古雪椿は勇者である   作:メレク

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ストックが...ないとは思いますが、後々書いていくにつれて書き足したり逆になくしたりとかがあるかもしれません。

さ、サブタイ通りデート回!


17話 デート

休日。俺も勇者として認知され始めたので、キャスケット帽を被って丸亀城前にいた。服は以前買ったもの。あまりセンスはない方なので、無難さがよく分かる仕上がり。

 

(...俺は、勇者なんかじゃないのに)

 

俺という人間は、どんなだっただろう。彼女の、彼女達の側で笑っていた俺はどんな奴だっただろう。

 

「......」

 

昨日、定期検診があった。精神が不安定だと安定剤を貰った。

 

(前の方が不安定だと思うんだがな...)

 

「椿さん!お待たせしました」

「別に待ってないよ。杏」

 

伊予島______杏からの命令は、彼氏彼女設定で一日デートしろというもの。恋愛小説を好む彼女らしいお願いだった。

 

(確かに本当の男子を好き勝手使えるなら、そうするかもな...)

 

デートの相手として満足してもらえるのかはわからないけど、命令だから仕方ない。寧ろ俺にとってはご褒美だろう。

 

「折角可愛い子からデートのご指名だからな...ただ、行き先は全部任せます。この辺まだ詳しくないから」

「だ、大丈夫です!お任せを!」

 

なかなか興奮してる様子の彼女を他所に、辺りを見る。今回追跡者はいないらしい。

 

「でも、椿さん...お世辞とか言わなくていいんですよ?」

「え?別に言った覚えないけど」

「いや、その、可愛いって...」

「事実を言っただけだろ?ナンパされるくらいだし。大体お世辞ってのは...こほん。今日も素敵だよ杏。僕のためにお洒落して来てくれてありがとう」

「ぁぅ...俳優になりません?」

「ならねぇよ」

 

イケボ(当社比五割増し予想)に顔を赤くする杏の案を否定して、俺達は歩きだした。

 

俺達の共通話題である本を巡るため書店へ。恋愛小説メインだが、それ以外にも面白そうな作品を教えてもらった。杏のプレゼンが魅力的で、一方的に話されている筈なのに自分が本を読み、体験したような気分になる。その癖ネタバレはバッチリ回避してるんだから恐ろしい。

 

次に訪れたのは_______

 

「意外だな」

「私も普段来ませんが...こ、これを撮りましょう!!」

 

ゲームセンターの一角を占拠する、カップル御用達のプリクラである。

 

「...こんな感じになってるのか」

 

写真撮るだけで400円も取られることに驚く。今日がはじめてだった。

 

(別にプリクラで撮るまでもなくカメラ回ってるし...東郷とか...な)

 

「き、緊張しますね」

「思ったより狭いんだな...」

「...今日はカップルですから、ビシッとやりましょう!」

 

『じゃあ始めるよ!』

 

「うわ喋った!?」

 

お金を投入してから唐突に始まった機械音声に従ってポーズを決める。

 

「うわこれもっと寄んなきゃ見切れが...」

「ち、近づいてください!」

 

『最後はキスしちゃおう!』

 

「機械に催促されたくないわぁ!」

「椿さん!」

「やらねぇよ!?目を覚ませ伊予島!!」

 

 

 

 

 

結果。

 

「...」

「...」

 

出来たのは肩と腕をくっつけてあたふたしてる過去の二人(写真)と、恥ずかしさやらもどかしさで互いの方を向けない今の二人だった。

 

「...しばらく、プリクラはやめとくか」

「はい...」

「これも極秘で」

「はい」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「......はぁー」

「ふぅー...」

 

気づけば夕方。カフェでコーヒーを飲む私達は、一つ息をついた。

 

「...あの、なにか?」

「あ、いや別に」

 

プリクラも性能は高くなってて、スマホに送られてきた写真を見て、閉じた。

 

「これで命令は達成か?なんか俺も楽しんだ感じだが...」

「...まだです。帰るまでがデートですよ」

「遠足か...」

 

何故か少し古雪さんが震えながら、コーヒーを流し込む。

 

(...頑張ろう。私)

 

私は意を決して、口を開いた。

 

「......椿さん」

「ん?」

「今の私は彼女です」

「あぁ」

「だから、相談してください。あなたの悩んでいることを」

 

コーヒーを持つ手が、今度こそ明確に震えた。

 

「...悩んでなんかない」

「嘘です」

「なんで言い切れる」

「悩んでない頃の椿さんを知ってるから、違いがわかるんです」

「...悩んでない頃?」

 

それが、琴線に触れたのか。

 

「...なんだよ。それ」

「え?」

「俺は!こんな場所に来て!勇者やらされて!!悩んでない時があった!?必死に考えて!!生き残る方法をとって!!」

「椿さん...」

 

彼は周りの目を気にせず叫んだ。

 

(落ち着いて。私...)

 

「ここまでやってきた俺を否定するのか!?」

 

自分でも何を目的に喋っているのか分からなさそうに、ひたすら言葉を並べてる印象。

 

「...否定なんてしません。椿さんは私達と一緒に頑張ってくれてますし、私自身も頼りにしています」

「じゃあなんで!?」

 

 

 

 

 

「...私を抱きしめてくれた時」

 

ポツリと呟いた。

 

「本屋さんの前でナンパされて、助けてもらった時。あの時私を抱きしめてくれた貴方を知っているから」

 

怖くて、誰かに助けてほしくて。

 

『嫌だったら離していいから...落ち着け...な?』

 

あの時のこの人の優しさは、迷いなんてなかった。

 

誰かのために動ける。それがきっと、この人の素なんだ。

 

「...たった、一回、それだけで?」

「それだけでいいんです。そんな簡単なことだから、私は今の貴方がおかしいと感じられるんです」

「...」

「皆に話せないなら、彼女(私)に話してください」

 

私が今日のデートを提案したのはこのため。苦しそうな椿さんを助けてあげたい。

 

手を、差しのべる。

 

 

 

 

 

「......話せるわけ、ないだろ」

「!」

 

くしゃくしゃの顔で、そう言われた。

 

「俺の気持ちも、分からないくせに」

「わかりません。人の本当の気持ちなんて...貴方がどんな思いで、私にそう言ってるかなんて。だから話してください。少しでもあなたのことを教えてください」

「っ!!」

 

そのまま、まるで今の言葉を悔やむように頭に手を当てる。

 

「...帰る」

「話してくれるまで帰らせません」

 

ここで引いたら、絶対後悔する。せめて、私の思いを伝えてから。

 

「帰らせろ」

「嫌です。そんな辛そうな椿さんを放っておけません。不満なら受け止めます。文句なら謝ります。だから...」

「...なんで、似てるんだよ......」

 

椿さんは、そのまま開いた口を続けた。

 

「...やめて、くれよ。思い出させないでくれよ。あいつらはいない。だから頑張ろうって思えるんだ。帰らなきゃって思うんだ。なのに、なのに...」

 

どちらかと言えば独白に近いそれ。

 

「......分かりました。もうやめます」

「...じゃあはじめからやるな」

「椿さんから話してくれるまで、待ち続けます。これだけは覚えておいてください」

 

私は、私なりに必死に考えた言葉を伝えた。

 

少しでも、椿さんのためになることを祈って。

 

「私は椿さんのこと、大切な仲間だと思ってますよ。いつでも頼ってくださいね」

 

 

 

 

 

「おーい。杏?」

「え、なに?」

 

その日の夜。私はタマっち先輩と同じ布団に入っていた。

 

「なんでそんな悩んで...そうか、ずばり!古雪だな!」

「......凄いね。タマっち先輩は」

「杏のことならわかる!妹のことだからな!」

 

本当の姉妹みたいな私達。

 

「タマっち先輩がお姉さんなの?私の方が背が高いよ?」

「なんだとぉ!?タマの方が先輩だろぉ!!」

「冗談だよ」

「...あいつどうかしたのか?」

「...椿さん、凄い悩んでるのに、私じゃ話し相手になれなかったんだ」

 

気持ちを吐露する。あの人の心の奥底にある気持ちは、あの人に聞くことでしか分からない。

 

上の方の気持ちは吐露してくれたけど、その原点はまるでわからない。

 

「......タマはうじうじ悩んでるなんて嫌だ。というか悩むこと自体好きじゃないから、古雪や杏の気持ちも今一わからん」

「うん」

「でも、杏のことならいくらでも支えてやる。古雪も...まぁ、支えてやる。だから杏はおもいっきりやれ!」

「...ありがとう。タマっち先輩」

 

ぎゅっと抱きしめると、返してくれた。暖かくて、心地よくて、すごく好き。

 

「でも、タマっち先輩も無理しないでね」

「無理なんてしてないぞ」

「切り札使ってから調子良くないでしょ」

「っ...」

 

私には分かる。タマっち先輩が四国に戻ってきてからどこかぎこちないことも。

 

「切り札は人の身に人外(精霊)を宿す力。どんな悪い影響が出るか解明しきれてない。だから...」

「...タマも杏を悩ませてる原因だったんだな......でも大丈夫。ひなたも神託で『今までにない事態が起こる』なんて言ってたけど、皆で力を合わせればきっとなんとかなるさ」

「...うん。そうだね」

「それより杏、いつの間に古雪を椿さんなんて呼ぶようになったんだ?」

「え!?あ、あのー...」

「やつはタマチェックをしてやる必要があるな...」

「そうじゃないの!タマっち先輩________」

 

タマっち先輩が寝静まってから開いたスマホには、ぎこちないながらも笑顔の椿さんが写っていた。

 


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