古雪椿は勇者である   作:メレク

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十一話 寄せ書き

カラオケで遊んだの次の日の昼休み、俺達は部室で列をなして鎮座するサプリを眺めていた。

 

「リンゴ酢は肺にいいから声が出やすくなる。ビタミンは血行を良くして喉の荒れを防ぐ。オリーブオイルと蜂蜜も喉に効くし、こっちの__________」

 

矢継ぎ早に説明されたのはサプリの効能。全て声を出すことに関するものだった。

 

夏凜が持ってきたサプリは確かに凄そうな物しかない。樹の為に持ってきてくれたのも嬉しい。だが。

 

「さぁ、これ全種類飲んでみて」

「樹の為なのはわかるけど...全種類とか無理だろ」

 

誰が薬をオリーブオイルとリンゴ酢で飲むのか。

 

「夏凜も飲めないんじゃないの~?」

「!いいわ。お手本を見せてあげる」

 

((ヤバイな))

 

風の下手な煽りに乗った夏凜を見て、銀と心でハモった。

 

錠剤タイプの薬を口に入れ、リンゴ酢とオリーブオイルで飲みほす。

 

「......!」

「一番近いトイレは上の階な」

 

一瞬だけ作られたどや顔はすぐさま青白く染まり、俺が言ったことを聞いてるのか分からないうちに走り出した。

 

「全く...この疲労回復の奴でも頂くかな」

「あの...椿先輩」

「どうした友奈?」

「一階上の一番近いのって...男子トイレじゃ?」

「あ」

 

 

 

 

 

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「樹はビギナーだし、一つ二つでいいわよ」

「ぐえっ」

 

すっきりした様子の夏凜さんは満面の笑みでそう言った。

 

「は、はい...」

「わざとじゃないんです...ぐふっ」

「あ、あの夏凜ちゃん...」

「なぁに友奈?」

「ひっ!」

「ぐぼぁっ!」

「夏凜、一応それくらいに...もう白目向きそうだから」

「私は何もしてないわよ?」

「も、もう許して...ぐは」

「それじゃあ樹、試しにそこで歌ってみて。効果あると思う」

「はい...」

「助け...もう、無理」

 

急いでサプリを飲んで歌う準備に入ると、皆が椅子について即席のステージができあがる。夏凜さんに蹴られていた古雪先輩は倒れたままだった。夏凜さんの目が怖いので助けはしない。

 

「あ、あー...~♪」

「...次は緊張を解すサプリを持ってくるわ」

「そんなのあるの!?」

「あるわよ。樹、明日からそれも飲みなさい。これで完璧よ!」

「ありがとうございます夏凜さん。皆さんも...」

 

勇者部の皆さんは私の悩みにちゃんと一緒に悩んでくれる。それがとても嬉しい。

 

「樹、気にしなくていいの」

「そうよ、樹ちゃんの問題は私達の問題だもの」

 

お姉ちゃんの、勇者になれる人を集めるのが本来の目的だったこの部活に皆さんが入ってくれて__________私が入れてよかったなと思う。

 

「じゃあ昼休みは解散。あんた達さっさと出なさい」

「助けてくれ東郷、友奈!」

「夏凜ちゃん...授業二分前くらいには帰ってきてねー」

「...まだ十分ありますけどね」

「風!」

「あたし教室戻るわねー...」

「樹!!」

「椿、そんな声出さなくてもいいのよ?」

「ひっ!ご勘弁を!夏凜様!」

「お、お疲れさまでしたー...」

 

夏凜さんと古雪先輩だけ残して部室を閉める。

 

『いや本当やめて!風の愛妻弁当出るから!!』

『何が愛妻弁当か!!それにちゃんと手加減してるからっ!大丈夫よっ!』

『ギャー!!』

 

「...さ、教室戻るわよ」

 

お姉ちゃんの言葉でそれぞれの教室に戻った。

 

(古雪先輩...無事だといいなぁ)

 

 

 

 

 

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「次、犬吠埼さん」

「は、はい!」

 

(どうしよう...)

 

始まってしまった歌のテスト。あれからサプリは欠かさず飲んだしそれなりに歌えるようにはなったと思う。

 

(...でもやっぱり私......え?)

 

音楽の教科書に見覚えのない紙が挟まっていて、気になって開ける。

 

「!!」

 

そこには、真ん中に「樹ちゃんへ」と書かれたメッセージの集まりだった。

 

終わったら打ち上げでケーキ食べに行こう! 友奈

 

周りの人は皆カボチャ 東郷

 

気合いよ

 

樹の歌は綺麗だから大丈夫。自信持っていけ 椿

 

周りの目なんて気にしない!お姉ちゃんは樹の歌が上手いって知ってるから 風

 

「っ...」

 

見てると心がほっこりする。

 

(私には...こんなに良い人達がいる)

 

「犬吠埼さん?」

「はい!」

 

(周りの人は皆カボチャ。目なんかない。気にしない...)

 

そこからは一生懸命歌っていて覚えていない。でも、伝えられた結果はクラス一位だった。

 

 

 

 

 

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「これ、返しとくわね」

「サンキュー。なんとか新しいのが来る前に終わってよかった」

 

風からスマホを受けとる。勇者システムの確認をすると、要望していた通りの強化がされていた。

 

「でも、防具はともかく武器なんているの?あんたあの斧上手く動かしてたし、今さら新しいのなんて...」

「これなら木刀で普段から近い特訓が出来るからな」

 

追加してもらった武器は日本刀。大赦が試験段階で作成した物をつけてもらった。

 

ついでにあるならばと盾ももらった。

 

(斧も、どちらかと言えば銀の武器だしな...)

 

そんなことは言えるはずもなく、適当に笑って誤魔化す。

 

「それにしても...樹のテスト大丈夫かしら」

「ちょっと過保護だぞ...って、そんなこともないか」

 

風の家庭は親がいないため二人暮らしをしている。中一の頃は勇者部の活動もそこまで大きなこともできず、暇な時は買い物を手伝ったこともあった。

 

そんな風が妹を溺愛するのも無理はない。小学校の授業参観の為に中学を休んだ時はひいたが。

 

「でも、樹なら大丈夫だろ」

「お姉ちゃんー!テストバッチリだったよー!」

「...ほらな?」

 

他学年の教室まで来た樹が、笑顔でこちらに手を振ってくる。

 

「ねぇ、椿」

「?」

「...なんでもない」

「話してみろよ。水くさい」

「......樹を勇者に巻き込んで、よかったのかなって。ふと思っちゃったのよ」

 

勇者のお役目は危険が伴うのは、どう見ても明らか。それを気にしているのだろう。

 

「気になるなら本人に聞いてみろよ。予想ではよかったって言いそうだけどな」

 

風が樹のことを愛しているように、樹も風のことを愛している。端から見ても良い姉妹なんだから__________

 

「そっか、ありがと」

「いえいえ」

「樹ー!部室向かいなさい!あたしと椿も行くから!今日はお祝いよー!」

 

 

 

 

 

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その日の夜、風から電話がかかってきた。樹は勇者になれて、皆と一緒に戦えて嬉しいらしい。やりたいこともでき『樹が成長したぁ...』と涙ぐんでいた。

 

他愛ない、でも大好きな日常はなんとなく過ぎていき、俺も銀や皆と一緒に楽しく過ごしていく。

 

そんな日々を過ごし、このまま行けば夏休み__________というところで、世界が止まった。

 

「......」

 

迷うことはない。バーテックスを倒すため、授業を受けていた席から立つ。

 

何が来ようと今の俺達なら負けない。

 

「さぁ、勝負といこうか...!」

『椿...頑張ろうな!』

「あぁ!」

 

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