古雪椿は勇者である   作:メレク

101 / 333
100話記念の感想、たくさん頂きました!ありがとうございます!!


12話 子供

傷の治りは俺の方がユウより早かったらしく、もう退院となった。

 

ただもう夕方のため、学校である丸亀城ではなく寮へ向かう。

 

(前も、あったっけか...放課後登校とか)

 

電気をつけると、えらく久々に見た自分の部屋となっている場所は、ホコリがたまっているように見えた。

 

「...」

 

いつの間にか景色が反転して、床が凄く近く見える。

 

(...倒れたのかな)

 

頭に響く音は、鳴り止まない。

 

 

 

 

 

「ん...」

「目が覚めたか!?」

 

起きると、寒い布団の中だった。目の前には乃木がいる。

 

「乃...木?」

「古雪!!大丈夫なんだろうな!?退院したと聞いて部屋に来てみれば、電気もつけずに床で倒れてるなんて!」

「...うるせぇな......」

「あ、すまない...だがこれは」

「ん...ちょっと床が気持ちよくて寝転がってたら、そのまま寝ちゃっただけだ」

「普通にベッドで寝ろ。食事は?」

「食べたい気分じゃない...なんも用意してないし」

 

まるで介護されてるみたいだった。

 

(なんで俺は、こんな扱いを...)

 

「さっき作っておいたおかゆがあるが...」

「寝ときゃ治るから気にするな。もう夜も遅いだろ?自分の部屋に帰れ」

「いやダメだ!私の目が黒いうちはそんなことさせん!」

 

 

 

 

 

「けふっ...」

 

結局飯を食わされた。病院で渡されていた頭痛薬と睡眠薬も飲む。

 

「何故こんな薬を...」

「よく眠れないんだよ。最近」

「...古雪。私に相談できることがあるなら、何でもいってほしい」

「......随分、変わったな」

「皆のお陰だ」

 

よく見れば、乃木の顔はどこか決意に満ちているような気もする。

 

「...良い仲間に恵まれたな」

「古雪もその一人だ」

「......そうか」

 

良いことを言ってくれる。とても俺にはそう思えないが。

 

(俺は、お前たちに生き残って貰わないと困るから戦ってるだけで...ただ、利用してるだけで)

 

「病み上がりを無理させるわけにもいかないな。今日はゆっくり休んでくれ...いや、明日も休んでおくといい」

「いいのか?生真面目なお前がそんなこと言って」

「古雪はずる休みするような人間ではないだろう?そのくらい私にも分かる。おやすみ」

「...おやすみ」

 

 

 

 

次の日。気づいたら放課後だった。

 

(眠い...)

 

眠気は全く取れず、寧ろ悪化してる気もする。

 

「古雪ー!元気か!」

 

ドアを蹴破らん勢いで入ってきたのはら土居だった。

 

「...静かにしてくれないか?頭に響く」

「おぉ、すまない...大丈夫か?」

「大丈夫だろ」

 

無駄に心配させるわけにもいかない。折角士気が向上してるようなのに__________

 

「これお土産だ。骨付鳥。さっき若葉と食べてきてな。タマおすすめの『ひな』だ」

 

まだ暖かさの残る肉を渡され、お腹も空いていたので食べる。あまり味はしなかった。

 

「美味しいだろ?」

「...まぁ」

「微妙な反応だな...古雪も『おや』派か?」

「その、ひなとかおやとかってのは?」

「若鶏の肉で作った『ひな』と、親鶏の肉で作った『おや』だ!」

「へー...」

 

もう一度咀嚼する。

 

「美味しいだろ?」

「...まぁ」

「ダメだこりゃ...プラシーベン効果だぞ!思い込みが大切なんだ!それは滅茶苦茶旨い!」

「それを言うならプラシーボ効果な」

「むー...なぁ古雪」

 

土居が元気なさげに呟いてくる。

 

「この前言ったよな。前に突撃して戦ってるのは、大切な仲間のためだって。でも、そんなに辛いなら無理にでないでくれ」

「無理してない。俺がやらなきゃならないんだ」

 

俺が前に出て、一体でも多くの敵を消して、お前たち勇者を生き残らせる。未来を変える。そうすれば、俺はまた帰れる。その為だけに戦う。

 

「だがな...んー!まどろっこしいのは合わん!古雪!タマは古雪が心配だ!!おまけに、今度はもっと大きな戦いになるらしい!前に出るなとは言わんから出過ぎないでくれよ!?」

「...なんで、そんなに言うんだよ」

「心配だからって言ってるだろう!!」

「......お前は、俺から存在意義を奪うのか」

 

戦わなければ、この世界にいる意味がない。未来を変えなきゃ、元の世界に戻れない。

 

(もう、誰が生き残ろうとどうでもいい。帰らせてくれ...)

 

「違う!タマ達と一緒に戦おうって言ってるんだ!」

「...なら、俺を越えるくらい強くなってくれよ」

「あ!言ったな!?絶対タマが強くなっておっタマげさせてやる!」

 

騒がしい彼女は、それを言うとすぐに消えた。

 

(...うるさいのが消えた...静かな方がいいな)

 

そう思っている筈なのに、心のどこかはざわついていた。

 

 

 

 

 

「...入るわよ」

「......意外だな。お見舞いってタイプじゃないと思ってた」

 

土居がいなくなってからしばらく、入ってきたのは郡だった。

 

「...私だって自分らしくないと思うわ。でも...あなたがあまりにも酷い顔だって、土居さんが言うものだから」

 

腕組みして、決して近寄りはせず。

 

「確かに酷い顔ね...目の下の隈とか。しっかり休んでるの?」

 

だが、投げ掛けてくる言葉は幾分か柔らかかった。

 

「...なんだよ。急に」

「え?」

「いきなりそんな、話しかけてくるなんて...変だぞ。本当に」

「...乃木さんが、ゲームで協力しようと私を誘ってきたのよ」

「?」

「彼女は本当に変わった...私も、少し変わりたいと思っただけ」

「それが、俺に話すことだと?」

「違うわ...苦手である話すことを、しようと思っただけ。あなたはその実験台よ......あなたも、なにか挑戦してみたら?」

 

彼女の言うことは、よくわからなかった。

 

(というか、さっきから俺は何故こんなことに...)

 

 

 

 

 

「古雪さん、大丈夫ですか?」

 

また時間が経ってから来たのは、伊予島だった。

 

「...なんなんだ。さっきから別々で皆来て」

「え?そうなんですか?」

「お前は何の用だよ」

「......あの、次の戦いについて、話があって」

 

いつの間にか大社に行っていたひなたの神託で、次はより多くの敵が総攻撃を仕掛けてくる。というのがわかったらしい。

 

「で?」

「...若葉さんと話して、今度の戦いは陣形を取りたいんです。しっかり意思疏通をして、力を合わせて戦えば...友奈さんや貴方のように、誰かだけ傷つく。なんてことはないと思います」

「...」

 

心も浮わついていて、おぼろげな今の状態では、なにも考えられない。無言を否定と捉えたのか、伊予島が続かせる。

 

「古雪さんはいつも突出します。なので、こうして直接お願いしに来ました。私達と一緒に戦ってくれませんか?」

 

(ダメなんだよ。それじゃ)

 

「...お前たちに危険が増える」

「それでも古雪さんの危険が減ります」

「なんで...そこまで」

 

自分の命が安全な方が、嬉しいんじゃないのだろうか。

 

『最初に武器を握った時は、復讐のため。自分の心を満たすためだった。今は彼女のため、彼女達のために、この力を使い尽くそう』

 

こいつは、誰だ。こんな、自分の命を無下にしてるバカは。

 

「私達は皆で勇者ですよ...あなたも、もっと自分の体を大切に、周りを頼ってください」

「......わかった。だが一つだけ条件がある」

「はい?」

「進化体が出たら、俺に戦わせろ」

 

適当に口からでたのは、そんな言葉だった。現勇者でも星屑の相手はもうできる。これなら犠牲を出すことはきっとない。

 

「...わかりました」

「ありがと」

 

 

 

 

「椿さん、いらっしゃいますか?」

「...空いてるぞ」

 

意識が切れる直前、扉を開けてきたのはひなただった。

 

「退院おめでとうございます」

「...あぁ」

「......久々に皆さんと話して、どうでしたか?」

「お前の差し金か」

 

今俺はなにを考えて話しているのだろう。

 

「...私、大社に行ってたんです。神託を受けて帰ってきて...それから、椿さんの容態が悪いと聞いて、皆にお願いしました」

「......どうしてそんなことを。俺はそんな心配されるようなことしてないぞ...」

 

そもそも、そんなに仲良くなってない。仲良くというのはもっと、あいつらのような_________

 

「前に出てることは十分心配されるようなことですよ?それに...皆には伝えきれていませんが、私は知ることが出来ましたから」

「...!」

 

近づいてきたひなたを反射的に弾き飛ばす。彼女はそれを気にすることなく何度も近づいてきて、抱きしめられた。

 

「ぁ...」

「貴方が本来の貴方じゃないということ。一人で、『誰かのため』に戦ってくれていたこと」

 

頭を、優しく、撫でられて__________

 

(...温かい)

 

『お前も、敵か?』

『死ねよ』

『よしよし』

『帰るために』

『絶対諦めない』

『悩んだら相談』

 

「_____」

 

濁流のように押し寄せる記憶。思い出すにつれ、震えていなかった体がガタガタしだす。

 

(あ、れ?俺は、なにを...彼女になんてことを...)

 

「...ごめん、なさい」

「え?」

「...酷いこと言って、ごめんなさい。手を出して、ごめんなさい。何も考えられなくて、ごめんなさい。俺は...なんてことを...!!」

「...いいんですよ」

「!!!」

「今日は、ゆっくり休んでください」

「...ぁぁぁぁぁぁ......」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...すー...すー」

 

涙で顔を濡らした椿さんが、子供のように寝ていた。

 

(先輩というだけで、まだ中学生。子供ですもんね)

 

神託の内容は、敵の総攻撃があるということ。それから、この人の本当のこと_______本当の人柄。

 

どうして神樹様からこれが伝えられたのかは分からないけれど、お陰で私は今のおかしな椿さんを元に近くできたと思う。

 

『優しく抱きしめて、頭を撫でてやればいいんだよ』

 

知らない人の声。

 

(ありがとうございます)

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。