やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。 作:焼き鮭
修学旅行から帰ってきた八幡たちジード部は、その足で一度星雲荘に集合していた。もちろん、再び姿を見せたレイデュエスのことをライハ、レムに報告するためだ。
「あの男が、本当に生きてたなんてね……」
腕組みしながら険しい表情でひと言つぶやくライハ。全員が同じように重々しい顔をしていると、結衣が疑問を口にする。
「でも、あんな融合獣になれるんだったら、どうしてもっと早く使わなかったのかな?」
結衣が言っているのは、京都でレイデュエスが変身したメタリックババルウのこと。ババルウ星人と金属生命体ミーモスの変身能力を反映した融合獣は、その力でウルトラ戦士の偽者に次々変身し、ジードのフュージョンライズに対抗してきた。明らかにジード対策の融合獣である。――しかしそんなものがあるならば、もっと早い段階で使用していてもよいものだが。
その回答をレムがする。
[新しく怪獣カプセルを作ったのではなければ、温存していたのではないでしょうか]
「温存?」
[形態を使い分けるタイプチェンジ能力を持つウルトラ戦士は他にもいます。その者たちと戦う時を想定し、秘匿していたと考えられます]
「手の内を明かさず、自分の武器はなるべく隠しておくのが戦いの基本だものね」
レムの推測にうなずくライハは、続けてこう言う。
「それを出してきたということは、本気でジードを倒しに来た……ということでしょうね」
ライハの言葉に結衣は眉間に皺を寄せる。
「それって……今まではヒッキーたちのことは舐めてたってことですか?」
「まぁ、そういうことになるわね」
ライハは臆せずにはっきり肯定した。
「実際、今回の戦いでのレイデュエスの動きはキレが全然違ってた。リク、八幡、きっとあなたたちもそれを感じたでしょう」
『確かに……。何と言うか、勢いが今までよりずっとあった』
「だな……」
ジードと八幡が重々しく認めた。そしてライハは語る。
「レイデュエスはこれまで、リクたちを甘く見て全力を出していなかった。それは間違いない。ダークオーヴァーゼットンが再び使えるようになったら、いつでも倒せると思って手を抜いてたんでしょうね」
レイデュエスは、文化祭以前の戦いを「遊び」と言っていた。その言葉は正しく、奴にとってはEXゼットンカプセルとハイパーゼットンカプセルが復活するまでの暇潰し感覚でしかなかったのだろう。
「だけど……結果は違った。あの男は八幡、あなたたちに負けた。だから奴は、余裕をなくした」
「余裕を……」
「これからは本気で挑んでくるでしょうね。本気で……八幡、あなたを殺しに来る」
京都で見せたレイデュエスの行動。無関係の海老名を巻き込むなりふりの構わなさ。剥き出しにした憎悪と殺気。そして……一撃一撃に恨みをぶつけてくるかのような激しい攻撃。
それらを思い返して、八幡たちは思わず総毛立った。
「八幡、あなたは強くなった。最初の頃と比べて格段に」
不意にライハがそう発する。
「だけど、敵も戦う相手のことを見てる。力をつけるほどに、敵もより強力な武器を持ち出し、手段を選ばなくなってくる。……強くなるって、そういうことよ」
ライハのひと言に、八幡や結衣は思わず言葉をなくした。しかし雪乃は、ふとあることを考えて口を開いた。
「少し疑問に思ってたんですけど……」
「何?」
「ダークオーヴァーゼットンが宇宙で戦ったものと言ってましたけど……その時は相打ちだったとしても、どうやって退けたんですか?」
雪乃の言葉に結衣がハッと顔を上げた。
「そ、それ! あんなに強かったのにどんな方法を使ったんですか? それがあれば、レイデュエスを完全にやっつけられるかも!」
シャイニングミスティックは、八幡から生じたリトルスターを用いた新しいフュージョンライズ。当然、それ以前の時は別の手段で倒したはずだ。結衣はそれに望みを懸けるが……。
「残念だけど……それはもう使えないんだ」
ペガの答えに驚愕する結衣たち。
「えっ!? ど、どういうこと?」
結衣が聞き返すと、レムがモニターに金色のジードの写真を映し出した。八幡たちが目にしたことのない形態だ。
[ロイヤルメガマスター。伝説の超人ウルトラマンキングのカプセルを使用した、かつてのウルトラマンジードの最強形態です。大気圏外での戦いでも、リクはこの姿になって戦いました]
つまり、このロイヤルメガマスターでダークオーヴァーゼットンを倒したということだろう。しかし、
[ですが、ロイヤルメガマスターに必要なキングカプセルは失われてしまいました]
「失われた!? どういうこと!?」
『……八幡、そのカプセルを出して』
ジードが指示して、八幡に腰のケースから一本のカプセルを出させてテーブルに置かせる。
『宇宙での戦いの最後、ダークオーヴァーゼットンから溢れ出たすさまじい量のエネルギーが地球を襲いそうになった。このままだと地上が焼かれてしまう。僕はそれを防ぐために咄嗟にエネルギーを受け止めたんだけど……流石に無茶すぎたみたいだった』
テーブルに置かれたカプセルは、表面がまっさら。何も描かれていなかった。
『エネルギーを受け止め切った時には、キングカプセルのリトルスターは飛散してしまって、カプセルは空っぽになってたんだ。地球を守れたことには後悔はないけれど……』
「そうだったんだ……」
期待が外れて落胆する結衣。だがジードは自分のことも励ますように言う。
『でも、リトルスターはこの地球にもある! レイデュエスのカプセルも復活したのなら、キングカプセルだって復活させられるはずさ!』
「だ、だよねー! 今までだってどんな時も希望はあったもん、今回だってきっと大丈夫だよね!」
声を弾ませた結衣が腕を広げると、その指先が八幡の肩に当たった。
「あっ……ご、ごめん」
「ああ、いや……大丈夫だ」
結衣と八幡は、どこか歯切れ悪く受け答えした。雪乃も二人に一瞬目を向けたが、その目線がすぐに泳ぐ。
この様子を見止めたライハは、そっとペガに問いかけた。
「何だがあの三人……ぎくしゃくしてない? 京都で何かあった?」
「それが……」
ペガは困ったように目を寄せた。
修学旅行から帰って最初の月曜日の放課後、八幡は奉仕部からの帰りの途中で、校舎の廊下で一人缶コーヒーを啜っていた。しかしそれは愛飲のMAXコーヒーではなく、無糖のブラックだ。
「……にが。やっぱブラックは苦げぇな」
「苦いなら、やめとけばよかったのに」
ペガがダークゾーンから顔を出して突っ込むと、八幡はそれに言い返す。
「たまにはそういう気分になる時もあるだろ」
「『たまに』ね……。ほんとに『偶に』なの?」
「……」
ペガに聞き返され、八幡は思わず口を閉ざした。何も言わないでいると、ペガが問いを重ねる。
「ねぇ……さっきの奉仕部だけど、ほんとに雪乃たちと別行動するつもりなの? やっぱり、みんな団結して事に当たった方が――」
八幡はペガに最後まで言わせなかった。
「あそこまで意見が分かれちゃ、そりゃ無理だろ。意見統一しようとしてたら、投票日が先に来ちまう」
「……」
ペガは寂しげに目を伏した。
修学旅行から帰って早々ではあるが、奉仕部には新しい依頼が舞い込んできていた。それは次の生徒会を決める役員選挙に関することなのだが、これが曲者であり、生徒会長のただ一人の候補者である一色いろはという一年の女生徒を『当選させない』ことを依頼されたのである。当の本人から。
それというのも、いろはは本人の立候補ではなく、クラスメイトたちの悪戯による勝手な推薦と手違いが重なって会長候補となってしまったのだという。いろは自身による辞退も、彼女の担任の勘違いで出来そうにない状況であり、元々立候補者が集まらず延期されていた選挙だけに時間の猶予も少ないという八方ふさがり。困り果てた末に奉仕部に問題が回ってきたのであった。この複雑な依頼の対処に当たり始めた奉仕部であったが――ここで、その手段について八幡と雪乃で意見が分かれた。
選挙での当選を避けるなら落選するのが一番手っ取り早いのだが、候補者はいろは一人だけの信任投票。これで落選したらいろはのイメージを損なうとして、その落選の責任は応援演説を行う者が被ることにする――というのが八幡の出した案。
しかしこれに雪乃が、確実性がない、ひどい応援演説は結局いろはにも迷惑が掛かる、と理由をつけて真っ向から反対。対抗案として別の候補者を立てて、そちらを当選させることを提案したが、今度は八幡がいろはより票を集められる人物を見つけられるのか、候補になってくれるのかと反対。二人の意見は完全に分かれ――その末に、別々に問題解決に当たることとなったのである。
結衣はどうするかの意思を表明していないが、反応を見る限り、雪乃の側につくだろうと八幡は考えている。そうなると、八幡は事実上単独行動となる。――ペガとジードも、心情的には雪乃と同じ、八幡に反対の立場であった。
『八幡……前も言った通り、僕たちは君に泥を被ってほしくはないんだ。この前は本当に時間がなかったけど、今回は別の方法があるんじゃないかな? 雪乃が言ってたのとも違う、何か別のが――』
「その別のって何だよ」
言いかけたジードに、八幡がぴしゃりと聞き返した。
『その、たとえば――そう! 前提を変えてみるのはどうかな。一色さんを当選させないじゃなくて、一色さんに会長をやる気になってもらうんだ。そうした方が奉仕部の理念にも沿うでしょ?』
思いつきでそう口にしたジードだが、すぐに八幡から駄目出しされる。
「やる気になってもらうったって、どうやってだよ。あの様子を見る限りじゃ、そもそも真面目なタイプじゃねぇぞ。生徒会長なんて地味な仕事、どう説得したってやりたがるようには見えねぇ」
『そ、それは、そのぉ……う~ん……』
所詮は思いつき。すぐに言葉に詰まってしまうジードだった。
しかし八幡が汚れ役にならないように必死に考えてくれていることを感じ取った八幡は、大きくため息を吐いてからこう言った。
「……まぁ、お前らの気持ちはありがたいよ。けど、それに応えられそうにない」
『え……?』
「お前らだからこそ言うんだけどな……本当は分かってるんだよ。俺のやり方が、まちがっているってことぐらいはな。本当はジードの言う通り、別の道があるのかもしれない。だけど……俺は『今』を変えたくない」
八幡の吐露した本心を耳にして、ジードとペガは思わず言葉を呑み込んだ。
「海老名さんからの依頼を叶えようとしたのだって、雪ノ下たちに言ったのが本当の理由じゃない。本当は……葉山たちに、自分を重ねちまったからだよ」
『今』の環境を失いたくない……その葉山たちの願いを、八幡も心の奥底で持っていたことを彼は気づかされた。奉仕部という場所があって、ジードたちと出会って、いくつも戦いを経験して強くなって……。そんな『今』の『時間』を、変えたくない。
「俺が『変わってしまった』ら、何かが『変わる』かもしれない。何かが――『失われる』かもしれない。それを思うと……二の足を踏んじまうんだよ。『失ってしまった』ら、それを取り返せるかなんて分かんねぇんだからな……」
『八幡……』
「はッ……何が『本物になる』だ」
八幡は、己の発言を自嘲する。
「『本物』ってのは、こんな臆病者なんかじゃねぇだろう。だけど……俺は、進めない。結局俺は……何も『変わっちゃいない』んだな」
『……』
「前に作文で『青春とは嘘』と書いたが、実際そうだな。――俺は嘘吐きだ」
ぼそりと吐き捨てた八幡のひと言に、ジードたちは、何の言葉も告げることをしなかった。
しかし、八幡の想いとは裏腹に、『今』を『壊そう』とする者は、一片の情けもなくやってくる。
× × ×
「いいか……。奴に関することは、どんな小さいことでも見落とすな。余さず報告しろ」
総武高校を一望できるビルの屋上で、レイデュエスがオガレスとルドレイにそう命じていた。彼は手下の二人に、八幡の監視と偵察をさせているのだ。
「奴の人間関係、嗜好、行動の癖。何でもいい。ありとあらゆることを調べ上げて、情報をかき集めるんだ。その後の作戦は俺が練る」
念を押して指示するレイデュエスに、オガレスとルドレイはやや困惑気味に尋ね返した。
『殿下……どうしてそんな細かいことまで……』
『ウルトラマンジードの能力分析ならまだ分かりますが……変身者の些細な情報まで作戦立案に必要なのですか?』
それにレイデュエスは、極めて真剣に答えた。
「前回の戦闘で俺は確信した。ジードの戦闘能力に対抗してる『だけ』じゃあ、奴は倒せないとな」
『は、はぁ……?』
「今のウルトラマンジードの強さは、比企谷八幡によって支えられてる。どれだけ小手先の武器や策を持ち出しても巻き返されてしまうのは、その支えがあるからだ。だから先にそれを取っ払わなくちゃならん」
レイデュエスは八幡の顔を脳裏に浮かび、憎々しげに顔の傷跡をひとなでした。
「まずは比企谷八幡の奴を徹底的に追いつめて弱らせる。奴という人間が成り立ってる環境を跡形もなく破壊してやるのさ。奴の仲間、親族、隣人……思いつく限りの奴を、どんな手段を使ってでも葬って、奴を孤立させてやる……! そして弱り切ったところに、とどめをこの俺の手で――!」
『そこまでだッ!』
レイデュエスが卑劣極まる計画を立てているところに――屋上の扉が勢いよく開け放たれて、ドカドカと大勢の黒服が大挙して踏み込んできた。レイデュエス一味はあっという間に屋上の端に取り囲まれて銃口を向けられた。
黒服のほとんどは、地球人ならざる人間の首であった。ペダン星人、サーペント星人、ネリル星人、ドーブル星人、グローザ星系人……その中心にいるのはシャドー星人と地球人のタッグ。ゼナと陽乃である。
『エ、AIB!!』
この状況に仰天して震え上がるオガレスとルドレイ。しかしレイデュエスは少しも動揺せず、落ち着き払った態度でAIBに向き返った。
「敗北者どもの寄り集まりめ……よく俺がここにいると分かったな」
『我々がいつまでも後手に回ると思ったら大間違いだ』
ゼナはレイデュエスの挙動に細心の注意を払いながら言い放った。
『こちらが本当に貴様を死んだと思って、二か月間寝て過ごしていたとでも思ったか? 貴様が姿を隠していた間も戦力増強に努め、警戒網を張り巡らし、貴様の再出に備えていたのだ。先日はまだ手の回っていない地域だったため不測を取ったが、この地なら別だ。既に貴様が現れたならばすぐにキャッチできる態勢を整えてある』
「あんた、確実にここにやってくると思ってたからね~。……比企谷くんの命を狙って」
陽乃が銃を使わずに射殺しそうな目つきでレイデュエスをにらんだ。
レイデュエスは腰に手を伸ばしかけたが、その瞬間にゼナと陽乃の銃が火を噴いた。銃弾はレイデュエスの魔力による障壁で防がれたかに見えたが――弾は障壁を貫いて、ゼナの方はレイデュエスの腰に提げてあったブラッドライザーを弾き飛ばし、陽乃の方はレイデュエスの左胸を穿った。
『あぁぁッ!? ライザーがッ!』
『で、殿下! 障壁が破られるとは……!』
ブラッドライザーは屋上の柵を越えて地上に転落していき、オガレスが思わず手を伸ばしていた。ルドレイは撃たれたレイデュエスに狼狽する。
レイデュエス自身はかすかに眉をしかめるだけであった。胸の銃創は手で払うだけで消える。
「俺のバリアを破るとはな……」
『銃は強化した。いつまでも効かない武器を振り回すはずがないだろう』
「ハッ、お前ら寄せ集め連中によくそんな予算があったもんだ」
『人を侮ってばかりいない方がいい。もっとも、貴様に次はない。そのつもりで我々は来たのだ』
ゼナたちは腕を伸ばし、レイデュエスたちに更に銃を突きつけた。
『さぁ、いい加減投降しろ。頼みのライザーははるか眼下だぞ』
と勧告するゼナであったが……レイデュエスはそれでも、余裕ぶった態度を崩さなかった。
「ライザー? 何勘違いしてる。――元より、お前ら程度に使うつもりなんかないさ。もったいないからな」
そう言って、レイデュエスは右手を腰の『後ろ』に回した。
『妙な真似はするなッ!』
ゼナが鋭く警告したが、レイデュエスは既に『それ』を引き抜いていた。
「使うのはこっちだ」
取り出されたのは――表面に三つの窓が並んだ、青と白の箱型の装置。それを目にしたゼナたちが一瞬動揺した。
『バトルナイザー!?』
レイデュエスが装置を掲げたことで慌てて発砲しようとしたが、一瞬の動揺が勝負を分けてしまった。
「ジャンボキング! お前のショウタイムだッ!」
[バトルナイザー、モンスロード!]
箱型の装置、バトルナイザーからカード型の光が放たれ、その光は瞬く間に拡大。その中からケンタウロス体型の異形の怪物が現れ、レイデュエスの背後に召喚された!
「ギギャアァァァ――――――!」
ただの怪獣ではない。四体の怪獣兵器、超獣のパーツをつなぎ合わせて作り出された最強超獣、ジャンボキングである!