やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。   作:焼き鮭

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大空より愛をこめて、由比ヶ浜結衣が舞う。(B)

 

 ザンドリアスがかくまわれた山の手前には、大勢の人間がごった返していた。彼ら全員、初めての温厚な性質の怪獣、ザンドリアスの姿をその目に収めようと全国、いや世界中から集まってきたのだ。

 

「ご覧下さい! ウルトラマンジードによってこの山に運び込まれた怪獣をひと目見ようと集まった人たちの波が、朝からずっと続いております!」

「押さないで下さい! 近づきすぎると危険です! 線より内側には入らないで下さい!」

 

 各国のテレビ局がザンドリアスと観衆の様子にカメラを回し、警察や自衛隊が人の波の整備に追われている。――その様を八幡と雪乃が、人ごみに混じりながら若干呆れたようにながめていた。

 

「全く、現金なもんだよな……。世界中のメディアが昨日までは、怪獣は恐ろしい化け物だとか人間の敵だとか口をそろえて喚いてたってのに、大人しい奴が現れた途端にこれだ」

 

 八幡が目を向けた先では、手の早い集団が早速ザンドリアスのグッズや擬人化もののイラストなどを販売している。突貫で仕上げたものなので正直出来は荒いのだが、それでも売れ行きは良いみたいだ。

 

「人間ってほんと流されやすいもんだな……」

「そんなものでしょう。大半の人は、常日頃からよく物を考えたりしないで、その場の雰囲気に迎合しながら生きている。私たちは彼らとは視点が違うからこそ少数派なのよ」

「だから奉仕部なんかに入れられたんだよな、俺たち」

 

 嘆息する八幡たちだが、ジードとペガは現状を肯定的に捉える。

 

『でも、僕はこれが必ずしも悪いことだとは思わないよ。怪獣も生きてるんだ。怖がってばっかだと、怪獣が可哀想だよ』

『ペガも、こんな姿だから他人事じゃないな。いつかは地球でもダークゾーンの中にいないで済むようになりたいよ』

「ま、そうだな。影の中って窮屈そうだもんな……」

「ヒッキー、何ブツブツ言ってるの?」

 

 前方の結衣が振り返って尋ねてきたので、八幡は慌ててごまかす。

 

「ああいや、大したことじゃねぇよ! あの怪獣、面構えはちょっとおっかないなーって思ってただけだ」

「そうかな? 結構可愛い顔してるじゃん!」

「そうかぁ……? 目なんか真っ赤だぜ」

 

 などと言っていたら、山間からザンドリアスがひょいっと顔を覗かせた。

 

「ピギャアーッ!」

「あっ、見て! こっちに手振ってるよー!」

 

 ザンドリアスがご機嫌そうに手を振ったことで、結衣を始めとした群衆はわっと沸き立った。……結衣の意識がそちらに向いている間に、八幡は雪乃に囁きかける。

 

「薄々思ってんだけどさ……」

「何かしら?」

「由比ヶ浜がいると、何かとやりづらいよな……」

「……ええ、確かに」

 

 同意する雪乃。星雲荘にいる時はともかく、奉仕部の部室では結衣がいるために、肝心な時にジードたちと会話を取りづらいし、ジードに変身しようとしたら、いちいち脱け出す言い訳を考えなくてはならない。他のクラスメイトとかなら八幡をそうそう気に掛けたりはしないので適当でいいのだが、関係が近しい結衣相手だとそうはいかない。

 

「でも、あまり遠ざけようとしたら由比ヶ浜さんに悪いわ。除け者にしようとしてるみたいで」

「だよなぁ。あいつが悪い訳じゃないから、流石に気が引けるしな……」

 

 ウルトラマンジードという秘密を抱えてしまったことで、八幡と雪乃は結衣との適度な距離を取るのに苦心するようになってしまった。

 そんな二人の悩みは露知らない結衣は――ザンドリアスを観覧しながら、首をひねりながら自分の手を揉んでいた。

 

「何だか、手の平がいつもより熱い気がするなぁ……。風邪でも引いちゃったのかな……?」

 

 

 × × ×

 

 

 ――その日の夜遅くになっても、流石に少なくはなったものの、マスコミ関係者や熱心な見物客などは山の前に留まり、警察らはザンドリアスの周囲を見張り続けていた。

 しかし山中を巡回していた自衛隊の隊員たちが、見るからに一般人の若い男が山林の中に入り込んでいるのを発見して駆け寄った。

 

「君! そこの君! 止まりなさい! ここから先は危ないぞ!」

 

 すぐに呼び止めて、ザンドリアスに近づかないように注意する。

 

「どこから入ったんだ? 立ち入り禁止の文字が読めなかったのか? まぁとにかく、すぐ戻りなさい……」

 

 送り帰そうとする隊員たちだったが……男は無言で、彼らに手の平を向ける。

 

「ん……?」

 

 そこから閃光が怪しく発せられて――隊員たちは瞬時に意識を刈り取られて、ドサッとその場に崩れ落ちていった。

 

「この俺の行く手を阻もうとするとは不遜な奴らだ。命は取らないことを感謝しておけ」

 

 尊大な態度で吐き捨てた男――レイデュエスはオガレスとルドレイを連れて、ザンドリアスの元へと踏み込んだ。ザンドリアスは座り込んだままこっくりこっくりと舟を漕いでいる。

 

『これがこの星に墜落した宇宙怪獣ですか。見たところ、ろくな力を持ってなさそうですが……』

『こいつの怪獣カプセルを作ったとしても役に立ちそうもありませんし、わざわざ構わなくともよろしいのではないでしょうか?』

 

 と意見するルドレイだが、レイデュエスはにやつきながらザンドリアスをねめ回す。

 

「この星に初めて出現した野生の怪獣だ。その記念として、世間がもっと盛り上がるようにこの俺が演出してやろうというんだ」

 

 ここでザンドリアスが三人の気配を感じ取って、パチリと目を開けた。

 

「ピギャアーッ?」

 

 ザンドリアスは不思議そうにレイデュエスたちを見下ろしている。それに対して、レイデュエスはおもむろに怪獣カプセルを取り出した。

 

「宇宙指令E04!」

『ゴオオオオオオオオ!』

 

 漆黒の怪人のカプセルを起動して装填ナックルに押し込み、それをライザーでスキャンしてザンドリアスに向ける。

 

「さぁ……ショウタイムだ!」

ワロガ!

 

 ライザーから怪しい光が飛び、ザンドリアスの頭部に浸透していった。

 

「ッ!」

 

 その途端、ザンドリアスの瞳が紫色に濁った。

 レイデュエスはニヤァ……と邪な笑みを浮かべていた。

 

 

 × × ×

 

 

 早朝、八幡はいつものように小町と一緒に朝食を取っていた。

 しかし愛飲しているMAXコーヒーを啜っているところで、いきなり家全体がガタンッ! と大きく震動したので目を白黒させた。

 

「な、何!? 地震!?」

 

 小町も動揺したが、遠くから爆発らしき音が一緒に聞こえてきたので、八幡はすぐに単なる地震ではないことを察した。

 

「これって……!」

「お兄ちゃん、何だか変だよ!?」

 

 わたわたと慌てふためく小町に、八幡は席を立って言いつける。

 

「小町はじっとしてろよ。俺は外の様子を確かめてくる!」

「あっ、お兄ちゃん!」

 

 有無を言わせずに家を飛び出す八幡。彼がすぐに目撃したのは――。

 

(♪破壊の使者(M30))

 

「ピギャアーッ!」

 

 ザンドリアスが町に入り、光線を乱射して家屋を次々に爆破して町を焼いている姿だった!

 

「きゃあああああっ!?」

「うわあああああッ!」

 

 既に町には、ザンドリアスの凶行から逃げる人々の悲鳴が重なって響き渡っていた。八幡は立ち尽くしたまま気を動転させている。

 

「あいつ、どうしたってんだ!? 昨日はあんなに大人しかったってのに! 何か機嫌を悪くするようなことでもあったのか!?」

 

 装填ナックルに触れてレムと通信すると、レムが分析の結果を報せた。

 

[単なる興奮状態ではありません。脳波に異常な変調が見られます。恐らくは、何らかの精神操作を受けたのでしょう]

「精神操作!? それって……!」

『誰かがザンドリアスを暴れさせてるんだ!』

 

 ダークゾーンの中から、ペガが八幡に告げた。ジードはレムに問いかける。

 

『レム、ザンドリアスを元に戻すには!?』

[それには、アクロスマッシャーの浄化能力が必要です]

 

 その返答に、気まずそうに歯噛みする八幡。現状、彼がアクロスマッシャーにフュージョンライズする手段は見つかっていないのだ。

 彼を励ますように、ジードが呼びかける。

 

『ジーッとしてても、ドーにもならねぇ……! 何か出来ることがあるはずだ。とりあえず、ザンドリアスにもう少し近づいてみよう!』

「あ、ああ……」

 

 暴れ回るザンドリアスの様子に八幡は一瞬二の足を踏んだが、破壊されていく町をどうにかしなければならないと己を奮い立たせて、ザンドリアスの方向へと走っていった。

 

 

 × × ×

 

 

 ――八幡がザンドリアスに近づいていくと、その途中で知った顔を発見した。

 

「由比ヶ浜ッ!」

「ひ、ヒッキー!」

 

 結衣であった。八幡に気がついた彼女はすぐに彼の元へと駆け寄り、動揺し切った表情で八幡とザンドリアスを見比べる。

 

「ヒッキー、どうしよう! 怪獣が暴れてるよ! あんなに大人しかったのに……!」

「……由比ヶ浜、とにかく逃げろ。お前が出来ることはないから……」

 

 八幡は結衣を逃がそうとするも、彼女はぐいぐいと八幡の手を引っ張る。

 

「ヒッキーも避難しようよ! 怪獣に向かってってなかった? ヒッキーこそ何するつもりなの!?」

「お、俺は……」

 

 結衣の反応は至極当然。それ故に、どう説得したものか……。八幡が困っていると、

 

「ピギャアーッ!」

 

 ザンドリアスが蹴り上げた建物が砕け、その破片が八幡たちの方へと飛んできたのだ!

 

「! 由比ヶ浜ッ!」

「きゃっ!?」

 

 いち早く気づいた八幡が咄嗟に結衣を突き飛ばしたが、そこに瓦礫の影が覆い被さる。

 死の淵に立たされた時と酷似した状況だが、今はジードの力がある。飛躍的に上がった身体能力がある今なら瓦礫をかわせる、と脚に力を込めた八幡だったが、

 

「ヒッキー! やめてぇぇっ!」

 

 彼が動く前に、結衣が絶叫しながら手を伸ばした。

 ――その胸元から、青い光が生じた!

 

「……えッ!?」

 

 瓦礫をにらんでいた八幡は仰天。何故なら――迫っていた瓦礫が突然、空中に縫いつけられたように停止したのだ。

 そして瓦礫は、八幡から外れてドスンと真下に落下した。唖然としている八幡に、ペガが告げる。

 

『今の、由比ヶ浜さんが……!』

 

 振り返ると、結衣当人が呆然と八幡を見つめていた。

 

「え……? あたし……? 今の、あたしがやったの……?」

 

 己に驚きながら両手に目を落とす彼女の胸元から光が漏れていることに、八幡は気がついた。

 

[リトルスターの反応をキャッチしました]

『念力……!』

 

 そして八幡の腰の、ウルトラカプセルのケースからも青い光が漏れ出た。八幡がケースを開くと、青いウルトラマンのカプセルの一つが、結衣の光と似た輝きを発していた。

 

[カプセルが、リトルスターと同調しています]

 

 その意味するところを察した八幡は――つい皮肉げな笑みがこぼれた。

 

「渡りに船じゃねぇか……。由比ヶ浜が救いの神だなんて、分からねぇもんだな……!」

 

 八幡は決心して、結衣へとカプセルを投げ渡す。

 

「由比ヶ浜! ちょっと、いやかなり驚くだろうけど、まずは俺の動きに合わせてくれ!」

「へ? ヒッキー、何を言って……」

 

 唖然とする結衣を置いて、八幡はもう一つの青いウルトラマンのカプセルのスイッチを入れる。

 

『ユーゴー!』

『テヤッ!』

 

 カプセルから胸にスターマークの並ぶ青いウルトラ戦士、ウルトラマンヒカリのビジョンが現れて腕を振り上げた!

 

「えぇっ!?」

「由比ヶ浜ッ!」

 

 仰天した結衣だが八幡に促されて、反射的に渡されたカプセルのスイッチを同じようにスライドする。

 

『アイゴー!』

『タァッ!』

 

 結衣のカプセルからは青と銀のウルトラ戦士、ウルトラマンコスモスのビジョンが現れる。八幡は結衣からカプセルを取って装填ナックルに収めた。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 そしてジードライザーで二つのカプセルをスキャンし、トリガーを押し込む!

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ヒカリとコスモスのビジョンが、八幡と結衣と合わさる!

 

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

 

 折り重なる光の直線と水流の煌めきを抜け、黄色い光と青い結晶の螺旋の中から、青い姿のジードが飛び出していく!

 

「ハァッ!」

 

 

 雪乃はザンドリアスの暴走の直後にエレベーターで星雲荘に移動。そこのモニターで、ライハ、レムとともに、ザンドリアスの面前にそっと着地したウルトラマンジードを見つめていた。

 

[アクロスマッシャーへのフュージョンライズ、成功です]

「あれが……」

 

 雪乃の瞳には、青と銀の体色で、尖った耳を持ったジードの出で立ちが映っていた。その姿には、どこか清廉さと清らかさが宿っている。

 これこそがウルトラマンジード第三の姿、アクロスマッシャーだ。

 

「八幡と、誰がフュージョンライズしたの?」

 

 ライハが尋ねると、レムは雪乃に返した。

 

[ユキノ、あなたもよく知る人物です]

 

 雪乃は少しの驚きを表情に浮かべた。

 

「まさか、由比ヶ浜さん……!」

 

 

『「えええぇぇぇぇ!? ヒッキー、これどういうことぉ!?」』

 

 ジードの内部の超空間では、結衣が先日の雪乃と同じような反応を示していた。八幡は少し慣れた調子で結衣に呼びかける。

 

『「悪いが説明は後だ。あいつの暴走を止めてからな!」』

『「あいつって……怪獣!?」』

 

 ジードの視線の先から、ザンドリアスが頭を前に突き出した姿勢で突進してくる。

 

「ピギャアーッ!」

「ハァァァ……!」

 

 それをジードは揺るぎない姿勢で、左手の平を胸の前に立て、右手の平を前に向けて顔の横に置いた独特の構えで待ち受ける。

 

「ハァッ!」

 

 そしてザンドリアスの突進を、相手の勢いに逆らわずに受け流した。いなされたザンドリアスはつんのめりながら停止する。

 

「ピギャアーッ!」

 

 ザンドリアスが方向転換している間に、ジードは頭上に持っていった両手に淡い光の粒子を纏わせ、腕を前に押し出しながらザンドリアスへと照射する。

 

『スマッシュムーンヒーリング!』

 

 光の粒子を一身に浴びたザンドリアスは――目の色が元に戻って濁りが消え、翼の傷が治った。それとともに正気に立ち返る。

 

「ピギャアーッ?」

 

 我に返ったザンドリアスは辺りを見回し――荒れ果ててしまった町の一部を目の当たりにして、己を恥じたようにしゅんと肩を落とした。

 ジードはザンドリアスの背中を撫で、優しく呼びかける。

 

『君が悪いんじゃない。だから落ち込まないで』

 

 一方で八幡は結衣に振り向く。

 

『「サンキューな、由比ヶ浜。お前のお陰で、こいつを元に戻せた」』

『「えっ、あたしのお陰……?」』

 

 まだよく事態を呑み込めていない結衣だったが、八幡の感謝の言葉に思わずはにかんだ。

 

『「よ、よく分からないけど……あたしが役に立てて、怪獣も助けられたのなら、それで十分だよ……」』

『「怪獣の心配もしてたのか……。由比ヶ浜はほんと優しいな」』

『「や、優しい? そうかな……えへへ……」』

 

 褒められて、結衣は頬を赤らめて後頭部を手でさすった。

 

 

 ――しかしザンドリアスの洗脳が解かれたところを、仕掛けた犯人であるレイデュエスが見やっていた!

 

「それで終わりじゃあ物足りないだろう、ジード。俺がもっと盛り上げてやるよ……!」

 

 にやりと嗤いながら、白蛇のような狡猾さを湛えた怪物のカプセルを起動する。

 

「イッツ!」『キィィィィイイィィィィ!』

 

 次いでザンドリアスの洗脳にも用いた、漆黒の怪人のカプセルを起動。

 

「マイ!」『ゴオオオオオオオオ!』

 

 二つのカプセルをナックルに装填し、紫色のライザーを取り出す。

 

「ショウタイム!!」

 

 カプセルをスキャンして、ライザーのトリガーを握り込んだ。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハハッ!」

 

 暗黒の異空間の中、レイデュエスの姿が黒い異形の影に変わり、もがいて抵抗する怪物と怪人のビジョンを口の中に吸い込む。

 

ボガール! ワロガ!

レイデュエス! エヴィルボガール!!

 

 黒い影が形を変えていき、フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、融合獣が出来上がった!

 

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

「フッ!?」

 

 ザンドリアスを慰めていたジードだが、その前に漆黒の肉体と真っ赤な単眼、大きく裂けた口、刃状の両腕と背面に皮膜状の突起、そして胸に七つの紫色の発光体を持った、レイデュエス融合獣エヴィルボガールが出現した!

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 エヴィルボガールは両腕から光弾を連射し――ジードではなく、ザンドリアスを撃った!

 

「ピギャアーッ!」

『「なッ!?」』

 

 はね飛ばされるザンドリアスに八幡たちは息を呑んだ。そして横に倒れたザンドリアスを、エヴィルボガールが踏みつける。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

「ピギャアーッ!!」

 

 エヴィルボガールは繰り返しザンドリアスを踏みにじる。ミシミシと骨が軋み、ザンドリアスから耳をつんざくほどの悲鳴が上がった。

 

『「やめてぇっ! 何でそんなひどいことするの!?」』

 

 結衣は身を乗り出しながら絶叫するが、八幡はそれを押しとどめるように告げた。

 

『「言っても無駄だ、由比ヶ浜。ああいうのには……痛い目見させねぇと理解しねぇよ」』

『「ヒッキー……」』

『やろう、八幡!』

 

 静かな怒りを湛える八幡にジードが呼びかけ、八幡はうなずいて応じる。

 

『「ああ。見せるぜ……衝撃!」』

 

(♪ウルトラマンジードアクロスマッシャー)

 

 ジードが円を描くような動作で両手にエネルギーを溜め、肘の内側に左手を置いた十字のポーズからリング状の光線を発射する。

 

「『アトモスインパクト!!」』

 

 光線はエヴィルボガールに命中し、その身体を持ち上げてザンドリアスから遠ざける。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 今度はエヴィルボガールが地面に叩きつけられる番であった。ジードはこの間に軽やかに跳躍し、ザンドリアスの元へ行って助け起こす。

 

「フッ」

「ピギャアーッ……!」

 

 そしてジェスチャーで指示を出し、ザンドリアスを逃がすことに成功した。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 起き上がったエヴィルボガールはジードに向かって光弾を乱射。だがジードは連続バク転で全て回避する。

 

『スマッシュビームブレード!』

 

 光弾攻撃をかわし切ったところで、右腕から光剣を伸ばして高速移動で間合いを詰める。

 

「ハァァッ!」

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 ジードの一閃がエヴィルボガールに入った。更に空中を変幻自在に走り回り、八方から絶え間なく斬りつけていく。

 

『「すごい……!」』

 

 ジードの感覚が自分にも伝わり、人智を超えた体験に結衣はすっかり圧倒されていた。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 しかし突然エヴィルボガールの姿が薄れて消え、ジードの剣は空振りする。

 

「フッ!?」

 

 思わず立ち止まったジードの背後からエヴィルボガールは出現し、皮膜を広げて内側に牙がズラリと生えた大口に変えてジードに襲い掛かった!

 

「ウゥッ!?」

 

 ジードがエヴィルボガールの大口の中に丸呑みされてしまう!

 

『――クローカッティング!』

 

 しかし大口は内側から破られ、ジードが脱出。その手中には青い鉤爪のハサミ型の武器が新たに握り締められていた。

 

『ジードクロー!』

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 大ダメージを負ったエヴィルボガールが大きくよろめく。その隙に、同じジードクローを手にしている八幡が、クローをジードライザーでスキャンする。

 

[シフトイントゥマキシマム!]

 

 そして鉤爪の間のスイッチを押し、前に突き出して三回トリガーを押した。ジードクローの刃がうなりを上げて回転し、八幡は側面の赤いスイッチを押す。

 

「ハァァァァ……!」

 

 ジードクローの中心にエネルギーが集まり、ジードが天に向かって掲げる。

 

「『ディフュージョンシャワー!!」』

 

 クローから発せられた光がエヴィルボガールの頭上の空に広がって――そこから無数の光の針が降り注ぎ、エヴィルボガールの肉体を貫いていく!

 

『「うわっ!? 痛そー……」』

 

 想像を超える形の攻撃は、結衣が思わず同情するほどであった。

 

「キィィィィイイィィィィ!! ゴオオオオオオオオ!!」

 

 全身を串刺しにされたエヴィルボガールは、耐え切れるはずもなく爆散した。

 悪しき敵を退けたジードはザンドリアスに向き直り、おもむろにうなずいた。ザンドリアスはその意図を感じ取って、治癒された翼を広げて大空に飛び上がる。

 

「ハッ!」

 

 ザンドリアスとともに大空へと飛び立つジード。――その中で、結衣が呆けたようにつぶやく。

 

『「すごい……飛んでる……! 雲がこんなに近くに……!」』

『「ああ、すごいよな。俺も初めて飛んだ時は、内心興奮したもんだ」』

 

 結衣の言葉に共感を示す八幡。――すぐ傍らの彼の顔を見つめた結衣は、ほんのりと顔を赤くした。

 ジードは大空を舞い、大気圏を抜けて宇宙空間へ。そこでは、もう一体のザンドリアスがジードたちを待っていた。

 

『どうやらお迎えが来てたみたいだ』

『「あれは?」』

『ザンドリアスの彼女だよ』

 

 ザンドリアスは大喜びしながら雌の個体の元へと飛んでいき、二体は首をこすり合わせて再会を喜び合う。

 

「ピギャアーッ!」

『「怪獣のくせに、リア充だったのかよ……爆発しろ」』

『こら、そんなこと言わない』

 

 ハートマークが飛びそうなほど仲睦まじくしているザンドリアスたちは、スターゲートに向かって飛び去っていく。これでもうこちらの宇宙に迷い込むことはないだろう。

 そしてザンドリアスたちを羨ましそうに見送った結衣は、八幡に向き直って呼びかけた。

 

『「ヒッキーがジードだったんだね。あたしのことも、ゆきのんも、怪獣も……みんなを助けてくれたんだ。ありがとう……!」』

 

 その言葉とともに――結衣の豊かな胸からリトルスターが離れ、八幡の持つ白紙のウルトラカプセルに宿った。

 

『セェアッ!』

[ルナミラクルゼロカプセル、起動しました]

 

 レムが新しいカプセルの起動を知らせ、ジードは地球へと戻っていったのだった。

 

 

 × × ×

 

 

 結衣もまた星雲荘に案内され、雪乃の時と同じようにレムから説明を受けた。結衣も初めは相当驚いていたものの、素直な性分のため、すぐに受け入れてペガたちと打ち解けていた。

 

「すっごーい! ほんとすごいよぉ! 秘密基地に宇宙人なんて、ほんとにSFの世界! ちょっとこういうのに憧れてたんだよね!」

 

 星雲荘の設備を見回しながらはしゃぎ切っている結衣をペガたちが温かく見守っている一方で、八幡は肩をすくめながら雪乃に話しかけた。

 

「結局、由比ヶ浜も仲間に入れることになったな。あんだけ秘密を隠し通そうと躍起になってたのが馬鹿みてぇだな」

「でも、これで良かったんじゃないかしら。これで部室でも気兼ねなくジードの話が出来るようになったじゃない」

「まぁそりゃそうだ」

 

 まだ平塚先生いるけど、あの人部室には寄りつかないしな、と八幡が考えていると、結衣が振り向いて呼びかけてきた。

 

「ねぇねぇヒッキー、ゆきのん。ジードとして活動する時のチームの名前つけようよ! 奉仕部から取って、ジード部って!」

「は……? おいおい、ジードの活動まで部活扱いかよ。のんきなもんだなおい」

「いいじゃん、奉仕部のメンバーそのままなんだしさ。こういうのは変に凝った名前にするより、分かりやすい奴にした方がいいって」

「だからってなぁ……」

 

 軽く呆れる八幡だったが、意外にも他の面々は乗り気だった。

 

「いいんじゃないかしら。それとも以前批評させられた、ライトノベルの出来損ないに出てくる痛い造語みたいな名称でもつけたいのかしら、中二谷くんは」

「材木座と同列視しようとすんじゃねぇよ。そうは言ってねぇだろ……」

「部活動! いいね! リクが中学生高校生だった時に、ペガもやってみたいって思ってたんだ! その夢がここで叶うなんて!」

「私も、修行に明け暮れてた時はそういうの無縁だったから、ちょっと嬉しいわ」

『よしッ! みんなで頑張ろうか、ジード部!』

「うん! 奉仕部はゆきのんが部長だけど、ジード部はヒッキーが部長ね!」

「あら、性根が曲がりに曲がってしまっている比企谷くんに責任ある役職に就かせるのはあまりお勧めできないわよ」

「えー? ヒッキーならきっと出来るよ。ねーヒッキー?」

 

 ペガやライハ、ジードまでもが結衣の肩を持つので、俺がおかしいのかな……と八幡は軽く自信を喪失していた。

 何はともあれ、結衣発案による「ジード部」はこの日を出発点として発足したのであった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマン80』第四話「大空より愛をこめて」だよ!」

結衣「矢的先生のクラスで、スーパーくんが学校をサボることが起こったの。スーパーくんはお姉さんとお父さんの結婚の話で、すっかり拗ねちゃってたんだ。そんな時に日本に二体の宇宙怪獣が現れた! UGMが攻撃するけど、怪獣は親子同士なのが分かって中断。親子怪獣は親子喧嘩をしちゃってて、子供は宇宙に帰ろうとしない。そこで矢的先生こと80は、ある作戦を思いつく……っていうお話しだよ」

結衣「色々とデリケートな時期の子供と親の関係に注目した、学園ドラマが中心だった初期80らしいストーリーだね。そこに怪獣特撮がプラスされてるのが80の特色だったんだよね」

結衣「ザンドリアスは有名な怪獣とは言えなかったんだけど、色々あってクラウドファンディングで復活が決定! 『ウルトラマンジード』に登場したのも記憶に新しいよね!」

ジード『ザンドリアスの別名はだだっ子怪獣。80でもジードでも、予想外の理由で地球に居座ってウルトラマンの手を焼かせたんだ』

結衣「それじゃ次回もよろしくー!」

 




「全くあの人、いくらこっちがおちょくったとは言え生徒を本気で殴るかね」
「友達からあだ名なんてつけてもらうの初めてだなぁ」
「こんな時間に悪い。ちょっとお願いがあってさ」
「このメールを打った人は、いい趣味してるとは言えないわね」
「悪いけれどここから先は私たちで依頼を遂行するわ」
「授業中とかに怪獣が現れたらどうするか、それってもう決まったの?」
「人と会話しなくたって、情報は集められる」
「どの形態が必要になるのか分からないじゃない」
「今更だけど、三人でフュージョンライズって出来るのか?」



次回、『チェーンメールを送って来たのは誰だ。』

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