「若葉の誕生日、ねぇ」
昼にひなたに言われたのは、もうすぐ若葉が誕生日を迎えるということだった。
『別に誕生日プレゼントを用意してください!というわけではないんです。ただ、準備で手伝って頂きたいことができたら協力をお願いしたく...』
『わざわざ言われるまでもない。男手は貴重だろ?遠慮なく頼んでくれ』
『ありがとうございます!』
そんなやりとりがあったのだが、何も用意しないのも性に合わなかった。
というわけで、大型ショッピングセンターに来ている。
(欲しそうな物欲しそうな物...)
乃木若葉というこれまで接してきた彼女のことを思い返しながら店を巡る。
若葉は真面目で真っ直ぐな性格で、四国西暦勇者のリーダーを務めているだけあって委員長のようなタイプだろう。戦闘の時も高貴に、誇りを持った行動をしているようで、俺より俺(椿)の花言葉が似合う様にも思える。
反面、どこか抜けてるというか、天然な部分もある。
(このあたり園子の片鱗を見せてるよな...)
正確には『園子が若葉(ご先祖様)の片鱗を見せている』のだが、俺からすれば逆に思っても仕方ないだろう。
そんな彼女は、そこまで物欲はないように見える。どちらかと言うと好きな物より好きな人(ひなた)がいることの方を重視するし、なにか贅沢をしてる様子もない。
食事も好きな食べ物がうどんと言うだけでなにかが苦手ということもなく、基本は『優秀』を擬人化したように感じる。
「意外と甘えん坊だったりはするけどな...」
以前ひなたに耳掻きされていた時は、完全に魂を引っこ抜かれていた。確かにひなたのテクニックは恐ろしい程に高いが。
(というかひなたひなたって...となるとプレゼントはひなた?)
大きな箱から飛び出てくるひなたをイメージしてかき消した。大体ひなたは俺の物じゃない。俺が用意するプレゼントとしてもおかしい。
「......」
だから、脳内に浮かんだひなた_____首輪をつけてネコのポーズで「にゃーん♪」と言っている______も幻想に決まっていた。というか幻想じゃないと困る。
「ママー、あのひとかべにあたまうってる」
「しっ、見ちゃいけません」
(普通に可愛い...いや!?違うから!?)
脳内で謎の葛藤をしながら、頭に登った血を(物理的に)抑えながら俺のショッピングセンター巡りは続いた。
(普通じゃありえないプレゼント...発想?)
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『ハッピーバースデー!!!』
「皆...そうか、今日は私の誕生日か」
ひなたに連れられて来た友奈の部屋には、綺麗な装飾が施されていた。ここ数日戦いが多かったため完全に忘れていた。
「ささ、若葉ちゃん。こちらに」
ひなたに押されて座ったのは、いわゆるお誕生日席だった。
「こんなケーキまで...」
「大変だったのよ。貴女を連れて来るまでに土居さんが食べてしまいそうで」
「タ、タマが食べるわけないだろう!!」
「よだれ垂らしながら言っても説得力ないよ...」
「タマちゃん落ち着いて」
確かにケーキは凄く美味しそうだった。
「どこでこんなものを買ってきたんだ...」
「自作です」
「椿が!?」
「久々にレシピ本とかあさって結構自信あるから。食べる前に写真だけどな。ひなたー」
「はい!撮りますよー!!!」
ひなたに抱きしめられたり、それに乗じた友奈に抱きしめられながら写真を撮って、ケーキを切り分けて。見た目以上に味は美味しかった。少しの敗北感もあったが。
(女子力とやらでは確実に負けた...)
「それじゃあ、プレゼントタイムです♪」
ひなたの言葉通り、皆がプレゼントを用意してくれていた。千景からは新作ゲーム、球子からは骨付鳥無料権、杏からはおすすめの本、友奈からはヘアゴム。ひなたからは写真集(若葉ちゃん中学生編と書かれていた)。
そして、椿からは_________
「なぁ、これでいいのか?」
「あぁ頼む」
『明日一日、俺はお前のもんだ。好きに使ってくれ』と言われた時には驚いた。
『それが誕生日プレゼントなの...?』
『いやー、若葉に何渡したらいいか悩んでさ...ならいっそ俺を渡そうと』
『い、いやとんでもない!こんなに美味しいケーキを作って貰って、その上なんて!』
『俺がやりたいだけだから気にするな。というかさせてくれ』
そう言われれば、祝われる側の私がずっと断るのも申し訳ない。何をお願いしようか考えて_______
「料理を教えてくれ、なんて...」
「これか、鍛練に付き合ってもらうことしか頭に浮かばなかった」
「...若葉らしいか。よし!やるからにはみっちり教えるぞ」
「よろしくお願いする」
和食中心でたまに椿なりのアレンジや時短技を教えて貰いながら、一つ一つ料理が作られる。
「手慣れているな。得意なのか?」
「朝ごはんを作るのは俺だったからな。毎日やってりゃ嫌でも効率を求めたくなるし、作るなら美味しいのを作りたい。部活にお菓子を持ってくこともあったから、得意なのは朝食のメニューとお菓子ってことになるのかな...っと、そこは先に切り込みをいれとくと味も染みるぞ」
「あ、あぁ」
「...んー、若葉の飲み込みも速いけどな。血筋か......」
「?」
「いや、何でもない」
数時間かけて、食堂のテーブルには今からパーティーが始まるのではと疑うほどの料理が並んでいた。自分だけでは出来なかっただろう出来映え。
「若葉はぽけっとしてないから安心して見てられるな」
「刃物を扱ってるんだ。注意して行わないと」
「慣れかけが一番油断するから気をつけろよ。俺もざっくりやって怒られた」
「あぁ」
「さてと...なぁ、本当にこんなんでいいのか?別に料理がまるで出来ないわけでもなかったのに...」
「いいんだ。これで」
ここ数ヶ月でたくさんの辛い思いをした。仲間とぶつかりあったことも多い。
でも、それ以上に楽しい思いが出来た。仲間とより繋がることが出来た。
「昨日、私は祝ってもらう立場だったが...私も皆に感謝している。誕生日というお祝い事じゃなくても、その感謝を早く伝えたかったんだ」
「若葉...」
「正直、私はリーダーには向いていなかったと思う。思考は偏りがちだし、はじめの頃は一人で突出していた。友達を殺された復讐のために...」
「戦いで怒ることなんてよくあることだろ」
「椿は仕方ないだろう!突然この世界を訪れて...私は普段から周りを見ていなかった。そんな私に激励してくれて、支えてくれた皆に、思いを伝えたい」
私の言葉を聞くと、椿がまっすぐこちらを向いてきた。黒い瞳が真っ直ぐこちらを見ている。
「......俺は過去のお前を知らない。はじめの頃は自分のことで精一杯でお前達の観察をしてても本質は何も見ていなかった...でも、今は言える。お前は皆が認めるこの仲間のリーダーだよ」
「椿...ありがとう」
「別に、どういたしまして」
「ふふっ...」
「なんだよ」
「いや、こうした話もいいなと思って」
「変に恥ずかしくなるからやめろ...」
そう言うと、彼はそっぽを向いてしまった。
「じゃあ、皆呼んで若葉の誕生日後夜祭といきますか」
「ただ騒ぐだけの間違いじゃないのか?」
「違いない。特に球子辺りがな」
「やりそうだ」
「ほう...貴様らはタマがそんな人間だと普段から思っていると」
「まぁ」
「割と」
「ガーン!!というか二人ともタマがいるの驚かないし!?」
「忍び込んでるのバレバレだから...さっきの話聞かれなくてよかったー」
「もういい!椿と若葉が新婚夫婦ばりにいちゃつきながら料理して、恥ずかしい台詞言い合ってたの皆にばらしてやる!!」
「な!?ずっと張り込んでいたのか!?」
「『椿...ありがとう』『別に、どういたしまして』」
「「なぁっ!?」」