好奇心に突き動かされた狂人   作:ナナシ名無し

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 作品の世界観をなるだけ壊さないようにしていきたいです。ただ一部改変するかもしれないのであしからず。
 基本的に不定期でやっていきます。


序章
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 私がこのゲーム、〈Infinite Dendrogram〉を始めたのは知的好奇心に突き動かされた結果だ。

 これまで着実に進歩と失敗を重ねてきたVR技術。その限界点を軽々と飛び越えたこのゲームは世界中の企業から探られた。だが、いかなるハッキングをも寄せ付けない管理AI達によりその悉くを封じられた。

 具体的な製作方法の一切が漏れでないその堅牢さに彼らはむしろ力を入れて調査を行った。世界中からログインした企業スパイ達はその世界に感動すると同時に理解した。

 

 このゲームの再現は不可能だと。

 

 そんな話を情報通の友人から聞いた私は、仕事の帰りに〈Infinite Dendrogram〉を購入し、その日のうちにログインした。

 

 ゲームをプレイするに当たって私は目標を立てた。

 ①やるからには楽しむこと

 ②その世界で暮らす生き物の調査

 ③〈エンブリオ〉の調査

 

 大ざっぱではあるが、最初はこれくらい緩い目標にしておいた方がゲームとして楽しめるだろうという判断だ。

 思考の波の中、私の意識は別の空間を認識し始める。

 

 右に本棚、左にチェステーブルが置かれ、前方には古めかしい木の机がある。いかにも書斎といった風情の空間だ。

 さらには猫が紅茶を飲んでくつろいでいて、ゲーム特有の非日常な感覚にむしろ安心感を覚える。

 あの猫はどの様な生態をしているのだろう。紅茶を飲んでいる事からファンタジー小説に登場するような喋る猫の類であろうか。

「僕は管理AI13号のチェシャ。よろしく」

「どうも」

「早速だけどチュートリアルを始めていくよー。まず描画の選択ね。リアル・3DCG・アニメの三つから選んでねー」

 サンプル映像が流れていき、それは次第に3DCGに変わる。どれほどリアルに近づいた美麗な3DCGもこうして比較してみると違いは一目瞭然だ。次いでアニメに変わる。

 アニメーションで見えるその景色は、他では体感したことの無い感動を生み出す。・・・というかどうやってるんだ?脳に直接情報を送ることで疑似的な視界を造り出しているのか?

「すごいでしょー。好きなの選んでねー」

「リアル視で」

 それが一番自身の目的に合致する。リアルなドラゴンやアンデッド、フェアリーなどが特に興味をそそる。ネットで調べた限りでは鬼や天狗などの妖怪も出るらしい。ああ、早く見たい、触りたい、体の隅々まで見て触って、それから中を開いて調べたい。あっ涎出てきた。

「・・・次は名前と容姿を決めるねー」

「名前はナナシでお願いします」

「名前を無しにするのは無理だよー」

「ああいや、そうではなくてカタカナでナナシという名前にしたいのです」

「なるほどー。じゃあ次は容姿ね。自分の体をベースにして少し変更を加えるっていう事も出来るけどどうする?」

「お願いします」

 少し痩せ気味で目に深い隈を付け、半ば猫背になっている男が現れる。やつれた黒髪の細部までそっくりだ。スキャンでもされていたのだろうか。

 まずは猫背を直し髪をストレートに整える。艶を僅かに出し、痩せ気味だった体を少し筋肉質にする。これだけでも大きな変化だが、せっかくゲームなのだし色々変えてみよう。

 髪・肌の色を変えたり、犬耳を生やしたり、鱗を付けたりもした。だがどれもしっくり来ず、最終的に目の色を調整しブラックオニキスとアメジストを意識した色にしてみた。隈を取るのは自分らしく無いので残したままだ。

「初期装備をこのカタログから選んでねー。性能はどれも同じだけどー」

 ローブや甲冑のようなオーソドックスなファンタジー系。チャイナ服や法衣、巫女装束、着ぐるみ、スーツ、白衣、作業服など。あまりにも数が多い。

 私は魔術師系に就こうと考えているしローブが良いだろうか?いや、プレイスタイルは研究者よりになるだろうし白衣が良いだろう。

「白衣でお願いします」

「りょうかーい。じゃあ最後に所属国家を選んでね。サンプル流すから、参考にしてー」

 そうして流れ始めたのは各国の首都映像。

 王道を行く騎士の国アルター。

 機械技術の発達した鉄の国ドライフ。

 森と寄り添う秘境レジェンダリア。

 龍を神聖視する武仙の国黄河。

 和風の城郭が魅力の修羅の国天地。

 四つの巨大船で造られた人口の大地グランバロア。

 砂漠の中オアシスに寄り添う商業国家カルディナ。

 どれも魅力的で大変興味をそそられる。出来ることなら全ての国を周り、その風土、固有のモンスター、絶景、名物を体験したい。

 旅に出ればいいのか?

「一応旅に出たりは出来るよー。ただ道中凶悪なモンスターや自然の脅威を抜けるために相応の力は必要だけどねー」

 ならやはり戦闘系の職業に就くべきか。学者みたいな職業にも就きたいから半分を戦闘系、残りを生産・支援系で埋めよう。

 そして最初の国だが、特に興味を惹かれた黄河かレジェンダリアのどちらかがいい。ここは・・・黄河にするか。

「黄河にしようと思います」

「了解。次に収納カバンねー。見た目の割に沢山入るからー。あとは路銀の5000リルね」

 収納カバン、有名SF漫画で出てくる四次元ポケットのような物か。

「こっちの貨幣価値は君の国の十倍くらいと思ってねー」

 つまり5000リルは五万円相当かそう考えると初期金額としては太っ腹だ。

「そしてお待ちかねの〈エンブリオ〉だよー」

 〈エンブリオ〉。このゲームの特異さをより際立たせるこのシステムは、なんと全てのプレイヤーが全く異なるオンリーワンの相棒を得るという物。

 姿形、その保有スキル、方向性は正に千差万別。城となる、戦車になる、結界になる、剣になる、守護獣になる、etc。プレイヤーのパーソナルを解析し成長するパートナー。

 このゲームの持つ残りの特異性・・・「五感の完全再現」、「時間の加速」などと並ぶこのゲームだけのオンリーワン。

 実に興味深い。

「はい移植終わりー。じゃあ最後に、ようこそナナシ君。ここ〈Infinite Dendrogram〉は君の来訪を歓迎する。どこまでも自由なこの世界をぜひ楽しんで欲しい」

 長かったチュートリアルが終わると同時に、書斎が視界から消失する。猛スピードで体が落ちていく感覚と擦過音。山々を視界に捉えたと思ったらすぐに川が見え、最後に目と鼻の先の緑を目にした。

 衝撃の瞬間は何時までもやって来ず、おずおずと目を開くと龍を象った装飾を左右に持った城門が見えた。

 鼻で軽く息を吸うと、緑の匂いと瑞々しい空気の味がした。城門の奥からは人々の話す声が届いてきていて、その喧騒は途切れることがない。

 最初の目的地はジョブクリスタル。次に武器を買おう。攻略サイトで大体の道を知ってはいたが、万が一迷って時間をロスしたら堪った物ではない。

 門にいた守衛に道を聞き、自身の記憶が確かなことを確認すると私は再び歩き出す。

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