やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。   作:焼き鮭

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真夜中に消えた女を捜索せよ。(A)

 

 町外れの天文台の地下、星雲荘にて。

 

「ん~……」

 

 結衣がテーブルに並べられたウルトラカプセルをジード、もといじーっとながめながら何やらうなっていた。そこにライハが目を向ける。

 

「何やってるの、結衣? さっきからウルトラカプセルを見つめて」

 

 と聞くと、結衣は振り返って次のように返答した。

 

「ちょっと、ウルトラカプセルってそもそも何なのかが気になったんですよ。いつも何気なく使ってるけど、これって誰が作ったのかなって」

 

 そんな結衣の素朴な疑問に、八幡が軽く肩をすくめた。

 

「そんなこと聞いたところでどうするんだよ。別に知っても知らなくても変わらないだろ?」

「いいじゃん、気になったんだからさ。ねぇ知ってる、れむれむ? ウルトラカプセルのこと」

[お答えします]

 

 ひねくれている八幡とは違い、レムは素直に回答してくれる。

 

[ウルトラカプセルとは、M78星雲・光の国の科学者ウルトラマンヒカリが発明した肉体強化用アイテムです。光の国の反逆者ウルトラマンベリアルとの抗争が長期化したため、それを終結させるために開発されました]

「へぇ~……」

 

 説明を聞きながら、結衣がウルトラカプセルに注目する。

 

[ウルトラカプセルには絵柄のウルトラ戦士の持つ超能力の情報が込められており、一つだけでも戦局を変えるだけの可能性がありますが、二種類をライザーでスキャンすることで、カプセルの情報から特定の属性を抽出し一時的に肉体を変容させて強化するフュージョンライズが可能となります。リク、つまりウルトラマンジードはこのフュージョンライズに特化した肉体をしています]

「なるほどぉ」

 

 うなずいてレムに振り向く結衣。

 

「ジードんは、そのヒカリって人からウルトラカプセルをもらったんだね!」

 

 結衣はレムの説明の内容を先取りするつもりでそう言った。

 しかし、

 

[違います]

「え?」

[リクのカプセルは全て、星雲荘の前所有者が光の国から窃盗したものです]

「えええええぇぇぇぇぇ!?」

 

 目を丸くして叫ぶ結衣。それまで興味なさそうだった八幡と雪乃も、予想外の言葉に思わず振り返った。

 

「ジード……っていうかあたしたち、盗品を使ってたの!? それっていいの!?」

『そ、その辺はまぁ色々と込み入った事情があって……。話すと長くなるんだけど』

 

 釈明するようにジードがそう言うと、雪乃が席を立つ。

 

「長くなるのだったら、またの機会にお願いしましょう。何せ、今は試験勉強の合間の休憩中なのだから。由比ヶ浜さん、そろそろ再開しましょうか」

「うぅっ!? そうだった……」

 

 呼びかけられた途端に声を詰まらせた結衣の視線の先にあるのは、テーブルの上に広げられた教科書やノートの数々。総武高校は中間試験の時期が近づいており、学業に不安が多い結衣は雪乃たちに勉強を見てもらっているのであった。

 現実に引き戻されてげんなりしている結衣に、ペガが呼びかける。

 

「結衣。ペガもお手伝いするからさ、一緒に頑張っていい点数取ろうね!」

「ありがとうペガっち~! ペガっちはほんと優しいなぁ」

 

 励ますペガに結衣がうるうると涙目で抱きついている一方で、八幡は結衣に代わってウルトラカプセルに目を落とした。

 

「ところで、カプセルって白紙の奴がまだいくつかあるな」

 

 八幡の言う通り、現在星雲荘にあるカプセルは起動状態にあるのは、全体の四分の三程度。残りの四分の一は、表面が真っ白のままであった。

 ライハが相槌を打つ。

 

「私たちの世界でもリクが結構集めたけど、それでも全部起動してたんじゃなかったのね」

『残りのカプセルはどのウルトラ戦士のものなんだろ。レム、知らない?』

 

 尋ねるジードだったが、回答は否定であった。

 

[その記録は入力されていません。実際に起動するまでは断定できません]

『そっかぁ。じゃあ起動するまでのお楽しみってことか』

「起動するにはリトルスターが必要で、そのリトルスターは騒動の種なんだから、いいことかどうかは判別つきがたいんだけどね……」

 

 はぁ、とため息を吐くライハであった。

 

「八幡もそろそろ勉強に戻ったらどう? 君、理数系が苦手でしょ? ちゃんと勉強しないとダメだよ」

「いや、俺は大学文系に進むつもりだから……」

「今は理数系のテストもあるでしょ? そうやって言い訳しないの。もう、君は言い訳が多いのが欠点だよ」

 

 ペガに促されて、八幡はウルトラカプセルをケースに戻して試験勉強を再開したのであった。

 

 

 

『真夜中に消えた女を捜索せよ。』

 

 

 

 それから数日後、再び星雲荘にて。

 

「え? 奉仕部の依頼を新しく受けたって?」

 

 ライハが、雪乃から聞かされた内容を意外そうな顔で復唱した。

 

「今は試験前だから、部活動は停止中って言ってなかったかしら」

「本当ならそうなんですけど、今回は深刻な内容でして。早急に対応しなければならないと判断したんです」

「深刻な……。どういう依頼なの? 私にも聞かせて」

 

 物々しい言葉の響きに、ライハも表情が引き締まった。その依頼について、結衣が説明を切り出す。

 

「えっと、初めから話しますけど、依頼者はウチの生徒の弟さんで……」

 

 説明の内容を纏めると、以下の通りになる。

 依頼者は中学三年の川崎大志。彼の姉は八幡と結衣と同クラスの川崎沙希というのだが、大志によると、彼女は二年生になってから不良化したのだという。それまでは家に遅い時間に帰ることなどなかったのに、急に朝の五時に帰宅するようになり、更に聞いたことのない変な名前の店から沙希宛ての電話が掛かるようになったという。大志もそのことで何度も姉に物申そうとしたが、「あんたには関係ない」の一点張りでにべもない。それで困り果てていたのを、塾で友人となった小町に相談し、彼女から八幡たち奉仕部を紹介されて、沙希が夜遅くまでどこに消えているのか、それをやめさせて元の彼女に戻すようにという依頼を受ける流れとなったのであった。

 

「確かに思い返してみたら、川崎さん二年になってから遅刻が増えて、平塚先生にもよく怒られてるっけ」

 

 顎に人差し指を当ててクラスの様子を思い出す結衣は、八幡の方へ振り向く。

 

「そういえばヒッキーも時々遅刻してたけど、最近はなくなったね。まぁいいことだけどさ」

「それは僕が起こしてるからだよ……。八幡、寝起きが悪くって毎日大変だよ」

 

 はぁー……と大きなため息を吐いたペガに八幡は大慌て。

 

「お、おい! 恥ずかしいからそればらすなって言っただろうが!」

 

 恥を知られてしまった八幡に、雪乃と結衣が冷たい視線を浴びせた。

 

「比企谷くん……ペガくんに毎朝心身ともに過酷な重労働を負わせて、己が生を受けたことを後悔しないの?」

「心身ともに過酷って何だよ俺を起こすのどんだけストレスフルなんだよ。あとそんだけで生まれたこと後悔するのなら、俺後悔という文字にとっくに押し潰されちまってるよ」

「いけないんだぁヒッキー、友達をこき使って……。ま、まぁ、ペガっち一人に苦労させるのもアレだから? だから……たまにはその役、あたしがやってあげてもいいかなー!? な、なんて……」

 

 顔を真っ赤にして目をそらしながら申し出た結衣だが、八幡は真顔で手の平を振った。

 

「いや、別にお前にそこまでさせるくらいだったら、俺自力で起きるけど。流石に悪いし、どこのギャルゲーだよ」

「そ、そう……」

 

 結衣がしょんぼりと肩を落としたことは、八幡は気づかなかった。

 

「由比ヶ浜さんはともかく、ジードさんも手伝えば労力が半減するんじゃないかしら?」

「それがリクも早起きしないからさ。実質二人を起こさなきゃならないんだよね。どっちもだらしなくて困るよ」

『ちょっ、ペガぁ!?』

「うわぁ……そろって駄目人間だぁ……」

 

 呆れ返る結衣たち。その一方で八幡は、ライハが腕を組んで何やらうつむいていることにふと気がついた。

 

「ライハさん? 腕組んでどうしたんすか?」

 

 尋ねかけると、ライハは顔を上げて聞き返してくる。

 

「その問題の子の名前……川崎沙希さん、で間違いないのよね?」

 

 うなずく雪乃。

 

「はい……。それが何か?」

 

 すると、ライハはゆっくりと雪乃たちに告げた。

 

「その子……私のバイト先にいるわ」

「ええっ!?」

「偶然同姓同名だとは思えない。同一人物で間違いないと思う」

 

 予想外の告白に、八幡たちはしばし呆然としていた。

 

「……詳しく教えて下さい」

「ていうかライハさん、バイトなんてしてたんだ」

「住居はここがあるからいいとして、それ以外の生活費を稼がないといけないからね」

 

 結衣に答えてから、ライハが事情を口にし出す。

 

「私いま、ホテル・ロイヤルオークラにある『エンジェル・ラダー』という名前のバーでバーテンダーのバイトをしてるんだけど、そこに同じバーテンダーのバイトで、川崎沙希さんっていう子がいるの」

「ライハさん、バーテンダーやってるんだ。カッコいいかも!」

「本当は駄菓子屋がよかったんだけど、求人がなかったのよね」

 

 何で駄菓子屋? 全然違うじゃん、と一瞬思った八幡だが、余計に話をそらしたら雪乃がまた何か罵倒してきそうので黙っておいた。

 

「でも、川崎さん高校生だったのね……。確かに少し幼い感じはしたけど」

「年齢を詐称しているんですね」

「え? 何でそんなこと分かるの?」

 

 結衣がすっとんきょうな感じで聞くと、八幡は若干呆れた。

 

「十八歳未満が夜十時以降働くのは労働基準法で禁止されてるんだよ。だから高二の川崎は、年齢を偽ってバイトしてるって訳。お前も高校生なら、そんくらいのこと知っとけよ」

「あ、あはは……。あたし、夜遅くまでバイトしたことなんてないからさ……」

 

 笑ってごまかす結衣。それを置いて雪乃は話を進める。

 

「こんなにも早く、川崎さんのバイト先が判明したのは僥倖だわ。今夜にでもその現場に乗り込んでやめさせましょう。家庭の問題がなくとも、不法就労はどんなトラブルにつながるか分かったものではないわ」

「でもやめさせるだけだと、今度は違う店で働き始めるかもよ?」

 

 結衣が、今度は建設的な意見を口にした。

 

「確かに。そもそもわざわざホテルにあるような高級バーで働いているからには、相応の事情があるはずね。それが分かれば、対処もしやすいのだけれど」

 

 その事情を知るにはどうすべきか。ライハが手助けしてくれる。

 

「それは本人に伺うのが手っ取り早いでしょう。私が間に入って、話し合いの場を設けるわ。今夜十時にエンジェル・ラダーに来て。ホテルの場所は分かる?」

「大丈夫です。ロイヤルオークラなら知っていますから」

 

 と雪乃が答えて、奉仕部の行動予定が決定した。

 そしてホテル・ロイヤルオークラで再集合するまで解散となったところで、八幡がふとぼやいた。

 

「にしてもバーねぇ……。材木座の奴、全然違うじゃねぇかよ」

「え? ヒッキー、中二が何か言ってたの?」

 

 中二って材木座のあだ名かよ。まぁいいけど……と心の中でつぶやいた八幡は、結衣に告げる。

 

「いや、店名の情報がエンジェル何とかって川崎大志は言ってただろ? で、朝方まで営業してるって条件で材木座に調べてもらって、二件ヒットしたんだそうなんだが、あいつメイドカフェの方で間違いないって言ってたんだよな。それでこの結果だ」

「確かに大外れだね。でも何でメイドカフェ? 中二は何を根拠にしてたの?」

「そこは知らん」

 

 まぁ材木座の考えることだし、どうせろくでもない理由なんだろうな……と八幡は判断した。あと、そのメイドカフェに調査しに行くことにもなっていたのだが、材木座一人だけで行かせるか、とも考える。

 中止にしないところが、八幡の材木座に対する扱いの程を物語っていた。

 

 

 × × ×

 

 

 そして数時間後、十時前。ホテル・ロイヤルオークラのエレベーターホール前で、八幡、雪乃、結衣、そしてライハの四人がそろった。

 

「みんな、もう来てたのね」

 

 そう言ってライハは全員の顔ぶれを見回した。四人とも、普段の私服とは違い、襟付きのジャケットや瀟洒なドレスといった上品な服装である。高級バーはドレスコードがあるので、普段着では入店を断られてしまうからだ。

 

「私は先に行って、川崎さんにある程度話を通しておく。その方がそっちも話しやすいでしょう?」

「ありがとうございます。お願いします」

「任せて。早い内に円満に解決するように、私も説得してみるから」

 

 ライハはそう約束して先にエレベーター(当然普通のもの)に入っていった。それを見送った八幡に、ペガが影の中から呼びかける。

 

『八幡。川崎沙希さんのこと、分かってることだけでも大志君に知らせておいた方がいいんじゃないかな? きっと心配してるからさ。とりあえずホテルのバーで働いてるってことだけでも教えとけば、身の危険はないって分かってもらえるはずだよ』

「そうか? でも大志の奴の連絡先なんて知らねぇぞ」

『だったら、小町ちゃん伝手にさ。小町ちゃんなら大志君と連絡できるようにしてるだろうし』

「小町か……」

 

 小町の名前を出すと、八幡は途端に不機嫌そうな表情になった。それを訝しむ結衣と雪乃。

 

「どしたのヒッキー? 小町ちゃんがどうかした?」

「目だけじゃなくて顔貌まで腐っているわよ」

「おい顔の形は腐ってねぇだろ」

 

 腐ってないよな? と少し不安になりながらも、八幡はボリボリ後頭部をかく。

 

「いや、小町の奴が男と連絡先交換してるって考えたら、微妙な気分になってな……」

「うわっ出た、ヒッキーのシスコンっぷり……」

 

 結衣たちが引くので八幡は言い繕う。

 

「そういうのじゃねぇから! ただアレだよ……ほいほい男に個人情報渡してたら、危ないんじゃないかってな? 小町外面はいいから、勘違いする奴もいるだろうしな」

「心配しすぎじゃないかな? 小町ちゃん、そういうとこはしっかりしてる感じがしたし」

 

 不安がる八幡に結衣はそう言ったものの、ジードは八幡の肩を持つ。

 

『僕は八幡の気持ち分かるよ。小町ちゃんかわいいからね。きっとその分、危険も多くなりそうだ』

「おッ、ジードもそう思うか? ていうか、ジードってきょうだいいるのか?」

『いや……僕にはいないよ。一人も……』

 

 そうつぶやいたジードは、何故だか寂しそうであった。

 

『だから八幡がちょっと羨ましいかなって。小町ちゃんと仲いいしね』

「一人っ子の奴は大抵そう言うよな。けどそんないいもんじゃねぇよ」

 

 八幡とジードが話し込んでいると、雪乃の顔にかすかに影が差しているのに結衣が気づいた。

 

「ゆきのん? どうしたの?」

「何でもないわ……。それよりそろそろ時間よ。移動しましょう」

 

 雪乃が話を打ち切るように告げて、三人はエレベーターのボタンを押して、最上階へと向かっていった。

 

 

 × × ×

 

 

 ホテルの最上階にあるバーラウンジに足を踏み入れた八幡と結衣は、普段彼らが生きている環境とはまるで異なる豪奢な雰囲気に、さながら異世界に来てしまったような感覚を覚えて、すっかりと気圧されていた。

 しかし雪乃だけはいつも通りの様子で、まごまごしている二人を誘導し、三人一緒に木製のドアをくぐっていった。

 入店するとギャルソンの男性が八幡たちを先導して、ガラス張りの窓の前のバーカウンターへと連れていった。そこでは二人の女性バーテンダーが待っている。

 片方はもちろんライハで、もう一方は問題の少女、川崎沙希であった。

 

「……本当に来たんだ。雪ノ下……」

「こんばんは」

 

 沙希は雪乃に向けて、はっきりとした敵意の目を向けた。二人の間に接点はないはずだが、雪乃は総武高校の有名人でありその性格もあって、接点がなくとも快く思っていない人間もいる。沙希もその一人だったようだ。

 八幡たちが席に座ると、仕事開始の前に沙希と話をしたらしいライハが告げる。

 

「川崎さんの事情は伺った。ただ……。まぁバーテンダーが二人も同じお客の相手をしてる訳にはいかないから、本人から聞いて。私は別のお客のところに行ってるから」

 

 そうとだけ言って、ライハは八幡たちから離れていった。口で言った理由だけでなく、八幡たちが沙希と話し合うのに邪魔が入らないようにしてくれるのだろう。

 お陰で八幡たちは気兼ねなく、腰を据えて沙希の説得に臨める。

 

「えっと、川崎さん……まずは、どうしてこんなとこでバイトしてんの? やー、あたしもお金ない時バイトするけど、年ごまかしてまで夜働かないし……」

「あんたたちには関係ないでしょ……って言いたいとこだけど」

 

 雪乃をにらんでいる沙希相手に、結衣が恐る恐る切り出すと、沙希はため息交じりに口を開いた。

 

「もう鳥羽さんには話しちゃったし、どうせあの人から聞くだろうから、教えたげる。全く……鳥羽さんが雪ノ下の知り合いだって分かってたなら、絶対話さなかったのに……」

「それはお生憎さま。こちらとしては好都合だけどね」

 

 素っ気なく口にする雪乃を沙希がジロリときつくにらみつけ、雪乃ではなく八幡と結衣がビビったりしながらも、沙希は己の事情を語り出した。

 

「あたしにはね、お金が必要なの。正確に言えば、学費が」

「学費? そんなの、親に相談すれば……」

 

 結衣が言いかけたが、それを八幡がさえぎる。

 

「その段階で済んでりゃ、こいつここにいないだろ。川崎の家は、そんだけの経済的余裕がないってことだろ」

「でも総武は市立なんだし、学費なんてそう掛からないんじゃ……」

 

 ピンと来ていない結衣に、今度は雪乃が諭す。

 

「学費は学校だけに発生するものじゃないでしょう」

「え? ……あっ、そうか、塾か!」

「由比ヶ浜……あんたも来年は受験なんだから、言われなくても察したら?」

 

 沙希が結衣に、かわいそうなものでも見るような目を向けた。

 八幡が続けて話す。

 

「弟の大志の方は今年が受験だ。塾通ってるんだってな。で、川崎、お前は二人で両立できない学費を弟に譲って、自分の分は自分で稼ぐことにしたんだな」

 

 その指摘に、沙希は沈黙で肯定した。

 

「……あたしは大学行くつもりだから、最低でも夏期講習は行くつもり。その分のお金は、今から溜めないと稼げないの。だから、あんたたちが何と言ったってバイトはやめないからね」

 

 八幡たちの反論を封殺するように言い切って、沙希は三人の注文したドリンクをシャンパングラスに注いでコースターの上に置いた。

 

「お金かぁ……。そればっかりは、流石に出せないな……」

 

 残念そうにポツリとつぶやく結衣。皆の悩みを解決する奉仕部と言っても、所詮は高校生である彼女たちに塾の学費分の金額を出せるはずがないし、そもそもそんなやり方は雪乃の掲げる奉仕部の理念、「相談者の成長を促す」に反する。

 

「……いや、だったら」

 

 黙ってしまった結衣に代わって八幡が何か言いかけたが、そこにちょうどグラスに手をつけた雪乃の声が被さった。

 

「あら……?」

「どしたんだ? 雪ノ下」

 

 雪乃は訝しむように持ち上げたグラスをながめ回し、ドリンクに口をつけてから、沙希に言った。

 

「川崎さん。このグラス、随分と温まっているわよ。ペリエもぬるいし……ちゃんと冷やしているの?」

「えっ? そんなはずは……」

「あっ、こっちのグラスもあったかいよ」

「俺のもだ」

 

 結衣と八幡もそう報告した。沙希も流石に戸惑って、他の客やバーテンダーの様子を一瞥して確かめる。

 

「おかしいな……。他の人には異常がないみたいなのに、どうしてあたしだけ……」

『八幡……!』

 

 ここで、ジードが八幡たち三人にだけ聞こえる声で呼びかけた。それだけで、三人はハッと察する。

 

「川崎さん、ちょっとごめん……!」

 

 結衣が手を伸ばして、沙希の手の平に触れた。

 

「え? 由比ヶ浜、何をして……」

 

 呆気にとられる沙希には構わず、結衣は八幡と雪乃に、愕然とした顔を向けた。

 

「手の平が熱い……!」

 

 直後に、八幡はジャケットの下に隠していた装填ナックルに触れた。その瞬間にレムが報告する。

 

[カワサキサキ。彼女はリトルスターを発症しています]

 

 

 × × ×

 

 

 海浜幕張駅前の、街の灯りが差し込まない暗がりから、オガレスとルドレイがホテル・ロイヤルオークラを観察していた。彼らの目からだと、一般人には見えない、リトルスターの反応を意味する光の柱がホテルの建物から天に伸びているのが映っている。

 

『殿下、間違いありません。リトルスターの輝きです』

「そうか……」

 

 ルドレイから報告を受けたレイデュエスは、ニヤニヤとしながら自身の目でもリトルスターの光を確かめた。

 

「この間からまさかとは思ったが、この宇宙にもリトルスターがあるとはなぁ……。まぁ俺には不要のものだが、ウルトラマンジードの力にはなるものだ。それを巡って争ってみるのも面白い。漠然と暴れるんじゃなく、標的を定めるのもメリハリになるしな」

 

 言いながらオガレスとルドレイの前に出て、二種類の怪獣カプセルを取り出す。

 

「宇宙指令L16!」

 

 レイデュエスは黒と赤で体色が異なるだけで瓜二つの、一本角の怪獣のカプセルを順番に起動して装填ナックルに押し込んでいく。

 

「イッツ!」『ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!』

「マイ!」『ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!』

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ! ブラックギラス! レッドギラス!

レイデュエス! ツインデスギラス!!

 

 怪獣カプセルをライザーでスキャンし、レイデュエスが変身。フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、レイデュエス融合獣へと姿を変えた!

 

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