夢なんじゃないかと思った。この景色(樹海)も、隣に立つ彼女も。
「千景!もう大丈夫なのか!?」
「...えぇ。大丈夫よ」
もう私に戦う理由なんて全てなくなった。取り戻す気力も、ない。
立ち上がることなんて、できない。
「よかった...復帰早々悪いが、力を貸してくれ!行くぞ!!」
隣で眩しく輝く彼女にはなれない。
ここにいない彼にはなれない。
強さを持った誰かには、なれない。
「...何で」
だから、なのか。
「......何でなの」
「...千景?」
「勇者システムが起動しない...!?なんで...どうして!?」
いくらスマホを押しても、体を纏う服は出てこなかった。命を刈り取る鎌だけが、私の隣にいた。
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疎まれて、嫌われていた。愛されるのは別の人。いつもそう。
称賛を、愛を受けることは、なかった。
そんな私に出てきた、勇者システムを扱う力_______強者となれる、力。
もし、私が皆を守れば。皆の為に戦えば。それだけ恩を返してくれる。愛される。そう、思っていた。
現実は違った。
いや、始めはそうだったかもしれない。劣勢になり、掌を返した他者は_______一昔前と、変わらなかった。
もし私がもっと、彼女に対して羨望より嫉妬の感情が強ければ、憎悪を持ちながら鎌を彼女の体に向けていただろう。
今も、全てを壊せと頭の隅から声がする。それをしない、いや、できないのは__________
『だから落ち着け郡!!人を傷つけたらきっと戻れなくなる!!だが、今ならまだ間に合う!!!』
もう、間に合う筈がないのに。律儀にこの言葉を守っているのか。私は。
悲しい。
辛い。
憎い。
苦しい。
心を通わせる相手は、いなかった______作らなかった。私が、心を閉ざしていたから。
どこで間違えたのか。最初からこの運命が決まっていたのか。
(...)
人に当たって、閉じ籠って。なぜ、私以外の勇者達のように、できなかったのだろう。
答えは出ないまま、目の前のバーテックスが口を開いた。
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「せやぁぁ!!」
バーテックスが、一太刀の元に二つになる。
「私の傍を離れるな!!」
倒したのは、乃木さんだった。
「...どうして、私を守るの?」
素朴な疑問。私は庇われる理由なんてない。
「どうしてだと?決まっている!!」
そう思っていたから彼女の言葉が予想外で、その目を見て驚いた。
「仲間だからだ!!!」
「ぇ...?」
「仲間だからだ!!だから守る!!何があっても!!」
「乃木さん...」
精霊の力を使って、その場から動かず私に迫る敵を切る。バーテックスに勝っている機動力を捨ててまで、敵の猛攻を防いでいる。
敵も私が弱いと分かっているのか、囲んで噛みつこうとしてくる。その悉くを潰す彼女。
その目は真剣で、なにより綺麗だった。まるで英雄のように。
(私はどうして、こんなふうに出来なかったんだろう)
精霊の影響は同じはず。
育ってきた環境は違えど______バーテックス襲来の時点で、全員が不幸だ。
(...そっか)
結局、私の心が弱かっただけだった。
「進化体か!?不味い!!」
(きっと、心の強さが彼女の...彼の強さ)
進化体に気をとられた彼女の死角から、普通のバーテックスが迫るのが見える。
(叶うのなら私も...私も、乃木さんみたいに強く!!)
咄嗟に、彼女の背中を押す。
(古雪君のように、誰かを庇えるような行動を!!)
「乃木さん!!」
「ちかっ」
白い化け物の口が、私の体に組み付いて。
「さよなら」
圧力がかかる前に、散った。
次いで、耳に響く金属音。
バーテックスを上から下に貫いた光は、来た道を戻っていって、代わりに何かが降りてきた。
黒髪で、紫がベースの服を纏った________
「まだ、さよならなんかじゃないぜ」
棒先を開かせて、前からきた進化体の矢を防いだ彼はそう言って、振り向いた。
「...なんで、ここに......」
「え?そりゃあ樹海化なんだし...」
「椿!?その頭は!?昨日までそんなのはつけてなかったはずだろう!?」
「え?あぁ。かっこいいだろ?」
片目を覆うほどの包帯を頭に巻いた姿は痛々しいけど、口元は笑顔だった。
「じゃあその服は!?」
「細かいことは追々。今はちか...郡を守らなきゃな」
矢の攻撃が止んでから見ると、盾になった棒の正体が槍だと分かる。
(...いや、そんなのどうだっていい)
「どうして。どうして私を守るの!?」
「んー...郡の望む答えか分からないけどさ。大切な仲間を守りたいから」
『確かに、理解はできないさ...でも、寄り添うことはできる』
同じだった。
『気づいてくれ郡。お前を傷つける奴がいるように、お前を心配して、仲間だと思う奴がたくさんいるってこと』
あやふやな記憶の中で、言われたことと。
「...う、嘘よ。だって私は...」
「嘘なんかじゃない。仲間だよ...きっと、俺自身が自覚するまえからずっと。な」
「それに」と、彼の言葉が続く。
「お前を仲間だと思うのは、俺や若葉だけじゃない」
「ぇ...」
後ろから飛んできた矢が、バーテックスを貫く。
「借りるぞー千景。今のタマに武器はないからな」
「援護なら任せてください」
「これでもまだ、嘘だと思うか?」
鎌を拾う彼女と、矢を構える彼女。
「土居さん...伊予島さん...!?」
「さて。言った通り護衛を」
「椿、若葉、無茶すんなよ!」
「了解了解っと...じゃ、頼むな。球子、杏、ユウ」
そして、ふわりと舞い、私を抱える彼女。
「ぐんちゃん無事でよかった...!」
「高嶋さん!?」
「大変だったのにごめんね...でももう大丈夫。絶対守るから」
敵のいない方へ逃げる私達と、追ってくる敵と戦う彼女達。
(...あぁ、私は、本当は、無くしてなんかいなかったんだ...)
もう、居場所はないと思っていた。生きる価値もないと思っていた。
でも、共に過ごした三年間、共に戦った三ヶ月は決して、決して無駄ではなかった。
(仲間は、友達として、私を愛していてくれた...)
急速に薄れていく意識の中で、高嶋さんの頬に触れる。
「高嶋さん...」
「どうしたの?どこか痛い!?」
「...私、好きだよ」
「っ!うん!私もぐんちゃんだーい好き!!」
「っ...高嶋さんらしいね」
戦いの途中な筈なのに、こんなことを楽しそうに言う彼女を眺めながら、私は瞳を閉じた。
(よかった...)
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「椿も下がってくれ。その怪我では...」
「それより精霊の使うのやめろよ。その為に俺がいるんだから。それに...傷ももうないしな」
包帯を力任せに引きちぎる。目を開けると視界の半分がぼやけ、すぐ治った。
(ガチャついてはいるが...なんとかなる。その為の武器なんだから)
大社に預けてて取り返した俺の端末で未来の勇者服を呼び出すと、精霊バリアがない代わりなのか治癒能力が以前より高い機能でついているのがわかった。昨日郡の父親にスパナで殴られた痕も残ってない。
(あれはビビったけどな...)
よく覚えていないが、『娘に寄るのはやめろ』みたいな内容だった気がする。どういう意図で言ったのかはわからないし、知るつもりもない。
「第二射が来る。俺の後ろに!」
盾を構えて衝撃に備える。すぐに矢の攻撃が来て、俺の腕を刺激した。
「よし...あいつらも十分離れたな。俺が前に出る」
「その槍で...?」
「まぁ、病み上がりだからちょっと後ろでフォローを頼みたいんだよ」
「そういうことなら任せろ」
若葉も納得してくれたので、早速構えた。
槍を出した理由は主に三つ。
一つ目が、若葉を庇った郡を見えた時には距離があり、敵を倒すため自分の速さを遥かに越えるもの______正確に投擲できる武器(伸びる槍)が欲しかったから。
二つ目が、バーテックスの攻撃を守るための盾が欲しかったから。
三つ目は、片目(今は両目だがずっと片方しか使わないつもりでいた)では距離の把握がしにくいので、リーチを長くしたかったから。
それで俺が願ったのは、大赦で歴代勇者中最強と名高い園子。
『つっきー。ズガーンだよ!』
今も、一度しか握ったことのない槍の使い方を教えてくれている。
(ズガーンじゃわからんけどな...)
ただ、なんとなくわかるので問題ない。握るだけで彼女がどう動くかが、なんとなく伝わってくる。
「っー...はっー......」
感覚を研ぎ澄ませる。
(行くぜ...突撃あるのみだ)
「貫けぇ!!!!」
流星の様に流れ、自分の通った後には生命を残さない。順応してきた体は加速する。
基本は突進、時には地面に擦りながら減速し、転回して横凪ぎに払う。進化体も星屑も例外なく一撃の元に抜かれる。
「これが俺の...俺と彼女の力だ!!」
そう大した敵はいなくて、あっという間に最後の敵を貫いた。
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「ん...」
「起きたか?」
重たい目蓋を開けると、そこには彼がいた。
「...ここは」
「病院。気絶したお前は入院。リハビリから脱走した形になった杏、球子、ユウはリハビリの真っ最中。若葉とひなたは大社に向けての報告書作成...で、俺がここの担当ってわけ。俺は大社からも一般人からも嫌われてるからな」
「......」
点滴をうたれてる左手を眺めて体を見るけど、特に異常はなさそうだった。
「安心してくれ。どこも触ってないから」
「そういうことを気にしたわけじゃ...」
しどろもどろしてしまう。今の頭でも謝らなきゃいけないこと、お礼を言わなきゃいけないこと、話さなきゃならないことがたくさんあると思ったから。
「あの...えっと...」
「......落ち着け。別に俺は逃げないから」
備え付けられていた冷蔵庫から水が出され、コップに注がれる。
「ほいどうぞ」
うっすらと自分の顔が映った水を一口飲んで喉を潤すと、すんなり自分の言葉が出てくれた。
「ありがとう」
「このくらい別に」
「違う...違うの。全部。ありがとう...そして、ごめんなさい」
その言葉をどのくらい理解してくれたのかはわからない。
「私は、あなたのように、あなた達のように強くない...それでも、仲間だと、言ってくれるの?」
この思いがどれだけ伝わったかわからない。
「別に強いから仲間とか、そういうもんじゃないし...きっと俺達全員、お前が他の誰でもない郡千景だから」
「っ...」
「これからよろしくな」
「......」
自然に体全体が暖かくなって、涙が溢れた。
「え、泣かないでくれよ!?」
「見舞いに来たぞ...椿、何故千景を泣かせているんだ?」
「あらあら...」
「誤解だ!俺が泣かせたわけじゃなくて...!」
「ぐんちゃん起きたの!?」
「友奈さん、病院は走らないで...」
「大体椿が悪い!」
「球子お前何も知らないくせに!!」
「ぐんちゃーん!!」
「あーもー!!」
「...ふっ、あははっ」
溢れた笑いは、自分のものと思えないくらい明るい声だった。
一月くらいかけて書いたので、キャラぶれてたりしたらすいません。個人的には長くぐんちゃんのこと考えられてよかったです。
次回の更新日は皆さんお分かりだと思います。九割以上完成しているのでしっかり投稿予定です。お楽しみにしていただければ。
それから、リクエストは現在も受付中です。書く書かないはありますが、思い付いたネタがあって、こんなのあったらいいなと思うのがあれば是非お願いします。