古雪椿は勇者である   作:メレク

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14話 彼女の歌

『若葉ちゃん』

 

後ろを振り返ると、あの時の三人______自分が勇者になる直前に友達になり、死んでしまった三人がいた。

 

「みんな...三年前のあの日、私は『お前たち』を守れず、自分だけ生き残ってしまった。本当なら、奴ら(バーテックス)だけでなく私にも報いを...」

『もう受けてるよ』

「!」

『だって、若葉ちゃんが戦ってくれてるお陰で、私達の家族はここで生きてる』

「......」

 

命を賭けてこの地の人々を守り続ける。今を生きる人々の安全を作り上げる。それが私の受ける報い。

 

ならば。

 

「誓おう。私はずっと...ずっと、この地に生きる人々を守る」

 

それを聞いた三人は、笑顔だった。

 

(何事にも報いを。それが乃木の生き様だから)

 

 

 

 

 

「若葉ちゃん。お体は大丈夫ですか?」

「ん...ひなたか」

「今日は四国外調査の日。辛ければもう一日休憩しても...」

「大丈夫だよ。少し夢を見ていただけだ...優しくて厳しい、そんな夢だった」

「...そうですか」

「おーい若葉!ひなた!いくぞー!」

「分かった。今いく!」

 

先日の総攻撃は、全員が大きな怪我なく生き残ることができた。樹海の破壊具合によるこちら側の人々への影響もほぼないとのこと。

 

病院での検査と十分の休息が取れた今日、四国以外の地域の調査へ乗り出ることとなった。

 

バーテックス達も疲弊した隙をつき、瀬戸大橋を渡って北へ。各地で生存者や水質、地質の調査を行う。参加するのは勇者六人と神託通信要員のひなた。

 

「全員揃ったな」

「乃木が一番最後じゃんか」

「あなたの言う通りね」

「それはすまなかった...では改めて...勇者、出陣だ!」

 

多かれ少なかれ全員が希望を持って、私達は旅に出た。お姫様抱っこで運ぶ私と運ばれるひなたを見て、皆はやや呆れていた。

 

 

 

 

 

橋を渡ると、建物はほとんどが傷つき、倒壊している所もあった。

 

街灯も植えられた木もへし折られ、生存者の影はない。

 

大都市だった神戸にも人はおらず、全滅。千景が見つけたバーテックスを狩り殺していた。

 

『...行きましょう。生きている人を探すんでしょう?』

 

だが、結局生存者を確認することは出来なかった。

 

「乃木」

「?」

「飯だ」

「あ、あぁ。すまない」

 

茹でるだけの簡素なうどんを全員で食べる。流石に四国で食べた方が美味しいが、こうして旅行気分が味わえるのも悪くはなかった。

 

「キャンプ場の倉庫にテントが残っていたなんて...」

「まぁまぁ。テントもよし。古雪の調べで水源もよし。薪になる枝もよし。キャンプ地としては最高だろう」

「テントを張ったり焚き火を起こしたり、流石アウトドア好き!」

「ははは!大活躍だな!もっと褒めタマえ!!」

「...タマっち先輩が本当に先輩に見える」

「...ほう?あ~ん~ず~?それは普段のタマをバカにしてるだろ?」

「いたたたた」

 

杏が球子に頭をぐりぐりされて悲鳴をあげた。かなり痛そうだ。

 

「あらあら。仲がよろしいことで」

「そ、そうなのか...?」

「そういう若葉はしんみりしすぎだ!!まだ一日目!無事な地域もきっとある!」

「そうだな」

「タマっち先輩!やめて!やめて~!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「......」

 

パチパチ音がなってる火を消さないため、枝を放る。

 

『随分慣れた手つきだな』

 

近くに流れてた川の水質調査をしてるとき、土居にそう言われた。

 

『四国外調査』という名目なら、俺は場数が違う。こんな北側には来てないし、あっちでの目的は作物を育てられる場所の調査だったが。

 

物は長い年月で変わっても、使い方自体はそう変わらない。

 

「...」

 

このジャージは大社が用意した物で、かなり良い素材を使ってるのか薄手でも暖かい。

 

(...人類を守る精鋭だもんな)

 

逆に、俺の装束である戦衣はかなりがたついていた。裂け目は深くなり、左肩の辺りはもうほとんどない。

_____いつまでたっても隣が動かないので、声をかけた。

「なぁ、お前も行ってきて大丈夫だぞ?」

「私が離れた途端覗かれたら困るもの」

「覗かねぇよ...興味がないと言ったら嘘になるけど」

「......」

「言い切ったらそれはそれでヤバイやつだと思うぞ。男子高...校生間近の中学生なんてそんなもんだろ」

 

他の皆は近くの水源で水浴びに行った。廃墟の調査なんかで埃っぽくなった体は女子にとって洗い流したいものなんだろう。

 

『キャンプ感が強まるしな!』と言った土居は伊予島から『タマっち』と呼び捨てにされていたが。

 

だが、そんな中で郡だけが俺の隣に座っていた。

 

「はぁー...」

 

空気はかなり澄んでいて、昼間で四国なら鳥のさえずりなんかが聞こえそうな環境。昼間に見てきた都市部は無惨なものだったのだが、俺はまだ見慣れてる方だろう。

 

少し離れたところできゃっきゃ騒いでる奴らがいるが、こちらは逆に静かなものだった。

 

(まだ水浴びなんて寒いだろうに...)

 

「...ねぇ」

「なんだ?」

「貴方は、どうして戦うの?」

 

唐突に投げつけられた質問。『自分は未来に帰らなきゃならないから』と素直に答えることはできるが、言うわけにもいかない。

 

「...三百年」

「え?」

「ここで、三百年先まで人類を生き延びさせる。それが俺の戦う理由だ」

 

答えられる中では一番シンプルだろう。

 

「...そんなに、人が長く生きられるわけないわ。こんなにバーテックスに襲われている世界が」

「知ったことか」

「......人がそんなに仲良くなれるわけないって、分かってるでしょ?」

「...じゃあ、お前とユウの関係も紛い物か?」

「っ!!!」

 

牽制し合うような口調で、郡を見つめる。

 

「俺は知ってる。仲間の大切さを。離れ離れになれば寂しさでおかしくなってしまうくらい人は人を信じられるって」

 

霞んだ霧のような先にある記憶は、俺に教えてくれている。

 

(...なんでぼんやりなのかは、分からないけれど。大切な、大切なものだったのに)

 

左手にある赤いミサンガの存在を確かめるように、俺は撫でた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「んんっ...」

 

苦しさで起きると、タマっち先輩が体をこっちに向けていた。足がお腹に乗っていて苦しい。

 

(寝相悪いんだから...)

 

怒ると余計眠気が消えて、テントからまだ焚き火のついていた外へ出た。

 

「~♪」

「......」

 

そこには、優しい声で歌う古雪さんがいた。目を閉じて、イヤホンをつけて、口ずさんでる。

 

「良い歌ですね」

「っ!?てなんだ、伊予島か...朝までまだあるぞ」

「起きちゃって。古雪さんは寝ないんですか?」

「女子六人で二つテント使ってるじゃんか...そこに入って寝たら消されるだろ。俺」

 

確かにその通りだけど、外で寝るには肌寒い。

 

「隣、いいですか?」

「構わないぞ。なるべく火に近いと暖かい」

 

転がってた丸太に座っている古雪さんが少しずれて、私はその隣についた。ずれたポジションが気に入らなかったのか、もう少し古雪さんが離れた。

 

『あなたが最後ね...』

 

私はこの間のことを思い出していた。前回の総攻撃の後行われた検査、古雪さんを除いて唯一まだ切り札を使ってない私は、一番最後に検査を回してもらった。

 

『ねぇ。古雪椿君のご両親とかって誰か分かる?』

『はい?』

 

言われたのは、古雪さんの親族を確認するものだった。

 

『...わかりません』

『そう...誰に伝えるべきかしら』

『古雪さんに何かあったんですか?』

『......さっき、彼の検査を済ませたんだけどね。脳にダメージを負ってるみたいなの』

『え...?』

 

脳にダメージ________意味がよくわからなくて、身を乗り出す。

 

『あの人、ご両親の記憶も曖昧らしいんですが...それは前からでしたよ』

『いや、そうじゃなくてね。前に入院した時にした精密検査で出たデータと比べて。なのよ』

 

つまり、この戦いの間に何か大きな怪我をした。ということ。

 

『...お前たちに危険が増える』

寧ろ元気になっていってるみたいだったけど。

 

『あの、それって、どこに影響が...?』

『専門じゃないから詳しくはわからないけど、記憶とかに影響を及ぼす所よ』

 

検査してくれた人が言うなら、今までの古雪さんは記憶障害とか何もなくて、今回で初めてなったということ。

 

「伊予島?」

「は、はい!?」

「そんな驚かなくても...大丈夫か?」

「いぇ、大丈夫です...あの、その曲、私にも聞かせてくれませんか?」

「これか?...いいよ」

 

イヤホンを貸してもらって、耳に当てる。

 

「流すぞ」

「~~~♪」

「...っ!」

 

「音量平気か?」という声に答えられないくらい、流れる声に魅了された。

 

凄く歌い手の優しい感情が伝わってくるもの。

 

あっという間に一曲が終わっていた。

 

「...良い曲ですね」

「だろ?俺の一番好きな曲なんだ」

「どなたの曲なんですか?」

「......他の曲探そうとしてるなら無駄だぞ。そんなのないから」

「え?」

「...俺の大切な人が、私的に作った曲だからな」

「勿体ないですね。絶対人気になりますよ」

「俺もそう思う」

「...でも、記憶、だいぶ良くなってきましたね」

「......そうだな。結構思い出すことも増えた気がする」

 

左手につけてる赤いミサンガに触れながら、古雪さんは答えた。

 

「...あの」

「湿っぽい話はやめにしようぜ。折角開放的な場所にいるんだから」

「ぁ...はい」

 

(古雪さん...あなたは一体、何を隠しているんですか?)

 

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