さて、今回はリクエスト(椿の理性を削る回)です。サブタイ話数に.5がついてるのは、本編より好感度高めに作っちゃった印象だったので、後からでも「これはifです」と言い逃れできるようにするためです。
それでは下から本文です。
「んんー!」
「どうした杏?また変な声出して」
「タマっち先輩みてみて!このシーン!この壁ドン!!いいでしょ!?」
学校の昼休みで杏が球子に見せていたのは、遠目から見てマンガだった。話からして壁ドンがある少女マンガなんだろう。この位には杏の読む恋愛小説について理解できてきた。
「そうかー?って、この前タマがやらされたやつと変わらんじゃないか」
「違うの!シチュエーションも登場人物達の気持ちも!!」
「そ、そうか...」
「壁ドンは女の子の憧れの一つですよねぇ」
「わかりますかひなたさん!」
「えぇ。それなりには。若葉ちゃんにやらせたらきっと...」
「ゆ、友奈!お前はどう思う!?」
ひなたの思考を加速させまいと友奈の方へ話を振る。
「なにが?」
「壁ドンされた時の気持ちって、わかるのか?」
「そうだなぁー...好きな人にやられたらドキドキするんじゃないかな?やられたことないから分からないや」
「それなりに効果的らしいぞ」
声が聞こえたのは意外な方向からだった。教科書を整理しながら言ってきたのは_______
「...なぜ椿が知ってるんだ?」
「勇者部の活動でそんなのがあってな。やりもしたしやられもした...風怖かった...」
「そ、そうか...」
「わかったタマっち先輩?胸キュン間違いなしなんだよ!」
「そー言われてもなぁ...」
遠い目をしだしたことに気づいたのは私だけだったようで、 杏と球子の会話は続いていた。
「よし、なら試してみようじゃないか。ここには椿もいるしな!タマをドキドキさせてみろ!」
「成る程、では椿さん...あら?」
「彼なら教室を出ていったわよ」
「今この瞬間でか!?」
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球子の言葉を聞いてるうちに嫌な予感がして教室を飛び出したのはいいが、結局人数に勝てず捕まってしまった。
(碌な展開にならん...)
まぁ、美少女達にちゃんとした名目ありでやれると言うのは他の人からすれば垂涎ものかもしれない。ただ俺はどっちかというと理性保てないとかの葛藤が勝ってダメだった。
(既にあの時も暴走気味だったけどさ...)
前科一犯は重い。
「さぁさぁ!」
目を輝かせて壁に寄りかかってる球子に、俺はジト目で最後の抵抗を試みる。
「お前、前に若葉にやられてただろ?それでわかるんじゃないか?」
「そんなの女子同士だし、あれは演技だったろ!」
「これも演技だろ...」
「むー!とにかくやれよー!」
「...はぁ」
これ以上何を言ったところで無駄だろう。
(...さっさと終わらせよ)
「じゃあやるぞ」
「こぉい!」
まるで今から戦うかのような気合いを入れる球子にすたすた近づいていく。
(なるべく早く、なるべく近づかないように...)
俺も学習している。女の子らしい香りがするならそれを感じない速さでやればいいのだ。
「椿がどんなことしようとな!タマには通用...」
勢いそのままに壁に手を叩きつけ、大きめの音が教室に広がる。
「ひっ!?」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ。お前は俺の隣にだけいればいいんだ」
「は、はひ...」
「...よし、こんなもんでいいだろ」
真っ赤になって口をパクパクさせてる彼女から離れる。
「つ、椿...」
「あ?」
「椿さん、台詞までつけるなんて...!」
「ぁ」
壁ドンを要求される時は大抵台詞をセットで要求されてたので、無意識につけていた。
「ま、まぁ台詞ついたくらいどうってことないだろ」
「いや、それ以外にも驚く所があったけどね...なにあの豹変ぶり」
「それで球子、判定は?」
球子の方を向き直すと、彼女はさっきと顔が変わらなかった。そのまま膝を床につける。
「ぁぁ......」
「え、球子!?大丈夫か!?」
「こ、腰抜けた...」
手を貸すと、ぶるぶる震えた手が遠慮がちに繋がる。
「なんだってまた...」
「そ、そ、そんなの椿が...!」
「俺?」
「っ~!!」
(まずっ)
手を滑らせた球子を支えるべく背中に手を回す。すんでのところで止めることができたようで、頭を床に打つ音はしなかった。
「ほっ...」
「ちかっーーーー!!!!」
「うわっ」
球子は俺を押し離すと、見たことない速さで教室から消えた。
「つばきの...椿のバカヤロー!!!!」
「...ったく、なんだってんだ...」
ハチャメチャな行動をしやすい彼女だが、今回は意味すら分からなかった。
「あの、椿さん...」
「?」
「私にも、やってみてくれませんか...?」
「何でだよ」
壁ドンに肯定的だったひなたにやった所で今回の趣旨から外れてる。
「ダメ...ですか?」
「むぐっ...」
ただ、上目遣いで迫ってくる彼女のお願いを断れる筈もなかった。
「...もういい。やられたいやつ並べ」
「はい!」
ここまでの展開を読んでいたのか。最初からどこか諦めのついている自分がいた気がした。
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case1 ひなた
「......」
バンッ!
「...あの、なぜ無言のまま...」
「口答えするな。モノの分際で」
「っ!?」
case2 杏
「や、やっぱり女の子としては経験しときたいので!お願いします!」
「はぁ...」
バンッ!
「そんなに壁ドンされたいなんて...とんだ変態だな。杏さん?」
「ひうっ...」
case3 若葉
「ひなた、私がやられる必要は...」
「いいですから!壁ドンされたときの椿さんの顔はやられないとわかりませんから!」
「はぁ...」
「...」
バンッ!
「っ!」
「そう身構えるなよ若葉。可愛い顔が台無しだぜ?」
「な、ななっ!?」
case4 ユウ
「じゃあ椿君!私もおねが...」
バンッ!
「わっ!?」
「......ユウ。ずっとここにいろ」
「はうっ!」
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(あー、何してんだろ俺)
詳しく何を言ったかなんて覚えてない。ただ、俺様系というか攻めた態度で有無を言わせなくしていた。
「俺様系で攻め攻めな椿さん...私がモノだなんて......」
「ぁー......」
「かわ、かわ、かわわわ...」
「すっごいドキドキしたよ...」
それに、周りの反応がそこはかとなくヤバさを表現していた。
「で、そんな中で...お前もやるの?」
「ゲームキャラでもよくやられてることあるし、興味あるのよ...それだけ」
既に壁に待機してる千景がそんなことを言ってきて、深めにため息をついた。
「...じゃあやるぞ」
「っ...」
壁に手をつこうとして、止める。
(...千景に、やるのか?)
断片的にしか知らなくても、両親や同級生から迫害されてきた彼女に、そんな乱暴なことしていい筈がない。
(...そう、だよな......ダメだよな)
そっと、優しく壁をつく。ゆっくりやることで理性の削り取られる感覚も長いが、必死に耐える。
「...?」
「千景」
そして俺は、彼女の耳元で囁いた。
「千景。俺は君のこと大好きだよ」
「......」
「...これでいい?」
「......」
「あの、せめて何か言ってくれないと...」
顔を離すと、彼女は目を開いてその瞳を揺らしていた。
「千景?」
「...こんなの、ずるい」
「え?あ、おい!」
球子と同じように去っていく千景に、取り残された俺はポツリ呟いた。
「なんだってんだ皆して...」
「反則よあんなの...好きに、なっちゃうじゃない」