古雪椿は勇者である   作:メレク

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記念すべき(オリ紹介合わせての)100話。見てくださってる方、本当にありがとうございます。

...なんか言うつもりだったんですが、10万UAの時とかも言ったし...ということでもう本編いきます。


11話 結んで切れて

起きても、誰もいない。平日の昼間だ。当たり前だ。

 

「......」

 

季節としては冬だが、太陽の光は部屋全体を温かくしてくれる。

 

「...寒い」

 

でも。俺は震えることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

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ひなたが大社へ向かった日、学校の机に俯きながら、私は熟考していた。休み時間も授業も一歩も動く気力が出ない。

 

(答えとはなんだ...私はひなたにも愛想をつかされたのだろうか...)

 

リーダーでありながら、仲間を助けるどころか危険に晒してしまった。

 

「そうだ...もはやどんな処罰を受けても仕方ない...市中引き回し、ムチ打ち、はりつけ...」

「__さん」

「フフフ......」

「若葉さん」

「?」

「ちょっといいですか?」

 

 

 

 

 

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どよーんとした暗い空気が、若葉さんを取り囲んでいる。

 

「ゾンビみたいになってるな...魂が抜けてやがる」

「今回の件がかなり堪えてるみたいだね。上里さんもいないし...」

「千景の一言が発端だろ。なんとかしろよ」

「そ、そんなこと言われても...」

「あのままってわけにもなぁ」

 

タマっち先輩と千景さんの話に入らず、若葉さんの元へ向かった。

 

「若葉さん」

「フフフ......」

「若葉さん」

「?」

「ちょっといいですか?」

 

若葉さんが今の自分に答えを見つけられる手助けをしたい。そう思って。

 

 

 

 

 

「あ、勇者様よ」

「ホントだ」

 

勇者はもう有名になって、六人目の古雪さん含めた全員の顔が新聞に載った。こうして外を歩けば、ひそひそ囁かれる。

 

「お、おい杏、どうして急に外へ?」

 

疑問を投げ掛けてくる若葉さんにも外の人にも気にすることなく、私はは一つの家を目指した。

 

ついたのは、見た目は別にどこにでもあるような古風な家。

 

「杏...?」

「この家のお姉さんは、三年前に広島から四国に避難して来た方ですが、天恐を発症しました。でも、勇者の活躍を聞いて症状が改善してきたそうです」

 

事前に調べたことをつらつら述べて、次の家へ向かう。こういった暗記は本の台詞を覚えるのと似てて、別に難しくない。

 

「この家のご家族は古くから丸亀市で暮らしていて、もし勇者が四国を守ってくていなかったら、大切な故郷を失っていただろうと言っていたそうです」

 

若葉さんに気づいて欲しい。私達が命をかけて守っているものが、どんなものかを。

 

「ここのアパートに住んでいるのは、本州や九州から避難して来た方がほとんどです。皆、私達(勇者)の戦う姿を見て、敵への恐怖を乗り越え前向きになれたそうです」

「そう...だったのか」

 

 

 

 

 

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町に連れ出した杏は、私に今を生きる人々を教えてくれた。

 

「もしかして...若葉様ですか?」

 

そんな中声をかけてくれたのは、ベビーカーを押す女性。

 

「あの...どこかで?」

「私、三年前のあの日、島根の神社で救っていただいた者です」

「!」

 

三年前のあの日というのが、バーテックスが初襲来した時というのは瞬時に分かった。

 

「この子は四国に避難してから産まれて、勇者様の名前にちなんで若葉と名付けました」

「ぇ...」

 

ベビーカーに乗っていた子を渡してくるお母さん。腕の中には確かな温もりがあった。

 

(...たくさんの命が奪われた惨劇の中、私が辛うじて救えた命。その命から新たな命が育まれていたのか......)

 

「あの時助けていただいて、本当にありがとうございました」

 

 

 

 

 

「私は、何も見えていなかった」

 

二人を見送り、ぽつり呟く。

 

この町やそこに住む人々、自分の周りの人達のこと。私はそこを見ることなく、ひたすら後ろを向いていた。

 

あの日の記憶に囚われて、死者の復讐を求め、怒りで我を忘れていた。

 

(答えとはこのことだったんだな、ひなた。私が背負うべきは過去じゃない。今だ)

 

「そろそろ丸亀城に戻りますか?」

「...あぁ。球子辺りが心配してそうだしな」

「タマがどうしたって?」

「わ!?」

「きゃっ!?」

 

にょきっと後ろから私達の間に入り込んで来たのは球子。

 

「た、球子か...どうしてここに?」

「深刻そうな顔で一緒に学校を出ていったから、ケンカでもするのかと思って探してたんだ」

「しないよ!」

「.....球子にも心配かけてしまったんだな」

「べ、別にいいよそんなこと...お前も隠れてないで、いい加減出てこいよ」

 

電柱から現れた姿を見て、私は目を丸くした。

 

「千景...」

 

完全に、愛想をつかされたと思っていた。そんな彼女が、今ここにいる。

 

「わ、私は無理やり土居さんにつれてこられただけよ」

「気にしてそわそわしてたくせに?」

「してない!」

「気にしてた」

「してない!」

「まぁまぁお二人とも...」

 

(皆、私を気にかけてここに...)

 

気づいた時には、自分の頭を深くさげていた。

 

「すまなかった」

 

答えは得た。

 

「過去に囚われ、復讐の怒りに我を忘れ、一人だけで戦っている気になっていた。これからはもうそんな戦いはしない」

 

頭をあげて、誓う。

 

「今生きる人々のために私は戦う。だからもう一度...私と共に、戦ってくれないか?」

「おう!タマに任せタマえ!」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

「...口ではなんとでも言える」

「......」

「だから、行動で示して...側で見ててあげるから」

「!!」

 

そっぽを向く千景の頬が、珍しく赤くなってて。

 

「あぁ!よろしく頼む!!」

 

外なのに、大声を出してしまった。

 

 

 

 

 

「私が寝てる間にそんなことがあったんだ...ごめんね。大事になっちゃって」

「友奈を危険に晒したのは私のせいだ。本当にすまない...」

 

あれからして、友奈の目が覚めたと連絡があった。体も傷が治っているとのことだが、決して軽い傷ではない。

 

千景との喧嘩、今生きる者を大切にするという私の思い、友奈が意識を失っている間の話を口下手ながら伝えた。

 

「友奈。私はまだ心身ともにリーダーとしては未熟だが...これからも共に戦ってほしい」

「もちろんだよ!これからもよろしくね!」

 

友奈は私の手を取って微笑んでくれた。

 

「ありがとう...その言葉が聞けてよかった」

「えへへ...」

「...病み上がり相手に長居するのもいけないし、古雪の所へも行きたいから、今日はこれで失礼す...友奈?」

「......」

 

握った手を、彼女はいつまでも離さない。

 

「友奈?」

「え?あぁごめんね!」

「いや...」

「...えっとね。若葉ちゃん」

「どうした?」

「......椿君のお見舞い、また今度にしてあげてくれないかな?」

「?」

「い、嫌がらせとかじゃないよ!?ただ...さっき私が会いに行ったとき、疲れてたみたいでね。眠っちゃってると思うから...」

「そうか...病人を無理させるわけにもいかないな。わかった。古雪のお見舞いはまた今度にしよう」

「ありがとう、若葉ちゃん」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

『失礼しまーす...あ、椿君。大丈夫?』

 

『......お前の方が大丈夫じゃなさそうだが』

 

『あ、あぁ...確かにやっと歩けるくらいだけど、全然平気だよ!椿君も守ってくれたしね』

 

『ゆっくりしとけ』

 

『そんなのダメだよ。だって椿君の方が大変だったんだもん。絶対お礼を言わなきゃって思ってたから...この前の戦いでもうだめだと思ってた時、こっちに来るバーテックスを全部倒してくれて...ありがとう』

 

『...やりたいことをやっただけ。お礼を言われる筋合いはない』

 

『そ、そっか...ねぇ椿君』

 

『ん?』

 

『疲れてる...?』

 

『...そりゃ、疲れてるだろ?互いに』

 

『そうじゃなくて...』

 

『!!!』

 

『戦ってた時も、椿君友奈ちゃんの名前を叫んでた。【ユウ】じゃなくて【友奈】って。会えないのは寂しいよね?私がそんなに似てるなら...私が友奈ちゃんに見えるなら、そう思ってくれても』

 

『やめろ!!』

 

『っ!』

 

『やめろよ!!俺のことを気遣うなら、出ていってくれ!!もうこれ以上、俺があいつらのいない世界に来てしまったと痛感させないでくれよ!!!』

 

『ぁ...ご、ごめんなさい!!』

 

『......もうやだ...助けて...助けてくれよぉぉ...』

 

 

 

 

 

「あぁぁぁ!!!はぁ...はぁ...」

 

病院、外も部屋も暗闇に覆われている。

 

「ぁぁぁ...くそ」

 

頭の中からガンガン音がするのを抑え込む。震える体を落ち着かせ。

 

『悩んだら相談!ですよ!』

 

「うるさい...そんな相手いねぇよ...」

 

でも、体が内側から壊れていく様な感覚が止まらなくて。

 

表しようのない不安が付きまとっていた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「いーよなー上里ちゃんは。勇者と一緒に行動できるし?巫女としての力も大社内でトップだし?何より苦しい修行をしなくていい!」

「最後のがメインとなっている気もしますが...」

「気のせいだよ...いやだってさ!真冬の滝行とか死ぬから!!」

 

大規模に神樹様からの声を聞くための儀式、『神託の儀』の準備のため、私達巫女は滝にうたれ身を清めた。

 

普段から大社にいて、こうした修行を繰り返している安芸真鈴さんが話しかけてきたので、周りに響かない程度の声量で返す。

 

「...あの子達は元気?」

「それはもう。写真見ますか?」

「ありー...やっぱり若葉の写真多すぎ。フォルダの大半埋まってるじゃない」

「ライフワークですから」

 

あの子達というのは、杏さんと球子さんのこと。二人の出会わせた巫女というのがこの人で、写真を見せると嬉しそうに微笑んだ。

 

「こんな呑気な顔してるなら、心配して損したわ...あれ、この人は?男なんて珍しい...カメラの存在すら気づいてなさそうな盗撮っぽい感じなのは置いといて」

「ご存じないのですか?六人目の勇者、古雪椿です」

「え!?勇者!?そんなのいたの!?」

「この前言われてたよ。安芸ちゃん寝てただけで」

「なんですと...」

 

肩をがっくり落とした安芸さんは、古雪さんをまじまじと見つめる。

 

「へー...イケメンだけど、この辛気臭い顔どうにかならないのかしらね」

「......」

 

もっと怖い顔なら見たことあるんですけどね。とは言えなかった。

 

思えば、会って数日経った後の笑顔が、一番楽しそうというか、彼らしい気がした。

 

「そろそろ時間ですよ」

「ん、そか」

 

 

 

 

 

神社を改築して作られた大社の大部屋に正座する。

 

(神託が...来る)

 

勘と言うか、予感というか。神官が祝詞(のりと)を唱えている後ろで、私は静かに待つ。

 

他の人間が暮らす場所とは隔絶された錯覚に陥る世界。神そのものである神樹様の存在する場所だから、当たり前と言えば当たり前だけど。

 

(そういえば...若葉ちゃんや椿さんは、大丈夫でしょうか。数日で心をこんなに乱されるなんて......)

 

すーっと意識を持ってかれる感覚。

 

(...え)

 

体の内側が熱くなって、濁流のように何かが押し寄せる。

 

『勇者は、気合いと、根性ー!!!』

 

(なに...これ)

 

多くの星が迫ってくる。集まって大きくなって輝いて、そして、星空に埋め尽くされた世界に咲く五つの花。

 

それから、一筋の流星________

 

『魂だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

「っ!」

「え、上里ちゃん?ちょっと上里ちゃん!?」

「う...」

「過呼吸になってる!誰か医務室に連絡して!!」

 

この、声は________

 

 

 

 

 

「上里ちゃん!私が誰だか分かる!?」

「はい...大丈夫です。安芸さん」

 

時間を聞くと、半日近く眠ってしまったらしい。

 

「...もしかして神託?」

「......はい。まもなく総攻撃が起こります。四国へ、前回よりも遥かに多いバーテックスが...」

 

 


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