やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。   作:焼き鮭

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修学旅行を襲う侵略者を撃て。(A)

 

 ある日の星雲荘。ゼナと陽乃がコンソールを借りてキーを叩いているところに、結衣が尋ねかけた。

 

「お二人とも、さっきから何やってるんですか?」

 

 ゼナは手を動かしながら淡々と答えた。

 

『先日、こちら側の超量子通信設備の設置が完了したので、サイドスペースの地球のAIB本部とここから連絡を取るのだ』

「超量子通信?」

 

 それはどういうものなのか、と首を傾げる結衣に、レムが説明を入れる。

 

[それを用いることにより、異なる宇宙同士でのリアルタイムによる通信が可能となります]

「それってすごいじゃん! で、サイドスペースってのは?」

「ペガたちのいた宇宙だね。つまり、リクやライハの故郷の地球がある世界」

 

 ペガの回答に結衣はますます興奮した。

 

「ジードんたちの地球かぁ! どんなとこなんだろ!」

「別にこっちと特別違ったもんはないんだろ? 細かい違いがあるってだけでよ」

 

 とぶっきらぼうにつぶやく八幡に、結衣はジトッと視線を送った。

 

「も~、ヒッキーは相変わらず冷めてるな~」

「でも、どうしてわざわざ星雲荘から通信を入れるんですか?」

 

 雪乃が問いかけると、ゼナはこう答える。

 

『向こうにいるあいつが、朝倉リク、君たちの現況を気にしているだろうからな。ついでに見せようと思ってな』

「あいつ?」

 

 結衣たちは首を傾げるが、ライハは察しがついた。

 

「ああ、モアね。思えばモアの顔を見るのも久しぶりになるかしら」

『モアかぁ! 元気にしてるかな?』

 

 ジードが弾んだ声を出す一方で、結衣が質問する。

 

「モアってどなたですか?」

 

 それに答えたのはペガだ。

 

「愛崎モア。リクのお姉さん代わりだった人だよ。AIB初の地球人の職員なんだ。モアはお留守番でね」

「それってつまり、陽乃さんの先輩ってことになるんだ!」

 

 結衣たちは相当優秀で落ち着いた人なんだろうなぁと想像する。

 その間に陽乃がゼナへ告げた。

 

「ゼナ先ぱーい、準備完了しましたぁ」

『よし。早速つなぐぞ』

 

 ゼナがコンソールのエンターキーを押すと、空中にモニターが浮かび上がり、その画面内に近未来的な背景の室内の様子が表示された。

 そしてその中に、黒髪の妙齢の女性の顔が映し出される。

 

『ゼナ先輩、お久しぶりですっ! こちら愛崎モアです!』

『久しぶりだな。そちらは変わりないようだ』

 

 黒髪のスーツ姿の女性は、ピョンと軽く飛び跳ねながら可愛く敬礼した。この人が愛崎モアだという。

 

「モア先輩、初めまして~。こっちの地球でAIBに入りました、雪ノ下陽乃でーす♪」

『あなたが雪ノ下さんね。ゼナ先輩からの報告メールで聞いてるわ。初めまして! 通信越しだけど、よろしくお願いね♪』

 

 陽乃の敬礼にも、モアはビシッと敬礼で返答した。彼女の画面越しでも伝わってくる活発さ……というよりも子供っぽい所作に、結衣が雪乃と八幡に囁きかけた。

 

「何か……想像してたのとちょっと違うし……」

「確かに……」

「まぁ、陽乃さんだって振る舞いは似たようなもんだしな……」

 

 モアはゼナと陽乃への挨拶を済ますと、ライハたちの方を見やって呼び掛けた。

 

『ライハもペガも、レムも久しぶり~! 全然こっちに戻ってこないから心配してたんだよ。ハルヲさんもね』

「ごめんなさい。思ったよりも戦いが長引いて。ハルヲさんにも、こっちは元気でやってるって伝えて」

「モアも元気そうでよかったよ! しっかりやってるみたいだね」

[そちらに異常がないことは何よりです]

 

 ライハたちと親しげに会話するモアだが、途中でライハに人差し指を向けた。

 

『でもライハ、私がいないからって抜け駆けしようとしたらダメなんだからね~? そっちの子たちは新しい仲間? ……でもりっくんはどうしたの? 一緒じゃないの?』

 

 キョロキョロとこちら側を見回すモア。するとゼナが言う。

 

『そのことなのだが、伝えなければならないことがある。直接見てもらった方が早いと思って報告していなかったが……』

『え? 何ですか、ゼナ先輩?』

 

 ライハがポンと八幡の肩に手を置いて、告げた。

 

「今は、この子がリク……ウルトラマンジードなの」

 

 ――しばしの間、モアは口を半開きにしたまま固まっていた。

 そして叫んだ。

 

『り……りっくんの目が腐っちゃったぁぁぁぁぁ―――――――――――!?』

「……目が腐ってて悪かったですね……」

 

 八幡がそっぽを向いて憮然と吐き捨てた。

 

 

 

『修学旅行を襲う侵略者を撃て。』

 

 

 

『――ほんっっっとぉ~にごめんなさいっ!!』

 

 詳細な事情を聞いたモアは、パンッと勢いよく手を合わせて八幡に平謝りした。

 

『私、初対面の子に何て失礼なことを……。ごめんね、気にしないでね! 私がどうかしてたの!』

「いや、いいですよ……よく言われますし……」

 

 と言いつつも、あまりにストレートな物言いに八幡も少なからず傷ついたようであった。それをどうにか慰めようとする結衣。

 

「し、しょうがないよヒッキー。身体の特徴はどうしようもないことだしさ……」

 

 一方で雪乃はモアの思い切りの良さにプルプルと笑いを噛み殺していた。

 

「でも、目のことを言われたのは久々じゃないかしら」

「まぁ、最近はご無沙汰ではあったな……」

 

 軽く傷心の八幡はひとまず置いて、ジードがモアに告げる。

 

『そういう訳で、僕はこの八幡の命の再生が完了するまで離れられない状態なんだ』

『そうだったんだ……。りっくん、大変だったんだね……』

 

 ジードのことに胸を痛めるモアだが、ジードはそれを慰めるように述べる。

 

『だけど、八幡はとても僕の力になってくれてるよ。この間の決戦だって、八幡がいなかったら乗り越えられてたかどうか分からなかったよ』

『そうなんだ! 八幡君、これからもりっくんのことを助けてあげてね! りっくんのお姉ちゃんとして、どうかお願いします!』

「は、はい……。まぁ文字通り他人事じゃないんで、当然ですけど……」

 

 八幡は少したじろぎながらモアに応じた。人間関係に恵まれなかった彼は、モアのような裏表のないあけっぴろげな性格の人物の相手がどうも苦手なようだ。

 それからモアは少しだけ眉をひそめる。

 

『でも、そうなったらもうしばらくはりっくんたち、こっちに帰ってこられないってことだよね。せっかく悪い奴をやっつけたのに……』

[こればかりは仕方のないことです。残念ですがお待ち下さい、モア]

 

 寂しげなモアにレムがそう呼び掛けた。続いてゼナもモアに告げる。

 

『レイデュエスも、死亡を確認した訳ではない。我々も当分は監視態勢を続けるつもりだ』

『分かりました。ゼナ先輩、頑張って下さい。陽乃ちゃんもね』

「はーい、ありがとうございますモア先輩!」

 

 先輩、と呼ばれてモアはジーンと感動した。

 

『先輩……いい響きだなぁ。私にも後輩が出来たんだと思うと……』

『浮かれていないで、そちらのことは引き続き頼んだぞ。くれぐれもミスのないように』

『は、はい! 分かりました!』

 

 ゼナの指示に敬礼で応じたモアは、振り返ってジードたちに呼びかける。

 

『それじゃあライハ、ペガ、レム、元気でね。りっくん、帰ってきたらまた一緒にドンシャインごっこしようね!』

『うん! 元気でね、モア!』

 

 最後にモアは顔の両脇に手の平を横向きに並べるポーズ――ドンシャインの決めポーズを取って、通信を終えた。

 その後に八幡がジードに対して口を開いた。

 

「あれがジードのお姉さんか……。何て言うか、明るい人だな」

 

 ジードが良く言えば快活、悪く言えば子供じみた性格なのもうなずけるな、と八幡は感じた。

 

『うん。モアは僕にドンシャインを教えてくれてね。ヒーローとしての僕が出来上がったのはモアのお陰と言ってもいいくらいだよ』

「そうなのか……」

 

 ああいう人が側にいて大きくなったジードのことが、少し羨ましくなった八幡であった。

 一方で、通信を済ませたゼナは陽乃に振り向く。

 

『我々もモアに負けんように励まねばならんぞ。モアにも言ったように、レイデュエスの消息は不明。まだ潜伏しているだけかもしれん。警戒は怠るな』

「承知しました、ゼナ先輩!」

 

 ピッと敬礼する陽乃をよそに、雪乃がふとつぶやいた。

 

「……あの男も、本当に死んだのかしらね。何度倒してもしぶとく戦いを挑んできた奴だし、実感が湧かないけれど」

「ほんとに死んだとしたら、それはそれでちょっとかわいそうだけどね……」

 

 そっと目を伏せる結衣。八幡は、何やら考え込みながら腕組みをした。

 

「……」

 

 

 × × ×

 

 

 そして日にちは巡り、十一月十二日。

 

「お、何か水、流れてんべ。三本もあるし」

「音羽の滝だな」

 

 八幡たち総武高校の二年F組は、千葉から遠く離れた京都の清水寺に来ていた。

 今日は総武高校の修学旅行。八幡たちは三泊四日の日程で、京都を回ることになっているのである。

 

「ふぅ……それにしても、あんまり上手く行かないものだね」

 

 清水寺の音羽の滝を巡った後に、結衣が八幡相手にため息交じりにそうつぶやいた。その視線の先には、音羽の滝の感想で盛り上がっている葉山たちのグループ。その中の、戸部と海老名の姿がある。

 修学旅行に来るに当たって奉仕部は、戸部からの依頼を受けていた。それは、彼の海老名に対する告白のサポート。戸部は以前から海老名のことを気にしていて、修学旅行という舞台で告白を敢行するつもりなのだという。

 しかし現在のところは、成果を上げられているとは言えないありさまであった。戸部たちと一番距離の近い結衣がそれとなく二人が接近するように手を回しているのだが、戸部は戸部だし、海老名の方は戸部個人に対する興味が限りなく薄い。そのため二人の仲はちっとも近づいていないのであった。

 

「今日はもうホテルに向かうだけだから、もうチャンスはないのに……」

 

 落胆する結衣を励ますように八幡が呼び掛ける。

 

「まぁ、今回の依頼が簡単にはいかないってのは分かり切ってたことだろ。それにまだ初日だ。明日から頑張ればいいだろ」

「そっか……そうだよね」

 

 少しは気を持ち直した結衣は、ふと思い出したように声を潜めながら話題を変えた。

 

「ところで……レイデュエスって、ほんとに死んじゃったのかな……? もう二か月も、一度も現れてないよ」

「……」

 

 無言の八幡の代わりに、ジードとペガが結衣に返答した。

 

『もうそんなに経つのか……。あの戦いから』

『ゼナさんもこの二か月で、噂一つないって言ってたよ』

 

 レイデュエスとの現状最後の戦いは、九月のこと。それからの約二か月間、レイデュエス融合獣が出現したことは一度もなかった。当然八幡がジードに変身する回数もぐっと減ったので、八幡たちはウルトラマンジードと出会って以来最も長い休息を味わっていた。

 

『こんなに長く音沙汰がないのは初めてだよね。まぁ、いいことではあるけれど……』

『宇宙人たちの間では、死亡説が濃厚になってきてるって。本当かな……?』

『分からない。けれど、奴は気の長いタイプには見えなかったし、理由もなしに二か月も姿を隠してるとは思えないよ』

 

 相談し合うジードとペガ。このまま二度と現れないのが一番ではあるのだが……あれだけしつこく何度も暴れた男だ。そう易々と見切りをつけて安堵する気にもなれなかった。

 結衣もそこはかとない不安を覚えているのだが、それを振り払うように八幡が言った。

 

「いない奴のことをあれこれ言ったってしょうがねぇだろ。それより今は、こっちの事情の方に目を向けようぜ。ほれ、そうこうしてる間に置いていかれそうだぞ」

「あっ、ほ、ほんとだ」

 

 葉山たちは音羽の滝の感想を言い終わり、先に進もうとしている。海老名が結衣に手を振っているので、結衣はそちらに向かっていこうとした。

 

 

 × × ×

 

 

 そんな風に平穏な修学旅行の時間を過ごしている八幡たちであったが……その様子を、遠くから監視している怪しい白黒の人影があった。

 

『うむ、間違いない。奴がウルトラマンジードだな。正確には、ジードと融合している地球人』

 

 三面怪人ダダ! サイドスペースの地球では、自分たちの種族がのし上がるためにリトルスターの奪取を狙って暗躍していた宇宙人だ。

 それが今度は、八幡ことウルトラマンジードに狙いを定めていた。

 

『レイデュエスは死んだ! 奴がいなくなったこの星では、裏の世界の頂点の座が空白。それをこの私が頂く! ウルトラマンジードを葬って、力を見せつけることでな!』

 

 ダダはレイデュエスが死んだものとして、ジード暗殺を目論んで行動を開始したのである。

 

『ジードを殺せば奴の持っているカプセルが全て私のものとなる。その力を背景に、権力をこの手中に収めるのだ! そうして力を蓄え、やがては我々が全宇宙の覇権を手にする!!』

 

 欲にまみれた野望を描きつつ、八幡の動向を監視するダダ。

 

『現在の奴は戦闘力のある仲間から離れた状態にある。カプセルを奪うにはまたとない機会だ! このチャンス、必ず物にしてくれるぞ! 出でよ、レギオノイドッ!』

 

 ダダが叫びながら空中にパネル型のビジョンを出してそれを操作すると、その背後に彼と同じような縞模様の巨大ロボットが召喚される。

 アナザースペースを荒らしに荒らしたベリアル帝国軍から鹵獲した量産型戦闘ロボット、レギオノイド。それに同族が有人機に改造を施して性能を何倍にも引き上げたダダ・カスタマイズ! トラブルがあった際の予備として保管されていた機体を、ジード抹殺のために運び込んだのである。

 ダダはテレポートでレギオノイドの操縦席に乗り込んで、操縦桿となる水晶型の制御装置に手を添えた。

 

『ウルトラマンジードよ、お前の命もここまでだ。ここからはこの私の時代だッ!』

 

 豪語したダダのコントロールにより、レギオノイドがギギギギ、と駆動音を鳴り響かせながら清水寺の八幡の方向へ進み出した。

 

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