やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。 作:焼き鮭
葉山からチェーンメール問題解決の依頼を受けた翌日の昼休み、八幡は教室の自分の席で、昼食のパンをかじりながら教室中を見渡していた。
昨日は雪乃から戸部たち三人の情報の収集を頼まれた八幡と結衣だが、結衣は八幡に、自分が頑張るからヒッキーは何もしなくてもいいよ! と俄然張り切りながら申し出たのであった。が、その結衣の聞き込みの進行状況はというと……。
「わたし的に絶対とべっち受けだと思うの! で、大和君の強気攻め。あ、大岡君は誘い受けね。あの三角関係絶対何かあるよ!」
「ぅえ?」
「でもね、でもね! 絶対三人とも隼人くん狙いなんだよ! くぅ~、友達のためにみんな一歩引いてる感じ、キマしたわぁ~!!」
三浦からは適当にあしらわれ、海老名からは彼女のペースに呑み込まれ、でまるで進展していなかった。そのことで、ペガが影の中から八幡に囁きかける。
『結衣、全然上手くいってないね……』
「まぁ、のっけから最近の戸部たちどう? なんてド直球な聞き方してる時点でな……。てかペガ、教室で話しかけんな。万が一誰かにお前のこと気づかれたらどうする」
由比ヶ浜には探偵業の才覚はないみたいだな……と思いながら八幡は注意した。
『でも……このままじゃ何の成果もなしだよ。八幡は、そもそも人と話しする段階にもこぎつけられないだろうし……』
「お前も何気に言ってくれるな……。まぁ任せてろよ」
微妙に顔をしかめた八幡が請け負う。
「人と会話しなくたって、情報は集められる」
『どゆこと?』
その意味が分からなかったペガだが、八幡はそれ以上説明せず、葉山と話をしている戸部、大和、大岡の様子をじっと、それでいて気づかれないように注視し出した。
クラスにいる時は誰とも会話をしてこなかった八幡は、休み時間等の時間は本を読んだりなどして時間を潰しているが、それ以外にも何となしを装ってクラスの様子をながめたり、届いてくる会話に耳を傾けたりなどもしている。その経験を重ねた結果、八幡は他人の表情や所作の機微を捉え、言葉には表さない思考や心情を読み取る特技を身に着けたのだ。
さて八幡が葉山たち四人の様子を観察すると、すぐに四人は葉山を中心に会話を行っているということを読み取った。しかしこれくらいはわざわざ観察しなくても既に知っている。葉山は常にF組男子のリーダー格なのだから。
それ以外には、特筆すべきような点は見当たらない。戸部も、大和も、大岡も自然に会話のキャッチボールをしていて、嫌悪や後ろめたさなどの負の感情は見受けられなかった。もしかしたら犯人あいつらじゃないのかも……とも思いかけたところで、葉山が輪から外れて八幡の方へ寄ってきた。
「……んだよ?」
「いや、何か分かったのかなって思ってさ」
「いいや……」
控えめに返しながら八幡が、葉山の抜けた戸部たちの方に目をやると、
(ん……?)
三人の様子の変化を見止め、眉間を寄せた。
「どうかしたか?」
葉山が聞いてきて、八幡が口を開きかけた時、
「うわッ!? また怪獣出たんだって!」
ケータイをいじっていた戸部が大声を出した。それに釣られて八幡もケータイを出してネットにつなぐと、動画つきで怪獣出現のニュースが報じられていた。鼻先にドリルをつけた怪獣が、ビル街を我が物顔に蹂躙している。
しかしそれは東京でのことだ。
「あー、でも東京の方だって」
「なら安心じゃん。ここんとこ避難避難でいい加減うんざりしてたしさー」
「いや、怪獣的には近い方じゃね? こっち来るかも」
「この後の授業だけ潰れてくれればいいんだけどなー」
戸部の言葉で他のクラスメイトもニュースを確認し、その内容にひとまずの危険がないことを知って緊張を解いていた。が、八幡と結衣にとってはそれでは済まされない。
一瞬結衣と目があった八幡は、おもむろに席から立ち上がる。
「どうしたんだ?」
「ちょっとトイレだよ」
葉山を軽くいなして、ごく自然を装って教室から出ていく。結衣も三浦たちに同様の言い訳をして退室していった。二人がほぼ同時に教室を出ていっても、八幡が八幡なので変な勘繰りをする者はいない。
そして数分後に戻ってきた八幡と結衣は、レムの送った影武者にすり替わっていた。
× × ×
本物の八幡と結衣はそのまま校舎を脱け出て、エレベーターで怪獣の暴れている現場へと急行する。
「……別に、雪ノ下は来なくてもよかったんじゃねぇか?」
ふと八幡がひと言つぶやいた。エレベーターには途中で鉢合わせた雪乃も一緒に乗り込んでいるのだ。
「どの形態が必要になるのか分からないじゃない。私だけでも、由比ヶ浜さんだけでも全てもフュージョンライズ形態にはなれないのだから」
雪乃が言い返すと、結衣がそれに同調する。
「そうだよヒッキー! それに人数が多い方が心強くない?」
「心強いかどうかは置いといて……まぁ万全を整えるつもりなら雪ノ下が正しいか」
「もっとも、比企谷くんが一人で全部のカプセルを起動させられたのならそもそもこんな集団行動は必要ないのだけれどね」
「あーはいはい、俺が悪いですよー。言われなくたって分かってるよ」
「ひ、ヒッキー、あたしは別に気にしてないよ!? むしろ嬉しいっていうか……じ、ジードになって人の役に立てるのがってことだからね!?」
「由比ヶ浜は優しいよなぁ」
『みんな、そろそろ到着だよ! 気を引き締めて!』
無駄話をしていたところでジードから呼び掛けられ、エレベーターは東京都心の地上に出て三人は外に出た。
「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」
そこではニュースの動画の通り、融合獣テレスグビラが片っ端からビルを破壊して猛威を振るっている光景が繰り広げられていた。
[怪獣は融合獣のパターンを示しています]
「ってことは遠慮はいらねぇな……。しかしまた派手に壊しやがってんな」
「どこの誰が変身しているのか知らないけれど……一体何の権利があるのかしら。全く以て許しがたいわ」
「早く変身しようよヒッキー! これ以上の被害は出させちゃダメだよ!」
正義感が人一倍強い雪乃と結衣は、テレスグビラの暴れように義憤を抱いて八幡を急かした。
「ああ、分かってる……」
ウルトラカプセルを二つケースから取り出す八幡だったが、その時にふとつぶやいた。
「今更だけど、三人でフュージョンライズって出来るのか?」
「そんなこと、これからやってみれば分かることでしょう」
「ジーッとしててもドーにもならない、だよ!」
結衣は既にジードの口癖を記憶していた。
八幡を置いて、雪乃と結衣はさっさとウルトラカプセルを起動していく。
『ユーゴー!』『シェアッ!』
雪乃がウルトラマンカプセルを起動して装填ナックルに収め、ナックルを素早く結衣に渡す。
『アイゴー!』『フエアッ!』
結衣はベリアルカプセルを起動して、同じようにナックルに装填した。二つのカプセルが入ったナックルは八幡に手渡される。
『ヒアウィーゴー!!』
八幡がジードライザーを起動し、装填ナックルのカプセルをスキャンした。
[フュージョンライズ!]
『ジィィィ―――――――ドッ!』
ジードの掛け声とともにウルトラマンとベリアルのビジョンが、八幡、雪乃、結衣と重なり合う!
[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]
[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]
「シュアッ!」
フュージョンライズしたウルトラマンジードが飛び出していき、破壊の限りを尽くすテレスグビラの面前に堂々と着地した。
「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」
テレスグビラはジードの登場によって注意を引きつけられ、ビルを破壊する手を止めて振り返った。
八幡の懸念は杞憂となり、三人でのフュージョンライズは問題なく成功した。……と言いたいところだが、八幡たちは思いもしなかった問題に直面していた。
『「ジードの中……思ったより狭いな……」』
ジードの内部は壁や仕切りなどない超空間のはずなのだが、八幡たちはぎゅうぎゅう詰めになっていた。三人で入るには若干窮屈だったようだ。
『「……流石にこれは想定してなかったわね……」』
『「ち、ちょっとヒッキーどこ触ってるの!? やだエッチ! もうちょっとそっち寄ってよぉ!」』
『「いでででで押すなって! 無理言うなよこれが精一杯だッ!」』
流石に巨人の中で痴漢扱いされる日が来るなんて思いもしなかったと内心つぶやく八幡だった。
『みんな、すまないけど戦いに集中して! 怪獣が来るッ!』
ジードは多少の罪悪感を抱きつつも、八幡たちに警告した。テレスグビラがこちらへ突進してくるのだ。
「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」
『「く、くっそぉやってやろうじゃねぇか……! き、決めるぜ、覚悟……!」』
おしくらまんじゅうのようになりながらも八幡が言い放ち、それを合図にジードがテレスグビラを迎え撃つ!
(♪戦い(『ウルトラマン』より))
「ダァッ!」
「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」
駆け出したジードが地を蹴り、先手を取って飛び膝蹴りをテレスグビラの横面に入れた。一瞬体勢を崩すテレスグビラだったが、
「グビャ――――――――!」
首を戻す勢いで回転するドリルを振るってきたので、ジードは咄嗟に身を引く。あのドリルをまともに食らうのはまずい。
『「危ねぇな! 鼻先に凶器ぶら下げてんじゃねぇよ! ポケットにでも仕舞ってろ!」』
『「敵にそんなこと言って聞いてくれる訳ないじゃないの。少し冷静になりなさい余計暑苦しいわ」』
『「ていうかポケットないじゃん」』
つい文句をつけた八幡に雪乃と結衣が突っ込んだ。
当然テレスグビラが聞き入れるはずもなく、ドリルを足元の地面に突き刺して穿孔を始める。ドリルからは大量の土砂が巻き上がり、ジードの顔面に降りかかる。
「ウワッ!?」
一瞬ジードの視界がふさがった内に、テレスグビラは地中に潜り込んで姿を消していた。
『「消えた……! どこから来る……!?」』
左右を警戒するジード。だがテレスグビラは既に背後に回り込んでおり、地中から飛び出した勢いで突撃を掛けてきた!
「ギャアオオオオオオウ!」
「ウワァッ!」
ドリルの一撃にはね飛ばされるジード。その際の衝撃が八幡たちにも伝わる。
『「うおあぁッ!?」』
『「「きゃあぁっ!」」』
超空間が揺れて思わず悲鳴を上げる三人。しかもテレスグビラは倒れたジードを足で押さえつけ、首を狙ってドリルを突き出してくる!
「ウッ!?」
危ないところで首を傾け、すれすれでドリルをかわすジード。ドリルは代わりに地面に穴を穿った。
『「ぐッ……! 上に乗っかるんじゃねぇッ! 気色悪りぃ!」』
「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」
八幡が怒号を上げると、ジードがテレスグビラの腹を蹴って押し返した。その隙にジードは後転して起き上がる。
体勢を立て直したジードだったが、テレスグビラのドリルのせいで攻撃の糸口を掴めないでいる。
『「ちっくしょう……迂闊に手ぇ突っ込んだらドリルにズタズタにされるな……」』
警戒する八幡だが、その時に雪乃が不敵に微笑んだ。
『「全く世話が焼けるわね、比企谷くんは。こういう時こそあの力の出番よ。由比ヶ浜さん」』
『「もう一回フュージョンライズだね!」』
雪乃と結衣が示し合わせてウルトラカプセルを取り出し(『「おい勝手に出すな」』)ジードの合図でスイッチを入れていく。
『ユーゴー!』『ダーッ!』
『アイゴー!』『イヤァッ!』
『ヒアウィーゴー!!』
装填ナックルに入れられたセブンカプセルとレオカプセルを、八幡がジードライザーでスキャン。
[フュージョンライズ!]
『ジィィィ―――――――ドッ!』
ウルトラセブンとウルトラマンレオのビジョンが八幡たちと合わさり、ジードは姿を変える!
[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]
[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]
「ドォッ!」
再変身したジードから飛ばされた熱気が、テレスグビラを一瞬ひるませた。
「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」
その間にウルトラマンジード・ソリッドバーニングはスラスターから蒸気を噴き出しつつ、太陽をバックに構えを取り直した。
(♪ジード戦い‐優勢1)
「ドォッ!」
テレスグビラに肉薄するジード。すぐにドリルが飛んでくるが、硬度の増した手刀は素手でドリルを弾き返す。
『「なるほど。これならビクビクしないで済むな」』
更にジードは右腕のスラスターにジードスラッガーを接続し、蒸気を推進力にして腕を突き出す。
『ブーストスラッガーパンチ!』
ジードスラッガーがテレスグビラのドリルの根元に叩きつけられ、綺麗にへし折った!
「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」
一番の武器を折られてひるんだテレスグビラに、ジードは追撃を掛ける。
「ダァッ!」
額のビームランプから緑色のレーザー、エメリウムブーストビームが放たれ、テレスグビラの首筋に命中。爆発を食らわせる。
「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」
『「よっしゃ今だ!」』
ジードはテレスグビラに飛び掛かり、首を抑え込んでそのままジードスラッガーでとどめを刺そうとする。が、
「グビャ――――――――!」
「ドゥオッ!?」
頭頂部の孔から潮が吹き出され、顔面に食らったジードは思わず手を離した。首を上げたテレスグビラは更に火炎を吐いてくる。
「ドゥッ!」
ソリッドバーニングに熱攻撃は通用しないが、テレスグビラは重量級の体躯に似つかわしくないほどの俊敏な動きで飛び掛かってきて、ヒット&アウェイ戦法に切り替えてきた。ジードはなかなか反撃に出られずに防戦一方となる。
戦いが長引いてきたのでカラータイマーが点滅を始めた。フュージョンライズの制限時間が近い!
『「くっそしぶといな……!」』
『「ヒッキー、スピード勝負だったらアレだよ!」』
『「まごついている時間はないわよ。すぐやりましょう」』
雪乃と結衣がヒカリカプセルとコスモスカプセルを出し(『「だから勝手に出すなって」』)、起動してナックルに装填していく。
『ユーゴー!』『テヤッ!』
『アイゴー!』『タァッ!』
『ヒアウィーゴー!!』
[フュージョンライズ!]
ウルトラマンヒカリとウルトラマンコスモスのビジョンが現れ、八幡たちと融合!
『ジィィィ―――――――ドッ!』
[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]
[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]
「ハァッ!」
赤から青い姿、アクロスマッシャーとなったジードは、テレスグビラの突進を左へ受け流した。
「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」
『ジードクロー!』
相手の隙を作ったところでジードはジードクローを召喚し、それを片手にテレスグビラに切りかかっていく。
「ハァァァッ!」
「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」
縦横無尽に飛び交って切りつけるジードを前にして、テレスグビラは完全に立場を逆転された。
テレスグビラを弱らせて、八幡はジードクローをライザーでスキャン。
[シフトイントゥマキシマム!]
鉤爪部のスイッチを押してトリガーを三回引き、クローを回転させて側面のスイッチを押した。
「ハァァァァ……!」
ジードクローに集中させたエネルギーを、テレスグビラの頭上へと発射!
「『ディフュージョンシャワー!!」』
空に雲のように広がったエネルギーから、光の雨が降り注いでテレスグビラを串刺しにする!
「ギャアオオオオオオウ!! グビャ――――――――!!」
全身を刺し貫かれたテレスグビラは爆破、消滅。勝敗は決したのだった。
「ハッ!」
平和が戻った東京の街から飛び立って千葉方面へと帰還していくジード。その内部で、八幡たちはほっと息を吐く。
『「大分狭苦しかったが、どうにかなったな」』
『「早いところ元に戻りたいわ。これ以上比企谷くんに圧迫されているのなんてまっぴらよ」』
『「でもちょっと楽しかったかも! 三人の力を合わせての大勝利だよ! ジード部の出だしは上々じゃない?」』
『ちょっと、僕を計算から外さないでよ』
『「分かってるって~。大本はジードんの力だってこと!」』
結衣がわいわいと盛り上がっていると、ふと八幡がつぶやく。
『「三人……ああそうか、三人だ。それが答えだわ」』
『「? ヒッキー、何のこと?」』
『「急に訳の分からないことを口走らないでちょうだい。放送倫理機構に訴え出たくなるから」』
『「俺の台詞は全部不適切発言なのかよ……」』
『「冗談はともかく、三人が何の答えだというの? それだけではまるで意味が掴めないわ」』
『「そこんところは後で部室で、葉山も交えて教えてやるよ。二度手間は嫌だからな」』
説明を後に回した八幡を乗せて、ジードは千葉の上空まで帰ってきたのであった。
× × ×
八幡たちが引き受けた葉山からの依頼、その顛末を、星雲荘でライハが教えてもらっていた。
「なるほどね……。それでその三人を、一つのグループにさせたという訳ね」
「そういうことです」
確認を取ったライハに、八幡はコクリとうなずいた。
八幡が戸部、大和、大岡を観察して抱いた違和感、そこから気づいた事実。それは、この三人のつながりは「葉山の友達」というところしかなく、葉山がいないところでは微塵も仲良くないということだった。要するに、戸部たち同士では友達でも何でもない間柄なのだ。だから職場見学のグループ分けで葉山を巡り、対立した末にチェーンメール騒動が起きたのだろう。
チェーンメールの発端の犯人自体は分からないままだった。しかし八幡にとって、そこは重要ではなかった。彼は葉山の要望通りに、犯人を暴かずに事態を丸く収める方法を思いついたのだ。
それが、葉山を抜きにして戸部たち三人だけでグループを組ませるというもの。諍いの原因が葉山にあるならば、葉山をそこから抜いてしまえばいいという発想だ。これで戸部たちが本当に友達同士になれるかというのは、戸部たち自身に懸かってくるのだが、流石にそこまで立ち入るつもりはなかった。
「確かに上手い落としどころね。八幡、やるじゃない」
「ありがとうございます」
ライハに褒められて八幡はペコリと頭を下げた。しかし一方で結衣がつぶやく。
「でも、隼人君はちょっと寂しそうだったな。揉め事の原因が自分だったってことと、何より仲のいいとべっちたちとはグループを組めなかったってことで」
「そういえば、その葉山君は誰とグループを組んだの?」
それには八幡ではなくペガが回答した。
「それが、八幡となんだよ。もう一人は戸塚君って子で」
「なるほど……。三人を友達にさせる一方で、八幡は葉山君と友達になるって訳だ」
ライハのひと言に八幡は驚いたような戸惑ったような、変な顔になった。
「い、いやいや、別に友達になるのが必須って訳じゃないじゃないですか。あいつと俺とじゃ友達なんてなれっこありませんって。あいつはクラスの上で、俺は下なんだし」
「別に誰が上でも下でも、比企谷くんは関係ないでしょう。誰とも友達になれないから奉仕部に入れられたのだから」
「本当のことだが、だからこそわざわざ言う必要はねぇよ」
雪乃が微笑みながら茶々を入れた。ペガはライハに続けて話す。
「でもさ、葉山君が行きたい場所を書いたら他の人たちが次々同じところにしちゃって。あれじゃあグループ分けした意味ないんじゃないかな?」
「あらら。みんな、まだ将来の職業に真剣じゃないのね」
『みんな、是非ここを見ておきたいっていうのはないのかなぁ。僕だったら断然テレビ局なのに』
「リクの場合はドンシャインみたいな特撮の撮影を見たいからってだけの理由でしょ?」
『あッ、分かった?』
ジードたちは三人で盛り上がっている。こういう時は輪に入れない八幡が少し持て余していると、雪乃が何やら眉間を寄せてうつむいているのに気がついた。
「おーい雪ノ下、そんな元が怖い顔を余計怖くしてどうしたんだ?」
「あなたこそひと言多いんじゃなくて? 比企谷くん」
顔を上げた雪乃は、ポツリと言い放った。
「この前、私たちを襲った腕が刃物の宇宙人がいたでしょう。あれはどうなったのか、少し気になったの」
「ツルク星人……!」
途端に、ペガたちがサッと顔色を変えた。
「そういえば、あれから現れる気配がないね。どうしたんだろ」
「ほとぼりが冷めるまで身を潜めてると思ってたんだけど、もうそんな期間は過ぎてるはずよね」
『もう地球から出ていったんじゃないかな?』
ジードの予想をレムが否定した。
[あの程度で退却するとは思えません。あれ以来出現報告が一件もないからには、私たち以外の者によって倒されたという可能性が一番高いと思われます]
レムが口にした、ツルク星人を倒した何者かを、ジードたちは警戒した。
『宇宙人を倒した誰か……それが善意の人だったらいいんだけど……』
「それって、融合獣に変身してる人なのかな……」
「まだ分からないけど……そうだったら、これからの戦いはそうそう楽には勝てないってことになるでしょうね……。まだ実力を隠してるはずよ……」
ライハのみならず八幡たちも、場の雰囲気に感化されるように、まだ真の姿を拝んでいない自分たちの敵――レイデュエスへの警戒を強めたにのであった。
× × ×
テレビのワイドショーでは、ウルトラマンジードに関しての特集が執り行われている。
『彗星のように現れ、町を壊す怪獣を倒しては去っていくウルトラマンジード! 先日は都心で姿を変えての大立ち回りを見せました! どこからやってきたのか、何故怪獣と戦うのか、ほとんどのことが謎に包まれているジードですが、人智を超えた力で勇敢に戦う姿と積極的に人命を救う姿勢から既に世間からは現実となったスーパーヒーロー、あるいは世界の救世主との声も上がってます!』
ジードの活躍を称賛する内容を――地球の衛星軌道上に静止しているバド星の円盤で、レイデュエスとその取り巻きが視聴していた。
オガレスとルドレイは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、玉座で頬杖を突いているレイデュエスに振り返る。
『ウルトラマンジードの奴、だんだんと調子づいているようですな』
『このまま奴の好きにさせてよろしいのですか? 殿下』
ジードが持ち上げられていることに面白くなさそうな二人だが、レイデュエスはニヤリと含み笑いを見せた。
「なぁに、そんなのは今だけのことだ。分かってるだろう? 『コレ』が再起動すれば、奴は今度こそおしまいだ」
レイデュエスが手の平の中で転がしているのは、二つの白紙のカプセル。
「それまでは花を持たせてやろうじゃないか。人生が幕を閉じるまでの短い時間、英雄になっている夢という花をな……」
レイデュエスはカプセルを見つめながら、クックックッと声を押し殺しながら愉悦に浸っていた……。
『ウルトラストーリーナビ!』
八幡「今回は『ウルトラマン』第三十一話「来たのは誰だ」だ」
八幡「科特隊に新しいメンバーとして、南アメリカ支部からゴトウ隊員がやってきたんだが、彼の周りで火が点かなくなったりフジ隊員に本部ビルの材質をわざわざ聞いたりと不可解なことが起きる。それと前後して町に怪しい植物が生えるという事件まで発生。ゴトウ隊員と植物を調べていく内に、両者の恐ろしい関係ととんでもない正体が判明。そして人類を謎の円盤が攻撃し出す……という内容だ」
八幡「人間並みの知能を得た吸血植物が人間社会に侵略の牙を剥くという、怪奇色の強い一編だ。前作『ウルトラQ』のコンセプトが「テレビで見られる怪獣映画」だったから、その影響が強かったウルトラシリーズ初期はこういう雰囲気の話が多かったんだよな」
八幡「にしてもやってきた奴の正体が怪物だったとか……ぼっちだったらそんな事態に出くわすこともない。やっぱりぼっちは安心安全だな、うん」
ジード『「来たのは誰だ」のサブタイトルは『ウルトラマンオーブ』第五話で、お遊びで劇中の台詞の中に盛り込まれてるよ。自然な台詞だから聞き逃しちゃうかもね』
八幡「じゃあ、また次回で」
「今は試験勉強の合間の休憩中なのだから」
「奉仕部の依頼を新しく受けたって?」
「依頼者はウチの生徒の弟さんで……」
「今夜にでもその現場に乗り込んでやめさせましょう」
「あたしにはね、お金が必要なの」
[彼女はリトルスターを発症しています]
「そんな消極的なことを言わずにここで倒しましょう」
『「こっちにも力が溢れてくるぜ……!」』
『「滾るぜ……闘魂!」』