やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。   作:焼き鮭

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パンさんを返して!と雪ノ下雪乃は叫んだ。(B)

 

「ほよよよよー!」

 

 ショップのパンさんグッズを盗んで逃げる老人を、八幡たちを乗せた車が追いかける。しかしその距離が縮まることはない。

 

「もっとスピード出せないんですか?」

『既に60キロは出している。これ以上は危ない』

 

 イライラしている雪乃に、ゼナは冷静に返した。

 

「ってことは、あの人時速60キロ以上で走ってるってことだよね。やっぱり人間じゃないってことか……」

「まぁ初めから分かってたことだ」

 

 警戒を深めてつぶやく結衣に、八幡がそう発した。

 

『どこかに盗品を保管する場所があるはず。そこに逃げ込むはずだ。下手に追いつめず、そこへ追い込もう』

 

 ゼナの判断により、車は老人とつかず離れずの距離を保ちながら追跡を続けた。

 その末に、老人は人気のない倉庫群の中へと逃げ込んでいった。

 

「どうやらあそこが隠れ家みたいですね」

『ここからは歩きだ。君たちも降りろ』

 

 倉庫群の側道で停車し、五人は車を降りて倉庫群の敷地に踏み込んでいった。ここのどこかに、黒マントの老人が潜んでいるはずだ。

 

「どこ行ったんだろ。隠れたのかな……」

 

 辺りを頻りに見回す結衣。姿が見えなくなったのはほんの十数秒程度の間なのに、老人の姿は影も形もなくなっていた。

 その代わりのように、作業着を着た清掃員と思しき老人が、敷地の掃き掃除をしていた。

 

「あの人に聞いてみよう! すみませーん!」

 

 結衣が大きな声を出しながら老人に駆け寄っていくが、老人は黙々と箒を掃いたまま振り返ろうともしない。

 

「おじいさん。おじいさーん!?」

『もし、そこの方』

 

 何度呼び掛けても反応せず、見かねたゼナが肩を叩くことでようやく振り向いた。

 

『私たちは今、黒いマントの男を捜してます。ここに逃げ込んだのですが、見ていないでしょうか』

 

 と尋ねるゼナだが、老人は大きく顔をしかめて耳に手をやった。

 

「あぁ~?」

 

 ゼナの言葉が耳に届いていないようだ。結衣の声も聞こえなかったから無反応だったのだろう。

 

『……どうやら耳が遠いみたいだ。この分では、さっきの男にも気がついていないだろう』

「しょうがない。ここは手分けして捜しましょうか……」

 

 八幡たちは早々に老人に見切りをつけて、自分たちで捜索を続けようとしたが……雪乃と陽乃は、ジーッと老人に目を向けたままであった。

 

「? どしたのゆきのん」

 

 結衣が問いかけると、雪乃は老人から目を離さずに返した。

 

「この人……本当に聞こえていないのかしら」

「え? 何で? 今何回呼び掛けても反応しなかったじゃん」

 

 結衣がきょとんとすると、雪乃は言う。

 

「ゼナさんは口が動かないのに、この人はゼナさんが『しゃべっている』ことを察したのよ。おかしいと思わない?」

「あ……」

 

 はた、と結衣たちの動きが止まった。陽乃はニヤニヤしながら、しかし笑っていない眼差しで老人をなめるように見回す。

 

「おじいさん、どうして口の動かないゼナ先輩の声を聞き取ろうとしたのかな~? 雪乃ちゃんの言う通り、おかしいね~?」

「……!」

 

 老人の顔色が一瞬変わったのを雪乃は見逃さなかった。

 

「今動揺したわね。やっぱり、聞こえているじゃない!」

 

 雪乃が突きつけても、老人はとぼけるように目をそらすだけ。すると陽乃が目を細めて、懐から銃を抜いた。

 

「お話しが聞けないんだったら、これで聞いてもらおうかな~?」

『おい、陽乃! まだ確定ではないのだぞ!』

 

 陽乃が独断で銃を出したことを咎めるゼナだったが、老人はそれでいよいよ青ざめ、倉庫の一つに駆け込んでいった。

 

「ほら、黒でしたよゼナ先輩。これで確定ですよね」

『……全く、お前という奴は……』

「行くわよっ! 追いつめなきゃ!」

「お、おい待て雪ノ下!」

 

 額に手をやるゼナを尻目に、先行する雪乃を追いかけるように八幡たちは老人の逃げ込んだ倉庫に踏み込んでいった。

 そして倉庫の中で、逃げ場を失った老人は一瞬物陰に隠れると、黒いマントと帽子の姿で八幡たちと対峙した。

 

「あっ! さっきの奴! 間違いないよ!」

『清掃員になりすまして、我々をやり過ごそうとしていた訳だ』

「へへへへへ……!」

 

 黒マントの老人が不気味な笑い声を上げると、その姿がもう一段階変化し……写真の宇宙人のものとなった。

 

『やはり、スチール星人だったか』

「はいはーい。本格的にこれの出番ですねー」

 

 スチール星人が正体を晒すと、ゼナと陽乃が前に出て銃を向ける。両者にらみ合う中で、八幡が問いかける。

 

「スチール星人……どうしてパンさんなんかを盗んだ。どんな理由があってのことだ?」

 

 八幡は正直なところ、ゼナたちの説明を聞いても、宇宙人がわざわざ窃盗行為のために遠い銀河を越えて地球にまでやってきたとは思えなかった。……いや、思いたくなかった。だって、あまりに低俗ではないか。たかだか絵本のキャラを独占しようとするとか……。

 果たして、スチール星人は答えた。

 

『地球人があんなにも夢中になっているパンさんを、我々の星へ持って帰るのだ!』

 

 ……本当に、それ以外の理由はなかった。

 

「……」

「……普通に買いなよ……」

 

 八幡はもう言葉もなく、結衣もここまで人に対して呆れたことは一度もなかった。

 

『我々が手に入れることの出来なかったパンダ。それをモチーフにし、地球人たちを魅了するパンさん。たまらなく欲しい! 全て奪い取ってくれるぞ!』

『噂通りの貪欲さだな』

 

 あまりにもしょうもないことを豪語するスチール星人に、ゼナも呆れた様子。一方で、雪乃は怒りを露わにしてスチール星人をにらみつけた。

 

「パンさんの魅力が分かるとは、その点だけは認めてあげるわ。だけど、パンさんは原作者のランド・マッキントッシュが息子への愛情とメッセージを込めて作り出したキャラ。それを奪っていこうなんて、原作者の息子への愛を踏みにじる行為よ」

「ゆきのん詳しい……」

「こんな時までユキペディアさんめ……」

 

 呆気にとられている結衣と八幡を尻目に、雪乃はバッと腕をスチール星人へ向けた。

 

「そんなことは許さない。パンさんは私が守るわ!」

「わぁ! 雪乃ちゃんかっこい~!」

「姉さん、茶化さないでちょうだい」

 

 毅然と宣言した雪乃だが、スチール星人は挑発するように笑い飛ばす。

 

『出来るかな? ヘッヘッヘッヘッヘッ……!』

 

 そして一瞬の内に巨大化し、倉庫の天井と突き破った!

 

『危ない! 外へ逃げろ!』

 

 ゼナが誘導し、五人は急いで倉庫から脱出。スチール星人は倉庫の残骸を踏み潰しながら、彼らを狙って攻撃を開始する。

 

『陽乃、反撃だ!』

「はいはーい!」

 

 ゼナと陽乃が発砲するが、スチール星人は鉄仮面のような頭部だけでなく首から下も頑強なのか、銃撃はさしたる効果をあげられなかった。

 

「結衣、こっちだよ!」

「ありがとペガっち!」

 

 ゼナたちが戦う一方で、ペガがダークゾーンから出てきて結衣をスチール星人から逃がしていく。八幡は雪乃へと振り返った。

 

「雪ノ下、お前も早く……」

「いいえ。言ったでしょう?」

 

 しかし雪乃は避難しようとせずに――八幡の腰のホルダーから、セブンカプセルを引き抜いた。

 

「パンさんは、私が守ると!」

「あッ!? お前勝手に……」

 

 熟練のひったくりかのような鮮やかな手並みに八幡は反応できなかった。

 

「つべこべ言ってないでフュージョンライズよ!」

「いや、でも……」

 

 尻込みする八幡であったが、雪乃は彼の承諾を待たずにカプセルを起動する。

 

「ユーゴーっ!」

『ダーッ!』

 

 カプセルからウルトラセブンのビジョンが現れ、腕を振り上げる。雪乃はカプセルを装填ナックルに装入した。

 八幡も有無を言わせない雪乃の押しに負け、仕方なくレオカプセルを起動。

 

「アイゴーッ!」

『イヤァッ!』

 

 ウルトラマンレオのビジョンが腕を振り上げ、ナックルに二つのカプセルが装填された。

 

「ヒアウィーゴーッ!!」

[フュージョンライズ!]

 

 そのカプセルを八幡がジードライザーでスキャンし、準備は完了。ライザーを持ち上げていく八幡。

 

「おおおおお……! はッ!」

 

 そして胸の前でトリガーを押し込み、スキャンしたカプセルのデータをその身に宿す。

 

「ジィィィ―――――――ドッ!」

 

 八幡と雪乃が、セブンとレオのビジョンとともに一体化。ジードへの初期変身をする。

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 初期変身からソリッドバーニングへの変身を果たし、ジードがスチール星人の面前に立ち上がった!

 

「ジード! ……えっ、ゆきのんも一緒に!?」

「どうしても、自分の手でケリをつけたいみたいだね……」

 

 結衣とペガが呆然と見上げる中、ジードは全身のスラスターから蒸気を噴き出しながら、スチール星人に対して堂々と胸を張った。

 その内部の超空間で、八幡――ではなく雪乃が叫ぶ。

 

『「燃やすわ! 勇気!!」』

『「それ俺の台詞……」』

 

(♪ウルトラマンジードソリッドバーニング)

 

 ジードは脇を締めて構えを取ると、まっすぐスチール星人へ向かっていく。スチール星人もそれを真っ向から迎え撃つ。

 間合いを詰めたスチール星人がジードにボコボコとパンチを振るう。が、鋼のボディを持つソリッドバーニングに生半可な打撃は通用しない。

 

「ドァッ!」

 

 ジードの蒸気を噴き出しながらのアッパーをもらって高々と宙を舞うスチール星人。しかし流石に正面切って戦いを挑んできただけはあり、一撃でダウンしたりはしない。

 スチール星人はなかなかアクロバティックな身のこなしで高々と跳躍し、勢いをつけた飛び蹴りを仕掛ける。これにはジードも一瞬よろめく。

 

「ハァァッ!」

 

 だが踏みとどまって回し蹴りで反撃。再び吹っ飛ばされるスチール星人。

 ジードの超空間では、雪乃が身を乗り出しながら八幡に指示を飛ばす。

 

『「このまま押し切るのよ!」』

『「お、おう……」』

 

 雪乃に寄りかかられているようになっている八幡であるが、今は女の子に密着されている気恥ずかしさよりも、彼女の放つ異様な熱気に押されて内心たじろいでいた。

 それはともかく、スチール星人は近接戦は不利と判断したか、頭部の丸鋸状の三つの突起から赤い光線を発射してジードを狙ってきた。

 

「ウッ!」

 

 爆撃を食らって一瞬動きが止まるが、ジードはその程度では参らない。

 

「ダァッ!」

 

 エメリウムブーストビームによるお返しをスチール星人の胸部に撃ち込む。スチール星人はのけぞって大きくひるんだ。

 

『「今よ!」』

 

 このチャンスを狙って、ジードの右腕のパーツがスライドして攻撃の準備に移る。

 

『「パンさんを返して!」』

 

 雪乃の叫びとともに、突き出された右腕から火炎状の光線が繰り出される。

 

「「『ストライクブースト!!!」」』

 

 ソリッドバーニング最大の必殺技が命中。スチール星人は爆炎に呑まれて、その巨体を消し去った。

 

『「やったわね……」』

『「ま、まぁな……」』

 

 雪乃は実にやり切ったような晴れ晴れとした表情でつぶやいた。八幡は、終始彼女に押されっぱなしで大変疲れた顔であった。

 

「シュワッチ!」

 

 とにもかくにも勝負に勝ったジードは、大きく飛び上がって倉庫群を後にしたのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 その後の顛末について、八幡たちは星雲荘でゼナから話を聞く。

 

『盗まれたグッズに関しては、全て元の場所に戻した。表向きは窃盗団による大規模なトリックによる犯行ということになった。これで騒ぎは収束に向かうだろう』

「よかったぁ」

 

 ほっと安堵するペガ。そして肝心のスチール星人の処置については、

 

『捕獲したスチール星人は、我々の手によって母星への強制送還となった』

「あれだけの大騒ぎを起こして、送り返すだけなんですか?」

 

 結衣が意外そうに聞き返すと、ゼナは肩をすくめながら答える。

 

『AIBはあくまで相互扶助組織。実のところは、そこまで強い権限がある訳ではない。だからこれが限界なのだ』

「そうなんですか……」

 

 落胆する雪乃に、結衣が朗らかな笑顔を浮かべつつ呼び掛けた。

 

「でもよかったね、ゆきのん。パンさんが全部戻ってきて!」

 

 すると雪乃は、うなずきながらも平静な態度を取る。

 

「ええ。よかったわ」

「あれ……? あんまり嬉しそうじゃないね。あんなに熱心だったのに」

「熱心だったのは、宇宙人の人の心を傷つけるような犯罪行為に憤りを感じていたからよ。私個人がパンさんに強くこだわっていたからだとか、そういう理由ではないから」

 

 どうやら雪乃は、パンさんを取り戻したことで冷静になり、自分の行動を振り返って恥ずかしくなってごまかしに掛かっているみたいだった。

 

「今更だろ……」

 

 八幡が呆れ返っていると、その肩を陽乃がポンと叩いた。

 

「比企谷くんもお疲れさま~! 今回も助かっちゃったよぉ。いつかお礼した方がいいかな? たっぷりとね♪」

「いや別にいいですって。あと近いです」

 

 ぐっと顔を寄せてくる陽乃から距離を取る八幡。その頬はほんのり赤くなっている。

 

「あっれぇ~? もしかして変な想像しちゃったかなぁ? 健全な男子高生だもんね、それは仕方ないかな~?」

「だから、そうやってからかうのやめて下さいって」

 

 おちょくってくる陽乃に辟易とする八幡は、話をそらすように尋ねかけた。

 

「にしても雪ノ下さん、今日はやたらと上機嫌でしたね。何でですか?」

「ありゃ、そんな風に見えた? 一応抑えてるつもりだったんだけどな」

 

 肩をすくめた陽乃は、一瞬雪乃を一瞥して微笑を浮かべた。

 それは普段の彼女が見せる作り笑いではなく、本心からの笑顔であった。

 

「どんな理由であれ、雪乃ちゃんがあれだけ自主的に動いたのが嬉しくてさ」

「自主的に? あいつはいつでも自分から動き回る奴でしょ」

 

 普段の雪乃を見ていてそう判じている八幡であるが、陽乃はそれにやれやれという感じの苦笑を返した。

 

「比企谷くんって何でも分かってるようなこと言うけど、まだまだ人のことが分からないみたいですなぁ」

「はい? いや、別にそんなこと言ってないですけど……」

「まぁともかく」

 

 陽乃は八幡の言葉をさえぎって――真剣みを帯びて、彼と目を合わせた。

 

「雪乃ちゃんのこと、これからもよろしくね」

「え? は、はぁ……」

 

 陽乃の頼みを、八幡はやや気圧されながら気の抜けた返事で請け負った。

 彼女の言葉の意味を、この時の八幡は、本当に理解したとは言えなかった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンA』第四十話「パンダを返して!」よ」

雪乃「ダン少年の友達のモトコちゃんは、パンダ好きのおじさんが経営する薬屋「パンダ堂」でパンダのぬいぐるみをもらう。だけどその直後に店に怪しい男が入り、パンダ堂のパンダグッズを全て盗んでいってしまったの。車並みの速度で走る男を北斗が追跡するけれど、倉庫街で見失ってしまう。そしてパンダ泥棒が宇宙人と言っても、TACの仲間は信じてくれない。仕方なく独自にパンダ泥棒を追いかける北斗は、その正体を突き止め、地球からパンダを奪っていこうとするスチール星人と対決することになる……という話よ」

雪乃「何と言っても、パンダを盗もうとする宇宙人と戦うという、他ではまず見られないような珍奇なシナリオが見どころね。こんな話だけど、登場人物たちは皆至って真面目なのがシュールだわ」

雪乃「『A』の放送された1972年は上野動物園にジャイアントパンダのカンカンとランランがやってきて、世間にパンダブームが起こった年。その熱狂的な騒ぎから、このエピソードが制作されたのでしょうね」

ジード『スチール星人の着ぐるみは、実はセパレートタイプのエースのスーツを改造したもの。だからエース対エースの対決だったとも言えるかもね』

雪乃「それでは、次回でお会いしましょう」

 




「レイデュエスって、ほんとに死んじゃったのかな……?」
『こんなに長く音沙汰がないのは初めてだよね』
『レイデュエスは死んだ!』
『ここからはこの私の時代だッ!』
[あれはダダという種族が使用するロボット兵器です]
「由比ヶ浜、お前は避難しとけ。俺はあれを迎え撃つから」
『ウルトラマンジード、死ねッ!』
『「知るかッ! 迷惑なんだよどっか行けッ!」』
「もうヒッキーたち、あんなギリギリの戦いをしなくていいんだよね!」



次回、『修学旅行を襲う侵略者を撃て。』

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