好奇心に突き動かされた狂人   作:ナナシ名無し

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エンブリオ

 無事に【魔術師】に就いた私は、武具店で装備を整えた後狩場へと向かった。既に先客がちらほら見える中、私に迫ってきた二匹の小鬼、【リトルゴブリン】という名が頭上に表示されたモンスターだ。それに向けて杖を構える。

 魔法の発動を止めまいと飛びかかるゴブリンに対し、私の取った最初の行動は、“杖を捨てハイキックを食らわせる”というものだった。見事首の側面へと直撃し、鈍い音が鳴る。

「《ファイヤーボール》」

 次いで、石斧を持ったもう片方の【リトルゴブリン】に向けて、爆発の瞬間を待っていた火球を投げつける。ボンッという軽い爆発音と共に【リトルゴブリン】は火達磨になり、すぐに光の粒と化した。

「これなら魔術師一人でも戦えそうですね。一時期キックボクシングをやっていた経験が生きてます」

 一段落つき他のプレイヤーの狩りを見学する。

 宙に浮いた盾で身を守り符を投げつけ戦う者。

 骸骨を使役し、巨大な鎌で仲間の骸骨ごと敵を凪ぐ美男子。

 小型の機械に乗りその機械の前面に付いたドリルで敵に突っ込む者。

 中には赤黒いオーラを纏って【リトルゴブリン】を操る者までいた。

 そのどれもが個性的な〈エンブリオ〉を使い戦っている。だが私の〈エンブリオ〉は未だに孵化しない。孵化までに掛かる時間には個人差があるとは聞いていたが、いい加減出てきて欲しい。このままではジョブ構成の明確なビジョンを組み立てられない。出来る限り〈エンブリオ〉とジョブがシナジーさせたいと考えているため今日中には来て欲しいのだが。

 というかそんな建前はどうでもいい。私は早く〈エンブリオ〉の事をもっと知りたいんだ。それはもう宇宙の神秘を追い求める科学者の如く。

 さあ早くしたまえよ君ぃ。どうしたのかね。早く出てきて私に調べられたまえよ。あっやばい、また涎出て来た。

『・・・・・・』

「むっ、そこに誰かいるのか!さては私の〈エンブリオ〉だなぁ!」

『・・・分かった。姿を現そう』

 私が振り向いた先の風景が歪む。色は次第に黒に変わっていき、現れたのは黒のタキシードを着た美男子だった。

 整った顔立ち。艶やかな黒髪。細く締まった肉体。アメジストを宿した瞳。そのどれもが精緻な芸術品としての価値を持っていると強く感じる。また、どこか儚げなオーラを纏っていて、彼の芸術性を高めている。

 だが同時に疑問も生じる。何故自分からこのような〈エンブリオ〉が生まれたのだろう?〈エンブリオ〉は、プレイヤーの深層心理や行動原理等のパーソナルに左右され千差万別に進化する。私のパーソナル通りならテリトリーかキャッスル、またはチャリオッツになるだろうに。(それぞれ領域・建物・乗騎タイプのこと。)

『俺はアヴェスタ。TYPE:アポストルwithテリトリーの〈エンブリオ〉。お前の相棒となる者だ』

「よろしく頼むよ〈エンブリオ〉君。さて早速だが少しじっとしててくれないか?隅々まで調べたいのでねぇ」

『・・・変態が』

「むっ嫌なのか。ならば仕方がない、戻すか(・・・)。すみませんね。どうも興奮してしまったようで」

『・・・・・・メニュー』

「ああメニュー画面から〈エンブリオ〉について見れたのでしたね。すっかり忘れていました」

 周囲に自分に向かってくるモンスターが居ないのを確認してからメニューを開く。〈エンブリオ〉の項目が追加されているのを確認しそれを開く。

【学識者 アヴェスタ】

 TYPE:アポストルwithテリトリー

 到達形態:Ⅰ

 装備補正:なし

 ステータス補正:なし

 

 『保有スキル』

 《叡智、(ラーニング)人のみ(・オブ・マ)が望む(ンカインド)》Lv1:

 《解析鏡》によって人間範疇生物から得たスキル情報を解析し、〈マスター〉が使用可能な物に改造し習得するスキル。

 ただし、このスキルを使用する為のリソースの一部は〈マスター〉の取得経験値から引かれる。

 アクティブスキル。

 

 《本能、獣のみが秀でる(ラーニング・オブ・ビースト)》Lv1:

 《解析鏡》によってモンスターから得たスキル情報を解析し、〈マスター〉が使用可能な物に改造し習得するスキル。

 ただし、このスキルを使用する為のリソースの一部は〈マスター〉の取得経験値から引かれる。

 アクティブスキル。

 

 《解析鏡(アナライザー)》Lv1:

 視界に納めた対象から情報を読み取り、その情報を保存する。使用中毎秒1ずつMPを消費する。

 アクティブスキル。

 

「なるほど。なかなかに尖った性能をしているようですね。アヴェスタ君のモチーフはゾロアスター教の教典。確かペルシャ語で“知識”を意味するのでしたか。先日宗教関連を調べた時、そのような情報を見た覚えがあります」

『ああ俺は知識欲の権化であるあんたから生まれた。だから全部“学習”を目的にしたスキルになったんだろうさ』

「ふむ。ですが何故テリトリーなのでしょう。気になりますねぇ。まあそれは今は置いておきましょう。丁度お客様のようですし」

 三匹の【リトルゴブリン】が現れ、それぞれの武器を掲げ威勢良く吠える。それに合わせ、こちらも杖を構える。僅かばかりの沈黙が訪れ、やがて痺れを切らし一斉に飛びかかってくる。だがその彼らを“一陣の風”が切り裂いた。血肉を撒き散らしながら吹き飛ぶ【リトルゴブリン】達は、慟哭の暇も無く光の粒となった。

 風が来た方向を見て《解析鏡》を使う。そこには白を基調としたライトアーマーを身に付け、緑の光を発する槍を持った少女がこちらへと走って来ていた。

 クルル・ナイト・ルルセット

 レベル:12(合計レベル:12)

 職業:【槍士】

 HP(体力):364

 SP(技力):253

 MP(魔力):12

 

 以降解析中。

 どうもこの《解析鏡》というスキル。完全に調べるには時間を要するらしい。ひとまずは置いておこう。

「大丈夫でしたかー。襲われているのが見えてつい助けてしまいましたが」

「ありがとうございます。お陰で助かりました」

「私はクルル。クルル・ナイト・ルルセット、この槍は〈エンブリオ〉のシムルグ。よろしくね」

「ナナシと言います。こちらは私の〈エンブリオ〉のアヴェスタ君」

「よろしくです!その人〈エンブリオ〉なんですね。・・・随分とその、イケメン・・・ですね」

「ええ、何で私からこんなイケメンが生まれたのか丁度考えていた所でして」

「考え事ならもう少し城門の近くでやった方が良いと思いますよ。危険ですし」

「ご忠告ありがとうございます。良ければ私とパーティーを組んで頂けませんか?タンクが居ないのは少々辛くて」

「うーん、じゃあまず敬語止めない?いい加減疲れてきちゃった」

「どうぞ止めて下さって大丈夫ですよ。私のこれは癖みたいな物なので気にしないで頂ければ幸いです」

「じゃ、パーティー成立だね。これからよろしくー」

「よろしくお願いします」

 私達は軽く握手を交わし、次の獲物を求め歩き出した。

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