古雪椿は勇者である   作:メレク

129 / 336
33話 勇者達の奇跡

「来るぞ」

「問題ないわ」

 

レオの進行方向に降り立った八人を障害と感じたのか、すぐに樹海を焼ききるレーザーが放たれる。

 

目標とされた千景は、あっさり体を飲み込まれた。苦悶の表情をすることなく、この世から消え去る。

 

「こんな感じで囮になればいいのね」

「怖いけどな...」

 

すぐ隣に現れた千景に微妙な声で返すしかなかった。見殺しにするようなことはなるべくしたくなんかない。

 

「七人御先は一人二人消えたところで問題ないわ。容赦なく見殺しにして頂戴」

「......ま、その攻撃は囮になって貰わなきゃならないけどさ。止めるのきついし」

 

減らなかった数に驚いたのか、奴は体を二つに割る。その先は何度か見たことのある地獄の釜、赤い炎の世界。

 

「こっちの攻撃は俺が守るから」

 

そこから、これまたある意味見慣れてきた炎を纏った星屑が生まれる。夜空を照らす星より輝き、目の前の障害を取り除こうとしてくる。

 

(やるぞ。銀)

 

『両手』で構えた斧から炎が迸る。あれより輝くのは俺達だと言わんばかりに赤く、紅く。

 

(理想は皆のを一度に借りることなんだがな...一度に呼べるのは一人だけ。ここは仕方ない......でも!)

 

「さぁ来いよ!!塵も残さず消してやる!!!」

 

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

『あいつには、封印の儀ってのをやらなきゃならない』

 

聞こえ始めた爆発音を聞いて、椿さんの言葉を思い返す。

 

『手順としては、多少弱らせてから囲んで封印されろーって念じる』

『適当だな!?』

『正確な言葉もあるんだが、俺は覚えてないし。まず、お前らが封印の儀を出来るのかどうかも分からないけど...勇者として存在して、精霊の力で強化されてるならいけるはずだ』

 

ぶっつけ本番でやるには知識も経験も足りない。

 

『七人御先が使える千景と、回復能力がある俺があいつの前に出て囮になる。その間にユウ、若葉のチームと、杏、球子のチームで左右から挟撃』

 

でも、椿さんが一人で戦うと言っていた時より、どこか安心できた。自分の命をかけているのに。

 

『最大の一撃を叩き込んで、そのまま封印できるならしてくれ。後は俺が倒す。封印出来なければ、それも俺がなんとか...』

『なぁ椿、若葉と友奈はともかくタマ達にあいつを倒せる力なんて...』

『それなら平気だ。なんせ______』

 

「気づかれたか!」

 

タマっち先輩の声で現実に引き戻される。千景さんと椿さんを襲っていた炎を纏ったバーテックスが、目の前に迫っている。

 

『最大限囮として暴れるけど敵に気づかれないってことも、攻撃されないってこともないだろ。しかも、恐らくそいつらはお前らが太刀打ち出来るもんじゃない』

 

あの体当たりを一度でも喰らえば瀕死になる。それを庇える人はいない。

 

『ただ、避けるだけなら普通の星屑...バーテックスと変わらん。若葉とユウは高位の精霊だし、これがあれば避けれる。杏と球子は_____』

 

(やるよ。雪女郎。私に力を貸して...私を、タマっち先輩の様に人を守れる盾にさせて!!!)

 

「いっけぇぇぇ!!!」

 

一面を銀世界に変える雪女郎の力。入ったものを凍らせて、命を奪う。

 

ただ、バーテックスは笑ってるみたいだった。『そんな氷の粒が効くと思っているのか?』と言わんばかりに、強引に入ってくる。

 

大型進化体を傷つけられなかった力が、いくら精霊のことを理解しても椿さんの言う『御霊あり』から出たバーテックスを止められるわけがない。

 

 

 

 

 

それでも。

 

「タマっち先輩!!!」

 

白い嵐の中、人にちゃんと体当たりできるわけがない。こっちは明るい炎を避ければいいだけなんだから。

 

敵の突撃を避けて、樹海を走って。本体の目の前に飛び出る。

 

「タマに!!」

 

見えないけれど、私(妹)にはわかった。タマっち先輩(姉)が必殺の一撃を出せる場所までたどり着いたことに。

 

「任せタマえ!!!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

杏の作った吹雪の中を突っ切る。なんなら目を閉じてても同じことが出来たと思う。

 

吹雪の中でもよく考えられて作られた道があって、それを全力で駆けるだけなんだから。

 

「タマに!!任せタマえ!!!」

 

白い景色から飛び出した時には、相手は目の前だった。両手に握ったソレに、輪入道の炎を全部込める。

 

『なんせこれを貸すからな』

『これって...椿の武器じゃんか!』

『俺のじゃなくて銀のだかな。これならいけるだろ。バッチリ一撃決めてくれ』

 

両手で使うのが普通だと思うくらい大きな斧から、炎が散る。

 

(銀だっけ?椿が幼なじみとか言ってた...タマにも全力で使わせてくれよ。タマは...杏も椿も、若葉も千景も友奈もひなたも。皆を守りたいんだ)

 

『......』

 

(杏が盾になってくれた...だから、タマは剣(つるぎ)になりたいんだ!!!)

 

『...いいよ。派手にかましてやれ!!』

 

「おうさ!!!」

 

炎の色が一つ増えて、爆発する。

 

「く、ら、

ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

下から上に切り上げた一撃は________奴に小さな傷をつけただけだった。

 

(効か...ない!?)

 

相手が大きすぎるのもある。でも、切り裂いた所も浅くて、それすらすぐに元通りになった。

 

「だったら!!」

 

一回でダメなら二回、二回でダメなら三回、三回でダメならもっともっと__________

 

相手の体に取りついて、どんどん上へと切っていく。

 

「どうだ!」

 

でも、やっぱりついた傷は元に戻っていくだけだった。

 

(...足りないんだ)

 

銀の力がじゃない。タマ自身の力が、この斧を使いこなせるに至ってない。

 

(今この瞬間だけでいい。銀より、椿よりこの斧を使いこなしたい!!)

 

『...なら、俺を越えるくらい強くなってくれよ』

 

切り札はあった。使えるかなんて知らないけど。

 

「うぉぉぉぉ!!!」

 

残ってた御札をばらまく。椿を守りたいと思って使ったのでほとんどないけど、五枚くらい。

 

(これは神樹様のシンセイリョク?が込められてるんだ...)

 

斧で切り裂いた御札は、淡い光を放って消えた。

 

(ならこうすれば、神樹様の力が強くなって...強い精霊も呼びやすくなるはず!)

 

根拠なんてないけど、願掛けに近い思い込みはタマのイメージを強くする。

(精霊はイメージ。精霊はイメージ...)

 

本で見て、名前が強そうだなと思っただけ。それでいい。今より強くなれるなら。強そうだと思うものを降ろせるなら。

だから叫んだ。

 

 

 

 

 

「来い!八岐大蛇(ヤマタノオロチ)!!!!」

 

視界が狭くなる。体が重く、固くなる。

 

でも、胸に灯る気合いと斧に集まる炎は、ずっとずっと強くなった。

 

(人を食べるんだ...神もクイコロセ!!)

 

「タマのいちげきィ!!ウケとりタマェぇぇぇェェェェェェェェェェェェ!!!!」

 

斧の先から光が出る。相手の体の半分くらいを巻き込んだ一撃は_______後に何も残さなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「友奈、行くぞ!」

「うん!!」

 

千景と椿を襲う炎の敵は、その狙いを私達に変えた。私は躊躇わずに物を投げる。

 

『さっき逃げるときにも使ったんだが、まだ余ってるからこれ使って二人は近寄ってくれ』

『これは...』

『スモーク弾ってやつだ。大社経由で自衛隊ってとこから貰った』

 

投げた弾は白い煙を吐き出して私達と相手を巻き込んでいく。

 

(成る程...)

 

炎を纏った相手はこちらから確認できるが、相手はこちらを見やすくはないだろう。嗅覚があるなら使うかもしれないが、数秒隙があれば一気に近づける。

 

「若葉ちゃん!」

「っ!」

 

偶然突き抜けてきたバーテックスを翼を傾けて避ける。

 

(二人で行くのは厳しいか...)

 

「友奈、私はこいつらの相手をする。後を頼んでもいいか?」

「若葉ちゃん...任せて!!」

 

宙を自由に動ける私が囮。パワーなら恐らく最強の酒呑童子を操る友奈が本命。

 

「友奈の元へは行かせない!!貴様らの相手はこの私だ!!」

 

叫んだ声に反応したのか、赤い敵は私に向かって飛んできた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

(何回も使ってるからかな...)

 

頭がじくじくする。酒呑童子からくる負のエネルギーだって言うのは、なんとなく分かる。

 

私じゃないワタシが、私を変えていくみたい。

 

(でも、やらなきゃ...!)

 

若葉ちゃんに頼まれたからには、成し遂げなきゃ。

 

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 

敵を目の前にして拳を握る。酒呑童子の力で大きくなった手に最大の力を込める。

 

「くらえぇぇぇぇ!!!!」

 

誰にも邪魔されない絶対的一撃。砕けたのは_______私の腕だった。

 

「っ!?」

 

酒呑童子の拳にヒビが入って、私の腕も血で溢れる。そのくらい相手は固かった。

 

「そんな...んぶっ!?」

 

呆然としてる間に若葉ちゃんから逃げたバーテックスが私に体当たりをする。触れたところが熱くて、血まみれな右手によく染みた。

 

「ん、あぁあ!!!」

 

ぐるぐる視界が回って、強い衝撃。

(あはは...体、動かないや)

 

急に馬鹿馬鹿しく思えてきた。なんでこんなに苦しい思いをしてまで、痛い思いをしてまで戦ってきたんだろう。

 

なんで__________

 

『忘れないで。貴女の理由、貴女の信じることを...』

 

(なんで...って、そんなの、決まってるよ)

 

「勇者だからだよ!!!理由なんてそれだけでいい!!!」

 

遠くなりかけた意識を戻して力を振り絞る。

 

体が重くて、目がくらんで、頭も痛い。

 

(でも、私はまだ動ける...生きてるんだ!大好きな人を守るために、戦えるんだ!!)

 

「私は...勇者!!」

 

『勇者は不屈!!何度でも立ち上がる!!』

 

「高嶋友奈だぁぁぁぁぁ!!!!」

 

何度でも、何度でも、何度でも立ち向かう。それが私達人間だから。

 

(力を...貸して!)

 

血まみれで黒ずんだ拳を使ってあの敵を倒すには、私の力だけじゃ届かない。酒呑童子の、そして______

 

(友奈ちゃん!)

 

『うん。託すよ、あの子のぶんも』

 

右手に、籠手がつく。酒呑童子に比べたらよっぽど小さい、頼りなく見える手にぴったりなサイズ。

 

でも、ここに込められた力は何にも変えられない想いが、力があった。未来にも過去にもない、私達の力。

 

「勇者...パァァァァァァァァァンチ!!!!」

 

体を捻って、右手を全力で振るう。二回目の衝突は、私達の完勝だった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「凄い...!」

 

超大型の右側が消しとんで、左側が砕け散る。遠くからでも誰がやったのか分かった。

 

「球子もユウも無茶しやがって!!」

 

喋りながら古雪君が切り裂いた敵が、囮役としてひきつけられた最後の敵だった。残りはそれぞれ四人の元へ向かっている。

 

どちらが言うこともなく前へ向けて駆けた。

 

「囲んで封印されろって念じればいいのよね?」

「あぁ...」

 

曖昧でも、そのくらい簡潔的な方がやりやすい。

 

「封印開始!!」

 

始めに刀を地面に突き立てたのは乃木さんだった。同時に、光が敵を取り囲む。

 

「うまくやれてるのか...邪魔はさせない!」

 

投げた斧は、後ろから乃木さんに迫る敵を切り裂いた。

 

「助かるぞ椿!」

「成功してるのはいいけどなぁ!お前なんだって刀を刺して!」

「こうしろと訴えかけてきた気がしてな...」

「そんなの誰が...!」

「どうかしたか?」

「...なんでもない!」

「高嶋さん!大丈夫!?」

「うん。平気だよぐんちゃん!」

 

ボロボロの高嶋さんは、それでも笑顔で右手を前に突き出していた。桜色の籠手が敵を取り囲む光を強くする。

 

「私も、やれます!!」

「タ、タマもいるぞ!椿!もう銀の斧は返すから好きにやってくれ!」

「わかった!!」

 

反対側からは土居さんと伊予島さんが構える。残った炎を纏うバーテックスは、古雪君が一掃した。

 

「...封印されなさい!」

 

七人で皆を隙を埋めるように囲む。出てきたのは、六〇と書かれた数字。

 

「カウントダウンされてる...?」

 

ゲームオーバーのカウントダウンというのが察知できたのは、ゲームを好む私だけだろう。古雪君は驚いてないから、これを知った上で余計な混乱を避けるため言わなかったのかもしれない。

 

そして、大型進化体から吐き出されるようになにかが出てきた。逆三角形で浮かぶ妙なもの______

 

(あれが...御霊)

 

「古雪君!」

「椿!!」

「あぁ。後は俺が...!」

 

彼の目が開かれる。空へ逃げた敵は、熱を持って光だした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

全員が全力で戦った。これ以上ないくらいに力を振るって、298年先の未来でも追い返すのが精一杯だった敵を押さえつけてみせた。

 

「嘘...だろ」

 

だから、信じたくなかった。無慈悲にも敵が空高く舞い上がって、御霊自体が太陽の様に赤く膨れ上がった事実を認めたくなかった。

 

「ッ!!」

 

銃を形作り、絶え間無く撃つ。炎に当たったそれは効いているのか分からず、変化も起きない。

 

(手は...手はっ!?)

 

槍を伸ばすか、大剣をもっと大きくすれば_____伸ばしてる間にコースから外れるだろうし、それで止められるとも思えない。

 

糸で囲んで_____炎の相手に燃やされる。

 

空を飛べる若葉に頼む____今封印を始めたばかりの彼女に事情を説明して入れ替わるなんて、そんな暇はない。

 

やっぱり、俺が止める。空を飛んで、ありったけの力をぶつける______

 

 

 

 

 

(手は、ある)

 

最終手段。花を咲かせ、散る前に倒す。

 

だが、それは。

 

(...ひなたっ)

 

約束した。誰でもない彼女と。

 

(......でも)

 

勇者部六箇条『無理せず自分も幸せであること』

 

(でも!)

 

自己犠牲と言われるかもしれない。約束を破ったと怒られるかもしれない______いや、失望されるかもしれない。

 

(それでもっ!!!)

 

皆を守る手段があって、それを実行しないなんて____俺には出来ない。

 

そう、壁を破壊した東郷の様に。神婚を決意したの友奈の様に。

 

(誰かを失うくらいなら...そんな後悔をするくらいなら!!!)

 

「...ま____」

 

 

 

 

 

『椿先輩のバカ!!もっと周りを見て!!!!』

 

「っ!!?」

 

どこからか聞こえた声は、俺の深く落ちていた思考を引っ張りあげた。いつの間にか顔が下を向いていたようで、ばっと上げた視界は明るい。

 

声が分かる範囲に人はいなかった。 すぐ隣にでもいない限りバーテックスが炎を散らす音で周りの音を聞き取るなんて不可能なんだから。

 

だから。あの声がしたこと。咄嗟に顔をあげた先に彼女が見えたこと。彼女の口元が動いたこと。以前その話をしていたこと。そのコトバを見た俺の思考が再び回ったこと。結論にたどり着けたこと。全部、奇跡なのだと俺は信じる。

 

『空を飛べ!』

 

たった五文字。

 

(やるよ...俺だけの力で。皆と一緒に)

 

 

 

 

 

「来い!レイルクス!!!」

 

満開を伝えていない若葉が知ってる俺の飛行手段(疑似満開)。散り散りのパーツが集まるように、白銀の装甲が赤の勇者服を彩る。

 

(これならセーフだろ!)

 

気兼ねなく翼を開き、叫んだ。

 

「通すかぁぁぁぁぁ!!!!」

 

降り下ろされた斧と太陽がぶつかる。直に熱が伝わってくるが、魂から伝わる熱の方が強い。

 

(負けるわけがない...)

 

ジリジリと体が焼ける。皮膚が痛みを伝えてくる。限界を超えた痛みは脳を焼ききろうと刺激を与えてくる。

 

それでもやめない。

 

「俺は...」

 

『椿は負けないわよ』

 

『あたし達もいるのよ?』

 

『ファイトです!』

 

赤い炎が、白く輝く。人が握るにはあまりに大きな斧が形作られる。視界を覆う眩い光は、人が見せられる希望の象徴。

 

『つっきーがんばれ~』

 

『貴方に力を...』

 

『先輩!』

 

この力は若葉、千景、杏、球子、ユウ_____それに、友奈、東郷、園子、風、樹、夏凜、銀。皆の力が入ってる。

 

だから、負けるわけがない。

 

「守るんだ!!大切な人達を!!!!」

 

勇者の一人として、俺も。

 

満開よりスペックはない。でも、前よりずっとずっと強いと実感できる。

 

(だからさ...)

 

 

 

 

「奇跡を、見せてやるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

叫びは混ざり、溶けて_________

 

衝撃が、俺を襲った。

 

 

 

 

 

「はぁ......どうだ!」

 

周りの異常な温度で今さら汗が噴き出してくるが、拭う暇すら惜しい。

 

爆風の中で______御霊が壁の方へ逃げてくのが見えた。

 

(本体を叩けてはいなかった!?)

 

「待てっ!」

 

外に出られるのは不味い。白い炎を散らし、翼を広げて追う。満開には遠く及ばない速度でもじりじり追いつけてはいるが、奴が壁の外に逃げきられてしまう。

 

「間に合ってくれ!!」

 

一か八かで斧を投げた。白を纏った斧は意思を持っている様に飛んで____御霊と共に消える。

 

「っ、そんな...」

 

御霊は結界を越えて消えた。斧もそれに続いたが______皆の力は、結界の外には届かない。

 

(俺じゃ、ここまでなのか...)

 

もう諦めないと、挫けないと決めた筈なのに。

 

最後まで御霊が抜けた壁を見つめても、体はどんどん重くなって_______

 

 

 

 

 

『諦めるのか?椿』

 

「......ぁ...」

 

切れかかった意識が繋がる。絡み合った糸がほどけたように、一つだけのクリアな思考になる。

 

『それは、気合いも根性も魂も、何一つ足りてないよな?』

 

四肢は動く、思考は回る。後は動くだけだ。

『まだ、やれるよな?』

 

「あぁ!最後まで、諦めない!!!!」

 

トップスピードで結界を抜ける。赤い勇者服(花)も白銀のレイルクス(花飾り)も消える。

 

御霊は______追撃が来ないと安心してたのか、目の前。

 

勢いよく放たれた砲弾のようになった俺は、一つの光を作り出す。天の神とも戦ってきた俺だけの刀。

 

(これが俺の...最後の剣)

 

今度は俺が繋げる。今度は俺が届かせる。

 

 

 

 

 

「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェ!!!!」

 

 

 

 

 

その攻撃は、確かに、御霊に突き刺さった。

 

磁石でも貼り付いていたかのようにその刀を離さなかった右手は、急にかかった制動力であっさり折れる。

 

急ブレーキのかかった体は軋み、右手は力を入れられず刀と離れた。後は重力に従うだけ。

 

(やれたの...かな?)

 

薄れる意識の中で、御霊が光を放ちながら砂のように崩れていくのが見えた。

 

(へっ...友奈、いつもお前がやってたからな...俺も届かせてやったぜ。勇者みたいだったろ?)

 

皆の顔がよぎっては消える。

 

(勇者に、なれたかな......)

 

叩きつけられて、視界がぼやける。結界の壁は海から隆起したように作られてるのだから、御霊を追って外に出ればそりゃ下は海だろう。

 

(もう、力入らねぇや...)

 

本物の太陽が水面で屈折してキラキラする。どの 輝きもさっきの白い炎に比べれば劣るけど、日常に必要なのはこっちだ。

 

だから、よかった。日常に戻った後の景色が見れて。

 

(ありがとう...また、な)

 

光の中、赤いミサンガが目に止まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。