やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。   作:焼き鮭

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かくして、史上最大の侵略の幕が上がる。(A)

 

 二月一日。千葉市の町外れ。

 

「ショアッ!」

 

 耳をつんざく轟音と激しい地響きを伴いながら、ジード・プリミティブがレイデュエス融合獣と凄絶な交戦を行っていた。

 

 グワアッシ……グワアッシ……ウオォンッ、ウオォンッ……!

「ギイイィィィィ―――――!」

 

 二種類の駆動音と、金属同士が軋むような咆哮を発するのは、龍型の頭部に白い左半身と黄金色の右半身を持った、左右非対称のロボット融合獣。

 かつてウルトラセブンを極限まで追いつめたペダン星脅威のスーパーロボット・キングジョーと、異次元から現れ全有機生命体の抹殺を図った恐怖の暴走兵器ギャラクトロンを融合させた、極悪無比のキングギャラクトロンだ!

 

「ハァァッ!」

「ギイイィィィィ―――――!」

 

 ジードはキングギャラクトロンに果敢に飛びかかっていくが、キングギャラクトロンのパワーは尋常ではなく、腕のひと振りによって簡単に打ち返されてしまった。

 

「ウゥッ!」

 

 ジードの内部では、フュージョンライズした雪乃、結衣、そして八幡が相手の攻撃の威力に顔を歪めた。

 

『「とんでもない重量だわ……!」』

『「見た目通りのヘビーロボットってとこかな……!」』

『「ここはもう一度フュージョンライズだ!」』

 

 八幡がそう判断してカプセルの交換を行おうとしたが、

 

『「させるかぁッ!」』

 

 ジードの行動を読んでいたキングギャラクトロンは左腕に魔法陣を展開、空間歪曲を応用した猛ラッシュ攻撃を見舞ってくる。

 

「ウワアァァァッ!」

『「あうぅっ!!」』

 

 キングギャラクトロンの猛烈な連撃に吹っ飛ばされるジード。カプセルの交換が阻害される。

 

『「比企谷ぁッ! グチャグチャに叩き潰してやるぞぉぉッ!!」』

 

 レイデュエスは血走った眼でジードをにらみ、追撃を掛けていく。

 

『「ぬふぅッ! 八幡が危ないぞ!」』

『野郎ッ!』

 

 ジードを執拗に狙うキングギャラクトロンにウルトラマンゼロが横から飛び掛かろうとするも、

 

 ウオォンウオォンウオォン……!

「ギィィィィ……!」

 

 ルドレイの変身したクラッシャーゴンが右腕のハサミを伸ばしてきて妨害してくる。

 

『このッ! 邪魔すんじゃねぇ!』

 

 ハサミをいなし、クラッシャーゴンをすり抜けていこうとするゼロだったが、その背にいきなり電撃が走る。

 

『ぐわッ!?』

「キイイイイイイイイ! ゲエゴオオオオオオウ!」

 

 ゼロの背後からスゥッと姿を現したのは、透明化能力を持つオガレスが変身したサンダーキングである。

 

『「くぅッ、背後から不意打ちとは卑怯な!」』

『なめた真似しやがって!』

 

 忌々しげに下唇をぬぐうゼロ。二体の融合獣に行く手を阻まれ、ジードの加勢に向かうことは出来なかった。

 

「ギイイィィィィ―――――!」

 

 その間に、キングギャラクトロンは一切容赦のない猛攻撃によってジードをどんどん追いつめていっていた。

 

 

 

『かくして、史上最大の侵略の幕が上がる。』

 

 

 

「ギイイィィィィ―――――!」

「ウゥッ……!」

 

 キングギャラクトロンの、重量級のイメージを覆すような機動力の高さに、ジードは攻撃をよけるのが精一杯のありさまであった。八幡たちはひどく焦る。

 

『「速い上に、重い……! 手強いわ……!」』

『「おまけにこっちの動きも読まれてるよぉ!」』

『「どうにか隙を……!」』

 

 何とか逆転の一手を掴み取ろうとするジードだが、キングギャラクトロンは右腕のレールガンを突き出してエネルギーを充填させる。

 その矛先は、何と千葉市だ!

 

『「なッ!? やめろッ!!」』

 

 ジードは咄嗟にキングギャラクトロンの正面に回り込んで、その身を盾にした。直後にレールガンから、破壊光線ペダニウムハードランチャーが発射される!

 

「ウワアアアアァァァァァァァァァッ!!」

 

 おぞましいほどの威力に、ジードの絶叫が轟く!

 

『ジード!!』

 

 クラッシャーゴンのハサミを押し返しているゼロの視線の先で、吹き飛ばされたジードがばったりと倒れた。

 

『「あうぅぅぅっ!!」』

『「ぐッ、ぐはッ……!!」』

 

 ダメージはすさまじく八幡たちも胸をかきむしってもがき苦しむ。ジードのカラータイマーが赤く点滅する。

 

『「とどめだぁぁッ!」』

 

 キングギャラクトロンは微塵も情けを見せず、二撃目を繰り出そうと砲身をジードに向けた。

 しかしジードは瞬時に飛び起き、口から衝撃波を発した。

 

『レッキングロアー!』

 

 衝撃波はキングギャラクトロンの足元を穿ち、地面を崩されたことでキングギャラクトロンの姿勢が崩れる。

 

『「何ッ!? くそッ!」』

 

 どんな破壊力を誇る砲撃も、射線が合っていなければ無意味。この一瞬の隙にジードはどうにか体勢の立て直しに成功した。

 

『今だッ!』

『「くッ……ああ!」』

 

 八幡たちは苦痛に喘ぎながらも、必死に耐えて素早くカプセルを交換していく。

 

『「ユーゴーっ!」』『フエアッ!』

『「アイゴーっ!」』『ダァッ!』

『ヒアウィーゴーッ!!』

 

 雪乃がベリアルカプセル、結衣がキングカプセルを起動し、八幡がジードライザーでスキャンする。

 

[ウルトラマンベリアル! ウルトラマンキング! 我、王の名の下に!!]

 

 ライザーから現れたキングソードを八幡が握り締め、柄にキングカプセルを差し込んだ。

 

[ウルトラマンキング!]

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 金色の粒子を浴びながら、ジードの肉体がまばゆく変化する!

 

[ウルトラマンジード! ロイヤルメガマスター!!]

『「変えるぜ! 運命!!」』

 

 最強形態となったジード・ロイヤルメガマスターがキングソードを携え、キングギャラクトロンに改めて立ち向かっていく。

 

「ハァッ!」

「ギイイィィィィ―――――!」

 

 キングギャラクトロンの突き出してきた左腕のクローを剣で受け止めるジード。だが、ロイヤルメガマスターになってもキングギャラクトロンのパワーは高く、ジードの腕がじんじん痺れた。

 

『「くぅっ……! これでもパワーは向こうが上みたい……!」』

『「けれど、真っ向からぶつかることはないわ!」』

 

 雪乃の判断により、ジードはキングギャラクトロンのパンチを剣で華麗にさばいてそらしていく。動きの柔軟性ならば、ロボットより生身のジードの方が上回る。

 

「タァッ!」

「ギイイィィィィ―――――!」

 

 相手の攻撃を受け流して出来た隙を突き、ジードの斬り上げがキングギャラクトロンの肩口を裂いた。

 

『いいぜジード! よしッ、こっちも決めてやるッ!』

 

 クラッシャーゴンを抑えていたゼロのウルティメイトブレスレットが輝き、身体が赤く染まる。

 

『ストロングコロナゼロッ!』

 

 二段変身したゼロが超怪力を発揮して、クラッシャーゴンの巨体を空高くに竜巻のように投げ飛ばした。

 

『ウルトラハリケーン! からの、ガルネイトバスタぁぁぁ―――――!』

 

 灼熱光線を頭上に飛ばしたクラッシャーゴンに食らわせ、一撃で爆砕!

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 相棒を倒されたサンダーキングは透明となってゼロに闇討ちを掛けようとしたが、ゼロは再び変身。

 

『ルナミラクルゼロ!』

 

 青い姿のルナミラクルゼロとなると、双眸を輝かせて透視能力を発動。

 

『ミラクルゼロスラッガー!』

 

 繰り出した分身スラッガーが見事サンダーキングを捉え、ズタズタに切り裂いて爆破させた。

 

「ギイイィィィィ―――――!」

 

 一方で巻き返されつつあるキングギャラクトロンは、ペダニウムハードランチャーを再びジードに浴びせようと構える。対するジードは、八幡がキングソードにエースカプセルを挿入した。

 

[ウルトラマンエース!]

『テェーイッ!』

 

 キングソードを縦に構えて、刀身から垂直の大振りの光刃を発射!

 

「「「『バーチカルスパーク!!!!」」」』

 

 光刃はペダニウムハードランチャーを両断しながら飛んでいき、キングギャラクトロン自身も貫通する!

 

「ギイイィィィィ―――――……!」

 

 キングギャラクトロンもまた爆散。これで敵は全て退けられ、ジードとゼロはその場で消えて変身を解除していった。

 

 

 結衣、雪乃、八幡と材木座の四人はエレベーターまでの道すがら、先ほどの戦闘について話をする。

 

「はぁー……今回も大分きつかったねぇ……」

「日を追う毎に戦いが激化しているように思えるわ。間隔も短くなってきているし……この傾向は極めて良くないわ」

「だけど、AIBでもいよいよレイデュエスの対策が大詰めになってきてるって! きっとあとひと踏ん張りだよ!」

 

 結衣と雪乃の会話に、材木座は少し離れたところで一人うんうんうなずいているだけ。

 

「そうね、私たちも最後まで頑張らないと。ねぇ八幡くん……」

 

 雪乃が八幡に振り向くと――彼はひどく青ざめた顔をしていた。

 

「……あ、悪い。聞いてなかった……」

「ど、どうしたの? 顔色が悪いわよ、すごく……!」

 

 あまりにも尋常ならざる様子なので、雪乃たちは度肝を抜かれてしまった。

 

「い、いや、何でもねぇって。これくらい……うッ……」

 

 元気なように振る舞おうとした八幡だったが、急に息を漏らすと、

 そのまま前のめりにぱたりと倒れ込んでしまった。

 

「!!? 八幡くんっ!!」

「は、ハッチー! しっかりしてっ!!」

「はわわ、大変だ! 材木座くん、手を貸して!」

「う、うむ! 八幡、気を確かに!」

 

 雪乃たちは一気にパニックとなり、ペガと材木座が二人がかりで八幡を星雲荘へと急いで運んでいった。

 

 

 × × ×

 

 

「ぐぅ……ゲホッゲホッ!!」

 

 円盤に逃れてきたレイデュエスは、膝を突いて壁に手をつけながら激しくせき込んだ。

 

「く、くそ……人を思いっきりぶった切りやがって……」

『で、殿下! 流石にもう限界です!』

『一度、治療に専念しましょう! 完全に倒れてしまっては元も子も……!』

 

 口を押さえた手の平に血がにじむほどになってきたレイデュエスの容態にオガレスとルドレイが慌てふためくが、レイデュエスは腕を振って二人を振り払った。

 

「うるさいッ! それより、遂に最後のカプセルが完成したぞ……!」

 

 脂汗を垂らしながらも、レイデュエスはカプセルを見せつけながら歪んだ笑みを浮かべた。

 そのカプセルとは、白い首のベリアルのもの。

 

「例のものも出来上がってるんだろうな?」

『は、はッ! 十五発全て、いつでも使用可能にしております』

 

 ルドレイが背筋を正して応答した。

 

「よぅし……それでは、いよいよウルトラマンジードを……比企谷八幡を葬り去る最終決戦の幕開けと行くぞ……!」

 

 レイデュエスはよろめきながらも立ち上がり、その宣言を発した――。

 

 

 × × ×

 

 

 星雲荘ではペガやライハ、雪乃たちに知らせを受けて駆けつけたゼナと陽乃にいろはや小町、平塚らが、ベッドに寝かされた八幡を心配した顔つきで囲んでいた。

 ベッドの上の八幡は、死んだように眠ったまま目覚める気配がない。

 

「先輩……ここまで弱り切ってたなんて……」

「お兄ちゃんは大丈夫なんですか!?」

 

 普段はかしましいいろはと小町も、今ばかりは暗い表情であった。小町の問いかけにレムが答える。

 

[一時は危険な状態でしたが、容態は安定しました。ひとまずは、命に別状はありません]

「快方に向かうということね? ならいいんだけど……」

「けどまさか、八幡が倒れるなんて……」

 

 ライハとペガもまた八幡の身を案じて、憔悴していた。

 何故こんな事態になったか、レムが説明する。

 

[ハチマンの身体はウルトラマンジードであるリクとの融合によって、治癒力が常人よりもはるかに優れています。――が、今日までの連戦で蓄積されていたダメージの影響は、リクの力を以てしても回復し切れないものとなりました。私もこうなることが不安でしたが……とうとう起こってしまいました]

 

 レムの言葉で雪乃と結衣が顔を伏せた。

 

「私たちも大分苦しんだくらいですもの……直接融合している八幡くんの受けていたダメージは、それ以上だったのね……」

「どうして気づいてあげられなかったんだろ……。この前から苦しそうだったのに……」

 

 平塚は一旦落ち着こうとタバコの箱を取り出したが、結局握り潰した。

 

「馬鹿者め……苦しい時こそそれを表に出すべきだと、理解したと思っていたのだがな……」

「うう、八幡……」

 

 皆が心痛の面持ちの中、陽乃はゼナにこそっと耳打ちする。

 

「ゼナ先輩、やっぱりこれ以上は……」

『うむ、彼に負担を掛けさせる訳にはいかない。次にレイデュエスが現れた時は、多少強引にでも例の作戦を……』

 

 ゼナと陽乃が何かを打ち合わせていたその時、レムが声を上げる。

 

[通信が入りました――レイデュエスからです]

「!!」

 

 この場の全員に緊張が走る。

 

「――つなげて」

 

 雪乃が静かな怒りを湛えながら、レムに頼んだ。

 八幡の状態が映らないように隠しながら、星雲荘のモニターにレイデュエスの顔が映し出される。

 

『よお、AIBもおそろいで、連絡を入れる手間が省けそうだ。だが肝心の比企谷の奴がいないな?』

「わざわざあんたなんかの都合に合わせたりなんかしないし!」

 

 結衣が怒気を含みながらレイデュエスに言い返した。間違っても、この男に今の八幡のありさまを勘づかれることはさせられない。

 

『だったらお前らからあいつに伝えろ。明日の14時、いよいよ俺たちの因縁を正真正銘最後にするぞとな!』

「!」

 

 レイデュエスの宣告に再び場に緊張が走った。レイデュエスはとうとう最終決戦を申し込んできたのだ。

 

「――いい加減にしてよ! 自分の勝手にこれ以上お兄ちゃんをつき合わせないで!」

「そんなのにこっちが応じる義理なんてないです!」

「ジードの奴はちょっと野暮用でな。また負けに来るってんなら、俺が相手になってやるぜ」

 

 小町といろはが宣戦布告をはねのけ、ゼロが材木座の口を借りて挑発する。

 が、するとレイデュエスはとんでもないことを言い始めた。

 

『ふん、何を隠してるのかは知らんが、奴が決戦に来なかった場合はこの星のあらゆる土地が吹き飛ぶことになるぞ。地面の下からな!』

「!?」

 

 いきなりの発言に、一同は一瞬混乱する。

 

「な、何を馬鹿なことを。訳の分からんことを言うな」

「地面の下から、吹き飛ぶ? そんなこと出来るはずが……」

 

 平塚やライハが否定しようとしたが、ペガは青ざめた顔で首を振った。

 

「いいや、聞いたことがあるよ。そんなことが出来る恐ろしい兵器が、確か存在するはず……」

『察しのいい奴がいるな。そう、これを見ろッ!』

 

 画面が切り替わり、雪乃たちの目にミサイルらしき物体が洞窟のような場所に並べられているところが見せつけられた。しかもそのミサイルは、どういう訳か地面に向けられて設置されているのだ。

 

『これはただのミサイルじゃない。地底間弾道弾だ! それも一発一発が、都市を一つ丸ごと爆破できる威力のな!』

「な……!!」

 

 ゼロやゼナなどの宇宙人が特に驚愕に染まった。小町が尋ねる。

 

「ち、地底間弾道弾って何ですか? 何かすごく嫌な響きですけど……」

 

 それにゼロが、声をわななかせながら答えた。

 

「その名の通り、地中を掘り進むミサイルだよ。大抵の星の軍備が、陸海空の防御は固くとも地底は無防備。だからこれを使われればひとたまりもねぇもんだ……」

『馬鹿を言うな! 地底間弾道弾は宇宙条約で定められた使用禁止兵器の一つ! どんな裏ルートを有していようとも、一個人が用意できるような代物ではない!』

 

 ゼナが声を荒げたが、レイデュエスはそれをせせら笑う。

 

『そんなもんは簡単なことだ。他から入手できないんなら、造ればいいだけの話だよ!』

『何!? 造っただと!?』

『しばしば俺たちが行動しない期間があっただろ。そんな時何してるのかって考えなかったか? これを造ってたってことさ!』

 

 歴戦のベテランのゼナも、この無茶苦茶ぶりには色を失っている。

 

『それこそ、到底信じられない話……』

『だったら今すぐにでも試し撃ちしてやってもいい。標的はお前らの隠れ家がある街にでもしてやろうか?』

『……!』

 

 脅しを掛けられて、ゼナも黙してしまう。もし地底間弾道弾が本物で、言う通りの威力を発揮するのなら――取り返しのつかない大惨事だ。

 

『まぁそういうことだ。明日の14時に、こっちが指定する場所に比企谷八幡が来なかった時にはこいつをぶっ放してやる。よぉく奴に知らせるんだぞ? 分かったな。クッハッハッハッハッ……!』

 

 レイデュエスは耳障りな哄笑を残して、一方的に通信を切断した――。

 


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