本編を繋げたいと考えてた時に、夏凜の誕生日絶対またぐという結論にいたりこうしました。20日には若葉も誕生日なので次はそれを投稿予定、そのあとリアルであるだろうごたごたも済ませたら本編(できれば連日)投稿したいと考えています。後から話数入れ換えもできるんですが、戦闘回前半の後誕生日回見てももどかしいだけですよねぇ...
なお、誕生日短編は今のところゆゆゆチームとのわゆチームのみ考えています。くめゆとかいれるとキリもネタもない。
長くなりましたが今回はにぼしを携えてお楽しみください。
「というわけで、夏凜さんの誕生日のお祝い方法を考えましょう!!」
「オー!!」
数日後に迫ったのは夏凜の誕生日。今勇者部の部室には六人しかいない。
「去年は夏凜が入って来たばかりの時だったよな~」
「ミノさんにぼっしーのお祝いしたの?」
「アタシあの時は椿と一緒だったからさ」
「なるほど~」
「じゃあ、案がある人挙手!!」
風先輩の言葉に友奈が手を天高く掲げた。
「はいはーい!去年みたく夏凜ちゃんの家に押し掛ける!」
「あやつは一人暮らしだし、やりやすいのよね」
「にぼっしーのお家に煮干し持って突撃?」
「いいんじゃないかしら?私はぼたもちを用意するわ...夏凜ちゃん用に二箱分」
「せめて食いきれる量にしてやりなさい、須美さんや」
結局、それぞれ誕生日プレゼント(それから煮干し)を用意して、夏凜の家にサプライズ訪問することになった。クラッカーを鳴らして潜入する案は完全に危ない組織だな。とは言わなかった。
(園子と友奈が楽しそうだしいいか)
こういうことを天然で真っ先に楽しむ二人が笑顔なのはいいことだ。
(アタシも前より周りが見えてる気がする...椿と一緒だったからかな)
「じゃあ銀、椿にメールだけしといて」
「了解しました!風先輩!」
「でも、二年連続で同じ祝い方なんて...途中で夏凜さんに気づかれないでしょうか?」
「大丈夫だよいっつん。にぼっしーこういうこと疎い感じするもん」
「案外自分の誕生日自体忘れてそうよね」
「気にしなくても平気だよ部長」
「...わかりました。じゃあそれでいきましょう!」
決まれば即行動は勇者部らしさ。夏凜にバレない今のうちに買い物を済ませに行く。
(今頃イネス...椿は上手くやってるかな?)
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「なー夏凜、この出汁用煮干しと食用煮干し、見た目一緒なんだが...」
「え?全然違うじゃない」
「うっそ...」
イネス、煮干し専門店。揃ってない物はないと思われるイネスだが、ここは異質感があった。
「魔境だなここ...」
「それを言うならみかん専門店も十分おかしいわよ。皆一緒じゃない」
「それはない」
「ほらね」
夏凜が煮干しを補充したいとぼやいていた所に俺が同伴。実質バイクでの運送と荷物持ちだ。
「じゃあ買ってくるわ」
「いってら~」
(ま、買わなくても数日後には溢れると思うんですけどね...)
本当の目的としては夏凜の監視である。数日後に控えた彼女の誕生日の作戦会議をバレずに行うため、他の勇者部メンバーとばったりなんてことを起こさないためのもの。
思い出しているとケータイが震え、銀からのメールを知らせてくれた。
『基本内容はサプライズパーティーに決定!イネス以外で誕生日プレゼント買うから別の場所行くとき連絡よろしく!』
「了解っと...」
(俺は買い終わってるしな...)
夏凜への誕生日プレゼントを考えた時、かなりすんなり決まった俺は既に買っていた。バッグにそのままいれてある。
「気に入ってくれるかはわからんが...」
「なんの話?」
「うおっ」
いつの間にか後ろにいた夏凜は両手に煮干しの袋を抱えていた。
「...買い込み過ぎじゃね?」
「セール中だったから。物価も少しずつ高くなってるんだから、安く買える時に買っとかないとね!」
とりあえず表向きの目的は達成し、後は彼女のマンションまで送り届けるだけなのだが、イネスをぶらつくのは続いていた。
「こ、この服どうかしら?」
「俺に聞くのか?」
「そ、そうよ!あんたしかいないでしょ!!」
どうも夏凜の様子がおかしかった。今だって試着した服を見せてきてるが、スポーツが出来る機能性重視なんかじゃなくて、どちらかと言えば風が探してそうなファッション重視の服だった。
「ファッションセンスはないから分からないが...夏凜には似合ってると思う」
夏凜の性格を考えた上で選んだ服の意外性さえ除けば、よく似合っていた。春信さんに見せたら倒れそうなレベル。
「そ、そう!」
顔を赤くした夏凜は、試着室のカーテンを勢いよく閉めた。
(...変わったなぁ)
夏凜と出会って約一年。はじめの頃から顔を赤くすることもあったけど、最近のとは質が違う気がする。
ちゃんと嬉しいって気持ちが表現されているというか、デレ成分が多くなったというか。
「昔より可愛く感じる...なんて言うと怒られそうだな」
(主に春信さんに)
『夏凜は最初から可愛いに決まってるだろおらぁ!?』と脳内で春信が出てきて、しっかり追い返した。
それなりにしてから夏凜が試着室から出てきて、声をかける前にすたすたレジに向かっていった。
その顔は、何故だがさっきより赤かった。
「さて、買い物も大体終わったかな...」
「ま、待って」
「?どうした?」
「あ、ぁの...あれ飲まない?私が奢るから」
夏凜が指差したのは、フードコートにある一つのお店だった。
前も夏凜と飲んだ果肉入りのみかんジュース。値上がりこそしてなかったが元から高いので来る度に飲むわけにもいかない。
だが、だからといって後輩に奢られるわけにもいかなかった。
「ちょ、椿、お金は私が...」
「後輩に奢られるほど金欠じゃねぇよ。といってもお金払おうとはするだろうから、割り勘な」
今回は待ち時間なく用意されて、手近な席に座る。
「それで...どうしたんだ?」
わざわざ夏凜が何もないのにこんな提案をするとは思えない。何か相談事が_______
「別に、何もないわ」
あるわけではなかったらしい。去年より『何かあれば相談すること!』と言うようになった勇者部にずっといる上でこう言うということは、本当に何もないんだろう。
(そわそわしてる感じはするんだがなぁ...)
「そうか...ん、悪い」
スマホが震えて一言断ってから開く。予想通り銀から______ではなく、春信さんからだった。
『数日後には我が妹夏凜の15回目の誕生日です。祝うためのプランを考えました(中略)そもそも夏凜が三好家に産まれてきたのは(中略)大赦の制約から解放された今、僕は自由に、盛大に、最高に夏凜の誕生日を祝える(中略)もうすっごく可愛くて愛してる(中略)こんな夏凜の誕生日を祝わないという選択があるだろうか。いやない。祝え。祝わなければ君を表に出られないようにしてやる』
「......」
そっとメールを消して、電話含めて着信拒否設定する。俺は何も見ていない。
「...どうしたの?」
「なんでも...春信さんからお前の小さい頃の写真とか送られてないから」
「消しなさい!というか兄貴ぃ!!!」
立ち上がって素早くメールを打ち込んだ夏凜は、どかっと座り直す。
「全く...返信はや!」
「...あの人、働いてるんだよな?」
「しかも長文よ...っ...余計なお世話だっての。皆用意してくれてるんだから」
「え」
「あ」
夏凜の言葉に俺が驚き、それに釣られて夏凜が顔を上げる。次いでそらす。
「あぁ...ま、それもそうか」
それだけでわかってしまった。
「そ、そうよ...あんた達、いつも当人を抜いてサプライズで準備するじゃない」
「確かに...自分の誕生日さえ覚えてればそわそわするわな。皆が準備してくれてるだろうって知ってれば...」
夏凜は自分の誕生日の準備が水面下で行われていることに喜びつつ、本当に行われてるのか不安だったのだ。
「でも納得だ」
「え?なにが?」
「いや、わざわざ俺にこれ奢ろうとしたのはあれだろ?俺がスムーズに夏凜の監視を続けられるようにって...」
「......それは...そ、それより!!」
慌てた夏凜だが、その理由を俺が理解することなくテーブルに袋が置かれた。
「これ...あそこのじゃん。いつの間に買ってたんだ?」
「あんたがジュースコーナーに見とれてた時よ」
「み、見とれてなんかなかったと思うんだが...」
袋のロゴは、それがさっき立ち寄ったみかん専門店の物だと分かる。
「これ、あげるわ」
「え」
「っ...いつも色々お世話になってるから...ううん、私を変えてくれた勇者部だから。感謝を伝えるなら、上級生からかなって...風と椿なら、うどんとみかんって分かりやすかったしね」
「夏凜...」
「......私を受け入れてくれて、ありがとう」
花が咲いたような満面の笑みを浮かべる彼女に、俺は見惚れた。
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「ぅー...」
ばしゃばしゃ顔にお湯を当てても、寧ろ香りが広がって落ち着くには逆効果だった。
ただ、トレーニングを済ませた体に染みていくようで体は気持ちいい。
「っ、はぁぁ......」
体を伸ばしきるには少し狭い浴槽で、思いっきり体を伸ばした。肩が湯船から出てきて、乗っていたお湯が滴っていく。
『折角夏凜がくれるってのに、俺が何も渡さないのもな...はい。ホントは誕生日プレゼントのつもりだったが...ちゃんと別のを用意する。期待しといてくれよな』
『わ、悪いわよ!これは私個人の気持ちで...!』
『じゃ、これも俺個人からってことで。受け取ってくれ』
椿から渡されたのは入浴剤だった。調べてみたら、ヒーリング効果が高いと書かれている香りが多かった。
『これから暑くなるし、トレーニングも普段してるから体を休められる手助けができればと思ってな。そういう効果があるのを多目に選んでみた。トレーニング器具なんかも考えたけど、そういうのは貰うより自分で選んだ方が良いだろうし』
(そういう気遣いは出来る癖に...)
周りをよく見てるし、気遣いも出来る。頭もかなり良い。なのに、自分に向けられてる好意には滅法疎い。
『いや、わざわざ俺にこれ奢ろうとしたのはあれだろ?俺がスムーズに夏凜の監視を続けられるようにって...』
「はぁ...」
単純に、『椿ともっと一緒にいたかっただけ』なんて。気づいて隠す必要もないし、まず気づいてない。
(ほんと、わざとやってんじゃないでしょうね...ないんだろうなぁ)
そういうところにちょっとがっかりもするけど、優しくされて嬉しくない筈もない。
お役目が終わった私が誇る、お役目よりずっとずっと大切なもの。
友奈に手を差し伸べられたのも。
東郷に見つめられるのも。
風と言い合うのも。
樹に頼られるのも。
園子に振り回されるのも。
銀の行動に付き合う時も。
全部、私の宝物だ。
「......ふふっ」
結局のぼせるギリギリまで、湯船に浸かっていた。