ここ数日の俺は、おかしかった。どこからかは分からないけれど、記憶がぐちゃぐちゃで、自分の言葉も覚えてなくて、皆に八つ当たりじみた態度をとっていた。
(現状、何も変わってない...俺は帰れないし、会えないし、戦わなきゃいけない)
でも、もう少しだけ。俺らしく戦いたい。そう思った。
その、俺らしくが今、霧の中でも__________
『なせば大抵なんとかなる!』
「......」
起きると、簡素な部屋に俺一人だった。
「...」
『私、もう帰りますね。また辛くなったら言ってください。無理はダメですよ?おやすみなさい。ひなた』
置かれていたメモを見て。
「...聖人...というより、女神だなこれ」
もう、頭に響く音はなかった。
思考は、纏まらないままだったけど。
「すまなかった!!!」
俺は土下座していた。相手はひなたとユウだ。
ひなたには真夜中に手をあげた。ついこの間退院したばかりのユウはその思い、気遣いを拒絶した。
「無理に許してくれとは言わない!だけど...!!」
共に戦う上で、共に生活していく上で、わだかまりは俺自身が許せなかった。
「気にしないで!私も遠慮なく突っ込んでごめんなさい!」
「私も気にしてません。あなたのスマホを奪おうとした身ですし、おあいこでいきましょう」
「え...いや、そんな簡単に」
「確かに悲しかったけど...仲良くなれるならそれで十分!ね?」
「...すまない。ありがとう」
意外なことに、二人は笑顔で答えてくれた。
特にユウ。あれだけの言葉を言って、なぜニコニコしていられるのか。
「?椿君?」
「あ、いや...本当にごめん」
「いいんだよ。私だって大変な思いしてる椿君の気持ち、わからなかったんだもん」
それが他人なんだから当たり前なのに、どこまでも人を気にする彼女に涙が出てきた。
「わぁ!?どうしたの!?」
「なんでもないんだ...なんでも」
「なんか、昨日の古雪とまるで違うな」
「そうね...あそこまで人って変われるのかしら」
「あぁ...そうだな」
「いや、若葉さんの立ち直りも相当でしたよ?」
「そーだなー。杏に連れてかれる前はゾンビみたいな感じだったけど、今は普通だし」
「あそこまで...か?」
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「乃木。改めてよろしく頼む」
「あぁ。全力でいかせてもらうぞ」
古雪はここ数日で本当に変わった。顔色もかなり戻ったし、なにより穏和になった気もする。
大社から戻ってきたひなたから言われた、敵の総攻撃の報告と、外に生存者がいる可能性。そして__________
『皆さん、どうか椿さんに接してくれませんか?』
始め、言われたときはなにを言ってるのか分からなかった。ただ、そんな決意に満ちたひなたは珍しくて、気にかけたら______今までの、少なくとも最近の彼が偽物の様になった。
(神託で古雪の本当の性格が分かったと言っていたが...神託で言われるような存在なのか?)
目の前で二本の木刀を構える彼は、前のような気迫は無くなった割りに、弱くなったとは思えない。
「でやぁぁぁ!!」
「はぁぁぁぁ!!」
前より研ぎ澄まされた私の剣は、古雪の体を掠めていく。だが、そこまで。
「やっぱり強い...」
「速さだけなら!!」
精神を加速させる。本能に、怒りに身を任せた攻撃はなにも通らない。バーテックスでも、人間(古雪)でも。
「それで、どうだったんですか?」
「辛くも私の勝利。だったよ」
半日前のことを思い出しながら、ひなたの耳掻きを堪能する。
「若葉ちゃんも答えが見つかったみたいでよかったです」
「うん...時間はかかったが、本当の意味で自分の弱さに気づくことができた。ひなたが私を信じ、見守ってくれたお陰だ」
「私の自慢の幼なじみのためですから」
心細かった私を、杏が気にかけてくれた。球子が励ましてくれた。千景が認めてくれた。友奈が許してくれた。ひなたが信じてくれた。
『乃木。ありがとう...色々と』
そして、古雪が本当の意味で仲間になってくれた。
「ありがとう」
千景にオススメゲームを二十本も渡されたり、友奈に退院祝いで耳掻き『された』りしたが、些細なことだ。
(もう一人で戦ったりしない。リーダーとして為すべきことをする。力を合わせて戦い抜く)
そうして、後に丸亀城の戦いと言われることになる決戦の日は来た。
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「敵の数はそれこそ無数。だが、私達は負けない。力を合わせ、必ず四国を守り抜くぞ!!」
『オーッ!!』
円陣を組む彼女達の側で声を揃える。
掠れた記憶が入れと言っている様に思えたが_____気にすることはなかった。
(......元の世界へ帰るっていう目標のために...なにも間違ってないよな?)
俺は周りにまた助けてもらったばかり。間違っている筈がない。自分の身を大切に、連携して戦う。
「...星屑」
「古雪さん!!もっと後ろに下がってください!!」
「あ、あぁ...」
伊予島に言われて幾らか下がる。空を埋め尽くす星々の光景はほとんど変わらなかった。
(...怒りを沈めろ。まだ、まだだ......)
「みんな。作戦開始だ!!」
今回の総攻撃に対して伊予島が立てた作戦は、陣形を使用しての長期戦。
丸亀城の面影が少し残る樹海の戦場で、正面と東西に一人ずつ勇者と俺が立ち、伊予島と残り二人が後方待機。
前方三人_______正面の乃木、東のユウ、西の俺が迫り来る敵を倒し、ボウガンの伊予島は後方支援。
疲れが見えたものは、後方で待機している者と交代する。
「...」
折れた刀を振り回し、星屑を塵に変えながら、伊予島の指示でもう少し下がった。どうやら無意識のうちに前へ前へと出ているらしい。
(こんだけ意識した作戦とか、珍しいんじゃ...)
ずっと前から、こんな作戦立てたものはなかった。前後の役割こそあれ、話し合ってこうして陣形を取るなんて__________
(...そう、だよな?)
どこか霧がかった感覚。しかし、悩む暇など一切与えられない。
「とっとと帰るんだ。だから、邪魔するな!!!」
ヒビの入った刃は、星屑を意図も容易く切り裂いた。
それから、幾らか時間がたって。
「古雪さん!千景さんと交代してください!」
「まだいけ...わかった」
「納得しなければ、切ってでも交代させるところだったわ」
「おっかな!?」
既に来ていた郡に従って交代を済ませる。
「...無理するなよ」
「あなたに言われる筋合いはない...塵殺(おうさつ)してあげるわ」
(たぶん、この調子なら負けない...早く来い、進化体)
超接近戦を強いられるユウを見ながら、俺は交代の時を待つ。
「杏!私は大丈夫だから友奈を援護してやってくれ!!」
「伊予島、乃木はああ言ってるがかなり無理してる。もう少ししたら交代させてくれ」
「まずはタマが出るからな!」
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戦闘開始から二時間前後だろうか。
「若葉!交代だ!!」
「私はまだ...いや。任せた」
「おう!タマに任せタマえ!」
バーテックスが無惨に殺した人々の苦痛、怒り、憎悪、無念。それらが私を怒りへ駆り立てる。
だが、私はここに住む人々を守ると決めた。仲間と共に戦い______その思いはほとんど薄れている。
(いや、違うな...仲間と共に戦う心強さを感じているんだ)
「若葉」
「どうした?」
「タマは後ろで待機してたけどさ...仲間がいるから安心して休める。ゆっくりしてな」
「...私も、皆が後ろで待機していた時、凄く心強かった」
「倒れたら介抱してくれよ?」
強さとは戦う力だけではない。仲間に安心感を与える存在。それもまた強さだ。
「安心しろ球子。お前が倒れる前に交代させるからな!」
そして、交代のサイクルが徐々に早くなる。全員少しずつ疲労が蓄積しているのだ。
「若葉さんは古雪さんと、千景さんは友奈さんと交代してください!」
「あぁ」
「わかったわ」
正面で戦う古雪と交代するため樹海を駆ける。折れた刀で戦うのは、友奈の次に近距離戦をしなければならないので疲労もたまってるはずだ。
「古雪、交代だ」
「もう少しいける!」
「休むのも戦いにおいては大切なことだぞ」
「わかってるけど...くる!!!」
その時の古雪の顔は、絶望的ともとれるし__________笑顔を浮かべてるようにも感じた。
「やつらも全力を出す気になったか...」
「若葉さん!古雪さん!注意してください。進化体です!!」
「進化体の相手は俺に任せてもらうことになってる。下がってろ」
「私も戦う」
「乃木には生きてもらわなきゃ...言ってもこれじゃあ逆にきついか」
敵は、蛇のように細く長くなった。牙にも見える先を立てて急接近してくる。今から離脱するのは不可能だろう。
「......」
「...」
刀を一度しまい、居合いの構えを取る。古雪が打ち合うことで軌道の逸れた敵を、抜刀と納刀をほぼ同時にで行い切りつけた。
「...若葉さん!!まだです!!」
「!!」
振り替えると、敵は切られた断面そのままに、活発的に動いていた。
(増えた...だと?)
「どけ!!」
動揺する私に向けられた攻撃を、古雪がブロックする。
「御霊擬きがあるのか、それとも全損か...」
「おい、古雪!?」
何を血迷ったのか、よく分からないことを呟きながらただでさえ折れている刀の刃を半分に折った。
「どうせヒビが入っててそのうち折れるから」
その刃だけになったものを、左手に握りしめる。勿論、食い込んだ刃が出血させて_______
「来いよ」
二体が両手に刃を握る古雪に迫り、私が攻撃した時のようなすれ違い様になって。
真似が出来ないと思わせられる動きで、いつの間にか二体ともに亀裂が入った。
「...全損、だったか」
二体が四体になって、冷や汗がたれる。
(面制圧技と考えると、私や古雪は無縁のことだ...不味い!)
「タマに任せタマえ!!!」
直後、私達の間を敵ではない物が通りすぎる。
炎を纏った巨大旋刃盤は、ワイヤーなしで意志を持ったように動く。四体の敵は瞬く間に燃やし尽くされた。
「す、凄いな...」
「...俺も、あれだけ強ければ」
バーテックスは進化体と同じようになすすべもなく数を減らしていった。
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「刃だけのやつを手にもったらそうなるに決まってるだろ!!」
「疲れてるんだから休んどけよ。一人で手当て出来るし」
「いいから!」
俺の左手からだらだらたれる血を、伊予島が用意していた応急道具で拭いていく土居。
本人も切り札『輪入道(わにゅうどう)』の力を使っていてかなり疲労しているのに、その手を休ませることはなかった。
「タマも少しは強いだろ?」
「...あぁ」
「...よしっ!手当て終了!杏!タマ達二人ともいけ...る......」
「...」
辺りを見ると、戦っている味方はいない。星屑達が一ヶ所に集まり出していた。
「...今までで最大。か」
今までの進化体は百体前後の合体、だが、今回は千は軽く越え、今尚合体を続けている。
(...みたことある)
爆弾を産み出すやつ。初めて戦ったバーテックスの下半身に酷似した敵は、悠々と佇んでいた。
「あんな大きいのどうにもできないよ!!」
「いや違う。あれだけ急に大きいものを作れば脆い部分が出る。四ヶ所...いや、六ヶ所か。攻撃を通せれば」
「でも、どうやってあそこまでいくつもり?合体しようとしてる敵が多いわ」
「タマに...いい手がある」
正直、隣で息絶え絶えの土居の手は乗りたくない。だが、巨大な敵相手には俺が無力だということも分かっている。
(俺も、精霊...切り札が使えれば)
知ってる精霊なんて未来のゆるキャラ擬きしか知らない俺には無理のある話だ。
(やつらを倒すための力を...くっ)
こうして_______炎を纏う巨大旋刃盤に乗り、雑魚を蹴散らしながら弱点へ特攻する作戦が立てられ、実行される。
「こっちに向かってくる敵が出てきたよ!」
「心配ない。皆は私が守る!!」
跳躍した乃木は、その服を変えていった。
敵から敵へ飛び回り、行うごとに人知を越えた速さへと近づいていく。
「天駆ける武人...降りよ!源義経!!!!」
意図も簡単に雑魚は蹴散らされ、進化を続ける敵へと迫る。
俺は狙いを済ませした方向______爆弾の射出口に向け、刀を投げた。
「今だ!!」
他の皆も各種弱点_______人で言う関節に近いところを切りつけ、撃ち抜き、砕き、燃やす。
「若葉ちゃーん!!!」
力尽きて落ちていく彼女を飛び降りて抱え、荒く地面に着地した。
「いってぇ...あの高さから落ちてこんなんで済むなら十分か」
「椿君!!!若葉ちゃんは!?」
上から心配そうに見るユウに、親指を上に突き立てる。
全員負傷。ただし、命に別状はなし。
自分も生き残り、防衛対象も無事。
(...これでまた、一つ......)