古雪椿は勇者である   作:メレク

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ストックがちょっと出来たので更新。


21話 傷心

「私は...」

 

カチカチ。

 

「私は勇者...」

 

カチカチカチ。

 

「勇者だから...みんな私を認めてくれて...褒めてくれて...」

 

カチカチカチカチ。

 

「...え?」

 

カチカチカチカチカチ。

 

「何よ...これ、みんな、なんで...」

 

カチカチカチカチカチカチ。

 

「...ふざけないでよ」

 

ダンッッ!!!

 

 

 

 

 

「では体に異常を感じた場合、すぐに連絡を」

「...はい」

「どうだった?」

 

毎日のように通っている診察室から出ると、乃木さんと上里さんがいた。

 

「...切り札を使うのは控えろ。だそうよ」

「同じか。消耗戦...行き詰まっているな...」

 

ここ最近、バーテックスの襲来が激増した。動ける勇者が少ないことをチャンスと捉えているのか、進化体はいなくとも数で攻めてくる。

 

それだけならまだいい。ゆっくりでも倒していけば私達に無理はそこまでない。しかし、時間が長引くにつれ樹海の侵食が始まり、それは現実に被害が出る。

 

『新しいタイプの化け物が出てきて全く歯が立たずに何人かの勇者が死んだんだって』

『死んだのは土居球子と伊予島杏と古雪、だっけ?男のやつ』

『この前の災害、新しい化け物のせいなんだと』

『マジかよ勇者つっかえな』

 

パソコンで検索した匿名掲示板に乗っていた言葉。はじめは噂程度だった。

 

でも、隠しきれないと悟った大社が真実を公表すると、治安がもっと悪くなった。

 

『真実は何も伝えられてないじゃないか!』

『勇者役立たず』

『俺だったらハーレム喜ぶけどなー...こんなに叩かれたくないからやめるわ』

 

命を危険に晒して戦ってきた、勇者であることを誇りに思っていた私は、憤りしか感じない。

 

「迅速に敵を倒したいところだが...」

「あいつらは分かってないのよ。そんなに言うなら切り札を使わないでやる。それでどれだけ犠牲が出るのか身をもって知ればいいのよ...!!!」

「千景、もう言うな」

「いいえ。少しでも気持ちが楽になるなら、私に聞かせてください...」

 

上里さんが手を差しのべてきても、私はそれをはねのけた。

 

「ぁ...」

「...放っておいて。安全な場所にいる巫女には、関係ないことだわ」

 

思わず口からぽろっと出た言葉。それだけで上里さんが傷つくことも、乃木さんが怒るのも分かっているはずなのに_________

 

「おい!苛立つからと言って人を傷つけていいわけではないぞ!!苦しいからこそ私達は結束しなければ」

「また正論!?」

 

気強く、気高くいれる彼女には分からない。弱い人間(私)の気持ちなんて。

 

「あなたみたいな人には分からないわ...!」

「こんなときに弱音を吐くな!」

「うるさい!!」

 

肩を掴んできた彼女を突き飛ばす。

 

「あ...」

 

尻餅をついた彼女は地面に置かれていた植木鉢を壊し、破片で傷ついた手を見て苦悶の表情を浮かべた。

 

(どうして...なんでこんなことしてるの。私は!)

 

自分の整理がつかなくて、走り出す。

 

「待て!千景!!」

 

後ろからの声に振り向くことはなかった。

 

 

 

 

 

走る。ただ走る。

 

(悪くない。私は悪くない!!)

 

自分の部屋を開ける。そこだけが私の居場所のように。

 

(さっきだってわざとじゃない。乃木さんがあんないいかたするからつい...)

 

「怪我をしたのも不幸な偶然よ!!」

 

自分のせいじゃない。そう思わないと__________

 

『そう。あなたのせいじゃない』

「!?」

 

部屋に、もう一人の私がいた。

 

『でも、不自然ではなかったかしら?』

「え?」

『強いはずの乃木さんが簡単に倒れて、謀ったように植木鉢があって』

 

私は淡々と語ってくる。

 

「...何が、言いたいの」

『きっとわざと倒れて怪我をしたのよ。あなたを悪者にするためにね』

「......なんの、ために、そんなこと」

 

からからの喉から発せられる声は、流暢になって同じ声が耳元で響く。

 

『決まってるわ。正義の名のもとにあなたを攻撃するため。彼女は昔あなたを傷つけていた連中と同じ。乃木さんはあなたの敵よ』

「__________」

『あぁ。あいつもそうねぇ...古雪椿。あれだけ強い力を持っていながら隠してて、高嶋さんが倒れるギリギリまで待ってた。今もあなたが壊れるまで寝てる...』

 

それは、少し、違うんじゃないだろうか。貫かれた彼を見た私が言うことでは_________

 

『あいつもあなたの敵よ。敵_______』

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

目が覚めると、もう一人の私なんていなかった。

 

「夢...なの?」

 

唯一あったスマホが揺れる。

 

「...大社からの、メール?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

包帯を巻いた左手を見て、以前の言い合いを思い出す。

 

(あの時の私は千景の言動に対して、明らかに冷静さを欠いていた。感情の自制が効かなくなった...私自身も追い詰められているのか?)

 

「若葉ちゃん」

「ひなたか」

「はい。さっき大社から連絡があって...切り札の影響について、新たに分かったことがあるそうです」

 

そう話すひなたの顔は、明らかに暗かった。

 

「...杏さんと椿さんに言われて本格調査を進めた結果、古来から穢れなんて呼ばれる『よくないもの』が溜まり、不安感、自制心の低下、マイナス思考や破滅的思考への傾倒...纏めると、心が不安定になって危ない行動をとりやすくなるそうです」

「!!」

 

千景や私はここ数日は切り札を酷使している。そのせいで飲まれている。

 

電話が鳴ったのはその時だった。相手は________

 

『ぐんちゃんそこにいる!?』

「友奈!?」

 

病院で寝ている筈の友奈だった。

 

『精霊のこと聞いて、若葉ちゃんとぐんちゃんが心配で!でも見張りもいるしスマホも没収されてるから...今は隠れて公衆電話でかけてるんだけど、ぐんちゃん電話に出なくて!』

「落ち着け友奈!」

 

感情的に話すのはいつもの友奈だが、この焦りかたは普段通りでは決してなかった。

 

(当たり前か...最高格の精霊を降ろしたんだから)

 

「精霊のことはこちらも聞いた。私はそこまで問題ない。友奈こそ大丈夫か?」

『うん。体はほとんど治ってるよ。面会謝絶が続いてるのは精神面の問題みたいだから』

 

(いつも前向きな友奈でさえここまでの...)

 

「友奈、無理はしないでくれ。ほとんど治っていてもまだきついだろう。千景の元には私がいく」

『場所知ってるの!?』

「あぁ。千景は今高知の実家に帰っている」

『若葉ちゃんお願い。もし何かあったら...ぐんちゃんを助けて』

「任せろ!」

 

電話を切った私は、迷うことなく勇者になった。

 

「ひなた」

「なるべく早く帰ってきてくださいね」

 

ひなたは私の通話声だけで全てを理解してくれていた。

 

丸亀城の敷地を越え、高知の方へ。

 

(たまたま電話に気づかなかっただけ...そうならいいが...千景!!)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「若葉ちゃん...お願い」

 

公衆電話を握りしめてる彼女を見つけ、声をかけた。

 

「乃木がどうしたって?」

「わぁ!?抜け出してごめんなさ...あれ?」

「そんな幽霊見た!みたいな顔しないでくれよ」

 

まぁさっきまで寝てたから仕方ないのかもしれないが、ちょっぴり傷ついた。

 

「椿君...椿君!?目を覚ましたの!?」

「さっきな。無事そうでよかった。ユウ」

「椿君!!」

 

思いっきり首もとに腕を回され、倒れないように支える。

 

確かな温度を感じながら、涙を溢す彼女の頭を撫でた。

 

「...心配かけたな。おまけに酷いことも言ってたし......ごめん」

「ううん。無事でよかったよぉ...タマちゃんとアンちゃんは!?」

「まだ寝てるっぽい...他の皆は?」

「あ...そうだ。ぐんちゃんが!!!椿君!ぐんちゃんを助けて!」

「落ち着け。それだけじゃ分からない...」

 

普段より慌てているユウから聞いた話だと、高知の実家に戻った郡が心配で、電話をかけても繋がらないらしい。ユウは飛んでいきたいけどここ数日の無理のせいでスマホを没収されていて動けず、乃木が向かってるとのこと。

 

「私、どうしたらいいか...」

「...俺が行く。力になれるか分からないけど......」

「本当!?」

「あぁ」

 

俺のスマホは手近な所に置かれていた。隠されるような位置ではあったが_________

 

「お願い椿君。ぐんちゃんを助けて!」

「全力を尽くすさ。仲間のためならな...ユウ。お前も無理しないでくれ」

「...椿君も病人なのに無理しようとしてる!」

「俺は寝不足だったから寝てただけ。健康体さ...ま、脱走したのは変わらないけど」

 

慌ただしくなってきた病院内の角から、俺達を指差す輩が寄ってきた。

 

「ユウは足止め頼むぜ」

「え、椿君!?」

 

血まみれの戦衣に着替えて窓から外へ飛び出す。

 

郡千景。ついこの間の俺にとってはただの防衛対象だったが、今は違う。

 

(仲間の悩み...聞いてやらないとな)

 

ユウのように仲良くはできないかもしれない。でも歩みよりすらしなかった俺じゃないから。

 

「高知は...こっちか!」

 

建物を飛び越えながら、俺は電話を繋げた。

 

 




ちなみに、自分は千景が嫌いなわけではありません。原作知ってる方は多分ご理解頂けるでしょうが...
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