「俺は、勇者になる!!!!」
赤い勇者服を纏った古雪の力は凄まじかった。
友奈が酒呑童子の力を使い、自らの身を滅ぼしてやっと二体倒した敵の攻撃を防ぐだけでなく、尻尾の途中から切り裂いた。先っぽだけが宙を舞って飛んでいく。
「これ以上、やらせるかぁぁぁ!!!」
ギリギリ目で捉えられる速度で、大きな斧を振り回す。それだけで、大型進化体は跡形もなく消えた。
今度は通常進化体の群れへ突っ込んでいく。通った場所の敵は次々消えていった。
「なんという強さだ...!」
感嘆している隙をつかれ、横からの敵に気づくのが遅れてしまった。
(しまっ...)
突っ込んできた敵は、上からの攻撃で地面に叩きつけられる。
「大丈夫か?」
上から降ってきたのは古雪だった。
「あ、あぁ...」
「動けるならユウと合流してくれ。そっちの方がありがたい」
「わかった...古雪、その、体に異常は?」
友奈以上に力を使っている彼に訪れる代償は________
「時間はかかるだろうけど、きっと軽いもので済むさ。この状態のは元は俺のだしな」
「え?」
「なんでもない...いや、機会があったら話す。ひとまずそっちに。ユウを守ってくれ」
「...すまない。任せた」
「おう、任せろ」
憑き物が落ちたような古雪の顔に、胸がちくりと痛んだ。
そこからの戦闘は、一方的だった。あっという間に全てが消し炭に変わる。
最後のバーテックスが倒されたとき________私達全員が、生きていた。
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激闘の戦いから数日。
『次のニュースです。先日起きた竜巻による死傷者は合計93人。未だ10人以上の身元が判明しておらず________』
「......」
病院のお手洗いで、私は震えていた。受付に備えられているテレビから無慈悲なニュースが届く。
戦闘時間の長さ、攻撃の激しさから樹海の腐食が進んで、現実にフィードバック。一般の人に死者が出た。
六人の勇者のうち四人も入院。高嶋さんは明日退院だけど、他三人は意識すら戻っていない。
そして、これらの真実全ては大社によって隠蔽されている。
(またあんなものが現れたら...)
彼が貫かれる瞬間をまじまじと見てしまった私から、あの光景が離れない。
「うっ...ごほ...」
(私は...嫌、死にたくない......)
戦うのは怖い。でも、戦わない勇者に価値なんてない。
無価値な自分には戻りたくない。
「...高嶋さんなら」
知らず知らずのうちに、足はある病室へと動いていった。
「ぐんちゃん!来てくれたんだ!」
「うん...高嶋さん、体の調子は大丈夫?」
「腕以外は完璧だよ!」
腕を前に突き出して痛そうにしてる高嶋さんに微笑みながら、隣に置かれていた椅子に座った。
「ぐんちゃんこそ、大丈夫?」
「え?」
「なんだか、顔色が悪いから」
「...色々、あったから」
強すぎる敵、それを倒すために我が身を削っていく勇者達、怯え続ける自分。
「もう、どうしていいかわからなくて...」
「こっち来て」
高嶋さんがそっと抱きしめてくれた。
「大丈夫だよぐんちゃん。怖がらなくていいから...何があっても私がぐんちゃんを守る。これ以上誰も傷つけさせない」
私より傷ついているはずの彼女の言葉に込められている強い意志。それでも年上の私を心配してくれている優しさ________
(あぁ...私も、勇者なんだから、しっかりしないと)
「もう、大丈夫...ありがとう。高嶋さん」
小さな声だけど、しっかりと言った。
なんとなく、別の方向に足が進む。今日病院に呼ばれたのは、カウンセリングを受けないかと言われただけ。高嶋さんの元へ向かったのも予定にはなかったし、この先の病室へ向かうつもりはもっとなかった。
でも今、私は扉を開けた。
「千景さん」
「...来てたのね」
部屋には四人。上里さんと_______今尚眠る三人の勇者。
命に別状はないらしいけど、未だ目を覚まさない。脳死の可能性だって捨てきれないらしい。
花を花瓶に入れていた彼女は、私の視線に気づいたのか小さく呟いた。
「私は...私には、これくらいのことしか出来ませんから」
巫女は勇者のように戦うわけではない。そういう意味を込めての言葉。
上里さんから見れば、いきなりボロボロに帰ってくる皆を見せられるわけで。その辛さは分からない。
「...またくるわ」
「では、また明日」
「...えぇ」
なぜ私はこの病室に来たのだろう。
なぜ私は、気持ち良さそうに寝ている三人を見て、ほっとしたのだろう。
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「......」
『すまないひなた。今日は休ませてくれ』
若葉ちゃんは寮でおやすみ。友奈さんと千景さんにもさっき会った私は、面会時間ギリギリまで病室にいた。
三人が目覚めることはなくて、やることもそんなにない。でも、やらずにはいられない。
椿さんの手を握りながら、溢れそうな涙を堪えて話続ける。
「もうすぐ桜が満開になります。お花見するにはそろそろ計画しないとダメですよ?...あなたが未知の精霊...のような何かを降ろしたのは若葉ちゃんから聞きました。でも...早く、帰ってきてください」
どこかあやふやで、ほっとけなくて、知らない間に遠くへ行ってしまった。もう、手が届かないんじゃないかという場所まで_________
「......杏さんも、球子さんも、あなたも...起きて、無事でいてください...お願い...」
結局、その日も起きることはなかった。
「......」
夜が近くなり、街灯が町を照らし出す頃、ゆっくり道を歩く。
まだ咲ききってない桜の花弁が、風に煽られて舞った。
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「珍しいね。壁の外にいる敵の討伐なんて」
「大社の方針が変わったのかもしれないな」
今回退院した高嶋さんを入れて三人に渡された任務は、壁の内側に迫る敵の迎撃ではなく、外にいる敵の討伐だった。
四国の外を調査して以来の壁の外は、踏み出した瞬間に身震いした。
「な...」
大きな、あまりにも大きな進化体にバーテックスが突っ込んでいく。まだまだ完成ではなさそうだけど______私達の感情を恐怖に染めるには十分だった。
「こんなの、壁の中からは見えなかったよ!?」
「大社はまた隠して...!」
「ともかくやろう。これを放置しては置けない!」
「うん!」
「高嶋さんは無理しないで下がってて。私と乃木さんだけで十分よ」
七人御先を纏う私と、源義経を纏う乃木さん。この間まで入院していた高嶋さんを無理させるわけにはいかないという気持ちは、互いに同じだった。例え前回の蠍型進化体より大きかろうと。
「私が右を」
「じゃあ左にいくわ」
極限の速度で叩き込まれる右側と、七つの同時攻撃で切り裂かれる左側。数分かけての攻撃は_______
(まるで、効いてないじゃない...)
耐久力が常軌を逸してる。普通のバーテックスも、融合を優先していて私達に攻撃するものはあまりいなかった。
「ぐんちゃん危ない!!」
「っ」
咄嗟に一人を突き飛ばし、壁の元に着地させる。
残り六人は超大型が放った太陽のような光に飲まれ、消えた。
「七人御先が一度に六人もやられるなん...!」
見上げた私は戦慄した。敵の放った光の玉は、本州まで届き、その地形を変えていた。地面が赤く燃えている。
「嘘...あんなの、どうやって戦えば...」
「おおおおお!!!!」
その苦痛に満ちた声を聞いて、私の怯えは収まった。同時に、別の心配事が________
「うぁぁぁ...」
「高嶋さんだめ!!無理よ!!」
無理やり酒呑童子を降ろす高嶋さんは、流れる汗を拭うことなく叫んだ。
「私が絶対に守る!皆の分も私が!!勇者、パーンチっ!!?」
大きくなった拳はぐらついて、敵に当たることなく海へ向かった。
「友奈ぁぁぁぁ!!!」
「高嶋さん!!!!」
体の至るところから血を噴き出して海に落ちる彼女を私は救うことができなかった。
任務は失敗。高嶋さんは一命をとりとめたものの再入院で面会謝絶状態。
超大型は、今も壁の外で完成に近づいている。
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「んー...ふぁ...よく寝た」
久しぶりに爆睡した気がする。こっちにきてから初めてのことだ。
「...何日か経ってるじゃんか」
隣に並ぶ二つのベッドで静かに寝てる二人を見て、心の底から安心した。
「...っと......行くか」
敵を倒した時からこうなることは予測出来ていた。血を流しすぎたことからの貧血、数ヶ月の寝不足。
(でも、まだ立ち上がれる。ここにいるってことはやれることがあるんだ)
体に貼られてる計測器を外して、俺は部屋を出た。
明日から四月。以前にも申し上げたと思いますが、四月からは毎日更新できなくなります。ストックも全部なくなったため確定しました。どんな更新頻度になるかはわかりません...別の作品は一週間おきとか二週間おきとかだったような...忘れた。寧ろゆゆゆが異常だった。
変わらずこの作品を応援して頂けると嬉しいです。