『クソ親父』【完結】   作:キ鈴

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『クソ親父』

 赤い、というよりは酸化してしまった血液の様な、どす黒い色をしていた海が嘘のように透き通り太陽の光を反射する。それと同時に目の前で隊列を組んでいた深海棲艦が悲痛な声を上げながら消えていった。

 

 ─────ああ、終わったのね。

 

 私達は勝ったんだ。きっと最前戦を任されている艦娘達が原初の深海棲艦を撃破したんだ。

 

「びしっ」

 

 私の艤装……曙艤装に宿った妖精さん達が私に敬礼をする。そっか、お別れなのね。

 

 私が敬礼を返すと妖精さん達はやるべき事をやったような満足した顔で消えていった。その瞬間、妖精さんの加護を失った艤装は海面に浮く為に必要な浮力まで無くし私を海の中に放り出した。

 

 ばっしゃーん

 

 海の中から海面を見上げる。太陽の光が屈折しオーロラのような美しさを作っていた。……オーロラなんて見たことないけどね。

 

 そういえば戦争が終結したら私達はどうなるのだろう?曙艤装へ志願して孤児院を出たのが7歳の頃。孤児院……あそこは私には合わない……のではなく私があそこに合わなかった。捻くれてるからね。

 

 そんな私だから普通の生活に戻れるのか少し不安だった。

 

 

  □■□

 

 

 戦後の艦娘の待遇はまあ、そんなものでしょうねといった感じだった。

 

 既に社会性のある戦艦、空母達は新たな仕事の斡旋。本来ならまだ義務教育を受けている年齢の私たち駆逐艦や潜水艦は親の元へ……といっても戦争に志願する様な小学生には大体親がいない。皆私と似たような境遇なのだろう。そんな私達は養子に出される事になった。

 

「じゃあね曙ちゃん向こうに着いたら絶対に連絡ちょうだいね」

 

「分かったからさっさと行きなさいよ」

 

 潮を見送る為に港に来ていた。一番高い位置に来た太陽はさんさんと私たちを照らしている。

 

 港には別れを告げる私と潮。それに潮を迎えに来た2人の夫婦が立っていた。

 

 泣き出してしまいそうな潮を半ば強引に夫婦の車に押し込み見送る。潮はずっと車窓から身を乗り出し手を振っていた。

 

 「よしっ」

 

 潮を乗せた車が見えなくなると私は背中のリュックサックを背負い直す。

 

『私達が救った街を見てみたいから里親のところには自分の足でいくわ』

 

 そう潮には嘘をついた。里親なんて見つかってない。私みたいのが誰かの養子になるなんて無理よ。孤児院にいた時と同じ様な結果になるのは目に見えてる。……捻くれてるからね。幸いにも軍からもらった給料はたんまりあるから何とでもなるでしょ。

 

「行きますか」

 

「おう」

 

「!?」

 

 私の独り言に応答した方を見ると我が鎮守府の提督が私と同じ様にリュックサックを背負って立っていた。

 

「なにしてるのよクソ提督」

 

「何って、お前は俺を待っててくれたんだろ?」

 

「はあ?」

 

 私が待ってたのは潮よ!あの子最後のひとりになるまで鎮守府に残るなんて、大方私を見送ろうとしてたんでしょうね。

 

「ああ?独り身の寂しい俺を気遣って、養子になってくれるんだと思ってたんだが違うのか?」

 

 そう言ってニヤリと右側の口角を上げて笑う。こいつ……私の素直じゃない性格を理解して誘導してるわね、そんなのお見通しよ!……でも。

 

「そうよ!クソ提督が本土で野垂れ死なないよう私が面倒みてあげるわよ!」

 

 私の性格を知っててなお私を迎えると言うこいつの所になら行ってあげてもいいかなって……そう思った。

 

 

  □■□

 

 

「なにこの家」

 

 クソ提督のあまり趣味がいいとは思えないオレンジ色の軽四、本人は『ハスラーって言うんだ、キモかわいいだろ?』と言う車に揺られて着いた場所には家……というよりお店があった。いや煙突とかついてるし。

 

「俺、妖精可視の素質が見つかるまではここで和菓子屋さんやってたんだよ。まっ、とりあえず入ろうぜ」

 

 建物の中は家と店が一緒になった様な木造の造りになっていた。7つほどの部屋がある一階建てでそのうちの入口を入ってすぐの1番大きな部屋が店となっているようだ。

 

 永らく人がいなかったせいだろう、部屋の至るとこにホコリがつもっていた。お掃除しないとね。

 

  

 

 

 

 部屋の掃除が終わるとクソ提督はどこからともなくお菓子の材料を持ってきた。開業の準備をするらしい。

 

 私はクソ提督がエプロンをつけてお煎餅を焼いたりどら焼きを作る様子を眺めていた。へーなかなか様になってるわね。男の人のエプロンってのもちょっといいかも、なんて思っていると

 

「ちょっと!なんで牛タンをどら焼きの中にいれてるの!?」

 

 奇抜で面白いだろ?そんな応えをクソ提督は返した。

 

 このクソ提督は……私達艦娘を指揮する時も相手の意表をついた奇策をよく立案していた。そして奇策を思いつくと決まって

 

 ニヤリ

 

 と今浮かべているこの表情をするのだ。

 

「どら焼きに牛タンは奇策じゃなくて蛮行だから……」

 

 店の看板商品が欲しくてなーとニヘラと笑っていた。

 

 

  □■□

 

 

 開店して数日がたったがどうやらこの店は余り繁盛していないみたいだ。今日のお客さんはたったの10人だったし。18時に店を閉めた後、クソ提督は晩御飯を作りこたつの上に料理を並べた。今晩はおうどんだ。二人でつるつるとおうどんをすすっていると

 

 年明けからお前学校な。とクソ提督は私に言った。

 

 まあそうなるでしょうね。そう言われることを予測していたし、私は分かったわとだけ返事しておいた。

 

  

 

 

 晩御飯を食べてクソ提督と二人で年末特番を見ていた。

 

 それにしても学校かー、不安かもね。行ったことないし。そんな事を考えていると、

 

「?」

 

 頭に何かが乗ったような感覚。クソ提督?と隣をみるとクソ提督は大人しくテレビを見ている。じゃあ頭の上のこれは?頭の上の物体Xを鷲掴むと

 

「ぎゃっ」

 

 そんな声をあげた。驚いて掴んだものを確認する。

 

 ───────あの日消えた筈の妖精さんが私の手の中でもがいていた。

 

 えっ?ちょっ?なんで!?終戦以降全ての妖精さんは消えたはずじゃ。

 

 クソ提督にも見せる。最初は驚いた顔を浮かべたがぽりぽりと頬を掻いて困ったような反応をする。なによその反応。

 

なんで妖精さんがいるのか分からないけどちゃんと面倒みろよ。

 

 私が面倒みるの!?……まあ戦争中はお世話になったしそれくらい当然か。私が妖精さんを解放するとぱたぱたと飛び上がりまた私の頭の上に乗った。そこが定位置なのね。

 

 

 次の日朝7時に起床して店に出るとクソ提督がうーんうーんとうなっていた。手元をみるとたい焼きの金型二つと沢山の材料が並べられている。それを見て私はピーンとアイデアが閃いた。

 

 クソ提督をどかしてもっともらしい事を言ってみる。

 

「あのね、クソ提督は材料や味にしか思考がいってないのよ。和菓子っていうのは見た目も重要なはずよ!というわけでよろしく妖精さん!」

 

 妖精さんに指示をだす。妖精さんはビシっと敬礼をして2つあるたい焼きの金型の1つをカンカンとハンマーで叩く。3分ほどで

 

「できましたー」

 

 と私の元に金型を持ってきた。

 

 これぞ私の考案したたい焼き(秋刀魚)よ!どうよこの形。可愛いでしょ!なんたって秋刀魚だからね可愛いに決まってる。え?そんなに細いと餡子を入れるスペースがない?いいのよ!ヘルシーじゃない!

 

 さっそく金型に材料を流し込みたい焼き(秋刀魚)を食べてみる。うーん……ヘルシーね!一瞬微妙な表情を浮かべた私を見て笑っていたクソ提督の脇腹に曙パンチをいれておいた。

 

 

 18時、今日もあまりお客さんはこなかった。たい焼き(秋刀魚)も売れなかった。

 

 クソ提督と妖精さんとこたつでテレビをみながら晩御飯を食べる。今晩は蒟蒻ハンバーグだ。私がヘルシーヘルシーと連呼するから余計な気を使ったのかも知れない。

 

 あまり面白くなかったのでテレビのチャンネルを適当に変えているとニュース番組で手が止まる。

 

『原初の深海棲艦を倒した英雄の早すぎる死』

 

 クソ提督の横顔を窺う、悲しんではいるようだがその表情はこうなる事が分かっていたのか驚いた様子はなかった。何か思うところがあるのだろうと思った私は、チャンネルをそのままに妖精さんと共に自室に戻った。

 

 

  □■□

 

 

 また数日がたった。最初は不安だった学校も通って見れば案外私のような捻くれ者でも受け入れてもらえた。友達もできた。

 

「クソ提督、明日は授業参観だけど来なくていいからね」

 

 おう、とクソ提督は返事したけどきっと来るだろう。

 

 

 授業参観にクソ提督はやっぱりきた。その日の給食は親と一緒に食べることになっていた。友達とそのお母さんとクソ提督の4人で机を合わせる。

 

 友達の前でまでクソ提督と呼ぶわけにもいかず「お父さん」と言ってみると驚くほど嬉しそうな顔をしていた。なんなのよ一体。

 

 

 学校から帰って店の手伝いをする。クソ提督は外で遊んでこいって言うけど私が好きでやってるんだから放っておいて欲しい。最近は私に会いに来てくれるお客さんも増えたんだから。

 

 18時に店を閉めクソ提督と妖精さんとで炬燵に入り晩御飯を食べる。今晩はおでんだ。私は餅巾着、クソ提督は牛すじ、妖精さんはタマゴばかり食べていた。好きな具が被ってないから無駄な争いは起こらない。

 

 食べ終わった後ぬぼーとニュースを見ていると

 

『呉の英雄の死』

 

 という文字が流れた。またか……提督さん達死にすぎでしょ。ちらりと見たクソ提督の頭髪に白がかかっていたのが気になるけど、まっうちのクソ提督はピンピンしてるし大丈夫でしょ。まだ20代なのに白髪なんて生やしてんじゃないわよ!

 

 

  □■□

 

 

 数年が経って私は17歳、高校3年になった。

 今日も私とクソ提督はお店でお客さんを待っている。

 

 あまりにも提督さん達が早死にするからクソ提督も……なんて思ったけど今も元気に奇抜なお菓子を作っている。この間なんてたい焼きの材料に粒餡を買ってきたら、たい焼きにはこし餡だろ!何ていうから大喧嘩した。粒餡の方が美味しいわよ!

 

 

 18時に店を閉めて晩御飯を作る。今では私が作ってるんだから!クソ提督はめんどくさくなったとかでお店に出ている時以外は基本炬燵で寝ている。てかこの炬燵、年中出てるわね。

 

 炬燵に料理を並べるとクソ提督が起き上がる。今晩は秋刀魚の塩焼きよ。

 

 そういえば最近妖精さんがいない事があるのよね。どこ行ってるのかしら。

 

 

 土曜日の朝、私はういーんという音を出しながら部屋に掃除機を掛ける。クソ提督は掃除機の騒音など気にも留めず炬燵で寝ている。よく眠れるわね。げしっと背中を蹴りクソ提督を起こす。

 

「もうすぐ潮が遊びに来るんだからね!しゃきっとしなさいよ!」

 

 ぴんぽーん

 

 来た!

 

 ばたばたと慌てて玄関に駆け寄り扉を開ける。

 

 久しぶりに会った潮はとっても大人びた魅力的な女の子になっていた。挨拶をする潮をみてクソ提督も驚いている。あっこら!胸ばっか見んな!

 

 

 その日は一日潮と遊んだ。私のたい焼き(秋刀魚)を嬉しそうに食べてくれたわ!

 

 日が暮れ始めた頃

 

 ぱたぱたと私と潮の元に妖精さんがやってくる。こらっ、どこいってたの!妖精さんに注意していると潮が驚いたというか驚愕した表情をしているのが目に入った。

 

「どうしたの?」

 

「曙ちゃん……その妖精さんいつから?」

 

「この子?私とクソ提督がこの家に来てすぐ現れたけど」

 

 潮が息を呑むのが聞こえた。なんだって言うのよ。

 

「曙ちゃん、落ち着いて聞いてね」

 

 ちょっと怖い顔をした潮は話しはじめる。

 

「提督、最近寝てる時間が多くなってない?」

 

 

  □■□

 

 

 妖精さん。その存在が一体なんなのか私達艦娘もよく知らなかった。いや、提督達しか知らない。潮の里親……父親は呉の提督だったらしい。そんな父が死の間際に潮に話した。

 

 妖精とは提督の分身。自らの命を削って召喚される存在。

 

 だから提督になる条件とは妖精が見えることではない。命を削って艦娘を守りたいと思う優しさがある事なのだ。

 

 妖精の数と顕現させている時間によって提督の寿命は減っていく。だから最前線で戦っていた英雄ほど早死にしていった。きっと優しい彼らのことだ、妖精が何なのか艦娘が知れば涙を流すと考えた。だから誰もその本質を語ることはなかったのだろう。

 

 肩にとまる妖精さんを見る。きっとクソ提督は私の事が心配だったのだろう。だから妖精さんを召喚して私を見守っていたんだ。

 

「潮……悪いんだけど」

 

「うん……私今日は帰るね」

 

 潮を見送りクソ提督の元に走る。

 

 まだ炬燵で寝ていた。

 

「起きなさい!クソ提督!」

 

 んだよ、と頭を掻きながら起き上がる。私は妖精さんを掴む腕を突きつけて言う。

 

「聞いたわよ妖精さんの正体!あんた何考えてるのよ!」

 

あ~ばれちまったか。とバツが悪そうに言う。

 

「早く戻して!!早く!!!」

 

 わかったわかったと言いながらクソ提督は妖精さんを呼ぶ。すると妖精さんは悲しそうな顔をした後、クソ提督の胸の中に消えていった。

 

「正直に答えなさい。嘘ついたら承知しないわよ」

 

 はいはい。

 

「最近あんた寝てばかりだけど体が辛いんでしょ」

 

 ……そうだよ。

 

「何でそんなになるまで妖精さん出してたのよ」

 

 ……心配だったんだよ。

 

「もう寿命……残ってないんでしょ」

 

 ……まだ半年はあるよ。

 

「うわあああああああん」

 

 泣き崩れるしかなかった。

 

「ばかっばかっばかっ」

 

 私はもっとあんたとこの生活が続けられればそれで満足だったのに。なんであんたは……

 

 

 

 

  □■□

 

 

 

 それからは家の事は全部私がやった。休んでなさいって言ってるのに手伝おうとするから怒ったりもした。

 

 そんなに過保護にならなくてもお前の卒業式には居てやるから安心しろよ。何て言う。

 

 

 ばか。

 

 

 □■□

 

 

 卒業式の1ヶ月前、とうとうクソ提督は病院のベッドで一日のほとんどを眠る様になってしまった。

 

 

 

 卒業式の1週間前。お医者さんからもう持たないだろうと言われた。

 

 嫌だよ。嫌だよ。卒業式までは生きてくれるって言ったじゃない。約束守ってよ。

 

 クソ提督が目を開ける。何か言いたそうだがもう喋る事もできないようだ。辛そうな顔をしていたが急に

 

ニヤリ。

 

 と、あの奇策を思いついた時の様に右側の口角を上げてわらった。

 

 なんなのよクソ提督、言いたい事があるならちゃんと言いなさいよ。声を聞かせなさいよ。あっ待って目を閉じないで。もっと一緒にいてよ。

 

 

 

 その夜、クソ提督は息を引き取った。

 

 

  □■□

 

 

 クソ提督の葬儀は滞りなく進んでいった。その様子を私は傍観していることしか出来なかった。

 

 ただ、火葬された際に立ち上る煙が空に昇っていくのを見ていると段々とクソ提督が死んだという実感が湧いてきた。泣いた。

 

 

「ただいま」

 

 もうお帰りと言ってくれるクソ提督はいない。和菓子の匂いもお煎餅を焼く音も聞こえない。私が廊下を歩く音だけ。

 

一人ぼっち。

 

□□□

 

 卒業式はクソ提督との思い出を振り返っていたらいつに間にか終わっていた。式の後に同級生たちは写真を撮ったり御飯を食べに行ったりするようだ。私も誘われたけどとてもそんな気にはなれない。帰ろう。

 

 

「ただいま」

 

 誰もいない家に帰る。……?あれ?たい焼きの匂いがする。

 

 いるわけがないと分かっているのに店へと走る。案の定クソ提督はいない。そりゃそうね。

 

 クソ提督の匂いが染み付いた炬燵で寝ようと居間に入る。するとそこに

 

 

 

 

 炬燵の上にお皿に載ったたい焼き(秋刀魚)と妖精さんがいた。

 

 

 

 

 もう枯れきっていたはずの涙がボロボロと溢れてくる。目が涙で滲んで前がよく見えない。鼻がぐじゅぐじゅになって息がしづらい。

 

「クソ提督、なんで!なんで!」

 

 妖精さんがニヤリとあの表情を浮かべる。

 

 『そんなに過保護にならなくてもお前の卒業式には居てやるから安心しろよ』

 

 あの時の言葉を思い出した。ばかっ、居ればいいってものじゃないでしょ。きちんと生きてなさいよ………。でも私との約束を守ってくれたのだと思うとまた涙が溢れてくる。

 

 妖精さんの身体が薄くなっていく。まって!まだ言いたい事が!

 

 クソ提督と過ごした日々がフラッシュバックする。

 

 この家に来た時。

 

 どら焼き牛タンを止めたとき。

 

 おうどん、おでん、秋刀魚の塩焼きを一緒に食べたとき。

 

 私がたい焼き(秋刀魚)を作ったとき。

 

 粒餡こし餡で喧嘩したとき。

 

 授業参観の日に私がお父さんって呼んだら喜んでたとき。

 

 そういえばあの時は珍しく素直に喜んでた。もう一度。だけど私がお父さんって言うのは違和感あるわね。だから……

 

「クソ……親父」

 

 ニヤリと笑っていた妖精さんが驚いた後俯き、自分のズボンを握りしめている。足元にはポタポタと涙が落ちていた。

 

「クソ親父」

 

 ごめんね。ずっとお父さんて呼んであげられなくて。

 

「クソ親父」

 

 ごめんね。素直になれなくて。

 

「クソ親父」

 

 私、あんたと一緒にこの家で暮らせて本当によかった。

 

「クソ親父こっち向いて」

 

 クソ親父の体はもう首から上以外すべて消えてしまっていた。泣きじゃくるその顔が残っているだけだ。やっぱり最後はわらってお別れしたい。

 

ニヤリ

 

 私はあの表情を浮かべる。それを見たクソ親父も涙を流したまま

 

ニヤリ

 

 あの表情を浮かべた。

 

「さようなら、クソ親父。ずっとずっと心配かけてごめんね。でももう大丈夫だから。ゆっくり休んで」

 

 おう。そういつもの様に笑いながらクソ親父は消えていった。

 

 

 

 

 炬燵の上にはたい焼き(秋刀魚)が残っている。大方私を驚かす為に作っていたのだろう。

 

 

 私は涙で滲んだ視界の中、ゆっくりとたい焼き(秋刀魚)を口に運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 ────こし餡じゃないの

 

 

 

 

 

 

 

 もう一度、ニヤリと笑うクソ親父の顔が見えた気がした。

 

 

 

 

 

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