誕生日要素薄めだと思いますが、誕生日記念短編です。
「これでよし...と」
時計を確認すると結構な時間が過ぎていた。
「九度四分...まだまだだな」
「古雪せ...ごほっ」
「あぁ寝てろ寝てろ。どうせごめんなさいとかありがとうございますとかなんだろうが、そんなこと言う暇あったら少しでも体を休めとけ」
おでこのタオルを取り替えると、気持ち良いのか寝息を立て始めた。
「さて...夕飯でも作るか」
他所の家の冷蔵庫を物色するため、俺は部屋を出た。
東郷のご両親から電話がかかってきたのは、この数時間前だった。
どうしても出掛けなければならない用事があるのだが、そんな中娘が熱にうなされている。病院も休み。そこで俺に白羽の矢が立った。最悪は119番だが、本人があまり快く思わない。
「......」
俺は医者でもなんでもないので詳しいことは分からないが、花粉で鼻と喉がやられ、弱ったところを別の菌にやられたのだろう。四月頭だから仕方ないところもある。
お粥を作りながらあれこれ計画を立て、ひとまず親に電話をかけ外泊許可を得た。着替えなんかはなくても一日くらいどうにかなる。
次に彼女のご両親に宿泊許可を得た。夜遅くには帰ってくるとのことだが、俺が帰ってから何かあったら気が気じゃない。何より、あの東郷を見ていたら少しでも側にいたいと思うのは俺だけじゃないだろう。
(女の子の家に二人っきり...意識するのもやむを得ないけど、状況が状況。しっかりしろ。俺)
ガスの消し忘れがないか確認して、足音を立てないよう静かに部屋に戻る。
「...起きてるかー?」
「......ふるゆ、き、先輩...」
「寝れない感じか...お粥作ってきたんだが、食べれるか?」
小さな声に反応する彼女は白い肌がさらに青白くなっていて、汗もかなりかいてる。
「...頂きます」
「わかった。ほら、口開けて」
素直に従い小さく口を開ける彼女に合わせたぶんだけお粥を掬い、運んであげる。
「......美味しいですね」
「そりゃよかった」
あまり会話は続かない。片方が病人で食事中だから当たり前だが、悪い心地では全くなかった。
「さて...お風呂入るだけの気力はあるか?」
「......それはないですね」
「じゃあ薬飲んだらもう寝とけ」
「...ありがとうございました。何から何まで」
「俺が倒れたら看病してくれるだろ?それと一緒さ。隣の部屋で俺も寝てるから、何かあったら言ってくれ」
「ぁ...はい」
(にしても、随分タイミング悪かったな...明日なのに)
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「...こほっ、ごほっ」
背筋が寒くてかきたくなる。鼻がつまって口でしか呼吸が出来なくて、無理に空気を通そうとするとむせるだけ。
(どうしよう...私、死んじゃう...)
ただ心細い。熱でうなされているから良くない方へ考えやすいだけだと自覚もあるが、それでも怖い。口呼吸だけで酷使してる喉がひりひりして、持続する痛みがずっと私を起こそうとする。
(今、時間は...)
日付を回って少し。もうすぐ布団で寝る体制をとってから三時間。後六時間程度で起きなきゃいけない時間になってしまう。
(このまま寝れなかったりしたら...やだ...やだ...助けて)
薬も効いてる筈なのにこれじゃあ、もう治らないかもしれない。知らず知らずのうちに布団を出て、部屋を出て_______隣の部屋の前で、ピタリと手を止めた。
(......迷惑、よね)
夜中に特に理由もなく起こされるなんて、間違いなく迷惑だ。
(でも、怖い...)
自分の気持ちと相手の気持ちを考えれば考える程、動きは止まる。苦しくなって出てくる涙だけが増えていく。
(...助けて、古雪先輩!)
何度目かの咳き込みが出た時、私は部屋に入ってしまった。電気を消して寝ていた先輩は、目を開けてこっちを見てきた。
「ん...東郷?どうした?」
「......鼻が、辛くて...」
目蓋を擦る古雪先輩を見て、罪悪感が込み上げてきた。凄く迷惑をかけて、子供が親を起こすみたいなことをしてる。掠れた声が辺りの空気に混じって消える。
「...ほら、そんな顔するなよ」
古雪先輩はそんな私の手を掴んでくれた。
_____凄く、暖かかった。
「薬はそんな時間経ってないから危ないし...とりあえずこれな」
短冊に切られた玉ねぎを乗せたお皿を渡されて、首を傾げた。
「玉ねぎ...ですか?」
「これの臭いを嗅ぐと、鼻の通りがよくなるらしい。どっかで聞いた。丁度玉ねぎもあったからな...温かいタオルも出来たぞ」
また手を握って貰って、温かいタオルを目元に当てて、鼻元に玉ねぎを寄せて寝てる人が出来上がった。私からは見ることが出来ないけど、あまり良くは見えないと確信できる。
「あとは鼻を刺激するとかだが...痛すぎちゃうかもしれないし。これで少しは寝やすいんじゃないか?」
それでも、古雪さんの声は優しいもので、固まっていた私の体と心を解きほぐしていくようだった。
「古雪先輩...ごめんなさい。こんな夜遅くに...」
「......頼って貰えたことの方が嬉しいから、気にするな」
こんなに優しくされると、甘えてしまいたくなる。この暖かさなしで生きられなくなってしまう。
「...じゃあ」
「?」
「一緒に寝てもらっても、いいですか?」
これ以上迷惑をかけたくないという思いと共に、もっと甘えたいという思いもあった。
断ってほしい。でも、断ってほしくない。ぐるぐる自分の気持ちが回って、口から出たのはそんな言葉。
「...了解。布団持ってくるから...」
「......」
「...わかったから、裾引っ張るのやめてくれ」
一つの布団に二人で入る。冷めたタオルを外し、玉ねぎの皿は枕元に置いた。
「......」
「...」
もう離したくないときつく抱きしめる。自分のものじゃない匂いが鼻のつまりを抜けてくすぐる。
それが嬉しくて、安心できて、眠気に繋がってくる。
「...椿さん。私、貴方の側にいてもいいですか...?」
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「...椿さん。私、貴方の側にいてもいいですか...?」
体を寄せて不安そうな声で言ってくる東郷は、まるで捨てないでと祈る子犬の様で。
「こんなに、迷惑かけて、貴方のためにできることなんて何もない...それでも、私は、貴方の側にいてもいいと、言ってくれますか...?」
熱がでると心細くなったりとかあるけれど、東郷は普通以上だった。
「...こんな俺でよければ、側にいてくれ。ずっとな」
彼女の気持ちに答えるため、俺も片腕を背中に回して、もう片方の手で頭を撫でた。
色々と当たっててやましい気持ちがないと言ったら嘘になるけれど、それより彼女の心の支えになりたい。
「...よかった」
その言葉を最後に、彼女は寝息を立てだした。
「このタイミングで寝るとか...」
さらさらの黒髪を撫でて、ちょっとだけぎゅっとする。どうして女の子って甘い匂いがするんだろう。
(こんな辛そうだけど...誕生日おめでとう。東郷)
「な、なななななんで古雪先輩がここで寝てるんですか!?」
翌日。夜中の記憶をきれいさっぱり無くしてた健康体東郷に叫ばれ、帰ってきてた(一緒に寝ていたことも確認済み)東郷の両親に根掘り葉掘り聞かれた(尋問された)ことは、東郷が元に戻って良かったと思う一方、恥ずかしさとか理不尽さとかあって辛かった。
後、数日経ってから俺も風邪引いたが、よくある『口づけして風邪を移す』とかはやった覚えがないので、(どうせ風邪引くならさぁ...)と、ちょっとだけぼやいた。
まぁそれも、お互いの熱が引いてから誕生日プレゼント(花束と手紙)をあげたときに押し倒されてやられたので、どうでもよくなった。
友奈ちゃん出したかったんですが、椿の活躍分が減りそれならこの作品でやることないなと思い、没に。
ちょっとだけ出そうと考えてもいつの間にかメインにまでなる友奈ちゃんすげぇよ...自分が神聖視してる部分もありますが、ゆうみもの力恐るべし。