古雪椿は勇者である   作:メレク

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誰が今日投稿すると思っていただろう(自分でも思ってなかった)

いやね?他の作品で勇者の章が始まったの見たら、出さずにいられなかったんです。


31話 いってきます

「ふーふーん、ふふーん」

 

樹の曲は明るめで元気が沸いてくる。耳が幸せとはこのことだろう。

 

(音楽はよくそのまま残ったな...画像はダメだったのに)

 

口ずさみながら俺が訪れたのは、この世界で最も行きたくない場所だった。

 

「どもー、約束通り来ました」

 

場所は大社の本陣。

 

神託の日(新たな戦い)まで、あと一日。

 

 

 

 

 

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「正確な神託がくだされたのはいいが...緊張するな」

 

今日は明日に予告された敵の総攻撃に備え、それぞれ自由行動が言い渡された。

 

戦術は事前に話してきたし、まずその会話通りに進むことなんかほとんどない。相手は自分達と同じように進化し続けるバーテックス(頂点)なのだから。

 

愛武器である生大刀(いくたち)の刀身を見て、問題がないか確認する。

 

「そう気負わないでください。寝れなくてうとうと若葉ちゃんになっちゃいますよ」

「ひなた...そうだな。あまり気にしないことにする」

 

部屋に来てくれたひなたの言葉を聞いて、刀を納めた。そのまま机に立て掛けて、私自身はひなたの膝に頭を乗せる。

 

「ひなたの膝は、やはりいいな...」

「耳掃除もいかがですか?」

「...今日はいい。明日してもらう」

「わかりました」

 

明日も明後日も変わらない未来を続かせる。穏やかな日常を過ごす。だから、これでいい。

 

机の上に乗っている分厚い本を最後に確かめて、ひなたの膝の感触を味わうべく目を閉じた。

 

「他の皆は何をしてるだろうか...椿は朝からいないし」

「千景さんと友奈さんはお出かけ、球子さんと杏さんは午後に大社に行くそうです。球子さんの武器が出来たらしいので」

「出来た?」

 

私達の武器は昔から保管されたり奉られたりした物ばかりだ。神聖さが勇者の力に反応したと言われている。だから出来たというのは少し違和感があった。

 

「えぇ。どんなものかは私も知りませんが...って、またこうした話になっちゃいましたね。今はゆっくり休んでください」

「...ありがとう。ひなた」

 

 

 

 

 

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「では、これを」

「おぉ!...お?」

 

渡されたのは30枚の御札。

 

「巫女から伝わせた神樹様の神聖力を保存した物です」

「...はぁ」

「使用することで防御結界を張ることが出来ます。持って数秒ですが...我々が用意できたのはこれが限界です。どうか、お役に立ちますよう...」

 

 

 

 

「これだけか...自衛隊も一緒に作ってるって言うから、ドバーっと凄いのくるのかと...」

「贅沢はダメだよ。用意して貰っただけ感謝しなきゃ」

「て言われてもなー」

 

タマっち先輩の顔にはありありと「もっとカッコいい武器とか、強い武器とかないのかよ!」と書かれてた。

 

元からバーテックスに重火器は効かない。自衛隊の方々はあまり協力出来なかったのかもしれない。

 

(御札、丸めて銃につめて打ち出せないかな?とか考えてないよね...)

 

「私のボウガン使う?」

「......いや!それはいい!タマは杏の盾だからな!」

「...そっか、ありがとう。私もタマっち先輩のこと守るからね」

「杏...あ、あー、でも、こうなったら友奈の酒呑童子みたく武器いらない精霊呼ばなきゃいけないなぁ」

「無茶もダメだよ?」

「わかってるよ」

 

コロコロ表情が変わるのはタマっち先輩の魅力だと思うけど、少し不安だった。

 

凄く決意をしてる顔だったから。遠くに行ってしまいそうで。

 

「二人ともー!」

「お、真鈴!」

「お久しぶりです」

「そだね~」

 

駆け寄ってきたのは安芸真鈴さん。私とタマっち先輩を会わせてくれた人。

 

「もしかして御札の受け取り?」

「知ってるのか?これ」

「そりゃ勿論。これに神聖力を注いだ巫女の一人ですから」

 

胸を張る真鈴さん。でも、その顔は険しかった。

 

「...でも多分、そんな強い攻撃は防げない。枚数が少なくて申し訳ないけど、使うときは一気に使って」

「タマがケチケチする性格と思うか?」

「「いや全く」」

「二人して!?」

 

それからは、他愛もない話しかしなかった。真鈴さんはきっと『生き残ってね』とか、『帰ってきてね』と言いたかったと思うけど、それが口にされることはなかった。

 

「タマに任せてタマえ!」

「大丈夫です!」

 

だから、どこかこういった言葉が多かった気がする。

 

 

 

 

 

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「可愛いー!」

「そ、そうかしら...」

「うん、うん!すっごい可愛いよぐんちゃん!」

 

私とぐんちゃんは朝からお出かけしていた。ゲームセンターに行ってみたり、お昼を食べたり、こうして洋服を見たり。

 

ピンクのワンピースを試着してるぐんちゃんは凄く綺麗だった。

 

「高嶋さんも...これなんてどうかしら」

「おー...似合うかな」

「大丈夫。似合わない筈ないわ」

「んー、じゃあ着てみるね!」

 

ぐんちゃんの選んでくれたショートパンツは確かに可愛くて、サイズもぴったりだった。

 

(これから夏だし丁度いいかも...)

 

決めればすぐで、私は着替えて買った。ぐんちゃんもワンピースを気に入ってくれたみたいで、私の隣で買い物を済ませてた。

 

「くっ、出費が...」

「この前ゲーム買ってたもんね。お金貸そうか?」

「そこまでは平気よ。貯金はある程度してるから」

「大人だ...私は美味しいものとか見ちゃうとちょこちょこ使っちゃうからさー」

「高嶋さんらしいけど、少しは抑えないと大変よ」

「うぅ...精進します...」

話したいことが次から次に出てきて、それをぐんちゃんは微笑んで聞いてくれる。自分を打ち明けてからは特に。

 

「ぁ...」

「綺麗...」

 

海岸沿いまで来た私達を、夕日が照らす。海に沈む前に壁の向こう側へ行くから見えなくなって_______

 

「...また来ようね」

「......えぇ」

「よーっし!帰ろっか!ぐんちゃん!」

 

そのまま私達は、寮につくまで手を繋いで帰った。

 

 

 

 

 

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「ふぅー...よし!」

 

完成した小刀を振って、感触を確かめる。

 

「これで必要なのは全部揃ったと...」

 

システムを起動させて壁に飾ってる戦衣は、原型を留めている理由が分からないくらいにはボロボロだったのがかなりましになった。

 

(真ん中はどでかい穴空いてたし、血まみれだったし...)

 

市販で売られてる素材とはいえ防護性の高い生地で継ぎはぎにしたそれは、見映えも悪く着なくていいなら着ることは無いだろう。

 

(壊れては直し、また傷つけて直して...こいつも俺と一緒にいてくれたものの一つだもんな)

 

生地等諸々の用意を済ませてくれた大社には、初めてに近いちゃんとした感謝の念を向けた。

 

(こっちも終わったしな...)

 

ある意味最大の功績と言えるのは、床に置きっぱなしの砥石だ。

 

錆びた包丁なんかは、砥石を使って磨ぐことでかつての輝きを取り戻す。

 

ほとんど刃がなくなった刀は半ばから折れていたため切るにも刺すにも使いづらかったそれを、俺は自分で磨ぐことにした。

 

勿論やったことなんてないから上手く出来るわけなかったが、削って刺せる武器になってくれればそれ以上望まないし、自分の武器は自分の使いやすい形にしたかった。結局、ゲームに出てくるダガーみたいな小刀が完成した。

 

受け取ったのが午前、午後は部屋に籠って作業して、夕飯を皆で食って______

 

「うわマジか」

 

時計を見ればもうすぐ日付を回りそうだった。

 

(遠足を楽しみにする子供じゃないんだからさぁ...)

 

「遠足ね...やめやめ。余計な考え回す前に寝ますか」

 

明かりを消して布団に潜る_____前に、遠慮がちに扉が叩かれた。

 

「椿さん」

「ひなた?どうしたこんな時間に」

「...あの、ちょっとお願いがありまして」

 

声音も普段より低い彼女。俺は少し考えてから部屋に通した。

 

「夜はまだ外寒いだろ?早く入りな」

 

 

 

 

 

で、気づいたら同じ布団に入っていた。

 

(...いや、何でだよ)

 

『一緒に、寝てくれませんか...?』

 

枕を持って入ってきた彼女の悲しげな顔が俺を無性に不安にさせ、部屋に通してから五分経たずにこれである。

 

俺は壁側で彼女に背を向け、なるべく意識しないようにしてる。

 

断らなかったのは、ひなたがこうしてきた理由もなんとなく分かるから_____

 

「椿さん、起きてますか?」

「...そんな寝付きの良い方じゃないんでな。今は尚更」

「......ごめんなさい...ご迷惑ですよね」

「...別に、迷惑とは思ってないけど...一緒に寝るなら若葉の方が良いんじゃないか?」

「若葉ちゃんは、責任感の強い子ですから...戦いの前に、私のせいで重荷になることをしたくないんです」

 

俺が、本当の意味で一般人だったら。目の前で話していた勇者達が突然消えて、次には怪我をした、入院した、死んだ________と連絡されれば、いつくるか分からないその別れに恐怖せず、苦しみを耐えられるだろうか。

 

(...無理だな)

 

雨の中、銀の葬式に出席することがどれだけ心苦しかったか。俺の魂がよく覚えている。

 

「若葉ちゃんを励ますことはできます。慰めることはできます。でも、今この時不安にさせたらダメなんです...誰より若葉ちゃんのことを知っていますから」

「......」

 

巫女は、神からの声を聞くことができる。しかし、出来るのはそれを勇者に伝えることまでだ。一緒に戦うことは出来ない。

 

そんな彼女を、何で俺のところへ来たと攻められる筈がない。

 

「...月並みな言葉しか言えないけどさ。皆無事に済ます。どんな敵が来ようと、必ず」

 

俺には、今こうやって言うしかない。

 

「だから、待っててくれ。俺達が帰る場所に、笑顔で」

「椿さん...」

「その為なら今は、ここでなら泣いてもいいから...」

 

きっと、俺の所へも来ちゃいけないと思ってくれたと思う。俺も戦う身だから。

 

それでも不安に押し潰されそうで、心を平常に保てなかった彼女。

 

「...ぁ、ぁぁぁ...椿さん...」

 

すすり泣く声がして、背中に暖かさが伝わる。

 

「平気だよ。大丈夫...」

 

本当に、何にも確証がない言葉の羅列。けどそれが彼女の不安を溶かしてくれるならと、俺は向きを変えて抱きしめた。

 

(......守ってみせる。この世界も、勇者も、ひなたも)

 

 

 

 

 

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「うるさーい...」

 

スマホのアラームを止めると、六時過ぎだった。

 

「昨日のそのままだったか...」

 

毎日この時間に起こすようなセッティングは、必要ない日もつけっぱなしにしてることが多い。

 

「んー...ん?」

 

隣で寝てるひなたを見て一瞬思考が停止したが、すぐに昨日を思い出した。

 

(そういやそうだったな...いやビックリした)

 

ひなたを起こさないようにベッドから抜け出し、机に置いてある物を確認する。

 

「よし、よし...あーなんだよ、切っただろ...!」

 

スマホから流れるのが切った筈のアラームではなく、樹海化警報だど気づくのが遅れるくらいにはまだ寝ぼけていたらしい。

 

「...来るのか」

 

さっと着替えと必要装備を整える。

 

「...ひなた」

 

まだ、心地良さそうに寝てる______寝たまま動かない彼女。

 

「いってきます」

 

そう口にした時には、俺を光が包み込んでいた。

 

 

 

 

 

「皆!」

「おはよー...」

「タマっち先輩起きて!!」

「朝からやるのね...」

「よーし、頑張ろう!!」

「...あぁ。やろう!」

 

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