古雪椿は勇者である   作:メレク

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なんか一気にポイントが上がり、総合評価2000を突破しました!この作品を見ていただいてる皆様に最大限の感謝を。


27話 買い物と恋愛

朝日が顔を見せる頃。

 

「はぁっ!!」

 

木刀を魂込めて振る。風を切る音を立て、それを空想上の敵の喉元へピタリと止めた。

 

「っ...はぁっ!!」

 

花見をしてから一週間。全員復帰により授業は本格再開し、身体能力の訓練は俺と若葉、千景以外のリハビリ組もかなり体力を取り戻した。学力テストは俺がトップ、球子がビリだった。それでもある程度のやり方は教えた為、良くなってたらしいが。

 

千景も両親といざこざがあったものの、あれから音沙汰はないらしい。『変に来られるよりはいいわ』と清々しく言っていた彼女が頭に焼き付いていた。

 

(自分の両親と喧嘩して、家出して...あんなこと言えるなんて凄いよな)

 

果たして自分がその状況に立ったとき、彼女の様な行動を取れるのかと言われれば言い切ることはできない。

 

「っ、集中!!!」

 

雑念を振り払って木刀を振り続ける。辺りを気にせず、自分の気持ちを高める。

 

正直、一本の剣捌きは若葉の方が上、二本なら夏凜の方が上だ。

 

(最終目標はあいつらを越える!!!)

 

「はぁっ!!!」

 

 

 

 

 

振り続け、夏凜から教わった型の様な動きも一通り終わってから近くに置いておいたタオルと飲み物を取る。流石に運動後を想定してたのでみかんジュースじゃない。

 

まだ朝晩は寒いものの、体を動かせば汗が出てくるような季節になってきた。

 

「はーっ...あー」

 

足腰を整理体操させながらお茶を煽る。体温が体の中から下がっていくのを感じた。

 

「...んー、よし」

「よくありません」

「うおっ!?ひなた!?」

 

突然現れたのはひなただった。割りと神出鬼没なので驚く。

 

(狙ってやってることはないんだろうが...)

 

「こんなに汗を残してたら、タオルで拭いた意味がありませんよ」

「いやびっくりした...いたなら声かけてくれよ」

「一生懸命だったようなので」

 

手元のタオルをひったくられ、顔に当てられる。強く押されてるわけでもないのにしっかり汗が取られていた。若葉で慣れているんだろう。

 

「お背中もやりましょうか?」

「自分でやりますから...ありがと。ひなた」

 

(そういや...)

 

感謝を述べてからふと思い出す。こっちに来てから精神的に荒んでて、元の自分を取り戻してからも皆に何かできたわけではない俺の状況を__________

 

(俺が荒れてた頃から、心配してくれてたんだよな...)

 

ひなたは頭を撫でてくれたし、杏は俺の思いを聞くためにデートの機会を用意してくれた。

 

「椿さん?どうかしましたか?」

「え、あぁなんでも...朝御飯、行こうか」

「制服に着替えてからにします?」

「時間的に食ってから着替えるよ。行こうぜ。あ、若葉達待つか?」

「食堂で合流と打ち合わせ済みなので大丈夫ですよ」

「そっか」

 

(なにか、俺に返せることがあるのなら...)

 

 

 

 

 

「それで、何でタマの所に来たんだ?」

「一番正直にして欲しいことすぐ言いそうだなと思って。実際そうだろ?」

「我が儘みたいに言うな」

「ごめんごめん」

 

俺は球子と一緒に大型ショッピングセンターに来ていた。目的にはアウトドア用品の並んでいる店。

「にしても...こうしたアウトドア用品専門店ってのは初めて来たが、案外面白いもんだな」

「分かるか椿!?この空間の良さが!」

 

サンプルとして展示されているテント。その周りに広がる数々の小物。こうした世界に触れるのはそうそうなくて、珍しさで辺りを見回した。

 

球子から頼まれたのは、『アウトドア用品の買い物をするから荷物持ちしてくれ』というものだった。

 

何を買うのかはまだ分からないが、女の子一人が運ぶには難しいものもある。確かに人手はいるだろう。

 

「杏はダメなんだよなー」

「そりゃ文学少女だからな...それで、何買うのかは決めてるのか?」

「タマは今回これとこれとこれにする!」

 

どんな大型を買うのかと思えば、小物を何点か買っていくだけだった。

 

それも、カートに入れる間に挟まれる説明はあまり実用的に感じない。

 

「それでいいのか?」

「いいんだ。寧ろこれで」

 

会計を手早く済ませる球子の顔は確信しきっていた。

 

「こんだけ可愛いもの系が揃えば、皆キャンプとかやってみたくなるだろ?」

「......成る程」

 

実用的の代わりに見た目の華やかさや女子が取っつきやすそうな機能が施されているそれは、アウトドア素人の俺にもある程度理解できる。

 

「最近は忙しすぎて出来なかったからな...それに、やるなら若葉達を混ぜて皆でやりたい」

「......やる時間はあるさ」

「わかってる!例え何が来たってタマの敵じゃないからな!!任せタマえ!」

「頼もしい限りだ」

「...よし、そうと決まれば次は飯だ!!行くぞ椿!」

「はいよ」

 

まだ軽めの荷物を持ってぶらぶらして、肉を食べて、洋服なんかを日用品で足りないものも買い揃える。

 

(結構な量になってきたな...)

 

漫画で見るような前が見えなくなるくらいの箱を持ってるわけじゃないが、両手に多くの紙袋やビニール袋は流石に堪えてきた。

 

「......つ、椿」

「ん?」

「荷物、半分」

 

何故か顔が赤い球子が俺の手から袋を奪い取った。

 

「今日の荷物持ちは俺なんだし、気にしなくていいんだぞ?」

「そう言いそうなのはわかってるんだよ...ほら、もう買うものないし帰るぞ」

「ぁ...」

 

空いた左手に球子の右手が繋がれる。あっちの方が冷たかったようで、ひんやりした感触が伝わってくる。

 

「...嫌か?」

「そんなわけないだろ」

 

美少女と手を繋ぐ役得を拒む男子なんていないだろうし______

 

(...そうでなくても、な)

 

俺を救ってくれた手だ。確かな温度を感じながら、俺達は帰路についた。

 

なんで突然球子が手を繋いできたかは、聞く機会はなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はふー...」

 

椿と一緒に買い物して、帰ってきてもう数時間経っている。

 

でも、体の熱は引かなかった。

 

(あんなことして、変な奴だって思われてないよな...?)

 

椿の手が空いたとき、無性に繋ぎたくなった。一度は自分の胸に当てた手だ。

 

(...女の子らしくは、なかっただろうけど)

 

理屈とか抜きで行動することが多いタマだが、今回は普段より思いが強かった。勿論もっと仲良くなりたいとは思う。

 

(でも、こんなのを考えるって、やっぱりタマは...)

 

タマはガサツで、落ち着きもなくて、男子みたいな奴だ。

 

なんなら勉強できて、料理もできる椿の方がよっぽど女子っぽい。

 

それを今さら気になる、少し気にしてるのは_________きっと、カッコいい椿をタマは________

 

(っ~!ないない!タマが杏が読んでそうな本の女子みたいな思考なんて~!!!)

 

「そういうキャラじゃないんだー!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「椿さんにやって欲しいこと...ですか」

「あぁ。別に今言わなくてもいいけどな」

 

杏に聞いてみれば、予想外の返事が待っていた。

 

「じゃあ今夜、椿さんの部屋にお邪魔しますね」

「おう...おぅ?」

 

結局何が目的なのか聞いてみれば、『俺の話が聞きたい』とのことで。

 

「んで...何から話せばいい?」

 

俺の部屋にある座れるものと言えば、大社が用意した簡素な椅子とベッドしかない。どちらか好きに選ばせた所ベッドに座った。俺は飲み物を用意してから椅子に座る。

 

正直、何を話せば良いのか。バーテックスとの戦いはともかく天の神と戦ったことなんかは話さない方が良い気がするし、かといってそれ以外の話_____勇者部や大まかな激動の流れ______は、花見で済ませてしまった。

 

「では、椿さん。好きな人はいらしたんですか?」

「......そーゆーことかー」

 

『俺の話が聞きたい』ではなく、『俺(未来)の恋愛事情が聞きたい』ということだろう。メモまで用意してる辺り恋愛小説好きの彼女らしい。

 

「この前の話だと、大勢いらしてるみたいじゃないですか。幼なじみとか、妹さんとか...」

「俺の妹ではないけどな」

「それで、誰か好きな方とかいるんじゃないですか?」

「んー...友情的な意味なら皆大好きだが...」

 

恐らく杏が望んでるのはそういうことじゃない。

 

(恋愛小説ばっか読んでたからな。俺だってわかんだぞ)

 

「恋愛的な意味なら...微妙かもな」

「え?」

「皆、お前らと同じくらい可愛い子達ばっかなんだよ。俺なんかとは不釣り合いなくらいな」

「か、かわ...仮定の話なんですから!いいんですよ!」

「んー...」

 

俺の好きな人。言われて思い浮かべるのは勇者部の皆だ。

 

(...そう、皆なんだよなぁ)

 

こういう時は普通一人浮かんだりするものだろうに、出るのは七人の笑顔と新たな六人の顔だった。

 

(...もしかして、俺って節操なし?もしくは優柔不断?)

 

「椿さん?」

「い、いや...」

「決めきれないんでしたら、好きなタイプとか」

「ぁー...」

 

画像はこの世界に来た時点でバグのようになっている。元の写真を知ってる俺なら辛うじて分かるが、杏に見せたところで皆の顔は分からないだろう。

 

(てことは、分かりやすくするためにこっちの中で決めるとして...)

 

「一番のタイプは杏かな」

「ふぇ!?」

 

女の子らしい所があって、勧めてくれる本も凄く面白い。

 

ひなたも女の子らしいところがあるけど、黒さが光るので僅差で二位。ユウが三位で、他はどちらかと言えばかっこいいとか男らしいって感じだろう。

 

(まぁ、それはそれで悪くないっていうか、楽しそうだけど...やっぱそういうの選べる立場じゃないしなぁ)

 

「わわ、わ私ですか!?」

「あ、嫌だった?」

「い、いえ...全然!」

「そっか...よかった。まぁあれだ。未来の恋愛も今と変わらないよ」

タコの様に真っ赤になった杏は、そのまま両手で毛布を胸に寄せた。

 

「そういえば...左手は?」

「ぁ...ご覧の通り、治りが早くなってるみたいで。来週には完治できそうです」

「そっか...よかったー」

「椿さんも、大怪我してたじゃないですか。あの傷は?」

「頭の方も腹の方も傷ひとつ残ってないよ」

 

千景のお父さんにつけられた頭の傷は園子の勇者服を纏った途端に消え、腹の方も戦闘中になくなった。

 

流石に一人のエネルギーであの出血を賄えなかったのか、あの時は杏と球子から貰ったみたいだけど。

 

(即死級のを喰らって生きてるってのも...生きてるにこしたことはないからいいんだけどさ)

 

「あの...椿さん、まだ聞いてもいいですか?」

「俺の話でよければいくらでも話すよ」

 

こうしてゆったり話すこともなかった。楽しいと感じる時間はあっという間で、気づいた頃には夜もそれなりに深くなっていた。

 

「それじゃあ、おやすみなさい」

「あぁ。おやすみ」

 

杏の消えた部屋は余計なものがない殺風景なもの。

 

「......寝にくいぞこれ」

 

ただ、感じたことのない香りが布団からして、なかなか寝付けなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

(わー...わー!!)

 

ベッドの上に寝転がり、足をパタパタさせる。それでも興奮は収まってくれない。

 

『一番のタイプは杏かな』

 

(わぁー!!?)

 

思い出すだけで体が熱くなる。

 

別に、こうなることを期待してたわけじゃない。話を聞いてる限りだと未来の椿さんの周りには何人も女の子がいて、ここにもタマっち先輩をはじめとして可愛い女の子がいる。私が選ばれるなんて思ってもなかった。

 

それでも、私を一番と言ってくれたのは__________

 

(というか、そう言われただけでこんなに感じるって、私......)

 

タマっち先輩と同じくらい、大切な存在になってる。

 

気づいた時、私は布団に顔をぶつけた。

 

「もー...どうしよう」

 

私は落ち着くまで、途中まで読んでたお気に入りの本を開く気すらなかった。







今回からの数話はリクエストからつまんでます。順番だったり内容だったり。

ちなみにシチュはまだまだ絶賛募集中です。キャラについてはご安心下さい。やる予定ですから。
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