やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。   作:焼き鮭

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奉仕部が見た雪の扉の先は。(B)

 

 千葉市は全域が突然の豪雪に覆われ、交通網が麻痺。総武高校を含む市内の学校は臨時休校となった。

 

「なのに俺は、こんな積もり積もった雪をかき分けてるとか……」

「ぐちぐち言わないの。悪天候で臨時休業するヒーローなんてどこの世界にもいないわ」

 

 雪に埋もれる道路を、一歩毎に積雪に潜り込む足をずっぽずっぽと引き抜きながら進む八幡を、雪乃が冷静に咎めた。

 彼らはジード部として、突如発生した千葉市の不自然な気象の原因を調べるべく、行動を起こしているところであった。三人とも防寒具で身を固めていても鳥肌が収まらないほどの低気温で、足元も悪いなんてものではないが、それでも歩みは止めていない。

 

「休業ねぇ……交通網が止まってるのに働きに家から出るなんてとんだ社畜じゃねぇか。まぁ、俺の両親なんだけどな。ほとほと社畜にはなりたくねぇなぁ……」

「自分の職務に責任を負っているということよ。八幡くんも見習ったらどうかしら? もっとも、二歩で転倒してはちまんころりんしてしまうかもしれないけど」

「はちまんころりんって何だよ穴に落っこちてネズミからつづらもらうのかよ。久々に毒舌が冴えたなぁおい」

 

 八幡をからかって遊ぶ雪乃は、彼の返しにふふっとおかしそうに微笑んだ。しかしすぐ真面目な面持ちとなって結衣に振り返る。

 

「無駄話はこの辺りにして、結衣さん。さっきの話は確かなのね? この雪景色の原因が……あなたが受け取ったカードなんてのは」

「うん……多分そうだと思う。カードの扉がひとりでに動くなんて不思議なことと、この大雪が偶然重なったなんて思えないよ」

 

 結衣は持ってきた扉のカードをじっと見つめながら答えた。

 彼女は昨日、奇妙な老人と出会い扉のカードを授かったことの一部始終を、二人に説明していた。

 

「……その扉が開いたことで、奥の『思い出の世界』とやらの冷気がこちらに流れ込んで、この異常気象が引き起こされた、ということかしら」

「いくら何でも荒唐無稽だな……。完全にファンタジーかメルヘンの世界だ」

 

 しかし流石に雪乃も八幡も、そう易々とは信じる気にはなれなかった。するとペガが顔を出して告げる。

 

「だけど、レムもAIBの方でも原因は何も掴めてないみたいだよ。融合獣の反応もないそうだし……。僕は結衣の言うこと、信じるよ」

「ペガっち、ありがと。とにかく、あのおじいさんにもう一度会って詳しい話を聞きたいの!」

 

 結衣がそう訴えかけると、八幡と雪乃もやや複雑そうな顔ながら承諾した。

 

「……ま、今のところ手掛かりはそれしかないもんな」

「でもその人も、この雪で外出しているかしら。どこに住んでいるかは分からないのでしょう?」

「一応、昨日の公園に行ってみよう。もしかしたら、そこに何かあるかも……」

 

 そういうことで、一同は結衣が立ち寄った公園へと歩を進めていった。

 すると、そこで待っていたのは、

 

「やはりここに来ましたね、お嬢さん」

「! おじいさん……!」

 

 紛れもなく、結衣が出会った老人。彼女がここに来るのが分かっていたようにたたずんでいた。

 八幡と雪乃はこの謎の老人を警戒する。その中で、結衣はカードを掲げながら老人に尋ねかけた。

 

「おじいさん、この寒さって、おじいさんからもらったこのカードの扉が開いたことが原因なの?」

 

 それに老人は、当然とばかりにおもむろにうなずき返した。

 

「そうです。私がグラルファンにお願いして、扉を開けてもらいました」

「グラルファン……」

 

 老人が言っていた、思い出の世界に住まう聖獣。初めは話半分だったが、今は現実味を帯びてきた。

 

「雪の扉が完全に開いた時、世界の時間は完全に停止し、その中で動けるのは思い出の世界の光を浴びた者だけです」

「……あんた、何だってこんなことするんだ。理由は?」

 

 八幡は結衣たちをかばうようにしながら老人に詰問した。これまで散々争いに巻き込まれているので、老人もその類ではないかと警戒心を抱いている。

 対する老人は、穏やかな物腰のままで語り始めた。

 

「私はかつて、雪の扉を開いたことがあります」

「え?」

「愛した妻に先立たれ、老い先も短く……誰に誇れるでもない平凡な人生でしたが、それでも私にとってはとても幸せだった過去の世界をもう一度生きたいと願い、そして……その代わりに、私は一つの世界に定住することの出来ない、迷い人となりました。今では、私のような人に思い出の世界を見せる案内人を務めています」

「……だから、何でそんなことするのかって聞いてるんだよ!」

 

 要領を得ない老人の話に思わずいら立った八幡だが、それをペガがなだめる。

 

「八幡、あの人は何か悪さをするつもりとかじゃないよ」

「え? 何でそんなこと分かるんだ?」

「いや……何か、そんな感じがするんだ」

「感じがするって……」

 

 抽象的すぎる物言いのペガを、ジードが支援した。

 

『僕もそう思う。あの人の纏う空気は、僕が見てきた悪い奴らとは全然違う……。僕に名前をくれた人に近いものだ。何か悪意があるようには、僕には見えない』

「……」

「八幡くん、ここは一旦様子を見ましょう」

 

 雪乃にも諭されては、八幡も無碍には出来ない。しぶしぶ引き下がった。

 八幡が口を閉ざすと、代わりのように結衣が老人に尋ねかけた。

 

「あの……どうしてあたしを選んだんですか? あたしなんかまだ全然人生を生きてなんかいないのに……」

 

 すると、老人は次のように答える。

 

「人生の長さではありません。本気で、もう一度、戻りたいと思えるような輝かしい時間があるかどうかです」

「え?」

 

 一瞬虚を突かれた結衣の手の中から、突然カードがひとりでに飛び上がった。

 

「あっ!?」

「いよいよ、雪の扉が完全に開かれる時が来ました」

 

 老人の静かな語りとともに、カードは空中で固定。少しずつ、カードの扉が開いて中から幻想的な光が溢れ出していく。

 

「……!」

 

 八幡たちが固唾を呑む中で、扉が全て開け放たれ、同時に光が周囲全体を覆った。

 

「わっ!?」

 

 思わず顔をそらす三人。

 そして、周囲全ての『動き』がピタリと止まり、一切の音が消え去った。

 

「……!?」

 

 驚愕して辺りを見回す八幡たち。だが文字通り、動きものが全くない。風に揺れていた木々の葉も不自然に停止し、しんしんと降り注いでいた雪は、空中に固定されたかのように宙に留まったまま落ちていかない。

 

「本当に、時間が止まった……!」

 

 思わずつぶやく雪乃。今この瞬間、動くものは、八幡と雪乃、結衣、そして老人だけ……。

 いや、もう一つ、扉が開く前には「なかったもの」が動いていた。停止した雪景色の中に、いつの間にかそびえ立っている……。

 

「おお、グラルファン……」

 

 老人がその名を口にした。

 全身が白く、額にユニコーンのような一本角と、腕に白鳥を思わせる翼を生やした巨大怪獣。しかしその体格は華奢で優美であり、身体には金色の装飾で彩られており、生物というよりは古代の彫刻のようにさえ見える。

 そして纏う雰囲気。通常の怪獣のような荒々しさは一切なく、物静かで心を落ち着かせる穏やかさで包まれているのが、遠目からでもはっきり分かる。八幡たちの目の前にいる老人のように。

 

「あれが、グラルファン……」

「綺麗……」

 

 雪乃たち三人も、グラルファンのあまりの優雅な立ち姿に一瞬見とれていた。

 そして老人は、扉が開かれるとともにこの世界に現れたグラルファンに向かって呼びかけた。

 

「グラルファン、彼らに思い出の世界を見せてあげて下さい」

 

 グラルファンはじっと立ったまま結衣たち三人を見つめ、そして何かをしたのか、扉から生じる光がスポットライトのようになって、三人の手前に注がれた。

 老人が告げる。

 

「これから、お嬢さん、あなたの……いや、あなた方の最も美しい思い出の時間が、よみがえります」

「あたしたちの……!?」

 

 これからどんなことが起こるのか。何が見えるというのか。三人はゴクリと息を呑んだ。

 そうして、彼らの目に飛び込んできた光景は、

 

「え……これって……!」

 

 結衣たちは、思わず目を疑った。

 それは、彼らにとっては見慣れた部室の光景。その中で駄弁を交わす見慣れた部員たちの顔。

 

「奉仕部じゃんか……」

 

 八幡が唖然とつぶやいた。

 そう。『最も美しい思い出の時間』として現れたのは、今現在で続いている奉仕部の光景だったのだ。

 ――いや、今と全く同じではないことに雪乃が気づく。

 

「待って。どうも、『現在』の光景ではないみたいよ」

 

 そうつぶやいて、光の中の八幡が手にしているものを指差す。

 

「見て。八幡くんが、紙コップを使っているわ」

「あっ、ほんとだ……」

 

 風景の八幡が持っているのは、少し前に用意された湯飲みではなく、それ以前に使用していた紙コップであった。

 

「他にも、一色さんのいる痕跡がないし、私たちも互いの距離感がどこかよそよそしいように見える。恐らく……これは、奉仕部が三人になり立ての頃の時間だわ」

「なるほど……ジードたちがやってくるよりも前っぽいな」

「あたしたちの、始まりの頃の時間……」

 

 三人が呆けたように、かつての自分たちの姿に見入っていると、老人が呼びかけてくる。

 

「最も美しい思い出とは、必ずしも遠い過去のものとは限りません。比較的最近でも、それが過ぎ去ってしまった一瞬ならば、思い出は思い出です」

「過ぎ去ってしまった一瞬……」

 

 老人の言葉を結衣が復唱した。確かに、関係をリセットして自分たちの出会いをやり直すなどということは出来ない。

 

「これが、一番美しい思い出……。そうだね……。色々と苦しいことや辛いこともあったけど、あたしたちはここからスタートしたんだ。この奉仕部で、人の顔色を窺うばかりだったあたしが変わっていった……」

「……今の俺たちは、この時間がなかったら絶対あり得なかったな」

「それを思えば……確かにこれが、私たちにとっての一番大切な思い出ね。私たちの、原点……」

 

 在りし日の自分たちを見つめた三人に、老人が問いかけた。

 

「さて……もし望むのであれば、あなた方は思い出の時間の中に行くことが出来ます。もう戻らない時間を、もう一度生きることが……。どうしますか?」

 

 すると結衣が老人へ振り返り、穏やかな微笑を浮かべながら答えた。

 

「せっかくですけど……あたしは、あそこには行きません」

 

 結衣の台詞に、八幡と雪乃がうなずく。二人も同じ気持ちであった。

 そしてこの返事に、老人は満足そうな顔になっていた。

 

「それは何故でしょうか?」

 

 この質問に、結衣がはっきりと答える。

 

「確かに、今目の前のあるのは大事な思い出です。これから先、こんな時間はなくなってしまうかもしれない。……だけど、あの時間が大事と思えるのは、『今』があるからなんです。『今』があって、これからの『未来』が待ってるからこそ、あの時が大切な思い出なんだと思えるんだって、こうして目にすることで分かりました。だからです」

 

 八幡も雪乃も、わざわざ言葉にしなくとも、結衣と同じ結論であることは表情が物語っていた。

 そして老人は、彼らの回答に――にこやかな顔であった。

 

「それでいいんです」

「おじいさん……」

「人は、同じ感動、同じ感情を再び得ることは出来ません。過去をもう一度生きたとしても、その時の輝きは戻ってはこないのです。どんな時間も……どんな一瞬も、一度きりです」

 

 老人の言葉に、結衣は大きくうなずく。

 

「……うん。だから、これからの時間を生きてくんだね。これから先、どんなことが待ってるか分からないから、意味がある……」

「ええ……。そろそろ、グラルファンを帰してあげましょう」

『八幡』

 

 そう老人が告げるとジードが八幡を呼び、それを合図に八幡がジードライザーを取り出した。

 そしてフュージョンライズし、グラルファンの正面に立つ。

 

[ウルトラマンジード! シャイニングミスティック!!]

 

 ジードが雪の扉を閉ざすまでの間に、老人が結衣に呼びかけた。

 

「扉のカードは、あなたにあげます」

「ありがと、おじいさん……」

「もう開くことはありませんが、思い出の品として形に残ります。今後の未来、きっとつらいことや悲しいことがたくさんあるでしょう。昔に戻りたいと思う時もきっとあります。そんな時は、カードを見て今日のことを思い出して下さい。この日の思い出を振り返り、また明日を生きる……それが、本当の思い出の世界ではないかと、私は思うようになりました」

 

 老人の語ることを受けて、結衣は胸の前でぎゅっと手を握った。

 

「分かった……おじいさんの思い出、大事にするね」

「……あなたは、これからどこへ行くのですか?」

 

 ふと、雪乃が尋ねた。老人は次の通りに答える。

 

「私はもう、一つの世界にいつまでも留まれる身ではありません。刹那の時しか、他の人とは関われない。――ですが、私という存在がいたことは、誰かの思い出の中にあり続ける。それもまた、生きるということだと思います」

 

 ジードが時空を操作する能力によって雪の扉を閉ざしていく。それとともにグラルファンと――老人の姿が薄れていく。

 

「お別れです。もう会うことはありませんが……またお会いしましょう」

 

 別れの言葉を残す老人を、結衣たちは手を振って見送る。

 

「さようなら! またね!」

 

 完全に扉が閉じると、カードが落下してきて、結衣の手の中に収まった。同時に停止していた世界に動きが戻る。

 時間が動き始めると、グラルファンと、老人の姿はどこにもなくなっていた。

 

 

 × × ×

 

 

 数日後、気象は普段通りに戻り、雲は晴れて晴天の日が続いた。積雪も時とともに溶けていき、あの一日が嘘だったかのように綺麗に消えてしまう時も遠くない。

 

「……まるで夢を見てたみたいだよな」

 

 下校時、校庭の片隅に固められた雪の残りを見やって、八幡がぼそりとつぶやいた。雪乃と結衣は首肯しつつも言う。

 

「たとえ夢だったとしても、あの出来事は思い出として、はっきり残っているわ」

「うん。きっと忘れない……あのおじいさんがいたこと」

 

 結衣の手には、扉が描かれているただのカード、しかし一度だけの思い出の証拠が、確かな形として存在していた。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンコスモス』第五十七話「雪の扉」よ」

雪乃「短距離走の選手だった中学三年生の暁は、大会でライバルに僅差で敗れてから、目的を失いながら漠然と練習を続ける日を送っている中で、トマノという老人と出会う。雪の扉を開いて一番幸せだった時間に帰ろうとしているトマノとつき合う内に暁もトマノの願いを叶えてあげようと思うようになり、そして本当に雪の扉が開き始める……という内容よ」

雪乃「この話では完全にコスモスがいなくてもいいくらいの脇役なんだけど、脚本の完成度と卓越した幻想的な映像美から、コスモスの最高傑作との呼び声もあるわ。その感動は、とても言葉では伝えられないわ」

ジード『ウルトラシリーズでは時々ウルトラマンがほぼ活躍しない話があるけど、そういうものこそシナリオに力が込められてるんだよね』

雪乃「それでは、また次回にお会いしましょう」

 




ライハ「そうなの……そんなことが」
結衣「はい! あたし、これからの日々を精一杯生きてこうって思います!」
ペガ「ふふ、結衣は単純だなぁ」
結衣「あー、何それペガっちぃ。いいじゃん素直に感動したんだから~」
雪乃「そのためにも、早く戦いに決着をつけないとね」
八幡「ああ。ゼナさんの方は今どうなって……うッ……!?」
雪乃&結衣「八幡くん!?」「ハッチー!?」
ライハ「大丈夫……? 今ふらついたけれど」
八幡「は、はい。ちょっと立ちくらみしただけです。少し休めばどうってことないですよ」
ライハ「そう……。だけど、あまり無理しては駄目よ」
ジード『……八幡……まさか……』



次回、『かくして、史上最大の侵略の幕が上がる。』

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