やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。   作:焼き鮭

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体育祭に死神山のスピードランナーがやってきた。(A)

 

 比企谷八幡。千葉の進学校総武高校に通う高校生二年生。目つきは悪く、卑屈で人づきあいが下手な性格が災いして友達はいない。座右の銘は、『押してだめなら諦めろ』。

 そんなろくでなしであったが、何の因果かウルトラマンジードに変身して地球を狙う悪に立ち向かう身となり、そして今は――。

 

「うッ……うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」

 

 真っ赤になった顔を両手で覆って、星雲荘の床をゴロゴロと転がっていた。尋常ではない恥ずかしさで身もだえしているのであった。

 その理由は、

 

「目指すぜ! 天辺!!」

「わぁ~! ペガっち似てる~!」

「うわああああやぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ! 真似すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――――!」

 

 ペガが八幡の、シャイニングミスティックになった際の決め台詞を物真似して結衣たちが誉めそやしているからである。

 八幡がジードに変身している間は、話している内容がジードライザーを通して星雲荘に逐一伝わる。もちろん先日のダークオーヴァーゼットン戦の時も、八幡の発言の全てが星雲荘に避難していた全員に聞かれていたのだ。

 そして後から冷静になった八幡は、その時に自分が言い放ったことに対して羞恥心に駆られている真っ最中なのであった。

 

「何であんなこと連発して口走っちまったんだ俺ぇぇぇぇぇぇぇぇッ! これじゃ材木座を笑えねぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

「そんな恥ずかしがることないよ八幡。かっこよかったよ!」

「うんうん! すっごい見入っちゃったし!」

 

 のたうち回る八幡にペガと結衣が熱弁するが、雪乃は苦笑交じりにこう言った。

 

「なれるといいわね比企谷くん、本物に」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――ッ!!」

「ちょっと落ち着きなよヒッキー」

 

 一番恥ずかしく感じている台詞を蒸し返されて過剰反応する八幡のありさまに、ライハはすっかり呆れ返っていた。

 

「……ともかく、あなたもリクも無事でよかったわ。あの場面で八幡にリトルスターが発症するなんて……まさしく奇跡的な偶然よね」

 

 とのたまうライハだが、そこにレムが補足を挟む。

 

[偶然の発症ではないと思われます]

「え?」

[推測ですが、八幡は以前からリトルスターをその身に抱えていたのではないでしょうか]

 

 レムの発言に、皆が目をぱちくりさせた。

 

「どういうこと?」

[ハチマンが単独ではウルトラカプセルを使いこなせないということは、リトルスターのエネルギーと同調できていないということです。それと同じように、ハチマンは以前からリトルスターを発症していたものの、同調率が極端に低いために症状が表層化していなかった。それが、極限状態に置かれて光の意志に目覚めたために発症、カプセルへ移動したのではないでしょうか]

「確かに、あの場面でタイミングよく発症したってよりは自然だね」

 

 レムの推測を支持するペガ。結衣は嬉しそうに八幡に視線を戻す。

 

「ってことは、ヒッキーちゃんと本物のヒーローになれたってことだね! やったじゃん!」

 

 本物、と言われて依然として恥ずかしがって顔をそらした八幡は、結衣の言葉を素直に受け止めない。

 

「いや、気持ち一つでヒーローになれるんなら世の中英雄ばっかだろ。そう簡単なことじゃねーって多分。そもそも、光の意志ってふわっとしすぎでよく分かんねぇし」

『いや、僕はヒーローっていうのは、そう難しいものじゃないと思うけどな』

 

 八幡の意見にジードはやわらかく反論。

 

「何はどうあれ……本物はそう安いもんじゃないはずだ」

 

 八幡はそれでも、自分が「本物になれた」とは考えていなかった――。

 

 

 

『体育祭に死神山のスピードランナーがやってきた。』

 

 

 

 それから約一か月後――十月九日。

 八幡は帰宅後、近所をグルッと回るように走り込みをしていた。ジョギングである。

 

『八幡、あれ以来毎日トレーニングに励むようになったね。いいことだけどさ』

 

 ジャージ姿で息を切らしながら走る八幡にジードが呼びかけた。

 八幡はウルトラマンジードと融合して以来、ライハから戦いで生き残るためと、トレーニングを課せられていた。が、そういうことに熱心ではない八幡のこと、今までは何かと理由をこじつけてサボりがちでライハの手を焼かせていた。

 それが、ダークオーヴァーゼットン戦後は一転して、人が変わったようにトレーニングに打ち込むようになった。自主的にジョギングを始めた際には、小町に心底驚かれたりもした。

 

「まぁ、流石にあんな死の淵に追いやられるようなことは二度とごめんだからな。そりゃあ俺だって必死にもなるさ」

 

 と語る八幡に、ペガが指摘する。

 

『とか言って、八幡が自分で自覚してない間に成長したからじゃないの?』

「だぁかぁらぁ、すぐそうやってこそばゆい方向に結びつけようとすんじゃねーって。あちこちかゆくなってくるだろうが」

 

 何かにつけて「成長」に持っていこうとするペガたちにうんざり顔の八幡。それに苦笑するジード。

 

『何はともあれ、この調子なら明日の体育祭もいい結果出せそうだね!』

「体育祭か……」

 

 奉仕部はまた新たに、めぐりから依頼を受けていた。それは、今一つ活気に欠ける総武高校の体育祭を盛り上げてほしいというものである。その解決に向けて新しい目玉競技を用意するなど動いてきたのだが、もう一つ、今年で卒業である依頼者のめぐりを優勝させるという方向でも行動している。これには競技で勝って、得点を稼ぐ以外に方法はない。

 幸い奉仕部は皆めぐりと同じ赤組なので、八幡が身体能力を上げることはそのまま依頼達成につながる訳である。

 

「……しかし、『参加することに意義がある』ってクーベルタン男爵は言ったが、現代では強制参加の脅し文句に扱われてる節があるよな。世の中、行くだけ無駄だったものなんて腐るほどあるだろうに。むしろ参加することに意義があるなら、参加しない勢力に参加することにだって意義があるんじゃないのか」

『またそんな屁理屈こねて……。そういうところは変わらないね』

 

 ひねくれた持論を唱える八幡にペガたちは呆れ果てる。

 そんな時……八幡の背後から、何かがすごい勢いで接近してくる気配がした。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

「ん?」

 

 八幡がふと後ろに振り返ると……マタギのように獣の毛皮で出来た服を身に着けた珍妙な中学生くらいの子供が、風のような途轍もないスピードで近づいてくる光景が目に飛び込んできた。

 

「な、何だ……!?」

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

 

 子供が唖然とする八幡の横を通り過ぎると、同時に突風が吹いて八幡の身体が煽られる。子供が風を吹かせながら駆けているようであった。

 

「うわぁ!?」

 

 バランスを崩してしりもちをつく八幡。子供はそんな八幡の元に戻ってくると、ニカッと笑いながら呼び掛けてきた。

 

「お前なかなか速いなー! 俺は速い奴が好きだ! どうだ、俺と一発勝負してみないか?」

「は……? いや、お前誰だよ」

 

 いきなりなれなれしく話しかけてきた子供に、八幡が呆気にとられながら聞き返すと、子供は次のように名乗った。

 

「俺はマラソン小僧って呼ばれてるんだ」

「ま、マラソン小僧……?」

 

 何だその安直すぎるあだ名。っていうか本名名乗れよ、と八幡が思う間もなく、自称マラソン小僧は再びせがんでくる。

 

「なぁ~、俺とマラソン勝負しようぜ?」

「いやいや……会ったばっかの奴といきなり勝負とか、俺そんな少年漫画的なノリで生きてねぇから」

 

 八幡が当然のように断ると、マラソン小僧は途端に冷めた顔となる。

 

「なーんだ、つまんねぇの」

 

 あっという間に八幡への興味を失ったマラソン小僧はクルリと踵を返し、そのまま走り去っていく。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

 

 マラソン小僧の走る速さはおよそ人間離れしており、彼に追い抜かれた人は皆一様に突風で転げる。

 

「きゃあ!?」

「うわぁッ!」

「おい小僧! 何しやがんだぁッ!」

 

 道行く奥さんやサラリーマン、近所で評判の意地悪じいさん(唐突)などが腰を抜かす様子を、呆然と見やる八幡。

 

「何なんだあれ……変な奴……」

 

 口が半開きのままの八幡に、ペガが重たい口調で呼び掛けた。

 

『八幡……あの子、普通の人間じゃないよ!』

「まぁ、どう見たって普通じゃねぇだろ」

『いやそういうことじゃなくて……』

 

 意図が伝わっていないのでペガは言い直した。

 

『あの子は多分、怪獣の一種か何かだ! 未知のエネルギーを感じたんだよ!』

「怪獣? あれが……?」

 

 ぐんぐんと小さくなっていたマラソン小僧の背中だが……たまたまサブレの散歩中の結衣と出くわす。

 

「きゃんきゃん!」

「うわぁぁぁ―――――!?」

 

 サブレはじゃれつくようにかわいく吠えただけなのに、マラソン小僧が大仰な悲鳴を上げたので結衣は驚愕。

 

「だ、大丈夫!?」

「お、俺は犬だけは駄目なんだ! 助けてくれぇ―――!」

 

 マラソン小僧はまさしく脱兎の如く、ピューッと逃げていった。それを見届ける八幡。

 

「……あんな小さい犬にビビッてんのに?」

『そう言われると、自信なくなるけど……』

 

 ペガが口ごもる一方で、近所で評判の意地悪じいさんは密かにほくそ笑んでいた。

 

「ほほぉ~、犬が苦手なのか……ヒッヒッヒッ……」

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちの前に突然現れた、おかしなマラソン小僧。ペガの言うように怪獣にはとても見えなかったが、八幡たちは星雲荘でレムから衝撃の話を聞くこととなった。

 

[マラソン小僧と称される人物は、確かに人間ではないようです]

「そうなの!?」

 

 目を丸くする結衣たち。レムはその理由を説明し出す。

 

[中部山岳地帯に、死神山という別名で呼ばれる鉱山があるのですが、その山で死亡した足の速い少年がマラソン小僧という足の神となったという伝承があります。このマラソン小僧は年に一度、山から下りてふもとの村を風とともに走り抜けると言われています。ハチマンたちが目撃した少年が起こした現象から鑑みて、これと全くの無関係とは思えません]

「いつ頃からの伝承か知らないが、どうして名前に横文字入るんだよ。日本の伝説なのに」

 

 細かいところを気にする八幡は置いて、レムの解説に異を挟む雪乃。

 

「でも、ここは千葉よ。中部で信じられている神様が、どうしてこんな場所に?」

[マラソン小僧は足の速い者との勝負を好み、その名の通りにマラソンなどの競走を見物することが趣味とも言い伝えられています]

 

 レムの言葉にハッとする結衣。

 

「まさか……あたしたちの体育祭を見物しに来たとか!?」

「偶然通りがかった……と考えるのは楽観的よね」

 

 また新たな問題が飛び込んできたと感じて、雪乃は頭が痛そうに額を押さえた。

 しかもレムの解説はこれで終わりではなかった。

 

[ここからが最も重要な点ですが、マラソン小僧は温厚な気質ですが、一度怒るとイダテンランという巨大な怪物となって、手のつけられないほどに暴れ回るそうです]

「えぇー!? それホント!?」

「……千葉村の想い石も本物だったし、単なる言い伝えと切って捨てない方が賢明でしょうね」

 

 途端に深まる警戒心。ライハは雪乃のひと言にうなずきながら、八幡たちへと振り返った。

 

「八幡たちが出会った子供が本物のマラソン小僧かどうか、イダテンランという怪獣になるかどうか。まだ確定ではないけれど、気をつけた方がいい。きっとマラソン小僧は、もう一度あなたたちの前に現れるでしょうから」

「ですよね! 体育祭だって頑張って準備してきたんだもん、ぶち壊されたくなんかありませんよ!」

「ええ。城廻先輩の願い、どうにかして守り抜かないと」

 

 意気込む結衣と雪乃。そして八幡は、

 

「また怪獣騒動か……。よくまぁ飽きもせずに、次から次へと俺たちのところに飛び込んでくるもんだ。誰かに祟られてるんじゃねぇだろうな?」

 

 うんざりしたような口調でありながら、その目は真剣な輝きを宿していた。

 

 

 × × ×

 

 

 そして一日が経過し、肝心の体育祭が始まる。救護班を任された八幡はその仕事を行いながら、マラソン小僧が現れないかとグラウンド全体に目を光らせている。

 しかしその件とは別のことで顔をしかめていた。

 

「状況は良くねぇなぁ……」

 

 ため息交じりにひと言漏らす。その視線の先にある得点ボードは、終盤にも関わらず赤組が白組に五十点もリードされていることを示していた。

 白組には総武高校一のスポーツマン、葉山がいるのである。彼が競技で次々勝ちまくるお陰で赤組はすっかりと劣勢ムード。それが影響してこのような点差になってしまった。八幡たちがいくら頑張ったとしても、体育祭は団体競技が主。個人ではどうにもならない部分もある。

 ふと見れば結衣も難しい顔をしているが、雪乃はその目に静かな闘志をたぎらせながら得点ボードをにらみつけていた。

 

「……残りの競技は何だったかしら」

「え、ああ。あとは目玉競技の『チバセン』と『棒倒し』だな」

「そう……」

 

 八幡が気圧されながら答えると、雪乃はそれきり押し黙る。そういやこいつ、大の負けず嫌いだったな、と思う八幡。

 ともかく勝利への算段を立てる雪乃であったが……その時に、遂に懸念の事態が舞い込んできた。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

「あ、あれっ!」

 

 結衣が指差した先……校門から、件のマラソン小僧が飛び入ってきたのだ!

 

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