古雪椿は勇者である   作:メレク

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頂いた感想で気づいたんですが、今日が丁度この作品をはじめて三ヶ月でした。一日も欠かさずやれたのすげぇ(他人事)流石にこの毎日更新も続けられて今月中だと思いますが、この作品を変わらず応援して頂ければなと思います。

さて、原作的には折り返し。椿と勇者達はどうなる?

下から本文です。


15話 やっと会えた

探索二日目。訪れた町(『梅田駅』と書かれていた)は観覧車もあるくらい大規模な町で、手分けして生きている人を探すことになった。

 

建物のあちこちが穿たれ、古本屋の看板は地面に落ち、立体道路は崩れて一つになっている。

 

「...」

 

俺はその中で、地下に広がる空間に入っていた。外からでも感じた異臭と、捨てられているゴミを見て人が暮らしていそうな痕跡があった。

 

確かに地下なら出入り口を塞げば敵の進行を阻止できるかもしれない。少なくとも荒れ果てた地上よりは安全だろう。

 

「こんな世界...」

 

ぶち抜かれてるシャッターを潜り、奥へ奥へと進んでいく。

 

「...行き止まり?いや...」

 

薄々感じていたのだ。ここも、壁が何かに擦られた後があったり、血と思われる赤い染みが散乱してたり。

 

そして、俺は見つけた。

 

「......」

 

本来なら噴水にでもなってたのであろう場所に、死骸の山が積み上げられていた。ほとんどが骨だけになっていて、時間の経過をよく表している。

 

手近に落ちていたノートだけ拾って、俺は引き返した。

 

「...俺は、お前たちのようにはならない」

 

死体の山の一番上に乗るのは、元の世界に帰れず朽ち果てる俺かもしれないと、一瞬でも思ってしまったから。

 

(最悪、子孫がいると確定している乃木と上里さえ守れれば、俺の世界に影響はない。自分も無事に生き残って...)

 

 

 

 

 

合流場所にはまだ誰もいなかった。暇なので持ってきたノートを開くと、ある少女の日記だった。

 

(こんな日記...前にもあったな)

 

読むだけで苦しくなるような日記。絶望するしかない光景をありありと映す文字列。

 

(...友奈だったな)

 

『2015年。某日。地下に潜んでから何日かして。日付も分からないが、時間の感覚を失わないため日記をここに記すことにした』

 

『七月末に突如現れた化け物から逃げて、私達は地下街に入った。皆で出入り口にバリケードを作って塞いだから外へは行けない。今どうなっているだろう。お父さんもお母さんももういない。いるのは妹だけ。小学生の妹だ。高校生の私がしっかりしないと』

 

『某日。今日起こった喧嘩で人が死んでしまった。食糧の奪い合い、意見の対立、弱いものいじめ。ここ毎日喧嘩してる。人間同士で争ってるなんてバカみたい。死体は衛生上と精神上の問題で、決められた所に棄てられた。まるでモノみたいだった。』

 

『某日。妹が家に帰りたいと泣き出した。ワガママはあまり言わない大人しい子なのに...妹の声に腹をたてた大人が、外に放り出すか殺すかしろと言ってきた。そんなことはさせない。私が守る』

 

『某日。今日のご飯はスナック菓子半袋。これが一日の量だ。食糧問題で大人たちが話し合っている。弱いものを殺し節約しようという者。バリケードを解いて外に出るべきだという人。今日も結論は出なかった。外に化物はまだいるのだろうか』

 

『某日。妹に元気がない。何かの病気かもしれない』

 

『某日。今日も妹は元気がない』

 

『某日。病院につれていかないと』

 

 

 

 

 

『某日。妹が返事をしない。どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう』

 

『某日。争いが起こった。食糧節約を訴える人達が老人と病人を殺し、その人も別の人に殺された。訳が分からない。妹も殺されてしまった。私は生き残ってしまった』

 

『某日。地上へ出ようと訴えていた人がバリケードを壊してしまった。白い化物が次々と入ってきて、シャッターも簡単に壊された。奴等はきっと、私達が勝手に自滅すると分かってて放置したんだ。やろうと思えばいつでもここに入れたけど、地上を先に壊してた』

 

『私は今、死体置き場にいる。最期は、妹と一緒に迎えようと思う』

 

 

 

 

 

込み上げてきた吐き気を抑えるため、口を覆った。

 

醜い人の末路。絶望の淵に囚われ、なすすべもなく淘汰された弱者。

 

(...こんな奴等にはなりたくない。こんな、自分勝手に......?)

 

何かが、フラッシュバックする。

 

(俺が今戦うのは自分のため...?違う。そうじゃない。守るためだ...本当に?)

 

守るって、誰をだ。考えられない。思考が霧で包まれる。人の悪意にさらされる。

 

 

 

 

 

いや、記憶はある。この思いを消せるほどの体験をしている。魂に刻まれた幸せが確かにある。ただ、思い出せない。記憶にたどり着けない。

 

(銀、友奈、東郷、風、樹、夏凜、園子...あれ?俺は、この人達と、同じ?)

 

「おえっ」

 

吐き気は、拭えなかった。

 

 

 

 

 

「古雪、早かったな」

「あぁ...生存者はいたか?」

「いや...そっちもか?」

「......見つけたのは、こんな物だけだったよ」

 

合流した乃木に読んだノートを投げる。

 

「これは?」

「地下に隠れてた人の日記。死骸なら山ほどあったよ。見るも見ないも自由だが、胸糞悪い話だった」

 

そう言いきって、刃より柄の方が長くなった刀を構える。

 

「ひとまずここを出てからだな。生きてるのは...俺達と、あいつらだけだろうから」

 

バラバラな心の整理は、つけられない。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「諏訪まで後一息だね~」

「そうね...」

 

移動を始めて五日目。諏訪という標識を見て喜ぶ高嶋さんに答える。

 

ここまでの旅路は、酷いものだった。

 

大阪の地下で見たのは人の死骸と、人間の無力さ、醜さ、惨めさが綴られたノート。どれだけ危機的状況でも、人間は心から協力できない。四国の人々も危機が迫れば、どうなるか________

 

(私は、ああはならない。私には勇者の力があるのだから。惨めな死に方なんて嫌だ。最後まで勇者として敬われて生きていくんだ)

 

「ぐんちゃん?」

「っ!...なんでもないわ。高嶋さん」

 

名古屋では、バーテックスの卵があった。まるで、ここは人間の土地ではないと宣言されているようだった。

 

『ひどい...!』

『囲まれてるぞ。乃木』

『あぁ。ひなたは私の後ろに!』

『この世界は、お前たちなんかには奪わせない!!!』

 

切り札を使った土居さんは、その後乃木さんと伊予島さんに怒られていた。

 

「タマっち先輩、大丈夫?」

「問題なしだ!少し疲れてるがな!」

「...どんな影響があるかまだ不明なんだよ。あまり軽々しく使わないで」

「わかってる...ごめんな。心配かけさせて」

 

勇者は、醜い人達とは違う。そう思う。

 

私も、この二人や乃木さんと上里さんの絆は、否定したくないから。

 

「にしても、何で諏訪...だったか。が目標なんだ?」

「諏訪には四国と連絡を取っていた勇者がいたんですよ」

「へぇ...」

「白鳥さん...」

「行きましょう若葉ちゃん。彼女も知ってほしいはずです。友達だった若葉ちゃんに、諏方の結末を」

「...ああ...そうだな」

 

私は、高嶋さんがその相手だろうか。

 

彼に、そんな相手はいるだろうか。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...執拗に破壊されているな」

「結界の要だった場所だから...でしょうね」

 

たどり着いた諏方の町では、見るも無惨な光景が広がっていた。特に建物は酷い。名古屋で見たバーテックスの卵がないのは、せめてもの救いだろう。

 

「若葉ー!ちょっと来てくれ!!」

「球子?何か見つけたのか?」

「あぁ。これだ」

「...ただの畑に見えるけど」

「正確には畑だった場所みたいですね」

 

古雪の言葉を杏がやんわり否定する。確かにここは、最近まで人の手が入っているように感じた。

 

「他に手がかりになりそうなものは...あ、何か埋まってるよ」

 

友奈が見つけた箱には、鍬(くわ)と折り畳まれた紙が入っていた。なんとなしに開いて、綴られている文字を読む。

 

『初めまして。いえ、これを読んでいるのは乃木さんではないかもしれませんから、初めましてと言うのは変ですね。もしこの手紙を見つけたのが乃木さんでなければ、四国の勇者である彼女に渡していただければと思います』

 

『バーテックスが現れてから、約三年。なんとか諏方を守ってきましたが、結界も縮小され、切迫した状況になってきました。恐らく長くは持たないでしょう』

 

『けれど、まだ乃木さん達の四国は残っています。人間はどんな困難に見舞われても再興してきました。私達がやられても、まだ乃木さん達がいる。諦めなければきっと大丈夫』

 

『まだ会ったことのない大切な友達。あなたが戦いの中でも無事であるよう、世界があなたの元で守られていくよう願っています』

 

『人類を守り続けるのが例え私でなかったとしても、乃木さんのような勇者が守り続けてくれるのであれば、それでいい。私はそこに繋げる役目を果たします』

 

 

 

 

 

思わず手紙を握りしめる。一筋の涙がこぼれた。

 

「...この人のお陰で、四国は戦う力をつけられたんだな」

「あぁ...白鳥さん」

「...若葉ちゃん。これはきっと、白鳥さんからのバトンだよ」

 

友奈から鍬を受けとる。確かな重みと暖かさがそこにはあった。

 

「やっと、会えたな...お前の遺志、確かに引き継いだ」

「若葉、こんなものも拾ったんだが」

「!」

 

珠子が握っていたのは、ソバの種をはじめとした、色んな作物の種。

 

あの人は、蕎麦が大好きだった。四国のうどんと諏方の蕎麦、どちらが優れているかの話し合いはいつも譲らず__________

 

「...やろう」

 

私の意見を汲んでくれた皆は、一つ頷いてくれた。

畑をならし、丁寧に種を植えていく。

 

「だいぶ綺麗になったね」

「...大きく育つといいな」

「あぁ」

 

夕暮れの元、手入れされた畑は喜んでいる様に見えた。

 

「んー!もう暗くなってきたぞ。折角だし今日はここで一泊してくか?」

「そうだな。準備を...」

「おい、ひなた。しっかりしろ。おい!!」

「!」

 

気づくと、ひなたが古雪に抱きしめられていた。

 

「ひなた!?」

「...神託が......再び、四国が危機に晒されます」

『!!』

 

こうして、四国外の調査は生存者ゼロのまま終わった。

 

持ち帰ったのは鍬といくつかの種。それから凄惨な人々の最後が描かれたノートだけだった。

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