やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。 作:焼き鮭
十二月、生徒会役員選挙後の星雲荘。ライハが八幡たちから、一色いろはの依頼についての顛末の話を聞いている。
「え? その一色さんが、生徒会長に当選したの?」
話の結末を先に知らされたライハが意外そうに聞き返した。
「確か、その子を当選させないようにするのが依頼なんじゃなかった?」
「それがですね……そもそも、その前提が間違ってたというか」
依頼内容とは真逆の結末になった理由について、八幡が説明する。
要約すると、いろはは生徒会長自体になりたくなかった訳ではない。他人に勝手に推薦され、そのままなし崩しで当選するという無様な道筋をたどりたくなかったから嫌がっていた。そのことに気づいて、彼女が生徒会長になりたくなるようお膳立てをしたという訳であった。
八幡はいろは本人に対し、今のままでは彼女を嵌めた者たちの思い通りに情けない姿を晒すことになると吹き込んで闘争心を焚きつけ、更にツイッターを利用したトリックで自分が大多数から支持され、期待されていると思い込ませた――トリックの部分は表沙汰になると色々まずいので限られた者にしか教えていないことだが――。他にも言葉を尽くして説得した結果、いろはのやる気を引き出すことに成功し、彼女は信任投票に臨んで生徒会長に当選したのであった。
これが八幡の出した、今までのやり方とは違う新しい手段であった。悪役を作らずに、問題を解消してみせる――。
「実はこれ、ジードの出した案なんですよね。結局ジードが正しかったってことか。全く敵わねぇや」
『いや、僕じゃそこに至るまでの道筋は考えつかなかったよ。実現できたのは、八幡、君の頑張りがあってこそだよ』
苦笑を浮かべてジードと謙遜し合う八幡に、ライハは優しげな眼差しを向けた。
「そう……頑張ったのね。偉いわよ、八幡」
「ちょ、やめて下さいよ。そんな子供に対するような言葉……」
恥ずかしがる八幡だが、ライハの称賛は、問題解決のため働きかけたことにのみ向けられたものではなかった。
彼女も八幡が、現在の状況から一歩を踏み出すことに恐れを覚えていたことを薄々察していた。それでも彼が新たな一歩を踏み出した、その行動と勇気を褒めたのである。
ともかく、問題自体がなくなったことで、八幡と雪乃の対立も自然消滅。バラバラになりかけた奉仕部は再び纏まれるようになった――と、なるはずであったが――。
「……あ」
無意識に振り向いた八幡の視線が、結衣とかち合う。すると、
「……わ、悪い」
「な、何で謝るし。別に目が合うくらい、変なことじゃないでしょ」
と言いながらも、二人はぎこちない動きでバッと目をそらし合った。それを見ていた雪乃は、気まずいようないたたまれないような顔で同じく顔をそらす。
この三人の様子に、ライハは一瞬呆気にとられた。
「……何だか、余計にぎくしゃくしてない? どうしたの?」
「それが実は……」
目を丸くしているライハに、ペガがその理由をそっと耳打ちした。
その後、ライハはレムの見守る中、結衣との三人だけの会話の席を設けた。
「結衣、聞いた。――八幡に、告白したんだって?」
「は……はい……」
結衣はぼっと火を噴きそうな顔をうつむかせながら肯定した。
前回の戦闘後、結衣は唐突に、八幡に対して己の想いを打ち明けた。それは当然ながらジードもペガも、その場に居合わせてしまった雪乃も耳にしたのである。
「……」
ライハはしばらく神妙な顔をしてから、こう尋ねかけた。
「で、八幡からの返事は? もしかして断られちゃった?」
と言うと、結衣は慌てふためきながら諸手を振った。
「そ、そうじゃないんですっ! 返事はいらないって、そう言ったから……」
「返事はいらない?」
ますます呆気にとられるライハ。
「じゃあ、何で告白なんてしたの」
その問いかけに、結衣は囁くような声音で回答した。
「……最近のヒッキーを見てると、大きな不安に駆られてたからです。ヒッキーは強くなったけれど……だから、あたしの手の届かないような、どっか遠いところに行っちゃうような気がして……戦いも激しくなってるし……」
「……」
結衣は、レイデュエスの八幡に向ける異様な憎悪と殺気、そしてそれに真っ向から立ち向かわなければならない八幡の背中を目にして、言い知れない焦燥感を覚えているようであった。ともにフュージョンライズすることを進み出ているのもそれが理由であろう。
「だから、せめてあたしの気持ちを知ってほしいって思ったから……。でも、やっぱり迷惑ですよね……。ヒッキー大変な目に遭い続けてるのに、余計動揺させるようなことしちゃうなんて、ほんと自分勝手……」
思い詰めた結衣がガタッと席を立った。
「やっぱり、取り消してきます! 聞かなかったことにしてほしいって……!」
「待った待った。落ち着いて」
それをなだめるライハ。結衣をもう一度座らせると、優しい声で諭し始める。
「今更取り消したって、なかったことにするなんて無理よ。むしろ、変に意識させて余計に戸惑わせてしまうでしょうね」
「うっ……ですよね……」
「それに……八幡が好きなのは、まぎれもない本当の気持ちなんでしょう?」
結衣はほんのり赤くなりながらも、コクリと首肯した。ライハはやはりという顔をしている。彼女は、結衣が八幡に向ける感情に以前から察しがついていた。
「でも……あんな時、あんな場面で言っちゃうなんて……」
「別にいいじゃない。自分の内から湧いて出た気持ちに、恥ずかしいことなんて何もない。ちゃんと言葉にしたんだから、あなたは立派なことをしたのよ」
「そ、そうでしょうか……」
「もちろん。自分の生の感情を外に出すのは案外難しいこと。あなたはそれをやってのけたんだから。リクも、あんな時とかあんな時に正直になってれば、話がこんがらがらないでのに……」
ふぅとため息を吐いたライハのひと言に、結衣は意外そうな顔になった。
「ジードんって案外ひねくれてるんですか? ヒッキーみたいに」
「あそこまでこじらせてはないけど……あなたたちに接する時はお兄さんぶってるから知らないでしょうけど、リクはあれで大分子供っぽくてすぐへそを曲げるの。ねぇレム」
[はい。時計を巡ってペガと大喧嘩したこともあります]
「えー!? あんな仲良しなのに?」
ジードの意外な一面を知って驚く結衣。それからしばらく、ジードや八幡を話の肴にして盛り上がる。
「ジードんがそんなねぇ……。ライハさんも結構苦労したんですね」
「でも、結衣も八幡に苦労させられてるんじゃない? 八幡は正直じゃないからねー。すぐ自分に言い訳して」
「そうなんですよー! もぉ、どれだけあたしがガッカリさせられたことか……」
そうして談笑していると、結衣の顔色が徐々に明るくなっていった。
「……何だか気分が晴れました。誰かとこんな風に、ヒッキーのことで思いっきり話したことってなかったから……。ありがとうございますライハさん、れむれむ」
「どういたしまして。またいつでもつき合ってあげる。私も、こんな風に他の女の子と長話したことはほとんどなかったから楽しかったわ」
[ユイ、感情は人間を人間たらしめるものです。人間は心によって、計算では導き出せないような力を出すことが出来ます。ユイも自分の感情を否定せずに、ありのままの自分を認めてあげて下さい]
「励ましてくれてるんだ。ありがと、れむれむ」
レムの言葉に苦笑しつつも感謝する結衣。そして最後に、ライハが助言した。
「告白の返事だけど……どんな形でもいいから、ちゃんと聞いておきなさい。しっかり区切りをつけることで、本当に関係を前に進められるのよ。もし駄目だったとしても……今のあなた、いいえ今のあなたたちなら、悪い結果にはならないはず。私はそう信じてるから」
「ライハさん……分かりました!」
ライハの言葉により、結衣もいよいよ腹をくくったのであった。
× × ×
翌日。八幡は放課後に無人の廊下でゼナと通話をしていた。
「……あれからレイデュエスの野郎が現れてませんけど、そちらは何か動きとか掴んでないですか?」
『いや。奴も流石に行動が慎重になっているようだな』
バーニング・ベムストラとジャンボキングのハンディキャップ戦後、八幡らの周囲はレイデュエスの動きを警戒したAIBが陰ながら厳重な警備を敷くようになり、それが功を奏したのか不安視されていたレイデュエスの無差別な凶行は起こっていなかった。かの男も、AIBと正面から事を構えたくはないようである。
『しかしだからと言って油断してはいけないぞ。奴は絶対に、我々の警戒網を突破して君の抹殺を図る計画を立て準備しているはず。すまないが、いつ何時敵の襲撃があってもいいように心の用意はしていてくれ』
「それはもちろん分かってますけど……」
レイデュエスがとにかく執念深い男であることは、八幡も重々承知している。
『もちろん、こちらも手をこまねいている訳ではない。抜本的な対策のために、応援を要請中だ』
「抜本的な? 応援?」
『まだ詳しくは話せないが、レイデュエスは更なる戦力増強を図るはず。それの事前対策だ』
レイデュエスが次に打ってくるだろう手を予測するゼナ。
『前回で奴が融合獣に変身するだけでなく、別の怪獣を使役することも明らかとなった。次に同じように、二体目の怪獣なりを出されることを想定して応援を頼んでいる』
『二体目の怪獣……。でも、それも僕たちの力があれば!』
ジードが変なところで張り合うが、ゼナはこう指摘した。
『だが、その二体目を別の場所に出されたらどうする。いくら何でも、同時に二か所で破壊活動をされたら対処できないだろう』
『うッ……』
言葉に詰まるジードであった。
『それを見越しての応援要請だ』
「でもそうなると、その応援ってのは怪獣と正面切って戦える戦力ってことですよね。そんなのがいたんですか?」
意外そうに聞く八幡。それに対してゼナは、
『AIBの戦力ではなく外部組織の協力だ。しかし、実力は申し分なし。到着してくれれば、必ず我々の大きな助けとなってくれる』
「そうなんすか……」
ゼナがここまで太鼓判を押すとは、応援とは一体誰なのだろう、と思っていると、ペガがダークゾーンから警告してきた。
『八幡、人が来るよ!』
「あッ。すいませんゼナさん、情報ありがとうございました」
流石にゼナとの話を誰かに聞かれるのは良くない。八幡が急いで電話を切ると、彼の下にペガが警告した人物が早足でやってきた。
「フゥーハハハハ! こんなところにいたか、比企谷八幡よ!」
「……」
八幡はその人物に、胡乱な目つきで振り返った。屋内だというのに、長袖のコートと指ぬきグローブを身に着けた小太りの男子生徒。別のクラスながら八幡に積極的に絡んでくる稀有な男、材木座義輝である。しかし相当な変人で結構面倒くさい性格なので、八幡の方は日頃彼をぞんざいに扱っているのだ。
八幡は材木座の顔を無言で一瞥すると、無言のまま顔をそらして歩み去り出した。
「おーい!? せめて何か言わんか! それが無二の親友、魂の相棒に対する態度か!?」
「俺がいつお前の親友とか相棒とかになるって宣誓したよ。今日のお前はいつにもまして厚かましいなおい」
「よいではないか、少しくらい大袈裟に言っても。何気に我、これが初登場なのだぞ!」
「何に初登場したんだよ」
メタいことを言いながら後についてくる、というかすがりついてくる材木座を連れる形になって歩く八幡。
「そもそも何の用だよお前。用がないんだったら、別に急いでる訳じゃないがとっとと奉仕部に行かせてもらうぞ。何かある訳でもないがこれでも忙しいんでな」
「まるで我を遠ざけたいのが本音のような矛盾に満ちた台詞だが……まぁよかろう。こちらとしても、特に何か用事という訳ではないのだが、ここのところ貴様に覇気がないのが気に掛かって声を掛けてみたのだ。いや覇気がないというより、心ここにあらずというか、意識が浮ついているというか……。何かあったのか?」
そう聞かれ、八幡は一瞬ギクリと肩を震わせた。極力動揺は表には出さないつもりだったのだが、材木座に見抜かれるようでは自分で思ったよりも衝撃が大きかったようだ――結衣に告白されたことは。
「……別に何もねぇよ。何もねぇからな?」
「ほむん……? ならよいのだが。いや、これでも心配しておったのだぞ。例のことが上手く行くのかどうかとな。まぁ無事に結果が出てよかったのだが。かの娘を生徒会長にさせられて……」
「ばっかお前それ口にするなって言っただろうが。生徒会室近けぇし」
慌てて材木座を黙らせる八幡。いろはに生徒会長をやらせる説得材料の細工には彼にも協力してもらったので、材木座は八幡が違法スレスレの手を使ったことを知る数少ない人物の一人なのだ。
そして材木座を黙らせたところで、その一色いろはと出くわすことになった。
「せんぱーい!」
八幡に気がついたいろはは、甘ったるい声を出しながらぱたぱたと近づいてきた。
「今ちょうど生徒会室の模様替え中なんです。先輩も見ていきませんか? って、お取り込み中でしたか?」
いろはがかわいらしく小首を傾げると、八幡ではなく材木座の方が反応した。ビクゥッ! と肩を過剰に振るわせて。
「あッ、いや……お、お構いなく……」
八幡に対する時とは大違いに、消えそうなほどか細い声でつぶやくと、材木座はそそくさと立ち去っていった。材木座はこう見えて、極度のコミュニケーション能力不足で女子とはまともに会話も出来ないのだ。
いろははぼけっと、逃げていく材木座を見送ってからつぶやいた。
「先輩のお知り合いって、先輩含めて変な人多いんですね」
「お前ひと言どころかふた言多いぞ」
ツッコミを入れてから、いろはに尋ねかける八幡。
「それより、今日からもう生徒会の仕事か」
「そうなんですよー。……まぁ、最初はどうにもならないと思いますけど」
八幡に乗せられて生徒会長になったものの、やはり不安げないろはに、八幡は言った。
「それでいいんだよ、別に。最初なんて上手く行かなくて当然だ」
「へ?」
「けど取り返しのつかない失敗なんて、実はそうそうないもんだ。やり直して出来るようになってきゃいい。だから、めげるんじゃねぇぞ。頑張ってりゃ、いいことも起こるもんさ」
八幡としては何気なく励ましたつもりであったが、いろははそんな彼の顔をしばらくぽかんと見つめると、早口に返した。
「なんですかそれ口説いてるんですかごめんなさい狙いすぎだし気持ち悪くて無理です」
「……いや、そんなつもりじゃねぇっての」
謝られた八幡は苦笑いを噛み締めながらも、いろはに引っ張られるようにされながら生徒会室の模様替えの手伝いに加わったのであった。
× × ×
八幡との通話後、ゼナは通信士のセミ女に指示を出していた。
『次にいつレイデュエスが暴れ出すか分からん。なるべく早く、『彼』にこちらに来てもらうよう催促のメッセージを送ってくれ。応じてくれればいいのだが』
『分かりました』
セミ女はゼナの言いつけに沿う文章を打ち込むと、それを暗号化して別宇宙に向けて送信を開始した――。
× × ×
「――ふん。暗号なんか使ったって無駄だ」
透明化して隠れている円盤内で、レイデュエスがイヤホン型のスピーカーを耳に当てて吐き捨てた。たった今送信されたAIBのメッセージを、傍受しているのだ。
『殿下、AIBはどんな内容を送っているのですか?』
「少し待て」
尋ねかけたオガレスを黙らせると、内容を空で解読したレイデュエスが眉間をしかめた。
「……これが実現すると、大分厄介なことになるな。仕方ない……まだ準備は万全じゃないが、余計な邪魔が入らん内にとっとと実行に移すとするか」
『では、あの「作戦」を開始するのですね?』
確認を取るルドレイに、レイデュエスは顔の傷跡を手でなぞりながらうなずいた。
「ああそうだ。今度こそ完膚なきまでに叩き潰してやる、比企谷八幡……!」