?」』
『「暴力で恫喝して、ねじ伏せて、それで他人を本当に従えられると思ってんのか!? お前は結局、相手を踏んづけて悦に入ってるだけ! 幼稚にも程があるぜ! そんなのは子供のごっこ遊びに過ぎねぇよッ!!」』
そう突きつけると、レイデュエスのこめかみにビキビキッ! と血管が浮き上がった。
『「テメェェェ……俺への侮辱は許さねぇぞぉぉぉッ!!」』
オーヴァーゼットンがジードを力ずくで無理矢理突き飛ばし、宙に飛び上がって極大の暗黒火球を作り出す。標的は、地球そのもの。
『「この星ごと消えてなくなれぇぇぇぇぇぇッ!!」』
地球を爆破できる威力の暗黒火球を叩き落とす――!
――そうしようとする姿勢のまま、ダークオーヴァーゼットンが空中に縫いつけられたかのようにピクリとも動かなくなった。
『「がッ……!? し、しまった……!」』
シャイニングミスティックの時間停止だ。八幡の挑発で精神を乱したところに掛けられたのだ。
「ハァッ!」
完全に無防備になったオーヴァーゼットンに飛びかかるジード。レイデュエスは身動きが取れなくなっても八幡に呪いの言葉をぶつける。
『「正義の道は、修羅の道ッ! テメェなんかに進めるはずがねぇぞぉッ!!」』
『「お前が何と言おうとも!」』
八幡はレイデュエスの憎悪の眼を受け止めながら、言い切った。
『「俺は! 本物になるッ!!」』
その言葉とともに、ジードがダークオーヴァーゼットンの顔面にスラッガーを走らせる。
斬撃は、レイデュエスの左半面にまで達する。
『「うぎゃああああッ!!」』
絶叫するレイデュエス。だがジードはそれで済まさず、オーヴァーゼットンから距離を取ってから両腕を十字に組んだ。
「『スペシウムスタードライブ!!」』
腕から放たれる全力の光線が、時間を止められているダークオーヴァーゼットンに叩き込まれる。
『「う、ウルトラマンジード……!!」』
ダークオーヴァーゼットンの暗黒空間に光が満ちていき、レイデュエスが呑まれていく。
『「――比企谷……はちまぁぁぁ――――――――んッッ!!!」』
レイデュエスの体内からも光が溢れ出て――ダークオーヴァーゼットンが塵も残らないほどの大爆発を起こした。
その爆風が、暗黒に覆われていた空を一辺に晴れ渡らせる。暖かい陽光の下、ジードが地上に降り立った。
「――やったああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!」
「勝った! 勝ったよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
星雲荘ではペガや結衣が、ジードと八幡の大逆転勝利に大声を発していた。結衣は感極まった挙句にわんわん泣き、ライハや陽乃もほっと胸を撫で下ろす。
しかし皆が喜び安堵する中で、雪乃はポツリとひと言漏らした。
「だけど……町はすっかり焼き尽くされてしまったわね……」
その言葉が、結衣たちの心に影を差した。敵は倒せても――破壊された総武高校や町は、元には戻らない。
――そう、思われたのだが。
「オオオオオオ……!」
ジードが雄々しく右腕を天に掲げると――何と空に輝く太陽が、『東に向かって』傾き出した!
「えっ!?」
太陽と月が猛スピードで逆回転する、その超常現象に仰天する雪乃たち。しかもそれだけではない。破壊された町が、映像の巻き戻しのように再生していくのだ!
「えええええええええええ!? どうなってるのこれぇぇ!?」
心の底から驚き目が飛び出る結衣。この事態をレムが説明した。
[シャイニングミスティックの力により、限定的に時間が逆行しています]
「時間が逆行!!?」
[その結果――]
ダークオーヴァーゼットンによって破壊された物の全てが――総武高校も、それまでの学園祭の準備も――何事もなかったように、元通りとなった。
「直った……! 何もかもが……!」
「ヒッキー……!」
完全に再生した町の光景に、皆は逆に言葉もない。復活した町の中に立つジードに、結衣は――雪乃もほのかに――熱い視線を送る。
しかしジードの姿がその場で消失し、その跡に八幡が力なく倒れ伏すと、彼女たちは大きく色めき立った。
「大変! 助けに行かないと!」
[すぐエレベーターを用意します]
即座に動いたライハを先頭に、雪乃たちは急いで八幡の元に向かう。――雪乃の後ろ姿には、陽乃が面白そうな目を向けていた。
× × ×
『――どうやら、我々の出る幕はなかったようだな』
宇宙空間から地球を見下ろしながら、ウルトラマンがそうつぶやいた。彼の目には、はるか先の地表で雪乃たちが失神している八幡を星雲荘へ運んでいくところが見えている。
ウルトラマンの側で同じ光景を見ているのは、ウルトラセブン、ウルトラマンレオ、ヒカリ、そしてコスモス。彼らは以前にウルトラマンジードの力の波動を感じ取り、今回も彼の窮地を感知して宇宙を超えてここに駆けつけていたのである。
ダークオーヴァーゼットンがジードを抹殺しようとしていた時は、五人でジードを助けに地上へ降りようとしていたのだが……彼らは、自分たちの力で切り抜けた。
『すごい子……いえ、すごい子たちですね』
コスモスが圧倒されたようにつぶやくと、セブンがおもむろに首肯した。
『うむ。あの若きウルトラ戦士も、良き仲間を持ったようだ』
『特に彼と一体化している少年は、強い心の光を持っている』
『彼らの心の絆があれば、どんな困難があろうとも乗り越えられることだろう』
レオ、ヒカリがそう判じ、ウルトラマンが最後に言う。
『この星はジードたちに任せよう。彼らならば、立派に守り抜いてくれる』
それを信じて、五人はそれぞれの宇宙へと帰還していった。
× × ×
ジードの時間逆行によって元に戻った町の中を、ルドレイとオガレスが全速力で駆けていた。人の目も構わないほどに焦っている。
『おい急げ! AIBに先を越されたら取り返しがつかないぞ!』
『そんなこと言われんでも分かってる! 確か、こっちの方だったはず……!』
二人が道路の角を曲がり――目に飛び込んできた光景に、あっと息を呑む。
『で、殿下!』
道の真ん中に――レイデュエスが全身から煙を噴き出しながら、大の字で倒れていた。その側には、砕け散って粉々になったEXゼットンカプセルとハイパーゼットンカプセル、半壊してバチバチとショートしているブラッドライザーが転がっている。
『な、何ということ……!』
『殿下、お気を確かに!』
オガレスとルドレイは大慌てで、倒れたまま微塵も動かないレイデュエスを回収していった。
× × ×
ジードの活躍によって絶望的状況から一転、世界中の都市が元に戻り、ジードの評価は懐疑的なものから賛辞と感謝に塗り替わった。人類には町だけでなく希望も戻ったのだ。
総武高校もまた、誰もがあきらめていた文化祭を、予定通りに開催をすることが出来た――。
「はぁ~……今回はマジしんどかった……」
文化祭の光景を写真に収める撮影の合間に、人通りの少ない廊下で八幡はどっと息を吐いた。見回りの最中だった雪乃がそれでクスリと微笑む。
「文化祭ギリギリで目を覚ますなんて……本当、悪運は強いのね」
「こうやってパシらされるんだから、強いかどうかはいまいち判別つきがたいがな……」
シャイニングミスティックとなってダークオーヴァーゼットンを撃破し、破壊された世界中を再生させた後に倒れた八幡は、何と三日間も昏睡状態が続いた。レムの分析によると、シャイニングミスティックは他の形態と違って変身するだけでも莫大なエネルギーを消費する上に、時間を巻き戻す荒業まで行使したので、負担が尋常ではないものになってしまったという。強力なフュージョンライズだが、みだりに使用は出来ないだろう。
三日間……。オーヴァーゼットンとの初戦が四日前で、再戦が当然二十時間後なので、八幡が目を覚ましたのは文化祭当日の朝であった。小町らは大いに心配したのだが、身体には異常はないため、八幡は登校を選んだ。一番大事な時期を欠席し続け、本番には遅刻して参加する八幡に対する文実の生徒たちの反応は冷ややかなものだったが、事情を知る結衣たちや平塚などは温かく迎えてくれた。
「あまりにも突拍子のないことが連続したから、色々と話したいことがあるのだけれど……またの機会にしましょう。今は実行委員の仕事が最優先よ、記録雑務」
「はいはい。相変わらずだよなぁお前って奴は」
クールに命令してくる雪乃に肩をすくめた八幡だが、ここでふと雪乃に問いかける。
「ところで、相模の奴はどうした? あいつの顔がどこにもないんだけど」
「えっ、相模さん? ……そういえば、生徒会室にもいなかったわね」
聞かれて、相模のことを思い出す雪乃。八幡は一日目のオープニングセレモニーに間に合わなかったので、この文化祭で相模を目にしていないのだ。
「友人と一緒に文化祭を回っているのではないかしら」
「いやまぁ、それならそれでいいんだけどさ」
「……でも、そろそろエンディングセレモニーの打ち合わせをしておきたいから、連絡は入れておきましょう」
八幡のひと言で嫌な予感を覚えた雪乃は、連絡用のケータイで相模に電話を掛ける。
……が、電波の届かないところにいるか電源が入っていないという不通の報せのみが返ってきた。
「変ね……。電波が届かないはずがないし、文化祭中に電源を切っているとも思えない。単なる電池切れならいいのだけど……」
「流石にそんなうっかりな奴じゃねぇだろ」
嫌な予感が膨らんできた雪乃は、めぐりたち生徒会役員らと連絡を取って相模を捜してもらったが……相模は一向に見つからなかった。昼過ぎ以降の足取りが、ぷっつりと途絶えているのだという。
相模がいないという事実に、雪乃はにわかに焦り出す。
「まずいわね……。優秀賞と地域賞の投票結果を知っているのは、纏めた相模さんしか知らないのよ。このままじゃ、エンディングに支障が出るわ……」
その独白を聞いた八幡は、やおら雪乃に背を向けた。
「比企谷くん?」
怪訝な顔をした雪乃に、八幡は振り向きざまに告げる。
「流石に校舎から出てったってことはないだろうし、ちょっくら捜してくる。お前はもしもの時のために、時間稼ぎの算段を立てといてくれ。これはお前にしか出来ないことだからな」
――八幡からそんな言葉が出てくるとは思っていなかった雪乃は、やや戸惑いながらもうなずいた。
「え、ええ。分かったわ」
「頼んだぞ」
ひと言言い残して行動を始める八幡。――そんな彼にジードが呼びかける。
『八幡、珍しいじゃないか』
「あ? 何がだよ」
『君がこんなにも積極的に行動するなんて。そもそも、相模さんのことを気に掛ける時点でいつもの……いや、『今までの』君らしくないよ』
ジードの指摘にペガも同意する。
『だよね。ペガも驚いちゃったよ。基本的に他人のことには我関せず、奉仕部の依頼でようやく行動するのに』
「何でもいいだろ別に。ただちょっと、気が向いただけだ」
八幡は二人に短く言い返しながら、相模の行方を追跡しに足を速めていった。
× × ×
特別棟の屋上に続く階段は文化祭の荷物置き場になっているが、人が通れる程度の隙間が荷物の間に開いている。八幡はその隙間を抜け、踊り場の扉を開いて屋上に出た。
フェンスに寄りかかっていた相模は、八幡の顔を見て心底驚いた顔をした。
「あんた、何でここに……。もしかしてうちを捜しに来たの? 早くない……?」
「お生憎だったな。どうせエンディングセレモニーにいない自分を捜しに来てほしかったんだろうが、そんな自己満足はご破算だ」
自己満足、というトゲのある言い方に、相模はあからさまに顔をしかめたが、反論はしなかった。
相模は己の自尊心を満たすために実行委員長となったが、周りから頼られたのは雪乃であり、自分のやることはことごとく裏目に出た。自意識の拠り所を失った相模は、失ったそれを他人に求め出した。それが姿を消した理由。
八幡はそれを推理し、材木座や沙希の協力も得て、相模が行きそうな場所に目星をつけてここにたどり着いたのであった。
「エンディングセレモニーが始まるから戻れ。今ならまだ間に合う」
八幡が単刀直入に告げると、相模は眉をしかめて八幡に背を向けた。
「別にうちがやらなくてもいいんじゃないの」
「残念ながら集計結果の発表があるから、お前がいないと始められないんだよ」
「じゃあ、集計結果だけ持っていけばいいでしょ!」
バサッ、と集計結果の記された紙を叩きつける相模。自分の思った通りにならない現実を前にして、すっかりすねてしまっている。
「もう、最悪……。せっかく実行委員長になったのに、みんなうちと雪ノ下さんを比較して、誰が委員長か分からないって言うし、うちの出した方針は思いっきり否定されるし……。こんなんで委員長やったって、何も楽しくない……。こんな思いするんだったら……文化祭なんて灰になったままでよかったのに……」
その言葉には流石に目くじらを立てた八幡であったが、ぐっとこらえ、今の自分が何をするべきかを思考する。
奉仕部に持ち込まれた依頼は、相模の実行委員長の仕事の補佐。つまり相模に委員長の責務を果たさせなければいけない。これが最低条件。これが達成できなければ、奉仕部としては失敗だ。
そしてそれは、他人による強制ではなく、あくまで相模自身の意志を以てさせなければならない。それが雪乃の志に応じる道。
相模をこの場から動かすには、彼女が望むような人間に、彼女が望むような言葉を言わせるのが一番だが、もうセレモニーの開始時刻まで間もない。時間稼ぎ用の人員も必要なので、今から呼んでいる余裕はない。こんなことなら初めから誰か連れてくるんだったと悔やむが、そんな後悔が何の役に立つのか。
だから、八幡は相模に言い放った。
「最悪? 何勘違いしてんだよお前」
「え……」
想定外であっただろうひと言に、相模の顔がこちらに向いた。八幡はここぞとばかりに畳みかける。
「本当の最悪ってのは、このまんまお前がセレモニーに現れなくて、文化祭を最後の最後で台無しにすることだろうが。お前恨まれるだろうぜ? 明日からはクラスカーストの最底辺に落ちるかもしれねぇな。そう、俺と同じどん底に。そんなことも分かんない頭なのか、お前? だからないがしろにされるんじゃねぇの」
八幡と同じ、という具体例に、相模の表情は驚愕と絶望が入り混じる。そして罵倒してくる八幡には、怒りと憎悪の目が向けられた。
八幡は言葉を緩めず、むしろ加速させる。
「今なら間に合うって言ってんだろうが。それを無視してバックレようってのならこりゃ救いようがねぇな。そうしたいんなら好きなだけここにいろよ。その代わり、俺がお前が自分勝手な理由で逃げ出した最低自己中女って言いふらしてやるぜ。それでもいいのか?」
「……!」
「これだけは言っておいてやる」
八幡は一旦言葉を区切り、スゥッと息を整えてから、はっきりと宣った。
「ジーッとしてても、ドーにもならねぇぞ」
八幡から言葉の数々をぶつけられた相模は、しばらく顔色が目まぐるしく変わっていたが――やがてフェンスから離れて集計結果を拾い上げた。
「分かったわよ……戻ればいいんでしょ、戻れば! これ以上ここであんたなんかからグチグチ暴言聞かされるなんてまっぴらよ!」
肩を大きく揺らしながら階段に向かっていく相模は、八幡にすれ違いざまに、ボソリと恨み言をぶつけた。
「あんた、覚えときなさいよ……!」
そのひと言を残して立ち去っていく相模。――その姿がなくなってから、ジードが八幡に呼びかける。
『八幡』
八幡は相模に代わるようにフェンスに寄りかかって、自嘲気味にジードに返した。
「相変わらず最低な奴だよな、俺って。こんなやり方しか出来ねぇんだから」
『――確かに最低かもね。いちいち人を怒らせなきゃ気が済まないみたいなんだから』
「っておい。そこはフォローしてくれねぇのかよ」
突っ込みを入れた八幡に苦笑しながら、ジードは告げる。
『でも、手厳しいことをズバズバと言うのが君だし、本当は優しいのが君だよ、八幡』
「いや、優しいとかそんなこともないんだけど……」
素直にもなれない八幡に、ジードはクスリと笑いながらひと言、
『それに……君は変わったよ』
「は? ……いやどこも変わってないだろ。人がそう簡単に変わる訳ねーっての。そういうのは大体錯覚、単なる気のせいがオチなんだからな」
「えー? そんなことないよ」
ペガもニヤニヤしながら話に混ざってきた。
「ペガの目から見ても、八幡は変わったって思うよ。ねぇーリク」
『だよねぇ~。知らぬは本人ばかりって奴?』
「おい、だから俺はどこも変わってないっての! 今も昔も同じ比企谷八幡だ」
『いやいや変わったって~』
「だーかーらー! 変わってねぇって……!」
からかうように変わったと言い続けるジードとペガ、ひたすら否定する八幡。エンディングセレモニーに呼び戻されるまで、彼らはそんなやり取りを続けたのであった。
『ウルトラストーリーナビ!』
八幡「今回は『ウルトラマン』最終話「さらばウルトラマン」だ」
八幡「科特隊がある日円盤の大群の姿をキャッチする。地球侵略のために押し寄せてきた宇宙人の大軍団相手に奮戦する科特隊だが、敵はその間に基地に侵入して内側から科特隊基地を破壊してしまう。侵入者はどうにか討ち取られたが、宇宙人は最後に怪獣ゼットンを繰り出してきた。ゼットンには科特隊のあらゆる兵器が効かず、ウルトラマンが登場することとなるんだが、今回の戦いは雲行きが怪しい。果たして結果はどうなるか……という内容だ」
八幡「言わずと知れた『ウルトラマン』の歴史に残るほどの名最終回だ。その内容はまさに伝説。何たって、無敵のヒーローウルトラマンが負け、しかもそのまま番組が終わるんだからな。こんな最終回は後にも先にも『ウルトラマン』だけだ」
八幡「『ウルトラマン』の視聴率は化け物級だったんだが、実は特撮にこだわるあまりに制作がすっかり追いつかなくなってしまってた。だから一年に満たない三クールで最終回になっちまったんだよな」
ジード『だけど、そのこだわりのお陰でウルトラマンは今も続く特撮の金字塔シリーズになったんだ!』
八幡「それじゃあ、また次回でな」
「うわああああやぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
[八幡は以前からリトルスターをその身に抱えていたのではないでしょうか]
「何はどうあれ……本物はそう安いもんじゃないはずだ」
「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」
『八幡……あの子、普通の人間じゃないよ!』
[マラソン小僧と称される人物は、確かに人間ではないようです]
「まさか……あたしたちの体育祭を見物しに来たとか!?」
「城廻先輩の願い、どうにかして守り抜かないと」
「ここからは、ネクストステージだ!」