古雪椿は勇者である   作:メレク

123 / 333
コノシュンカンヲマッテイタンダー!

勇者の章Blu-ray box入手!早速pcゲーを始めましたが、新たにわかったことと謎が深まったことと...こういうのって人生で初めて買ったのですが、初めてがゆゆゆでよかったです。

ネタバレしないためにしばらく書くつもりはないですが(今はのわゆを書いてますし)、気になった人は買いましょう。売上で目指せのわゆアニメ化。

それから!お気に入りが1000を突破しました!!本当にありがたい!!自分の作品が多くの人に気に入って貰えてるという実感はあまり感じられませんが、嬉しい限りです。本当に感謝。

下から本文です。


30話 思い出

「うー...やっぱわからん」

 

参考書より分厚い本を閉じ、ひなたに返す。

 

「俺ダメだわ」

「そうですか...では、皆さん用ですね」

「おーい二人とも」

「椿さんも検査終わったんですか?」

「あぁ」

 

つい先程まで俺達は戦っていた。樹海化した世界で、バーテックスと呼ばれる敵________神の使いと。

 

『白銀』で星屑を近づかれる前に倒し、進化体は斧で一閃。大した苦戦もなかったが、念のための検査を全員受けていた。

 

(ほんと、こっちの方が歴史に残りそうな戦いだってのに...)

 

300年という歴史は長く、バーテックスの存在は秘匿される。四国の外は死のウイルスが蔓延し、神樹様が四国に結界を張ることで守られたのだというカモフラージュを添えて。

 

「ひなたさん、その本は?」

「歴史上の様々な文献を集めてみました」

「うわあっつ...しかも大量...」

 

球子がうげーっとした顔になるのも仕方ない。俺がさっき興味本意で読んだのもB5サイズで600ページを越えていた。

 

理由は一つ。数日後に神託で予言された敵の総攻撃に向けたパワーアップのためだ。

 

古くからある文献に触れて精霊のイメージを掴むことで、より強力な精霊を宿しやすく、また今までの精霊も効率的に使いこなせるようになる。というのは大社から言われたことだ。

 

「でも...仕方ない。ひなた、一番面白そうなの貸してくれ」

「私はこれにしますね」

「お前ら...」

「椿はなんも言うなよ」

「そっちで読んできます」

 

去っていく二人を見て、口に力を込めた。そうでないと止めてしまいそうで。

 

二人が去ってから、耐えきれなくなった口がぼそっと開いた。

 

「......やらなくて、いいのに」

「そういうわけにもいかないんですよ。きっと」

 

強力な精霊を宿す。それはつまり、代償として与えられる肉体、精神への負のエネルギーも強力になることを意味する。

 

かといって敵を無双出来るわけでもなく、彼女達の力は現段階最大強化と言える酒呑童子が大型進化体_____俺の時代で言う、御霊なしのバーテックス____をなんとか倒せるレベル。その代償は数日の入院確定だ。いや、下手をすればもっと酷くなる。

 

一方、俺の代償は今のところなし。満開が使えると仮定して、与えられる代償は分からないが_____ここまでの戦いで満開の必要性はなかった。

 

だから俺が戦う。それが一番被害のない戦い方。

 

「今回も一人でやったんですか?」

「...まぁ、命中率は悪いけど遠距離武器で雑魚はやれるし、進化体も即片付けられるし」

「それで、余計に火がついちゃってるんですよ」

「......」

 

球子の言葉を思い出す。

 

『椿に頼りっぱなしもよくないだろ!』

 

活字が苦手で、今は武器すらない彼女ですら難しい本を読むのはそのせい。ちなみに代替えの武器は、自衛隊とか言う組織が大社と連携して用意しつつあるらしい。バーテックスに通用しない重火器を扱う組織に頼んでどうなるのかはまだ分からないとのこと。

 

『せめて足手まといにならないように努力します』

『そうね、もしもというとき使えるものが増えるのは良いことだわ』

『私も賛成!』

 

学ぶだけなら危険なことはなにもない。危険なのは実際その力を使う状況になってしまった時だ。

 

俺は彼女達に強く言えなかった。勿論精霊の力を使うなんてと反対もしたが、仲間と助け合う力の強さを知っていたし、俺自身が自分のことを二の次で戦いがちなのも事実なのだから。というか、そこを攻められると俺は何も言えない。

 

だから俺は、皆がそんな危機的状況にならないよう全力を尽くすしかない。なるべく彼女達が戦わないように。

 

(...今回のそれで、逆に火をつけちゃったってことだよな......)

 

大社からの知らせで、総攻撃を乗りきれば壁の結界を強化でき、バーテックスが入ってくることもなくなるという。もう一つ対策があるらしいが、そっちは詳しく言われなかった。

 

だが、そうした『目標』も見えたことが、なおさら彼女達を努力させるのだろう。ひたすら繰り返される迎撃より、終わりが見えた方が気合いも入る。

 

せめて同じ条件になりたいと俺もいくつか文献を漁り、今さっきひなたが持ってきた新しいものも読んだ。だが、俺の中の精霊が牛鬼や犬神といったゆるキャラのイメージで固まっているのと、皆より300年プラスで前の歴史を学ばなければならないため、どうにも無理だった。大赦の文献を漁れるならまた違ったかもしれない。

 

(...壁が強化、ね)

 

次が総攻撃、終われば壁の強化、連想するのは________俺の、この時代での終了。

 

『壁が出来るまで__________救って 』

 

元から、そうした条件だった。始まったばかりの強化の一回目かもしれないし、本当にそうなるか分からないが、俺に知る術はない。

 

「椿さん」

「...」

「椿さん!」

「ぇ、どうした?」

「大丈夫ですか?ぼーっとして」

「...ただの考え事だよ」

 

そうなったら、俺は________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「......」

 

これが夢だと言うのは、目を開けた時から分かった。

 

西暦で、俺は蔑まれている。一般人に手を出した俺の真実を知る人は少ない。

 

神世紀で、俺はただの一般人である。町中で視線を感じることはない。

 

どちらの時代でも、俺は勇者でない。借り物、入れ物、なんであれ、本物の勇者である無垢な少女達ではない。

 

西暦で、俺には大切な仲間がいる。勇者とそれを支える巫女として集められた皆がいる。

 

神世紀で、俺には大切な仲間がいる。勇者部として、共に色んなことをしてきた皆がいる。

 

景色は移ろう。荒廃した外の大地、白い星漂う灼熱の地獄、神に守られている草原。

 

星空は蠢く星屑となり、合わさって巨大になり、弾けて星空になる。

 

(俺は...)

 

迷っているのか。昔のように、昔とは関係のないことで。

 

(どうすればいいのかな)

 

答えてくれると思った。昔から一緒で、二年間は文字通り一心同体だったのだから。

 

『椿の好きにすればいいだろ。アタシがどうこう言うことじゃない』

 

『大体、椿が作ったアタシなんだから、もう決まってるでしょ?後は正直になればいいんだよ』

 

『大体、難しいことは出来ないでしょ?椿なんだもん』

 

どれだけ頭でシュミレートしても取れる行動は一つだ。その行動が正しいかなんて分からない。

 

頭を空っぽにして戦うわけじゃない。必要ないことを捨て、必要なことを拾う。当たり前のことを当たり前に。

 

(怒りを晴らすためじゃない...この手で守れるものを守りきるために。後悔しないために)

 

俺が救えるのはごくわずか、両手分くらいしかないだろう。ならせめて、その分は全部救ってみせる。

 

銀を失ったあの悲しみを、他の誰かに味わわせない為に。かけがえのないものを守り抜く為に。俺は抗い続ける。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「んぎゃっ」

「全く...聞いているのか、椿」

「聞いてねぇよちくしょう...人が気持ちよく寝てたってのに」

 

(...って、寝てたのか)

 

前回の戦いから数日、総攻撃はもういつ来てもおかしくない。

 

随分暗い夢を見ていた気がするが、忘れてしまった。記憶は即座に霞んでいく。

 

「んー、若葉ちゃんに起こされる椿さん...ツーショット貰いました!」

「ひなたまたか...」

「寝起きの顔取らないで欲しいんだが」

「嫌です☆」

「...それで若葉、用事は?」

「もう放課後だぞ」

「あー...最後の授業の半分寝てたわけな。すまん」

「あら?保存不可?」

 

若葉と会話中にも皆が集まって、ひなたの謎の挙動を見てた。

 

「ひなた?」

「あ...メモリーがいっぱいみたいですね」

「じゃあ今のは保存出来ないわけか...よかったよかった」

「ご安心ください。替えはたくさんあります」

 

謎の小箱が出てきて、中にはぎっしり詰められたメモリーカード。

 

「いつも持ってるのね...」

「...まさかこれ」

「はい。若葉ちゃんの成長記録メモリーです。赤ちゃんの頃からあるんですよ?」

「ひなた!?なんでそんなものを!?」

「そんなの御両親から貸して頂いたアルバムから保存したからに決まってるじゃありませんか」

 

さも当然のように語る彼女と目が合いそうで、さっと逸らした。今目を合わせると24時間耐久若葉ちゃん語りが始まりそうで怖かった。

 

「にーしーろーはーとー...多すぎる。タマには数えられん!」

「ひなちゃん、この色が薄目のカードは?」

 

中には藍色の側面を見せるカードが大半だったが、一部が水色だった。

 

「あぁ、これはですね...丸亀に来てからの皆の写真ですよ」

 

ひなたがその一つをスマホに入れ、起動させる。映った画像は幼い六人の集合写真だった。

 

「懐かしいですね...三年近く前ですか」

「そうだな。四国に避難して、勇者として一緒に暮らすのが決定した時か」

 

写真は次々に移り、少しずつ彼女達が成長していく。

 

「これ、クリスマスのだよね!」

「千景が面白かったよなー。クリスマス知らないから友奈の言葉を真に受けて...」

「ユウはなんて言ったんだ?」

「えーとね...帽子かぶって、お肉かじりついて、パーンって!」

「...成る程な」

 

クリスマスの情報があればサンタのおじさんがクラッカー鳴らしてる微笑ましい映像が出るが、ゲーム知識ばかりなら拳銃を構えた強盗犯が肉を食べながらうろつく映像が出てもそこまで不思議ではない。

 

「なんで最後だけ擬音?」

「楽しいかなって!」

「...確かに、華やかなイメージだけどさ」

「次は...杏とタマ?なにやってるんだこれ?」

「これは杏さんが疲れて寝ちゃった時ですね。球子さんがおんぶして...」

「あー!懐かしいな!」

 

目を閉じて気持ち良さそうに寝てる杏と『しょうがないなー』と言ってそうな球子。それを見守る皆。

 

他にも、手打ちうどんを食べに行った時、六人揃って出掛けてる時、色んな写真が__________

 

「今後も撮りたいですねぇ...もうすぐ夏、お祭りの浴衣とか!」

「少な目にな...」

「ビバコレクション充実(わかりました)」

「ヤバい文字が見えた気が...タマの気のせいか?」

「気のせいです」

「あ、これってさ______」

 

思い出話に花が咲いて、その花は枯れることがない。

 

明るい空模様が、俺達の教室を照らしていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。