古雪椿は勇者である   作:メレク

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16話 お誘い

『勇者部は__________』

 

 

 

 

 

「待ってくれ!!!」

「ひゃん!」

 

右手を前に伸ばす。何かとても怖いものを見た気がする。

 

「...」

 

だが、手を伸ばした先は暖かくて柔らかいだけだった。

 

「......」

 

ギギギと錆び付いた音を立てそうな動きで顔をあげると、丁度、誰かの体。

 

(......っべー)

 

その正体は、ひなただった。

 

「...」

「...」

 

目があう。「もう、やめてください!」みたいな言葉が飛んできて、ついでにビンタも覚悟はしたが________目の前の彼女は、顔を赤らめるだけだった。

 

(っ!)

 

「ぁん」

 

その仕草にドキッとして右手に力が込められてしまい、再び高い声があがる。

 

慌てて離して、頭を地面に打ち付ける。

 

「すいませんでした」

 

だが、土下座した俺に待っていたのは白い化け物を切り続けた刀だった。

 

首元にはりつく銀色の冷たさ。

 

「ひなたに手を出した罪は重いぞ」

 

 

 

 

 

昼御飯を食べた後は、レクリエーションを兼ねた模擬戦が用意されていた。

 

提案したのは乃木で、ルールは丸亀城全体を使った勝ち残りのバトルロイヤル。木製の武器が体のどこかに当たった時点で脱落で、勝った一人は負けた者達に命令できるというシンプルなもの。

 

『大社の人心を操作するやり方にも疑問はある。みんなそれぞれ悩むこともあるだろうし...でも、だからこそ楽しむ時間(レクリエーション)が必要だと思ったんだ』

 

大社はこの前の四国外調査で、『外に生存者が確認できた』と報じた。事実とは真逆の言葉。それが無力の人の心を安心させるためだとはいえ、真実を知る者からすれば見るに耐えない。元から信用に足る組織ではなかったが。

 

だからこそという乃木の気持ちは分かる。ただ、午前中の出来事のせいで俺は________

 

「......」

「いや、あの、あれは事故で...なんならひなたにはもうゆるして貰ったんですが...」

「......」

「聞かないですよね。はい」

 

乃木に親の仇の様な目で見られていた。気迫で負けそう。

 

「若葉ちゃん!協力するよ...私も少し傷ついたからね。この前ので」

「女の敵よね...高嶋さんもこう言ってるし、手を貸すわ」

「タマは古雪より強くなったと証明せねばならん!やるぞ!!」

 

否、もう負けが確定したようなもんだ。一対四。システムの恩恵はない。

 

「...もうやってやらぁ!!」

 

俺は両手の木刀を構え、飛び出した。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

若葉さんが提案したバトルロイヤルは、私の勝利で終わった。

 

まず古雪さんが千景さんと友奈さんと一緒に脱落。残った若葉さんには敵わないと逃げたタマっち先輩と組んで挟撃。私が武器を撃ち弾き、若葉さんを上手く倒したタマっち先輩も倒してフィニッシュ。

 

若葉さんが私のことを考えてなかったのは、ひなたさんに「私はやられたことにしといてください」と、若葉さんの体操服姿(盗撮)で買収したからだ。うまくやってくれたし、普段巫女の特訓で体操服若葉さんを見れないひなたさんもご満悦だ。

 

ちなみに、古雪さんはバトルロイヤル関係なくぼこぼこにされていた。ひなたさんの胸を揉んだ罪は重い。私はひなたさんの顔を見て、やめた。

 

というわけで__________

 

「私のものになれよ。球子」

 

低めの声を出す若葉さんがタマっち先輩に詰め寄る。壁に追い詰められてそのまま壁ドン。

 

「そんなこと言われても、タマには他に好きな人が...」

「待ちなよ」

 

手を出して制するのは友奈さん。

 

「球子さんが嫌がっている!」

「高嶋君...!」

 

ドキッという効果音がこっちまで届きそうな勢いで(というかタマっち先輩が実際に言って)、そのまま________

 

「って、なんじゃこりゃあああああ!!!!」

 

空中に浮かんでいた(漫画ならそうであろう)『ドキッ』を掴んで、投げ飛ばした。

 

「『ドキッ』ってなんだ『ドキッ』って!!」

「カット!!タマっち先輩ちゃんとセリフ通り言ってくれないと!」

「言えるかぁぁぁぁ!!!なんなんだよ杏!?優勝者の命令がお気に入りの恋愛小説の再現って!!しかもなんでタマが『内気な少女』役!?違うだろぉ!?」

「このヒロイン背が低いって設定だから....」

「チビだって言いたいのか!!」

「いや、この為だけに男子制服を用意できる杏もすごいけど...ひなた。撮るな」

「嫌です♪」

「ちょっと違和感あるね...椿君は着てないんだ?」

「ん?あぁ。男だからやらされるかと思ったが...頑張れ」

 

友奈さんから目をそらした(そらされた本人すら気づかないような少しだけ)古雪さんと、千景さんはなにもしていない。

 

「千景さん」

「な、なに?やらないわよ?」

「え...」

「い、嫌よ...あんな恥ずかしいの、絶対お断りよ!?」

「...ふふっ。わかってます。千景さんには別の命令です」

 

どんな命令がくるのか怯えて待ってる千景さんに、一枚の証書を向けた。

 

「千景さんへの命令は、これを受け取ってください。です」

「ぇ...」

「みんなで作ったんだよ」

「ま、学校は変わらないけどな」

「だが、形だけでも行った方が良い」

 

皆で作ったのは卒業証書。この勇者用に作られた特別学校から出ることはないけれど、千景さんと古雪さんは中学卒業。

 

だから、五人で作った。

 

はじめは戸惑ってた千景さんは、おずおずと手を伸ばした。

 

「め、命令なら...仕方ないわね」

「ぐんちゃん卒業おめでとう!これからもよろしくね!」

「...うん」

 

皆で笑みを作る。ちゃんと喜んでくれているみたいでよかった。

 

「じゃあ、俺もそれか?」

「いえ。古雪さんはまた別の命令です。命令しなくても普通に受け取りそうなので」

「まぁ、そうだけど...」

「ひとまずこのままシーン2いきましょう!」

「杏!?まだやるのか!?」

「シーン10までありますから、夕方まで時間はありませんよ!」

「嘘だぁぁぁぁぁ!!!」

「私も撮ります!!」

「ひなたは自重してくれぇぇぇぇ!!」

 

タマっち先輩と若葉さんの叫びは、壁の外まで届きそうだった。

 

 

 

 

 

「どうぞ」

「あぁ...」

 

どこかぎこちなく私の部屋に入ってくる古雪さんに緊張してきた。

 

本を貸すことはあっても、部屋に入れることは今までなかった。

 

(大丈夫。小説みたくはできなくても...)

 

「それで、わざわざ自分の部屋に俺を呼んだ理由は?土居に知られたら消されそうなんだが」

「は、はい。とりあえず...ご卒業、おめでとうございます」

「ありがと」

 

皆で手作りした卒業証書を懐かしむように見てると感じるのは、私だけだろうか。

 

(...最近は特にそう)

 

周りを見てるようで、どこか遠くを見てるような感じ。恋愛小説によくある『なにかに葛藤する』ような感じ。

 

「そ、それでですね...私の命令なんですが」

「あぁ」

「私と...デ、デ、デートしてくれませんか!!」

「...へ?」

 

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